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第一章 夢見の城
奇妙な噂⑤
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校門の前で待つこと数分、黒のアテンザが横付けされた。
車窓から前髪を几帳面に右分けにした青い瞳の怜悧な美男子が顔を出す。
「おい、乗れ」
彼は響辰之。
近所に住む、光季の亡き姉の美咲の同級生だ。
響は沙奈と違って純血の日本人だが色素が薄い。
茶色の髪は美人な彼の母譲りだが、目の色は彼だけが青い。
両親が褐色の瞳でも、青い瞳の日本人が産まれることが稀にあるらしい。
確率は六パーセント程と聞いた。
光季は助手席、陽平は後部座席に乗り込む。
いつも飄々として物怖じせず、コミュニケーション能力も高い陽平だが、響だけは苦手らしい。
四つ年上の響は鋭く近寄りがたい無愛想な美青年だが、陽平は雰囲気で人を避けるようなヤワな精神じゃない。能天気に見えるが鋭く、人を見る目は確かだ。
その陽平が苦手がるくらいだから、響はよほど偏屈で気難しいのだろう。
冷血人間だと陰口を叩かれていたのはだてじゃないというわけだ。
ただ、自分に対しては面倒見がいいところがあり、霊力が高くて普段から妖怪が見えてしまう者同士シンパシーもあるので、光季は彼を苦手だとも嫌いだとも思ったことはない。
「ねえ響さん。なんの事件の調査か知ってますか?」
「いや、俺もまだ聞かされていない」
「ふうん、そうなんだ」
「それより光季、近頃変なことはないか? あんまり夜遅くに一人で帰るなよ」
「なに、その突然の心配。おれ、死亡フラグでも出てるの?」
訝しがると、響は「なんでもない」と素っ気なく答えて車を出した。
なんだよそれ、響さんらしくないな。
光季は深く腰掛けて脱力する。
基地に着き、指定された会議室に向かって廊下を歩いていると、前方から紐と袖の緒が鮮やかな紫色の白い水干に色違いの袴を纏った二人の少年が歩いてきた。
白い水干の右胸には、自分の隊服の左腕にあるのと同じ紋章がある。
古いフランス式のエスカッシャンの中に飛翔する鴉の影絵が描かれた紋章、夜鴉であることの証だ。
瑠璃紺の袴を穿いている、襟足が長いネオウルフ風の狐色の柔らかな髪に翡翠色の涼しげな瞳の少年は松風優。
緋色の袴を穿いている、外ハネの黒髪のショートヘアに茶色いぱっちりした瞳の少年は朝比奈要だ。
要を隊長として隊員が優だけの二人きりの部隊だが、朝比奈隊も式神と呼ばれる特別部隊だ。
「こんにちは、優さん、要さん。巡回の最中だったんですか?」
「うん。朝番が長引いてさ。やっと帰れると思ったら緊急呼び出し。参っちゃうね」
優が愛想よく笑う。
それに対して光季と陽平はへらりと笑みを返したが、響がむっつりした顔で冷たく吐き捨てた。
「疲れで足をひっぱるなよ」
「はは、響さんは相変わらず辛口だね。大丈夫だよ、オレも要もまだ元気なんで」
「ああ、安心してくれ響さん」
響の厳しい言葉に動じない優と要は、夜鴉設立当初から在籍していただけあって、さすがの貫禄だ。
高校三年生だとは思えない。
会議室に入ると虎徹がすでにいた。
緩いパーマがかかった墨色の髪を弄りながら、彫りの深いハニーフェイスを歪めて退屈そうな顔で座っている。
冷たい灰色の瞳は酷く眠たげだ。
「みんな揃ったな。任務について説明する」
軍服を着た精悍な顔立ちの男がホワイトボードの前に立った。
彼は戦闘員のトップに立つ長官の狭霧蒼一だ。
普段は指揮をとったり、行動方針を考えたりする立場にあるが、緊急事態には戦闘員として出撃する。
虎徹の叔父で剣道の達人である彼は、虎徹の師匠でもある。
全員の顔を見まわした狭霧が光季の顔を見つけると、少し首をかしげた。
「おや、水瀬君、目の下に隈ができているぞ。睡眠不足か?」
狭霧は候補生の頃から何かと声を掛けてくれる。
理由はたぶん、自分が虎徹のお気に入りの部下だからだ。
光季が入隊したばかりの頃、隊は組んでいなかったものの高い戦闘力を備えていた虎徹はすでに式神だった。
