アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第三章

嫌な予感

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「あいつだね」

「そうです。普段はああしてバーテンダーをしているようですが、あの奥に隠し部屋があり、違法取引はそこで行っていると。今回の取引もそうだとラクなのですが」

「そうもいかないだろうね。品物は大量のゴドリュースだ。相手がモンテジュナルから来ることを考えても移動手段は馬車だろう。馬車で地下街には来られないからね。きっと場所を変えるはずだよ」

「なるほど」

 隊員が納得したようにうなずくと、そこにシェリーを両手に抱えた男がやってきた。

「はいよ。二百ギルだ」

 音を立てて手荒くテーブルにジョッキを置いた男に隊員は顔をしかめる。ジョッキの口からは中身が溢れてテーブルを濡らし、ただでさえきつい香りが更にむわりと立ちこめる。

「さっき入り口で五百ギル払ったぞ」

「ああ? あれは入店料だろうが。酒代は別だ」

 むっと顔をしかめた隊員を片手をあげて制止し、ロナルドは新たに懐から二百ギルを取り出すと卓上に乗せた。

「気を悪くしないでくれ。この店はまだ不慣れでね」

「ふん」

 男は隊員をぎろりとにらみつけ、舌打ちをしながらカウンターへ戻っていった。その背中を見送り、ロナルドは嘆息をつく。

 気性の荒い地下街の連中のことだ、なにがきっかけで乱闘騒ぎになるかわからない。いまはできる限り目立つようなことは避けなければ。

「申し訳ありません。このような低俗な酒場で入店料を取られるだけでも納得がいかなかったもので」

「ここは無法地帯だ。我々の常識は通用しない。上層と比べてはいけないよ」

「はっ」

 ホーキンスの供述によればモンテジュナルの密売人はエレノアという二十七歳の女性だ。見た目は赤みがかった茶髪に琥珀色の瞳。顔にはそばかすがあるということだった。

 ここを直に訪れることはないだろうが、可能性はゼロではない。ふたりは酒を酌み交わす客を装いながら、出入りする客と変わらずカウンターに立ち続けるゲイリーに目を配る。

 それから小一時間ほど経ったころだろうか。ロナルドはふとあることに気がついた。

 向かいの席で酒を注文していた客のテーブルに先ほどの男が酒を届けていたが、お金を貰わずそのまま席を後にしたのだ。

 そのときは先払いでもしていたのかと思ったが、よくよく男の動きを追って見ていると、やはりどこのテーブルからも酒代を貰わずにカウンターに戻っていく。

 そして時折カウンターでゲイリーになにやら耳打ちをしながら、こちらに視線を向けて笑い合っているではないか。

「嫌な感じがするね」

「ええ。ここに長時間いるのは拷問でも受けているような気分です」

 ふたりから目を離さず声を洩らしたロナルドの言葉に隊員は力強く同意を示す。完全に意図を読み違えていたが。

 そのとき。ロナルドが鋭い視線を向ける先で一瞬ゲイリーがにやりと笑ったかと思えば、カウンターを男に任せ奥の部屋へと姿を消した。それを見届け、ロナルドは席を立ち上がる。

「でよう。外にも見張りはいるが、嫌な予感がする」

「はい」

 だが席を立ったふたりに大きな影が覆いかぶさる。見上げるほどの大男が頼んでもいないのに両手に酒を持ち、正面から立ち塞がってこちらを見下ろしているではないか。

「おいおい、全然酒が進んでねえな。もっと楽しんでいけよ」

「いや。もともと酒はあまり得意ではないんだよ。今日はこの辺で」

「まあ、そういうなって。呑めば強くなるってもんだ。そうだろう、警備隊の皆さんよ」

 一瞬ロナルドも同行していた隊員もその言葉に動きを止めた。

 愉快そうな色を含みながらも声は決して笑っていない。ひやりとしたものが背筋を伝ったが、いち早く動揺を隠したのはやはりロナルドだ。

「警備隊? ははっ、なんのことかな。俺たちはここに商売をしにきただけだ。言いがかりはよしてくれ。さあ、行こう」

「待て」

 へらへらと笑みを浮かべて横を通り過ぎようとしたロナルドの肩を男が押さえつける。ロナルドの倍はあるかという肉厚な手。つかまれた肩はぎりぎりと軋む音を立てた。

「……まだなにか」

「ああ。大事な用が済んでねえ」

「酒代は払ったが」

「そうだな。そもそもそれが間違いだ」

 まずい。

 そう直感したのはロナルドも隊員も同時のこと。

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