95 / 136
12.義経謀反編
第82話(1185年9月) 乱入者
しおりを挟む
仙洞御所に静御前の絶叫が響き渡る。
「義経様! 早くお逃げください!」
「我らのことは構わず!」
義経の目の前に蓮華が迫る。静御前と伊勢義盛は傷ついた身体を懸命に起こしていた。
「静! 義盛! 我らは一心同体、死ぬときは一緒ぞ!」
義経は逃げずに目を閉じた。
しかし、蓮華の拳は義経には届かなかった。それどころか、義経は蓮華が飛びのくのが気配でわかった。
「何をしている百号!」
安倍国道が側に戻ってきた蓮華を叱る。
蓮華は国道の背後を指す。
「うしろに何があるというのだ?――!?」
国道が振り向くと、北面の武士が十人以上倒れていた。
ヒュン、ヒュン、ヒュン。暗闇から独特の風切り音が聞こえてくる。
「何者か!」
残っている北面の武士が国道を守ろうとするが、次々と倒れていった。
「飛剣――五月雨」
暗闇からゆっくりと男が現れた。義経が叫ぶ。
「熊若! なぜここに!」
「静御前と取引をしました。詳しくは後で――それにしても、この局面、普段の義経様なら、危機にすらならないはず。心が弱っているというのは真のようですね。鬼一流兵法を忘れたのですか」
「何を言う! あんな化け物がいたら誰だって――」
義経はハッとした顔になった。
「確かに忘れていた。この女だけを見て勝てぬと思い込んでいた。全体を見れば簡単なことだった。義盛! 静! わしを守らず、安倍を狙え!」
二人が国道を攻撃する構えを見せると、蓮華は国道の側にピッタリとついた。
「そうです。相手の持ち駒がいかに強くても、駒の数で勝負すれば、玉を取りやすいのはこちらです」
話しながら一人ずつ、熊若は北面の武士を倒していった。
国道は忌々し気に言う。
「勝った気になるなよ。百号はそなたらが束になろうとも負けぬ」
「何か勘違いしているようですね。百号とやらが、あなたを守りきれねば負けのように、あなたもご自身より守らねばならぬものがあるはず。義仲様!」
おう! という声と共に木曽義仲が現れた。
「カーカッカッカッ! 仙洞御所の周りは木曽騎馬隊が制した。皆、義経に気を取られているから、簡単すぎてあくびが出たぞ」
「木曽義仲だと! 生きていたのか!」
国道は驚愕した。木曽兵が都で暴れまわったのは、まだ記憶に新しい。
「黙れクソ陰陽師! わしはおぬしら公家が裏切ったのを忘れはおらぬぞ。熊若、公家どもをどうやって皆殺しにする? 切り刻むか? 蒸し焼きにするか? どちらにしても楽しみだ」
義仲は凶悪な笑みを浮かべる。
「さて、どうしましょうか?」
「ま、待て! 法皇と話してくる。今の状況を知れば必ず院宣が下りるはずだ」
「いいでしょう」
国道が御所内に入っていくと、北面の武士たちも離れていった。
庭には義経たち3人と熊若と義仲、それに蓮華だけが残った。
「熊若、少しぐらい燃やしてもいいか? 法皇の肝を冷やしてやりたい」
「我慢してください。今、朝敵になるのは出雲大社の不利になります」
「つまらんのう。まあ仕方あるまい。スサノオも3年は戦をするなと言っておったしな。略奪はいいんだっけ?」
「ダメです。僕のわがままに付き合ってもらったお礼は他でしますから」
ちぇっ、と言って義仲は座り込んだ。
義経が近づいて言う。
「熊若、説明しろ」
「義経様を助けてほしいと静御前が訪ねて来たのですよ。命のやり取りをしたこの僕に恥を忍んで。そして僕は一人の女性を助けるのを手伝ってもらう条件で承知しました」
「――そうなのか、静。わしは良い妾を持った」
「めっそうもございません」
義経は涙を浮かべる静御前の肩を抱いた。
「静御前、今度は僕に協力してもらいたい。蓮華ちゃんは、今、どこにいる?」
静御前は悲し気な顔で蓮華のほうを見た。
「熊若くん……」
蓮華が熊若を見て言った。熊若の目が見開く。
「そんな……、どうしてそんな姿に……、嘘だ!」
熊若はフラフラと蓮華に近づいていく。
「鬼になった代償よ……。私のことは忘れて。もう元には戻れない……」
「連れて帰る!」
熊若は蓮華の手を取った。
「無理よ! 私は霧の神社から離れて生きてはいけないの! ごめんね……」
ドスッ。鈍い音を立てて、蓮華の拳が熊若の腹にめり込む。
うずくまる熊若に蓮華が言った。
「うれしかったわ、熊若くん。二度も助けに来てくれて――来世があればいっしょになろうね」
蓮華は塀を飛び越えて消えていった。
「蓮華ちゃん……」
熊若はヨロヨロと立ち上がる。義仲は肩を貸した。
「安倍め、よくも蓮華ちゃんを……」
顔をあげた熊若を見て義仲はぎょっとした。
熊若の瞳が憎悪に染まっていた。
「義仲様、仙洞御所の焼き討ちを命じてください――」