今でもよく覚えている。彼がいきなり候補生の自分に勝負をふっかけてきたことを。
勝負はもちろんボロ負けしたが、彼にいたく気に入られ、一等兵に昇格するなり隊に誘われた。
「あんたと二人の部隊なんて怖すぎですよ。
武志さんも隊に入ってくれるなら、入ってもいいですよ」
光季の条件を虎徹がのみ、最強部隊の如月隊が誕生したわけだ。
一匹狼だった虎徹を心配していた狭霧は、そのことをいたく喜んでいた。
「傍若無人な子だけど、虎徹をよろしく頼む」
狭霧はそう言って下っ端の光季に頭を下げたぐらいだ。
ようするに狭霧はたいそうな親馬鹿ならぬ叔父馬鹿で、可愛い甥の部下も可愛いというわけだ。
贔屓というほどではないが、ちょっとくすぐったい。
特に、こういう会議の場では恥かしい。
光季は若干俯き気味に答えた。
「あー、はい。まあ。でも、大丈夫です」
「そうか、無理はしないでくれ。虎徹、水瀬君はまだ高校生なんだから、あまり無茶はさせるなよ。お前の隊は仕事のしすぎだ」
「ハイハイ、気をつけますよ」
「ハイは一回だ」
怒られて虎徹が拗ねた顔をする。
大人びてニヒルな虎徹が、狭霧の前ではまるで子供だ。
二十歳なので子供にしては年齢がいき過ぎているが、なかなか微笑ましい。
みんな笑って二人を見ていたが、虎徹を敵視している響だけは生温い目を向けていた。
それにしても、今回はバラバラなメンツが集められているな。
光季は座っている他の隊員を見まわした。
朝比奈隊は揃っているが、光季が属する虎徹率いる如月隊は京弥と武志がいないし、響と陽平に至っては別々の隊だ。
年に二回の昇格試験に合格した精鋭部隊である七隊の式神は、通常の巡回任務以外に市民から依頼がきた怪事件を捜査して妖怪の仕業かを見極め、黒ならば妖怪を駆除するという特務も行っている。
貴船社長と狭霧長官が適任者を選んで捜査に派遣するのだが、たいていは隊単位で派遣される。
複数の隊が同じ任務に着くことはよくあるが、こんなふうに別々の隊員同士が集められることは珍しい。
一体、どんな任務なのだろうか。
「さて、緊急で集まってもらったのは君達にある怪事件の捜査、解決を頼みたいからだ。今回依頼がきたのは、夢に出てくる幽霊の調査だ」
「はあ、幽霊ですか?それは俺達の仕事じゃなくて、陰陽師の仕事でしょう」
要が不思議そうに首を傾げる。要は代々続く陰陽師の家系で、親の代からは家業を畳んで普通の暮らしをしているが、彼の祖父は名高い陰陽師であり夜鴉の創設者の一人だ。
今から十三年前の二〇三〇年、光季がまだ三歳の時に六堂市で奇怪な事件や行方不明が頻発した。
事態の収拾にあたったのが、優の祖父、剣の達人の狭霧、そして陰陽師の要の祖父と夜鴉の現社長である貴船左近だったそうだ。
臨時入隊の光季は集団講義が受けられず、要と武志の二人に基礎訓練や妖怪についての講義をしてもらった。その時に要が妖怪に関する色々なことを教えてくれた。
妖怪が霊道からやってきて人間を襲うのは、減少し続ける異界のエネルギー資源を賄うためだ。
妖怪が暮らす異界も、自分達が暮らす人間界と同じような生活の営みがある。
人間の自然破壊による霊場が減ったことや、人間の超自然的なものに対する畏怖の念が失われつつあることによって、異界は今、土地の貧困化やエネルギー資源の枯渇に見舞われているそうだ。
そこで妖怪は彼らのエネルギー源となる人間の霊力に目をつけ、人間を殺して霊力の器である魂を奪い土地の養分やエネルギーの代わりにしている。
霊力が強い人間の中には、異界での領土や政権争いに使う兵士にされる者もいると、要から教わった。
ちなみに妖怪と幽霊はまったく異なるものだ。
妖怪は人や動物と異なる妖力を持った生命体で、鬼や天狗などが代表例だ。一方、死んだ人間の魂が恨みや未練を残して現世を彷徨っているのが幽霊で、生前の姿をしている。
妖怪は肉体を持ち生きている生命体だが、幽霊は死んでいて肉体を持たないので直接人に害を与えることはなく、人の姿を失って妖怪化しない限り、夜鴉では倒さない。
つまり、幽霊の事件なんて夜鴉にとってはお門違いなのだ。
だから要は、幽霊の調査と聞いて変な顔をしたのだろう。
