【完結】運命とは〜魅了が解けたあと〜

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ある英雄のお話

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「ルージュ今日も君は綺麗だね」

「もう、ライルったら。私だってもういい年なんですからね。ふふっ」

「何を言っているんだ!君はいくつ年を重ねようと出会った時のまま。僕にとっては一番綺麗な人だよ」

「もう本当にライルったら・・・」

呆れた様に言いつつも、緩む口元を見て俺も一緒に頬が緩んでしまう。
誰よりも愛しいルージュ。君は俺の誰よりも大切な人。


迫りくる魔物に助けを求める人々。
あの辛く過酷な旅で俺は彼女と出会った。
彼女がいたからきっと俺は今もこの場にたっていられる。
最初は王女と聞いて、めんどくさそうだなと思った。
高貴でしかも何故女性が俺ら平民に混ざって旅なんて。
どうせ民衆の指示を仰ぐだけの只のお人形なんだろ。
そう思い最初はとっていた距離も、
彼女が俺たちにも訪れる街の人へも分け隔てなく接するから
気付けば段々と近くなった距離。
あんな環境で咲き誇る彼女の屈託のない笑顔はとても綺麗で、そしてとても強い女性だとも思った。
いつしかその笑顔を俺が守ってあげたいとも・・・。




旅を終え帰還した俺たちは、二人で直接国王様へ気持ちを伝えた。
まさか認めてもらえるとは思っていなかったが、
きっと全国民から英雄と称される俺の肩書はそれほど大切なモノだったのだろう。
討伐成功の褒美について問われ少し考える。
俺には故郷に残してきたミーシャという幼馴染がいたからだ。

「今回の婚姻の件と一緒に故郷のミーシャへ手術代を渡してください。これからは彼女や故郷とは一切関わる事はありません。」

旅に出る前は彼女を愛しいと思った事もあるかもしれないが、今俺に一番大事な人はルージュだけだ。
俺はミーシャの事で、ルージュに今の気持ちを変に誤解されるのが嫌だった。
だから今後は一切関わらないと決めた。
旅立ってからミーシャには一度も会ってはいない。
彼女や故郷の事も特に知ろうとは思わなかった。
まだまだ底を尽きない褒美で俺は、
愛しい彼女とこれから産まれるであろう子供たちとの
幸せな帰る場所を作り上げた。

その屋敷で暮らしてきて何十年。
本当に幸せだった。
俺が拗ねて喧嘩した事もあったけれど、
彼女と出会えてそしてここまで一緒に生きてこれて本当に良かった。
そんな彼女も今ではベッドに横たわり、俺の握る手に弱々しく指を添えている。
少しでも、少しでも長く彼女の体温を感じたくて隣に居続けた。
彼女を失ってしまったら俺は・・・・。


そして彼女はその時がきた様で、
そっと俺に微笑みかけた。


「ライル愛しているわ」



ルージュ!ルージュ!!ルー・・・・ジュ??



俺は愛しい彼女との別れに胸が張り裂け
掻きむしりそうになるのを必死に抑え様と心構えた瞬間。
何故かその想いが静かに、静かに
一つの張り詰めた糸の様に落ち着いていくのがわかった。

その気持ちとは別に、段々と大きなっていく別の感情。
理解するのが恐ろしくて目をそむけたくなる程の記憶。

ミーシャ・・・?

ああ。
何故俺が今彼女かのじょの手を握っているんだ。
何故俺は今彼女ミーシャの手を握っていないんだ。

追いつかない記憶と気持ちと現実から逃げたくて
俺は力なく目の前の光景を手放したのだ。




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