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5:Rain dance

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「・・・俺は・・・蓮見さんが嫌いな蓮見さんを、入社した時・・・出会った日に好きになりました。最初からツンツンしてて、トゲトゲしてて、人を寄せ付けないのに、自分の棘で本当は自分も傷ついてる・・・そんな風に、俺には見えました・・・。俺は・・・男として傍にいる事が許されなくても、蓮見さんが今以上に傷つかなくていいように、守りたいと・・・思いました・・・。」


・・・なんだよ・・・なに、この公衆の面前での公開処刑的な告白・・・!!

恥ずかしいのに、もう引けないじゃんか・・・。

こっちを見ている蓮見さんはどうせ呆れてるか、険しい顔をしているか、馬鹿にされて罵られるに決まってる・・・。

出張で遠方、仙台まで来て旅先マジックのような雰囲気の中で告白して、フラれるのかぁ・・・俺・・・別に・・・付き合ってほしい、ってんじゃないけど、蓮見さんのあの瞳、横顔、防犯ブザーを握り締めてる表情は、黙って見ているなんてできなかった。


「・・・ほんと・・・そういうところ・・・本当に、嫌いだわ・・・」

「・・・・・・存じております・・・。」

ふ・・・っと笑う、その顔が、見たことないくらい・・・穏やかで、心臓はうるさく鳴り、予想外の反応に俺は対応を迷った。

「・・・・・・・・・座れば・・・?目立つから・・・・・・」

「・・・はい・・・」

もう一度腰を下ろした蓮見さんの隣。

俺と蓮見さんの間には、少しの接触もないおおよそ2人分ほどの空間がある。

出会ってからまだ短い時間だけど、蓮見さんと行動を共にしたり、会社での様子、お邪魔した時の家での俺との距離感、それらを観察して出した結論は、この距離以上に蓮見さんのパーソナルスペースに踏み込むと蓮見さんは身構えて表情も身体も強張らせてしまうということ。

わかりやすく身を護ろうとするのはきっと無意識で、両腕を身体の前で組んだり、寒くもないのに身体を抱くように両腕で左右の肘や二の腕をさすり、ジリジリと後退して距離を保とうとする。

それらをさせない為に少しずつ距離を測り、警戒されないギリギリの距離が人間2人分のこの距離感。

・・・本当はもう少し近づきたいし、信用してほしい・・・でも、欲を出して踏み込んだら、この距離すらもっと遠いものになってしまうのは間違いない。


「・・・どうあがいても、私が他人を好きになれなくても、私は人間の中で生きていくしかないと気づいた時は物凄く絶望したわ。どうあっても、生物学上私は人間という生き物の性別はメスで、オスを受け入れて子孫を残す為に存在している、その事が、自分の身体をバラバラに破壊して無にしてしまいたい程憎くて大嫌い。そして、私を女として見て、女を求めて関係を求めるオスの存在も、好きとか嫌いとか愛してるとか・・・どうでもいいのよ。私には、煩わしくて不要なモノで、なくて構わないもの。・・・・・・あなたの事は、仕事上では信頼しているのよ、これでも。よく気づくし、飲み込みも早い、社内の人間とのコミュニケーションも、私が上手くできないことをフォローしてくれている、上司や仲間からの信頼も厚い。女性社員から人気があるのも知ってる。」


組んだ足に肘を乗せ、顎を手のひらで支えて遠くに視線を飛ばし、話し終えた蓮見さんが珍しく笑った。



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