「朝比奈が不思議に思うのは無理もない。通常ならば、霊は我々の敵ではないからな。だが、今回の事件、貴船さんは幽霊ではなく、幽霊を模した妖怪の仕業とみているんだ」
「貴船社長がですか?」
「ああ。彼も陰陽師の家系だからな。彼が霊じゃないというならその可能性が高い」
「なるほど、そういうことですか」
朝比奈が納得したところで、狭霧が話を進める。
「さて事件の概要を話そう。六堂市にある私立星崎学園に通う生徒の複数名が、朝起きても目が覚めないという不可解な現象が起きている。眠り病、と呼んでいるそうだ。彼らが眠りから覚めない原因を探ること、彼らの目を覚まさせることが今回の任務だ」
眠り病。さっき学校で沙奈から聞いた話だ。
光季はだらけていた背筋を少し伸ばした。
「それって、夜鴉じゃなくて医者の仕事じゃないの?」
「光季の言う通りだぜ。俺達じゃなくて医者を呼べよ」
任務の内容がつまらなさそうだと判断した虎徹は早くもやる気をなくしていた。
椅子にふんぞり返って、退屈そうに天井を仰いでいる。
「虎徹、行儀が悪いぞ。話には続きがある。
眠り病から覚めた生徒に話を聞いたんだが、彼らには共通点がいくつかある。
夢を見る前にある話を聞いたこと、その話に出てくる古い洋館が夢に出てきたこと、そして洋館で幽霊に会ったということが共通しているそうだ。
詳しくは当事者から聞いた方がいいだろう。呼んでこよう」
退室した狭霧が連れてきたのは、星崎学園の制服を着た女子高生だった。
セミロングの清純そうな黒髪で、けっこう可愛い顔をしている。
「彼女は眠り病にかかったけど目覚めた伊東さんだ。では、話を頼む」
「はい。うちの学校では、伝染夢っていう話が流行ってるんです」
「なんとまあタイムリーな。沙奈が言いかけた話じゃねえか」
陽平が耳打ちをする。光季は無言で頷いた。
「伝染夢は都市伝説みたいな感じの、よくある怖い話です。あの、この話を聞くと幽霊の夢を見ちゃうんですけど、話しちゃって大丈夫ですか?」
心配そうに上目遣いを向ける伊東に、狭霧は笑いながら頷いた。
危ない話は聞きたくないが、任務なので当然そんなことを言えるはずがない。
伊東が緊張した面持ちでポツポツと話をはじめた。
車窓から前髪を几帳面に右分けにした青い瞳の怜悧な美男子が顔を出す。
「おい、乗れ」
彼は響辰之。
近所に住む、光季の亡き姉の美咲の同級生だ。
響は沙奈と違って純血の日本人だが色素が薄い。
茶色の髪は美人な彼の母譲りだが、目の色は彼だけが青い。
両親が褐色の瞳でも、青い瞳の日本人が産まれることが稀にあるらしい。
確率は六パーセント程と聞いた。
光季は助手席、陽平は後部座席に乗り込む。
いつも飄々として物怖じせず、コミュニケーション能力も高い陽平だが、響だけは苦手らしい。
四つ年上の響は鋭く近寄りがたい無愛想な美青年だが、陽平は雰囲気で人を避けるようなヤワな精神じゃない。能天気に見えるが鋭く、人を見る目は確かだ。
その陽平が苦手がるくらいだから、響はよほど偏屈で気難しいのだろう。
冷血人間だと陰口を叩かれていたのはだてじゃないというわけだ。
ただ、自分に対しては面倒見がいいところがあり、霊力が高くて普段から妖怪が見えてしまう者同士シンパシーもあるので、光季は彼を苦手だとも嫌いだとも思ったことはない。
「ねえ響さん。なんの事件の調査か知ってますか?」
「いや、俺もまだ聞かされていない」
「ふうん、そうなんだ」
「それより光季、近頃変なことはないか? あんまり夜遅くに一人で帰るなよ」
「なに、その突然の心配。おれ、死亡フラグでも出てるの?」
訝しがると、響は「なんでもない」と素っ気なく答えて車を出した。
なんだよそれ、響さんらしくないな。
光季は深く腰掛けて脱力する。
基地に着き、指定された会議室に向かって廊下を歩いていると、前方から紐と袖の緒が鮮やかな紫色の白い水干に色違いの袴を纏った二人の少年が歩いてきた。
白い水干の右胸には、自分の隊服の左腕にあるのと同じ紋章がある。
古いフランス式のエスカッシャンの中に飛翔する鴉の影絵が描かれた紋章、夜鴉であることの証だ。
