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第六章
疑念と比類な能力
しおりを挟むベインを取り逃がしたことは口惜しいが、そもそもの目的はモーリッシュの確保にある。手下ひとりを取り逃がしたところでたいした痛手にはならない。
モーリッシュとバロンさえ無事であればそれで。
二人を連行さえすれば正しき制裁が下されるだろう。そうすればより多くの人々を救える。
地下遺跡のなかでロナルドに抱かれ真っ青になって倒れていたアレクを思いだし、ギルは後ろ髪ひかれる思いで砂漠をあとにする。
――先ほどの不可解な現象は何だったのか。
そんな違和感を胸の奥に残しながら。
けれど岐路の途中で起きたその出来事は、隊員たちに言い様のない緊張と不安をもたらせた。
ギル率いるベローズ王国警備隊は精鋭部隊であるからこそ、先の出来事がどれほど異常なことだったのか正しく悟ることができる。
魔法ではない。自然現象でもない。かといって人為的なものでもない。
ならば、あれはなんだ。
考えるほど深みにはまる疑念は、多くの経験則をもってしても答えを与えてはくれない。
次第に疑念は答えのない不安へ変わり、不安は未知なる恐怖となった。
何かに追い立てられるように帰路を歩む足も心なしか速まり、国境付近まで辿り着いても尚、ピリピリとした空気が解けることはない。
ようやく安堵の息をついたのは無事に王国へ帰還を果たしたときだった。
故郷の賑やかさに表情を緩める隊員たちにいっときの休息を命じ、ギルは休む暇もなく国王に謁見を申し出た。
ギルは国王の前で跪くと、順番に報告をあげていった。
最後に報告したのはケルトのこと。
ケルトが何者でどこから来たのかギルは知らされていない。
知っているのはどこからともなく現れたケルトを国王が保護し、城に寝床を与え、食事を振る舞い、やりたいようにさせていたということ。
そのことに疑念を抱き、一度だけ国王に問うたことがある。
「あの者は何者なのか」と。
その答えは、
「憐れな者なのだ。好きなようにさせておけばよい」
答えにもならない返事であった。
間もなくしてケルトは警備隊の同行を申しでた。
人捜しをしているからと言っていたが、国際警備隊は誰しもが簡単に入隊できるわけではない。
日々、他国を股にかけて国際指名犯を追う彼らの任務は危険度が他の非ではない。
国際指名犯の尻尾をつかむことは容易ではなく、ひとつのミスが命取り。取り返しのつかないことは山ほどある。
そんな中、観光気分でつきまとわれて面倒をかけられ、チャンスを不意にしてしまったらどうする。
ベローズ王国警備隊は他の警備隊とはわけが違うのだ、同行させるならそれ相応の実力がなければ。
国王の意向に異を唱えるのは気が引けたが、ギルはハッキリとそう告げた。
「ならば試してみればよいじゃろう」
愉しそうに目もとを緩めてそう言った国王に少々意表を突かれた。
国際警備隊に相応しいだけの実力を測ると言っているのだ、そんなことが容易に適うはずもない。てっきりまた「好きにさせろ」と命じるのかと思っていたのに。
素性も分からぬただ飯ぐらいに何ができるというのだ。
国王から溢れる余裕が、ギルの中に嘲りとは違う疑念をもたらしたのはそのときだ。
答えは数日のうちにでた。
潜在能力や魔法技術における試験で、ケルトの追跡魔法が他と群を抜いていることが判明したのである。
効果範囲も持続時間も優に平均の倍。
加えて生まれながらの性質なのか、特殊効果まで付与されてあった。
通常、追跡魔法は妨害探知魔法に引っかかると気づかれてしまうのが弱点だが、ケルトのそれは妨害探知魔法さえ潜り抜ける代物だったのだ。
それだけではない。
本来追跡魔法というのは特定の人間や物に対して発動した後に形跡を追って探し当てるものなのだが、ケルトは「魔法の形跡」まで追うことができた。
例えばヒーリング、強化魔法、姿くらまし。
種属性関係なく魔法の形跡を辿って標的を探し出すことができる。
警備隊にとっては喉から手が出るほどに欲しい能力を、ケルトは持っていたのである。
反面、剣や武術はからっきしだったが、それらを差し引いても余りある。
兎にも角にもギルはケルトの実力を認めない訳にいかず、同行させることを決めたのだった。
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