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6.木曽義仲編
第46話(1183年10月) 下ごしらえは大事!
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(貴一視点)
因幡国(鳥取県東部)に貴一が援軍を引き連れてやってきたのは、戦いの3日後だった。
これで、出雲大社軍は、弁慶隊7000、熊若騎馬隊700、鉄投げ隊700、民兵3000で、11400になった。7000まで減った木曽義仲軍に対し、数の優位を確保した貴一は、但馬国(京都府北部)との国境まで兵を進めた。
「これ以上、稲刈りを邪魔させるわけにはいかない」
「義仲はまだ戦う気でしょうか?」
「軍師殿はどう思う?」
「からかわないでください、法眼様」
熊若が貴一に文句を言う。
「ごめん、ごめん。まだ、敵には無傷の騎馬隊2000がいる。これで退くよう男なら、平家の大軍に勝ってないよ。必ず義仲は来る。それも最も得意な戦法でね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(木曽義仲視点)
出雲大社軍が但馬国内を伺う様子を見せると、義仲は激怒した。
「神社風情が! 小細工で勝ったぐらいで図に乗りおって!」
「敵は増援が来て、兵の数は1万を超えたとか。油断してはなりませぬ」
今井兼平が義仲に忠告した。兼平は先日の戦いで出雲大社軍を侮れない敵だと考えている。
「兼平、我らが倶利伽羅峠で4万の大軍を5000で破ったのをもう忘れたのか。ここはやつらの国ではない。もう小細工はできぬ。今度はやつらが大混乱する番だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(貴一視点)
「火牛の計……ですか」
「そうだ。義仲は倶利伽羅峠の戦いで夜襲と組み合わせてこの策を使った。角に松明をつけた牛を数百頭放ち、混乱したところを襲い掛かった。平家軍は崖のほうに追い立てられ、暗闇の中、自ら奈落へ落ちて行った。この戦いの勝利で義仲の上洛は決まったといっても過言ではない」
「夜襲を防ぐ方法はあるのですか?」
「難しいね。いつの夜に襲うかは敵に選択権がある。守る側としても、毎晩、兵を寝かさないワケにはいかないから、夜の警備を増やして早く察知するぐらいしかない。だけど、いつ夜襲がくるかがわかれば、策も立てられる。だから、こちらから誘いをかけ、敵の選択を誘導する」
まず貴一は、備中国で平家相手に戦っている義仲軍が苦戦しているという噂を流した。2週間前に、義仲が二手に分けた一方の軍である。
そして、弁慶や熊若たちに「これも勉強」と言って、作戦に適した地形を探させた。
数日後、弁慶が作戦場所を見つけてきた。
「まあ悪くない場所かな。採点は義仲がしてくれる。これ食うか? 男の憧れ、骨付き肉だ。俺の料理の腕も上がったぞ」
貴一は焼いていた肉を弁慶に差し出した。
「偉そうに。お前はずっと牛をさばいていただけではないか」
「何を言う、美味くなるように下ごしらえをしたんだぞ。その辺は料理も戦も変わらない」
弁慶は肉を受け取ると、骨ごとバリバリと音を立てて食った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(義仲視点)
「また、敵が陣を移動したようです」
「落ち着きのない敵だな。これでは夜襲をかけようにも的が定まらぬ」
「我が軍の夜襲を警戒しているのかもしれません」
義仲と兼平は地図を見ながら話していた。
夜襲は攻める方も難しい、松明を使わない無灯火で行軍するため、地形を下調べしないと夜道に迷うのだ。
「徐々にですが我が軍の後方に回っています。このままだと備中国に攻め入った軍との連絡が断ち切られます。もしや……」
「平家と示し合わせているというのか?」
「わかりません。しかし、我らにとって、ここよりも備中の戦のほうが大事です。慣れない船戦いで味方が苦戦しているという噂も流れてきております。援軍に向かったほうが――そ」
「負けたまま終われと言うのか!」
「こだわりは捨てるべきです! ここで勝利しても備中で負けてしまっては法皇の叱責を受けます!」
「では明日攻める! それならよかろう!」
「そのような短慮では負けまする!」
義仲に対して兼平は引かず、しばらく口論になったが、急に義仲は黙り込んだ。
「どうしました、義仲様」
「見ろ、このままやつらが陣を移動させていくとどうなる?」
義仲は地図に目を落とすと、扇子をスーッと動かした。
「――簡単に後を取れそうな山ですな。そして山を下りた先には川もあります」