瑠璃紺の袴を穿いている、襟足が長いネオウルフ風の狐色の柔らかな髪に翡翠色の涼しげな瞳の少年は松風優。
緋色の袴を穿いている、外ハネの黒髪のショートヘアに茶色いぱっちりした瞳の少年は朝比奈要だ。
要を隊長として隊員が優だけの二人きりの部隊だが、朝比奈隊も式神と呼ばれる特別部隊だ。
「こんにちは、優さん、要さん。巡回の最中だったんですか?」
「うん。朝番が長引いてさ。やっと帰れると思ったら緊急呼び出し。参っちゃうね」
優が愛想よく笑う。
それに対して光季と陽平はへらりと笑みを返したが、響がむっつりした顔で冷たく吐き捨てた。
「疲れで足をひっぱるなよ」
「はは、響さんは相変わらず辛口だね。大丈夫だよ、オレも要もまだ元気なんで」
「ああ、安心してくれ響さん」
響の厳しい言葉に動じない優と要は、夜鴉設立当初から在籍していただけあって、さすがの貫禄だ。
高校三年生だとは思えない。
会議室に入ると虎徹がすでにいた。
緩いパーマがかかった墨色の髪を弄りながら、彫りの深いハニーフェイスを歪めて退屈そうな顔で座っている。
冷たい灰色の瞳は酷く眠たげだ。
「みんな揃ったな。任務について説明する」
軍服を着た精悍な顔立ちの男がホワイトボードの前に立った。
彼は戦闘員のトップに立つ長官の狭霧蒼一だ。
普段は指揮をとったり、行動方針を考えたりする立場にあるが、緊急事態には戦闘員として出撃する。
虎徹の叔父で剣道の達人である彼は、虎徹の師匠でもある。
全員の顔を見まわした狭霧が光季の顔を見つけると、少し首をかしげた。
「おや、水瀬君、目の下に隈ができているぞ。睡眠不足か?」
狭霧は候補生の頃から何かと声を掛けてくれる。
理由はたぶん、自分が虎徹のお気に入りの部下だからだ。
光季が入隊したばかりの頃、隊は組んでいなかったものの高い戦闘力を備えていた虎徹はすでに式神だった。
今でもよく覚えている。彼がいきなり候補生の自分に勝負をふっかけてきたことを。
勝負はもちろんボロ負けしたが、彼にいたく気に入られ、一等兵に昇格するなり隊に誘われた。
「あんたと二人の部隊なんて怖すぎですよ。
武志さんも隊に入ってくれるなら、入ってもいいですよ」
光季の条件を虎徹がのみ、最強部隊の如月隊が誕生したわけだ。
一匹狼だった虎徹を心配していた狭霧は、そのことをいたく喜んでいた。
「傍若無人な子だけど、虎徹をよろしく頼む」
狭霧はそう言って下っ端の光季に頭を下げたぐらいだ。
ようするに狭霧はたいそうな親馬鹿ならぬ叔父馬鹿で、可愛い甥の部下も可愛いというわけだ。
贔屓というほどではないが、ちょっとくすぐったい。
特に、こういう会議の場では恥かしい。
光季は若干俯き気味に答えた。
「あー、はい。まあ。でも、大丈夫です」
「そうか、無理はしないでくれ。虎徹、水瀬君はまだ高校生なんだから、あまり無茶はさせるなよ。お前の隊は仕事のしすぎだ」
「ハイハイ、気をつけますよ」
「ハイは一回だ」
怒られて虎徹が拗ねた顔をする。
大人びてニヒルな虎徹が、狭霧の前ではまるで子供だ。
二十歳なので子供にしては年齢がいき過ぎているが、なかなか微笑ましい。
みんな笑って二人を見ていたが、虎徹を敵視している響だけは生温い目を向けていた。
それにしても、今回はバラバラなメンツが集められているな。
光季は座っている他の隊員を見まわした。
朝比奈隊は揃っているが、光季が属する虎徹率いる如月隊は京弥と武志がいないし、響と陽平に至っては別々の隊だ。
年に二回の昇格試験に合格した精鋭部隊である七隊の式神は、通常の巡回任務以外に市民から依頼がきた怪事件を捜査して妖怪の仕業かを見極め、黒ならば妖怪を駆除するという特務も行っている。
貴船社長と狭霧長官が適任者を選んで捜査に派遣するのだが、たいていは隊単位で派遣される。
複数の隊が同じ任務に着くことはよくあるが、こんなふうに別々の隊員同士が集められることは珍しい。
一体、どんな任務なのだろうか。
「さて、緊急で集まってもらったのは君達にある怪事件の捜査、解決を頼みたいからだ。今回依頼がきたのは、夢に出てくる幽霊の調査だ」