「義経様! 早くお逃げください!」
「我らのことは構わず!」
義経の目の前に蓮華が迫る。静御前と伊勢義盛は傷ついた身体を懸命に起こしていた。
「静! 義盛! 我らは一心同体、死ぬときは一緒ぞ!」
義経は逃げずに目を閉じた。
しかし、蓮華の拳は義経には届かなかった。それどころか、義経は蓮華が飛びのくのが気配でわかった。
「何をしている百号!」
安倍国道が側に戻ってきた蓮華を叱る。
蓮華は国道の背後を指す。
「うしろに何があるというのだ?――!?」
国道が振り向くと、北面の武士が十人以上倒れていた。
ヒュン、ヒュン、ヒュン。暗闇から独特の風切り音が聞こえてくる。
「何者か!」
残っている北面の武士が国道を守ろうとするが、次々と倒れていった。
「飛剣――五月雨」
暗闇からゆっくりと男が現れた。義経が叫ぶ。
「熊若! なぜここに!」
「静御前と取引をしました。詳しくは後で――それにしても、この局面、普段の義経様なら、危機にすらならないはず。心が弱っているというのは真のようですね。鬼一流兵法を忘れたのですか」
「何を言う! あんな化け物がいたら誰だって――」
義経はハッとした顔になった。
「確かに忘れていた。この女だけを見て勝てぬと思い込んでいた。全体を見れば簡単なことだった。義盛! 静! わしを守らず、安倍を狙え!」
二人が国道を攻撃する構えを見せると、蓮華は国道の側にピッタリとついた。
「そうです。相手の持ち駒がいかに強くても、駒の数で勝負すれば、玉を取りやすいのはこちらです」
話しながら一人ずつ、熊若は北面の武士を倒していった。
国道は忌々し気に言う。
「勝った気になるなよ。百号はそなたらが束になろうとも負けぬ」
「何か勘違いしているようですね。百号とやらが、あなたを守りきれねば負けのように、あなたもご自身より守らねばならぬものがあるはず。義仲様!」
おう! という声と共に木曽義仲が現れた。
「カーカッカッカッ! 仙洞御所の周りは木曽騎馬隊が制した。皆、義経に気を取られているから、簡単すぎてあくびが出たぞ」
「木曽義仲だと! 生きていたのか!」
国道は驚愕した。木曽兵が都で暴れまわったのは、まだ記憶に新しい。
「黙れクソ陰陽師! わしはおぬしら公家が裏切ったのを忘れはおらぬぞ。熊若、公家どもをどうやって皆殺しにする? 切り刻むか? 蒸し焼きにするか? どちらにしても楽しみだ」
義仲は凶悪な笑みを浮かべる。
「さて、どうしましょうか?」
「ま、待て! 法皇と話してくる。今の状況を知れば必ず院宣が下りるはずだ」
「いいでしょう」
国道が御所内に入っていくと、北面の武士たちも離れていった。
庭には義経たち3人と熊若と義仲、それに蓮華だけが残った。
「熊若、少しぐらい燃やしてもいいか? 法皇の肝を冷やしてやりたい」
「我慢してください。今、朝敵になるのは出雲大社の不利になります」
「つまらんのう。まあ仕方あるまい。スサノオも3年は戦をするなと言っておったしな。略奪はいいんだっけ?」
「ダメです。僕のわがままに付き合ってもらったお礼は他でしますから」
ちぇっ、と言って義仲は座り込んだ。
義経が近づいて言う。
「熊若、説明しろ」
「義経様を助けてほしいと静御前が訪ねて来たのですよ。命のやり取りをしたこの僕に恥を忍んで。そして僕は一人の女性を助けるのを手伝ってもらう条件で承知しました」
「――そうなのか、静。わしは良い妾を持った」
「めっそうもございません」
義経は涙を浮かべる静御前の肩を抱いた。
「静御前、今度は僕に協力してもらいたい。蓮華ちゃんは、今、どこにいる?」
静御前は悲し気な顔で蓮華のほうを見た。
「熊若くん……」
蓮華が熊若を見て言った。熊若の目が見開く。
「そんな……、どうしてそんな姿に……、嘘だ!」
熊若はフラフラと蓮華に近づいていく。
「鬼になった代償よ……。私のことは忘れて。もう元には戻れない……」
「連れて帰る!」
熊若は蓮華の手を取った。
「無理よ! 私は霧の神社から離れて生きてはいけないの! ごめんね……」
ドスッ。鈍い音を立てて、蓮華の拳が熊若の腹にめり込む。
うずくまる熊若に蓮華が言った。
「うれしかったわ、熊若くん。二度も助けに来てくれて――来世があればいっしょになろうね」
蓮華は塀を飛び越えて消えていった。
「蓮華ちゃん……」
熊若はヨロヨロと立ち上がる。義仲は肩を貸した。
「安倍め、よくも蓮華ちゃんを……」
顔をあげた熊若を見て義仲はぎょっとした。
熊若の瞳が憎悪に染まっていた。
「義仲様、仙洞御所の焼き討ちを命じてください――」
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる