アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第二章

闇を照らす光

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 ベローズ王国に居住を持たないケルトがなぜ国王に優遇され同行を許されたのかわからないが、ギルはケルトに規律だけは守るようにいって聞かせていた。

 それなのに勝手に隊から離れ、こともあろうに地下遺跡内で迷子になっていたのだ。足手まとい以外のなにものでもない。

 暴れるケルトを取り囲む兵の間を縫って、ギルはケルトの前に進み出ると深々とため息をついた。

「ケルト。おまえは隊の規律を乱した。命令に背いて単独で行動するとはなにごとだ。いくら国王様の命とあってもこれでは……」

「隊長! そのことは深くお詫びします! ですが、いまはわたしの話を聞いて頂きたい!」

「規律に反した者の話など聞く必要はない。おまえは地上にあがって待機してろ」

「隊長っ!」

 バサリとギルが切って捨てると暴れるケルトを周囲の兵が取り押さえにかかる。その様子を尻目にギルはマーリナスに先をうながした。

 その背中を追い求めケルトは兵の手を振り切って集団から飛び出すと、去りゆくギルの背中に向かってのどから血が出そうなほど大きな声で叫んだ。

「わたしならアレクという少年の居所がわかるのです! 案内させて下さい!」

「なんだと」

 その言葉に反応したのはマーリナスだ。思わず足を止めてケルトを振り返る。ギルは不審そうな視線をケルトに向けて問いかけた。

「なぜおまえにアレクの居場所がわかるのだ、ケルト」

「わたしは彼と一緒に捕らえられていたのです! そのとき彼に追尾の魔法をかけました! だから……!」

「一緒に捕らえられていただと?」

 仮にもベローズ王国警備隊と同行してきた人間として、なんともお粗末な話で聞いて呆れるが、ケルトが追尾の魔法を使えることはギルも知っている。もしそれが本当ならば。

「案内できるか、ケルト」

「はい!」

「放してやれ」

 ケルトを取り押さえる兵にギルが指示をだすと、ケルトは急いで駆け寄ってきた。

「急ぎましょう! 時間がありません!」

 ギルの手を引いて叫んだケルトの後をふたりはあわてて追いかけたが、病み上がりでまだあたまにもやがかかったようなマーリナスには、その言葉の意味をしっかりと拾い取ることができなかった。

 じつはマーリナスが倒れてからすでに一晩が経過しており、アレクが捕らわれてから今日で四日目のときを迎えていたのである。

 ケルトには一日目の晩にアレクと口づけを交わしたため、今日が「代償」の期限であることがわかっていたのだ。




 ◇




 三人があわてて地下の階段を降り始めた頃。

 ロナルドはベインを追った道のりを戻っていた。途中ですれ違った警備兵からはバロンとモーリッシュの確保が成功したと聞いた。

 ホッと安堵したロナルドだったが、まだアレクが見つかったという報告を受けていない。マーリナスも気が気じゃないだろう。一刻も早く見つけださなければ。

 すれ違った兵からアレクが金庫内にいる可能性が高いという情報も聞き入れたロナルドは、見付けた矢先から兵と協力して金庫を無理やりこじ開け中を確認して回っていた。中には呆れるほどの財産が入っている金庫もあったりしたが、アレクを見つけるには至っていない。

 そうしてロナルドはようやく様々な遠回りをして目当ての場所まで戻ってきた。

 そこはベインを追いかけるときに足をかすめて転がった、バスケットや飲み物が散乱している二股の分かれ道。

 転がったバスケットを手に取ってロナルドは考える。

 なぜあのとき、ベインはここにバスケットを置いていったのか。

 逃げるために身軽になりたかった? それなら途中で放り投げればいい。だがあのとき、遠目にベインの背中をとらえていたロナルドは確かに見たのだ。

 ベインがここで一度立ち止まり、バスケットを地面に置いたところを。

 そのためふたりの距離が縮まった。大きくなった背中を目前に必死になって後を追いかけたから、あのときはバスケットのことなど気に留めなかったが……これは誰のための物だ。

 ベインが逃げてる最中にバロンと遭遇した。モーリッシュはそれより先に逃げて捕らえられた。ならばこれは、ふたりのための物じゃない。

 ロナルドはベインが逃げた道とは反対の道に視線を向ける。そこには真っ暗闇の通路がひっそりと奥に向かって伸びている。その方角に向かってロナルドは松明をかかげ、足を踏み出した。

 枝道もなく、ただひたすらまっすぐに伸びた細い道。

 遺跡を探索している兵たちの喧騒も遠のき、辺りは徐々に静まり返ってゆく。不気味なほど静まり返った通路をひとりで歩み続けていると、不意に前方に明かりが見えた。

 キラキラと輝く光。一瞬見間違いかと思ったが、目を細めてみると確かに輝く光がある。黄色のようなオレンジ色のような、そんな光が強くなったり弱くなったりしながら通路の奥で光っているのだ。

 不審に思いながらもロナルドはその光に向けて歩みを進めた。そして目にする。

 信じられない数のサフェバ虫が密集し、羽を発光させて点滅を繰り返しているのを。



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