アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第三章

窓際のきみ

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 ロナルドはニックが報告をしに来たとき、アレクが動揺した理由がずっと気がかりだった。あれほど青ざめた顔のアレクを見たのは初めてだったし、何かあるとは思ったものの未だにその話に触れずにいたのだ。

 アレクにはまだ謎が多い。そして隊員に調べさせた『ユンメル王朝の真実』。

 歴史テストに於けるアレクの回答は真実であり、あの古代文献を保有していたのは、ここスタローン王国とベローズ王国、そしてモンテジュナルの三大国。

 アレクの戸籍がスタローン王国にないことは調べがついている。ギルと面識がなかったことを考えれば、可能性として高いのはモンテジュナルの王室。またはそれに準じる貴族の出身であるということ。

 だがモンテジュナルは現存する王国であり、その王室の人間が行くあてもなく浮浪の旅をしているはずもない。

 とすれば貴族といったところが妥当なところだろう。

 それを踏まえた上で、あのときのアレクの反応はそんなロナルドの考えを肯定するものだったのだ。

 そしていまの二人の会話。

「家族……か」

 アレクの出身がモンテジュナルであることはほぼ間違いなさそうだが、ホーキンスの件とアレクの家族がどう関わっているというのか。

 アレクから作戦参加の意思表明を受けたときは、さすがのロナルドも意図を読みきれず反対しようか悩んだが、あのときアレクが動揺した理由と関連するのではと思い、了承することにしたのだ。いうまでもなくニックは猛反対していたが。

 アレクの狙いはモンテジュナルの密売人と会うことだった。それがアレクにとってどんな意味をもたらすのか。

 とにもかくにも、ゲイリーがまだ地下街に残っていることが確認できれば、取引現場まで尾行してゴドリュースを押さえることが最優先だ。

 明日の朝にはニックが結果を報告しにくるだろう。

 そこまで考えをまとめてロナルドは静かに闇の中へと姿を消した。

 ◇

「ホーキンスの姿を確認しました。まだ取り引きまでは猶予ゆうよがあるようです」

 そうニックが報告してきたのは、翌朝ロナルドたちが隊長室に到着して席につくより前のことだった。

 その報告にアレクはほっと胸をなでおろす。

「決まりだね。では今夜決行しよう。いつ相手が動くかわからないが、尾行するためには地下で見張る必要がある。地上部隊と地下部隊に分けて動こう。決して相手に悟られてはならない。配置には留意するように」

「はっ! ではさっそく準備に取りかかりますので、わたしはこれで失礼致します」

「ああ。よろしく頼むよ」

 ニックが去ったあと、ロナルドは医療班に参加要請をするため医療棟を訪れた。アレクには山のように積もった書類整理がある。作戦決行までにできるだけ片付けておきたいと本人が話したため、隣にアレクの姿はない。

 作戦が始まれば、またしばらくマーリナスの様子を見にくることはできなくなる。

 医療棟からの帰り際、ロナルドは最後にマーリナスの顔を見ていこうと思い立ち、病室へと足を向けた。

 普段ならノックをしてから入る部屋も反応がないとわかっていると、諦めと慣れが混同してノックをせずに入室してしまうことに、今さらなんの躊躇もない。

 無言でノブを回すと正面から一筋の風が凪いだ。温かな風に乗って窓際に飾ってあった花びらが舞いロナルドの頬をかすめる。

 そしてその窓の前で警備隊の制服を肩にひっかけ、外をみつめて佇む後ろ姿があった。少し伸びた濃紺色の髪が太陽の日差しを受けながら風に揺れて、ゆっくりとこちらを振り返る。

「ロナルド」

 自分をみつめる濃紺色の瞳に聞き慣れた声。ロナルドは言葉を失ってその場に立ち尽くした。

「どうした。蘇った死人でもみているようだぞ」

 片方の口角を小さく引き上げ、皮肉まじりに笑うその顔は幼少の頃から変わらない。

「マーリナス!」

 ロナルドは目を丸くして弾けるようにマーリナスの元へと駆け寄った。

「いつ目覚めたんだ!」

「おまえが来る少し前だな。何があったか思いだしていた」

「おまえはゴドリュースの毒で……」

「ああ。倒れたんだな。どれくらい眠っていた」

「二週間ほどかな」

「二週間か。あのあとの事後処理は大変だっただろう」

 医療処置が行われていたとはいえ、そう語るマーリナスは少し痩せたようにみえる。目覚めたのは良かったが、まだ体調は万全とはいかないだろう。

「気にしなくていい。体力が戻るまでは無理をするなよ。それまでは俺に任せておけばいい。いいな? いま医師を呼んでくる」

「ああ。悪いな」

 そういってベッドに横になろうとしたマーリナスの体がぐらりと揺れる。

「おっと。だから無理をするなと……」

 慌ててマーリナスの体を支えたロナルドの肩に腕を回して、苦笑交じりに笑ったマーリナスの視線がロナルドの首元でふと止まる。

「おまえ、魔道具マジックアイテムはどうした」

「え……?」

 ハッとしたロナルドは慌てて襟元を握りしめた。

 だが既に手遅れなのは理解している。思わず強ばった顔をすぐさま整えて笑顔を浮かべ、動揺を隠しながらできるだけ普段と変わらない声色で言葉を返す。

「職場にいるときは邪魔になるからね。デスクに置いてあるんだよ」

「……そうか。アレクはどうしている?」

 ほんのつかの間の沈黙を置いて、マーリナスは興味を失ったように視線を外すとベットに腰掛け、ロナルドを見上げた。

「いまは俺の自宅で保護しているよ。他にも同居人が増えてしまったけどね」

 それからロナルドはマーリナスが倒れてから何があったのか、ことのあらましを話して聞かせた。

 ただし、アレクが現在家を出て警備隊で働いていることだけは伝えずに。

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