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第六章
親交試合
しおりを挟む「いない?」
「どこから入手された情報か存じあげませんが、そのようなことは事実無根です。あなた方の探し人はここにはおりませんので、どうぞお引き取りください」
平然と告げた門兵をギルは鼻で笑う。
「国際警備隊である我々に大嘘をつくとは度胸がある。この男は地下街に住む悪党とも仲良くやれそうだとは思わないか、リンデン」
「ちょっと調べればすぐに足はつきますがね。調べますか? 我々も観光で来たわけではありませんし、陛下に手土産の一つも必要でしょう」
「どうせなら、そっちの男も調べてこい。偽証罪で捕らえてやる」
二人いた門兵の片割れを突き刺すような視線で指すと、彼は明らかに動揺を浮かべた。
「誤解しないで頂きたい! 今日は大事な謁見があるので、誰も通すなと命じられているだけなのです!」
「ほう。ならば都合がよいではないか。我々も王命で参った次第。アレクがいないとなれば、国王陛下に頼んで騎士団や警備隊に協力を要請する必要があるのでな。謁見の邪魔はせぬから、二番手に待たせてくれればよい」
「いや……ですから」
「スタローン王国とベローズ王国は和平協定を結ぶ間柄。かつての恩恵を思えば、協力を惜しまぬのが道理であろう。それともスタローン王国は恩義すらも失ったか」
「そのようなことは! ただ今日は都合が悪いと言っているだけで……」
押し問答を繰り返すうち、周囲には騒ぎを聞きつけた騎士が次々と姿を現した。
門兵の後ろに横一列となり、無言で圧力をかけてくる。
ピリピリとした空気がしどろもどろの門兵とギルを筆頭とするベローズ王国警備隊の間に流れ、しばしして業を煮やした騎士のひとりが門兵の肩を押しのけた。
「あなた方もしつこいな。何度言えばわかるのだ、ベローズ王国警備隊ともあろう者が聞き分けのない子供のように。なんと言われようが、今日だけは謁見すること叶わぬ。お引き取り願えぬのなら、こちらも強制的な手段に出るしかない」
「強制的な手段、だと? はっ、これは面白い。リンデン、スタローン王国騎士団が我々に実力を披露してくれるらしいぞ。こんなことは滅多にあるまい。ぜひ手合わせ願おう」
「交流試合みたいな言い方をして。わかっていますよ、後々問題になった時の言い訳にするつもりでしょう」
「わかっているのなら話は早い。と、いうわけだ。さあベローズ王国警備隊よ。国際警備隊の名にかけて醜態を曝すんじゃないぞ。……かかれ」
腕組みをして豪快に笑うギルの脇を影が横切った。真っ先に動いたのは呆れ顔で軽口を叩いていたリンデン副隊長。次いで隊員たちだ。
彼らはまず司令塔であるギルを援護し、周囲の動きを抑えにかかった。ギルの言葉が終わるや否や拘束の魔法を発動し、口封じの魔法を発する。重ねて鋭い剣戟が四方八方に軌跡を描いた。
騎士の方が明らかに数では上回っていたが、場を制圧するに要した時間は数分足らず。
赤子の手を捻る勢いで城門の兵を圧制した後は、飽きもせず行く手を阻もうとする騎士団すべてを゛親交試合゛だと言い切りながら薙ぎ倒し、進み続けた。
そして向かった先で大勢の騎士に捕らえられようとしていたアレク達を発見するに至ったのである。
おかげで帰り道はとてもラクなものであったのだが。
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