アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第六章

失望の夜

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 遠く離れていたのに、ケルトの目には信じられないほど鮮明に映った。

 振り下ろされる鈍い煌めきとロナルドが崩れ落ちる、その様が。

「うそ……嘘だ。嘘だああっ!」

「ケルトッ、立つんだ! 行くぞ!」

 ギルに手を引かれながら名を泣き叫ぶが、力強い腕は強引にケルトをその場から引き離す。

 何度も後方を振り返り、声がかれるほど叫び続けた。

 だけど横たわった影は石のように動かない。

 扉をくぐったケルトが最後に見たのは、起き上がった数名の騎士がロナルドを取り囲む様子だった。

 ◇
 
 それから数日後。
 ギルとアレク、そしてマーリナスとケルトは砂漠の大海原にいた。

 パチパチと焚き火が散る様子を眺める四人は、ここ数日ほとんど会話を交わしていない。

 逃げることに必死だった。
 それもある。

 それこそ休む暇もなく動き続けていたのだ。鍛えられたマーリナスやギルと違って、アレクの疲労はとうに限界だった。だけどそれ以上に憔悴していたのは心だ。

 普段なら口の減らないケルトが一言も口をきこうとしない。

 ずっとロナルドの名前を叫び続けていたケルトが最後に言葉を発したのは、スタローン王国を脱出した後のこと。

『俺を庇ってあいつが死んだ』

 まるで己を呪うように発せられた言葉は深い澱みに墜ちた石のように重く、みなの心にのしかかった。

 いったい何があったのか。

 アレクやマーリナスが必死に問いかけても、それ以上言葉を発しない。

 真相も明らかとならないまま、ケルトが背負う悲愴だけが一行をじわじわと寝食していく。

 ときおり嗚咽をもらすケルトの目は真っ赤で何度もこすった痕が痛々しく、表情は暗く翳り、魂が抜け落ちたように瞳は濁っていた。

 そんなケルトにかける言葉を誰も持ち合わせていない。

 誰かを気遣う心の余裕がなかったというのもまた事実。

 彼らに立ち止まることは許されず、進むしかなかったのである。

 あの後、ギルの手を借りてなんとか窮地を脱した彼らは遅れて到着したベローズ王国警備隊に保護され、襲いかかるスタローン王国の騎士団と衝突。

 三人に立ち向かう力は残されていなかったが、ベローズ王国警備隊は世界屈指の精鋭部隊である。世界が認めるその実力を遺憾なく発揮した。

 突破口を開いたギル達のおかげで国境を抜けたアレク達は用意された馬に乗り砂漠を横断。いまはその途中である。

 ケルトの嘆きは三日三晩とまらなかった。気の強いケルトがこれほど泣き続ける様子をアレクは生まれて初めて目の当たりにした。

 ケルトは一見したらロナルドを嫌っているようにみえたかもしれないが、実際はそれほどでもない。

 喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもので、ケルトとロナルドの関係は見事に当てはまる。

 毎日飽きもせずに繰り広げられていた二人の喧嘩。

 ことあるごとにキャンキャンと吠えるケルトに対し、ロナルドは反応を楽しんでいるように見えたし、ケルトも文句を言いながら世話を焼いていたのだから。

 ケルトの性格上、本当に嫌なことはしない。

 だからきっと口でいうほどロナルドのことは嫌いじゃなかったんだと思う。

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