「はあ、幽霊ですか?それは俺達の仕事じゃなくて、陰陽師の仕事でしょう」
要が不思議そうに首を傾げる。要は代々続く陰陽師の家系で、親の代からは家業を畳んで普通の暮らしをしているが、彼の祖父は名高い陰陽師であり夜鴉の創設者の一人だ。
今から十三年前の二〇三〇年、光季がまだ三歳の時に六堂市で奇怪な事件や行方不明が頻発した。
事態の収拾にあたったのが、優の祖父、剣の達人の狭霧、そして陰陽師の要の祖父と夜鴉の現社長である貴船左近だったそうだ。
臨時入隊の光季は集団講義が受けられず、要と武志の二人に基礎訓練や妖怪についての講義をしてもらった。その時に要が妖怪に関する色々なことを教えてくれた。
妖怪が霊道からやってきて人間を襲うのは、減少し続ける異界のエネルギー資源を賄うためだ。
妖怪が暮らす異界も、自分達が暮らす人間界と同じような生活の営みがある。
人間の自然破壊による霊場が減ったことや、人間の超自然的なものに対する畏怖の念が失われつつあることによって、異界は今、土地の貧困化やエネルギー資源の枯渇に見舞われているそうだ。
そこで妖怪は彼らのエネルギー源となる人間の霊力に目をつけ、人間を殺して霊力の器である魂を奪い土地の養分やエネルギーの代わりにしている。
霊力が強い人間の中には、異界での領土や政権争いに使う兵士にされる者もいると、要から教わった。
ちなみに妖怪と幽霊はまったく異なるものだ。
妖怪は人や動物と異なる妖力を持った生命体で、鬼や天狗などが代表例だ。一方、死んだ人間の魂が恨みや未練を残して現世を彷徨っているのが幽霊で、生前の姿をしている。
妖怪は肉体を持ち生きている生命体だが、幽霊は死んでいて肉体を持たないので直接人に害を与えることはなく、人の姿を失って妖怪化しない限り、夜鴉では倒さない。
つまり、幽霊の事件なんて夜鴉にとってはお門違いなのだ。
だから要は、幽霊の調査と聞いて変な顔をしたのだろう。
「朝比奈が不思議に思うのは無理もない。通常ならば、霊は我々の敵ではないからな。だが、今回の事件、貴船さんは幽霊ではなく、幽霊を模した妖怪の仕業とみているんだ」
「貴船社長がですか?」
「ああ。彼も陰陽師の家系だからな。彼が霊じゃないというならその可能性が高い」
「なるほど、そういうことですか」
朝比奈が納得したところで、狭霧が話を進める。
「さて事件の概要を話そう。六堂市にある私立星崎学園に通う生徒の複数名が、朝起きても目が覚めないという不可解な現象が起きている。眠り病、と呼んでいるそうだ。彼らが眠りから覚めない原因を探ること、彼らの目を覚まさせることが今回の任務だ」
眠り病。さっき学校で沙奈から聞いた話だ。
光季はだらけていた背筋を少し伸ばした。
「それって、夜鴉じゃなくて医者の仕事じゃないの?」
「光季の言う通りだぜ。俺達じゃなくて医者を呼べよ」
任務の内容がつまらなさそうだと判断した虎徹は早くもやる気をなくしていた。
椅子にふんぞり返って、退屈そうに天井を仰いでいる。
「虎徹、行儀が悪いぞ。話には続きがある。
眠り病から覚めた生徒に話を聞いたんだが、彼らには共通点がいくつかある。
夢を見る前にある話を聞いたこと、その話に出てくる古い洋館が夢に出てきたこと、そして洋館で幽霊に会ったということが共通しているそうだ。
詳しくは当事者から聞いた方がいいだろう。呼んでこよう」
退室した狭霧が連れてきたのは、星崎学園の制服を着た女子高生だった。
セミロングの清純そうな黒髪で、けっこう可愛い顔をしている。
「彼女は眠り病にかかったけど目覚めた伊東さんだ。では、話を頼む」
「はい。うちの学校では、伝染夢っていう話が流行ってるんです」
「なんとまあタイムリーな。沙奈が言いかけた話じゃねえか」
陽平が耳打ちをする。光季は無言で頷いた。
「伝染夢は都市伝説みたいな感じの、よくある怖い話です。あの、この話を聞くと幽霊の夢を見ちゃうんですけど、話しちゃって大丈夫ですか?」
心配そうに上目遣いを向ける伊東に、狭霧は笑いながら頷いた。
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