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6.木曽義仲編
第45話(1183年9月) 熊若、迫る!
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(木曽義仲視点)
「将軍の周りを固めろ! 恐れるな! 敵は木曽兵ほど強いはずはない!」
混乱する中で、義仲の側近が声を張り上げていた。
――命令に反応している味方は500ぐらいか。だが、あの騎馬隊の勢いを殺すだけで100は死ぬかもしれぬ。騎馬隊の侍大将はやつだ。
敵の騎馬隊の先頭にいる熊若を見て義仲は思った。
義仲の周りには50騎もいない。熊若と義仲の間にはもう横道は無い。
「くそったれ! 退くぞ! 鐘を鳴らせ。命知らずは我についてこい! 敵騎馬隊を突っ切った後は野営地に向かってひたすら走れ! いいな!」
義仲は熊若騎馬隊に突っ込んでいった。それを見た歩兵たちも大将を討たれてはならぬと慌ててついていく。
義仲が向かってくる熊若の顔を見ると、まっすぐこちらを見つめていた。
「わしを殺る気だな。いいだろう! 兼平の借りを返してくれる」
義仲が太刀を抜く。馬が加速させると、呼応するように熊若の馬も飛び出してきた。
両者が交差する――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(弁慶視点)
「熊若が上手くやったようだな」
敵の退き鐘の音を聞くと、弁慶は言った。
もう討った敵は1000を優に超えている。
「これより追撃に移る。水月、最後の蓋は任せたぞ」
弁慶は蒸気トラクターから立ち昇る煙を見て言った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(義仲視点)
「一太刀浴びせはしたが……」
義仲は眉間から流れる血の熱さを額に感じながらつぶやいた。
――あの小僧。すれ違いざまの一撃でわしを仕留めにきおった。腕を攻撃しなければ危なかった。
義仲は熊若と交差した後、振り返りもせずに野営地に向かって走り抜けた。熊若の後にも敵の騎馬隊は多くいたが、周りの部下が盾となり守ってくれた。
敵を抜けるころには、義仲の周りには5騎しかいなくなっていた。
――だが、やつが怪我だけで諦めるとは思えぬ。
義仲の予想通り、振り返ると針剣を左手に持ち替えた熊若が追ってくる姿が見えた。
「逃げて死ぬぐらいなら、戦って死ぬ!」
義仲が覚悟を決めて戦おうとすると、闇の向こうから声がした。
「なりませぬ! 殿!」
「――おお、巴!」
巴の騎馬隊がやってくるのを見て、熊若たちは馬を止めた。
「どこへ行っていたのだ、巴?」
「鉄の塊に道を塞がれ、右へ右へと流されていきました。急に殿の身が不安になり、騎馬隊の半分だけ引き連れて戻ったのです。命令を無視してしまい、申し訳ございません……」
「その女の勘のおかげで助かった。さすがはわしが惚れた女だ」
巴御前は顔を赤らめたが、すぐに厳しい表情になり
「騎馬は500おります。あやつらに殿をここまで苦しめた罪を死をもって償わせます」
「いや待て。味方は総崩れとなった。いったん退いて立て直す」
「兄上たちはどうなります?」
「早馬を出しても、もう間に合うまい。巴の残りの軍とあわせれば、騎馬1500に歩兵2000。兼平なら戦えぬ数ではない。勝利を祈ろう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(熊若視点)
「未熟だな……。剣も兵法も。法眼様には遠く及ばない」
熊若は右腕の傷を見ながらつぶやいた。
追いついてきた弁慶が熊若のそばにくる。
「弁慶様、僕の予想より敵の援軍が早く引き返してきました。追撃はここまでです。砦に向かって軍を反転させてください。僕はもう少し、あの騎馬隊の動きを見てから戻ります」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(今井兼平視点)
「一体、どうなっているのだ、これは」
兼平が山砦に着くと敵の姿が見当たらなかった。見えるのは味方の死体の山だけだ。
反対側から巴御前の部隊もやってきた。巴御前が騎馬隊を連れて引き返したことを告げる。
「そうか、巴は戻ったか――」
まだ息のある兵に話を聞いた部下が戻ってきた。
「何? 義仲様が負けただと――あの鉄の塊のせいだな。敵はどこから追っていった?」
「それが……追っていった道は鉄の塊で塞がれております」
「また、あれか。歩兵ならば乗り越えられるはず。先に義仲様を助けに行かせろ。騎馬隊は味方の死体を水田に投げ入れて馬が通れる道を作るのだ。急げ!」
しかし、鉄の塊を越えた向こう側で、敵が待ち受けていることがわかった。
「ふうむ。この兼平の動きも敵の想像通りというワケか。兵を下がらせろ! 敵につきあうのはここまでだ。野営地に戻るぞ」
義仲を心配する部下に兼平は言う。
「多くの兵が待ち構えているということは、義仲様への追撃を諦めたということだ。ならば義仲様との合流が先だ」
兼平は軍をまとめると来た道を引き返して退却した。
――――――――――――――――――――――――――――
こうして、出雲大社軍と義仲軍の初戦は、義仲軍は3000の死者を出して敗北した。出雲大社軍の損害はわずかだった。
翌朝、道を塞いでいた鉄の塊が無くなっているのを見た義仲軍は、不気味がり因幡国の隣国の但馬国まで退いていった――。
「将軍の周りを固めろ! 恐れるな! 敵は木曽兵ほど強いはずはない!」
混乱する中で、義仲の側近が声を張り上げていた。
――命令に反応している味方は500ぐらいか。だが、あの騎馬隊の勢いを殺すだけで100は死ぬかもしれぬ。騎馬隊の侍大将はやつだ。
敵の騎馬隊の先頭にいる熊若を見て義仲は思った。
義仲の周りには50騎もいない。熊若と義仲の間にはもう横道は無い。
「くそったれ! 退くぞ! 鐘を鳴らせ。命知らずは我についてこい! 敵騎馬隊を突っ切った後は野営地に向かってひたすら走れ! いいな!」
義仲は熊若騎馬隊に突っ込んでいった。それを見た歩兵たちも大将を討たれてはならぬと慌ててついていく。
義仲が向かってくる熊若の顔を見ると、まっすぐこちらを見つめていた。
「わしを殺る気だな。いいだろう! 兼平の借りを返してくれる」
義仲が太刀を抜く。馬が加速させると、呼応するように熊若の馬も飛び出してきた。
両者が交差する――。
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(弁慶視点)
「熊若が上手くやったようだな」
敵の退き鐘の音を聞くと、弁慶は言った。
もう討った敵は1000を優に超えている。
「これより追撃に移る。水月、最後の蓋は任せたぞ」
弁慶は蒸気トラクターから立ち昇る煙を見て言った。
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(義仲視点)
「一太刀浴びせはしたが……」
義仲は眉間から流れる血の熱さを額に感じながらつぶやいた。
――あの小僧。すれ違いざまの一撃でわしを仕留めにきおった。腕を攻撃しなければ危なかった。
義仲は熊若と交差した後、振り返りもせずに野営地に向かって走り抜けた。熊若の後にも敵の騎馬隊は多くいたが、周りの部下が盾となり守ってくれた。
敵を抜けるころには、義仲の周りには5騎しかいなくなっていた。
――だが、やつが怪我だけで諦めるとは思えぬ。
義仲の予想通り、振り返ると針剣を左手に持ち替えた熊若が追ってくる姿が見えた。
「逃げて死ぬぐらいなら、戦って死ぬ!」
義仲が覚悟を決めて戦おうとすると、闇の向こうから声がした。
「なりませぬ! 殿!」
「――おお、巴!」
巴の騎馬隊がやってくるのを見て、熊若たちは馬を止めた。
「どこへ行っていたのだ、巴?」
「鉄の塊に道を塞がれ、右へ右へと流されていきました。急に殿の身が不安になり、騎馬隊の半分だけ引き連れて戻ったのです。命令を無視してしまい、申し訳ございません……」
「その女の勘のおかげで助かった。さすがはわしが惚れた女だ」
巴御前は顔を赤らめたが、すぐに厳しい表情になり
「騎馬は500おります。あやつらに殿をここまで苦しめた罪を死をもって償わせます」
「いや待て。味方は総崩れとなった。いったん退いて立て直す」
「兄上たちはどうなります?」
「早馬を出しても、もう間に合うまい。巴の残りの軍とあわせれば、騎馬1500に歩兵2000。兼平なら戦えぬ数ではない。勝利を祈ろう」
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(熊若視点)
「未熟だな……。剣も兵法も。法眼様には遠く及ばない」
熊若は右腕の傷を見ながらつぶやいた。
追いついてきた弁慶が熊若のそばにくる。
「弁慶様、僕の予想より敵の援軍が早く引き返してきました。追撃はここまでです。砦に向かって軍を反転させてください。僕はもう少し、あの騎馬隊の動きを見てから戻ります」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(今井兼平視点)
「一体、どうなっているのだ、これは」
兼平が山砦に着くと敵の姿が見当たらなかった。見えるのは味方の死体の山だけだ。
反対側から巴御前の部隊もやってきた。巴御前が騎馬隊を連れて引き返したことを告げる。
「そうか、巴は戻ったか――」
まだ息のある兵に話を聞いた部下が戻ってきた。
「何? 義仲様が負けただと――あの鉄の塊のせいだな。敵はどこから追っていった?」
「それが……追っていった道は鉄の塊で塞がれております」
「また、あれか。歩兵ならば乗り越えられるはず。先に義仲様を助けに行かせろ。騎馬隊は味方の死体を水田に投げ入れて馬が通れる道を作るのだ。急げ!」
しかし、鉄の塊を越えた向こう側で、敵が待ち受けていることがわかった。
「ふうむ。この兼平の動きも敵の想像通りというワケか。兵を下がらせろ! 敵につきあうのはここまでだ。野営地に戻るぞ」
義仲を心配する部下に兼平は言う。
「多くの兵が待ち構えているということは、義仲様への追撃を諦めたということだ。ならば義仲様との合流が先だ」
兼平は軍をまとめると来た道を引き返して退却した。
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こうして、出雲大社軍と義仲軍の初戦は、義仲軍は3000の死者を出して敗北した。出雲大社軍の損害はわずかだった。
翌朝、道を塞いでいた鉄の塊が無くなっているのを見た義仲軍は、不気味がり因幡国の隣国の但馬国まで退いていった――。
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