「兼平、もう対陣は終りだ」
「はい。勝って、備中に向かいましょう!」
因幡国(鳥取県東部)に貴一が援軍を引き連れてやってきたのは、戦いの3日後だった。
これで、出雲大社軍は、弁慶隊7000、熊若騎馬隊700、鉄投げ隊700、民兵3000で、11400になった。7000まで減った木曽義仲軍に対し、数の優位を確保した貴一は、但馬国(京都府北部)との国境まで兵を進めた。
「これ以上、稲刈りを邪魔させるわけにはいかない」
「義仲はまだ戦う気でしょうか?」
「軍師殿はどう思う?」
「からかわないでください、法眼様」
熊若が貴一に文句を言う。
「ごめん、ごめん。まだ、敵には無傷の騎馬隊2000がいる。これで退くよう男なら、平家の大軍に勝ってないよ。必ず義仲は来る。それも最も得意な戦法でね」
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(木曽義仲視点)
出雲大社軍が但馬国内を伺う様子を見せると、義仲は激怒した。
「神社風情が! 小細工で勝ったぐらいで図に乗りおって!」
「敵は増援が来て、兵の数は1万を超えたとか。油断してはなりませぬ」
今井兼平が義仲に忠告した。兼平は先日の戦いで出雲大社軍を侮れない敵だと考えている。
「兼平、我らが倶利伽羅峠で4万の大軍を5000で破ったのをもう忘れたのか。ここはやつらの国ではない。もう小細工はできぬ。今度はやつらが大混乱する番だ」
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(貴一視点)
「火牛の計……ですか」
「そうだ。義仲は倶利伽羅峠の戦いで夜襲と組み合わせてこの策を使った。角に松明をつけた牛を数百頭放ち、混乱したところを襲い掛かった。平家軍は崖のほうに追い立てられ、暗闇の中、自ら奈落へ落ちて行った。この戦いの勝利で義仲の上洛は決まったといっても過言ではない」
「夜襲を防ぐ方法はあるのですか?」
「難しいね。いつの夜に襲うかは敵に選択権がある。守る側としても、毎晩、兵を寝かさないワケにはいかないから、夜の警備を増やして早く察知するぐらいしかない。だけど、いつ夜襲がくるかがわかれば、策も立てられる。だから、こちらから誘いをかけ、敵の選択を誘導する」
まず貴一は、備中国で平家相手に戦っている義仲軍が苦戦しているという噂を流した。2週間前に、義仲が二手に分けた一方の軍である。
そして、弁慶や熊若たちに「これも勉強」と言って、作戦に適した地形を探させた。
数日後、弁慶が作戦場所を見つけてきた。
「まあ悪くない場所かな。採点は義仲がしてくれる。これ食うか? 男の憧れ、骨付き肉だ。俺の料理の腕も上がったぞ」
貴一は焼いていた肉を弁慶に差し出した。
「偉そうに。お前はずっと牛をさばいていただけではないか」
「何を言う、美味くなるように下ごしらえをしたんだぞ。その辺は料理も戦も変わらない」
弁慶は肉を受け取ると、骨ごとバリバリと音を立てて食った。
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(義仲視点)
「また、敵が陣を移動したようです」
「落ち着きのない敵だな。これでは夜襲をかけようにも的が定まらぬ」
「我が軍の夜襲を警戒しているのかもしれません」
義仲と兼平は地図を見ながら話していた。
夜襲は攻める方も難しい、松明を使わない無灯火で行軍するため、地形を下調べしないと夜道に迷うのだ。
「徐々にですが我が軍の後方に回っています。このままだと備中国に攻め入った軍との連絡が断ち切られます。もしや……」
「平家と示し合わせているというのか?」
「わかりません。しかし、我らにとって、ここよりも備中の戦のほうが大事です。慣れない船戦いで味方が苦戦しているという噂も流れてきております。援軍に向かったほうが――そ」
「負けたまま終われと言うのか!」
「こだわりは捨てるべきです! ここで勝利しても備中で負けてしまっては法皇の叱責を受けます!」
「では明日攻める! それならよかろう!」
「そのような短慮では負けまする!」
義仲に対して兼平は引かず、しばらく口論になったが、急に義仲は黙り込んだ。
「どうしました、義仲様」
「見ろ、このままやつらが陣を移動させていくとどうなる?」
義仲は地図に目を落とすと、扇子をスーッと動かした。
「――簡単に後を取れそうな山ですな。そして山を下りた先には川もあります」
「兼平、もう対陣は終りだ」
「はい。勝って、備中に向かいましょう!」
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