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第二章 真夏の再会
呼ぶもの③
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四人と鬼達が異空間に転送された。現実と変わらない異空間の中での戦闘開始だ。
優が地面を蹴って鬼に突撃する。
虎徹が右から袈裟がけに切りかかると、優は左から切り上げる。
鬼は優のカットラスを刃で受け止め、虎徹の日本刀を白刃取りした。
二人の力に押されても、引けをとらない怪力。虎徹も優も苦戦を強いられていた。
鬼の血色の瞳がじっと優を見た。
目を細めて鬼が嗤う。
「そなたの顔は知っている。人間に寝返った裏切り者の天狐の孫だな?」
てんこという耳馴染みのない言葉に光季は顔を顰める。
てんこの意味は解らないが、人間に寝返った裏切り者という言葉から推測すると、妖怪の一種なのだろう。
だとしたら、ますます意味がわからない。
夜鴉にはもともと日本に棲みついている人間に味方してくれる妖怪が隊員として所属しているらしいが、優は高校に通う普通の人間だ。
彼が妖怪だという話は聞いたことがない。
「裏切り者呼ばわりされる覚えはないね。アンタさ、前もお盆に人間界をうろちょろしてたね。大嶽丸だっけ?大層ご立派な位を持った鬼の貴族が何の用だ?」
「私が何故、危険を冒してまでこちらにきたかそなたは解っている筈だ。前に光季を連れて行こうとした時に邪魔をした男が恍けた事を言うな」
二人の会話には気になる情報がいくつか散らばっていた。
優と顔見知りらしいこの大嶽丸という鬼は、前にもお盆に人間界へやってきたらしい。
さらに、その時に自分を連れて行こうとして、優に阻止された。
これが意味するところはなんだろうか。
疑問はすぐに解けた。大嶽丸という鬼は見た目よりずっとお喋りで、質問するまでもなく、内情を吐露してくれた。
「三年前のお盆はよくも邪魔をしてくれたな。あの邪魔な女を始末したところにそなたが此処に現れ、私は光季を異界へ連れていけなかった。その恨み、今ここで晴らさせてもらおうか」
三年前の八月十五日、姉の美咲はこの場所で自分を守って大嶽丸に殺されたのだ。
二年前、初めて会ったはずの優に既視感があったのは既に会っていたからだ。
その記憶が消しゴムで消したようにないのは、恐らく夜鴉の基地で催眠術を受けたからだろう。
夜鴉では、妖怪に襲われた人が恐怖で日常生活に支障をきたさないよう、本人の希望があれば妖怪に遭った記憶を催眠術で消去している。
他にも、妖怪を殺し続けて罪悪感に潰されそうになった隊員も催眠術をかけてもらうことがあるらしい。
合点がいった途端に姉を殺した仇に対する憎しみがわき、冷静さを失いそうになる。
光季は息を深く吸って衝動を鎮めると、戦闘に意識を集中した。
戦況と自分のすべきことを正確に把握するため、大嶽丸と戦う二人に目を向ける。
虎徹が大嶽丸の胴体めがけて高速の薙ぎ払いをかました。
大嶽丸はそれをいなし、両手で刀を握って虎徹めがけてふり下ろした。
力を込めた一太刀に優と虎徹が受け身をとる。
二人がかりで大刀の刃を止めたものの、剣圧は防ぎきれずに二人は吹っ飛ばされて木に体を強かにぶつけた。
「アイタタタ。うわー、怪力。こりゃキツいね。虎徹サン大丈夫?」
「このくらい、狭霧さんのフルスイングに比べたら可愛いもんさ。だが、骨のある奴だな。ククク、愉しくなってきたぞ」
「うわー、これだから戦闘狂は嫌なんだよね。ま、味方の内は心強いかな」
二人は圧倒的な力を見せられても笑みを浮かべていた。
とりあえず援護の必要はなさそうだ。
大嶽丸は阿吽の連携技をみせる虎徹と優に任せて、陽平と共に小鬼の駆除に尽力する方が優先だ。
光季は光弾を百発以上体の周りに浮かばせて、蠅のようにたかってくる小鬼どもにぶつけた。
霊力切れを気にせずに次々と無数の光弾を放ち、一気に小鬼の数を減らしていく。
「光季、やる気じゃん。オレも負けてられねーな」
陽平も薙刀を振りまわして、次々と小鬼を捌いていった。
小鬼の数が十体以下に減ると、光季は小鬼を陽平に任せて虎徹と優の援護に回った。
動きの速い二人に攻撃を当てないように、なおかつコースが読みにくい不規則な軌跡で光弾を放つ。
動き回っている優と虎徹の隙間を縫うようにして放たれた光弾が、大嶽丸の左肩と右足にヒットした。
大嶽丸が怯んだ隙に、虎徹と優が渾身の一撃を放つ。
虎徹の斬撃波と優の青い炎の刃が地面を削り、木を薙ぎ倒しながら大嶽丸に接近した。
大嶽丸は二人の攻撃を防ぎきれず、全身に軽くない傷を負った。
「く、よもや私が退散に追い込まれるとは。まあいい。機会はまたある」
大嶽丸は一瞬だけ悔しげに顔を歪めたが、すぐに唇の端を吊り上げた。
ふわりと空に浮かび上がって、天に向かって手を掲げる。
「逃がさないよ」
優が地面を蹴り上げて軽やかに跳んだ。そのまま大嶽丸を追って空を飛ぶ。
優の頭にはふさりとした狐の耳が生え、袴からはふわふわの尻尾が揺れていた。
その異質な姿に驚いたが、今は優の容姿につっこみを入れている場合じゃない。
陽平と虎徹は空中まで攻撃が届かない、攻撃できるのは自分と優だけだ。光季は光弾を放った。
大嶽丸は優の追跡と光季の光弾を振り切り、異空間に雷撃をぶつけて空間の歪を創り出して外へ逃げてしまった。
優が地面を蹴って鬼に突撃する。
虎徹が右から袈裟がけに切りかかると、優は左から切り上げる。
鬼は優のカットラスを刃で受け止め、虎徹の日本刀を白刃取りした。
二人の力に押されても、引けをとらない怪力。虎徹も優も苦戦を強いられていた。
鬼の血色の瞳がじっと優を見た。
目を細めて鬼が嗤う。
「そなたの顔は知っている。人間に寝返った裏切り者の天狐の孫だな?」
てんこという耳馴染みのない言葉に光季は顔を顰める。
てんこの意味は解らないが、人間に寝返った裏切り者という言葉から推測すると、妖怪の一種なのだろう。
だとしたら、ますます意味がわからない。
夜鴉にはもともと日本に棲みついている人間に味方してくれる妖怪が隊員として所属しているらしいが、優は高校に通う普通の人間だ。
彼が妖怪だという話は聞いたことがない。
「裏切り者呼ばわりされる覚えはないね。アンタさ、前もお盆に人間界をうろちょろしてたね。大嶽丸だっけ?大層ご立派な位を持った鬼の貴族が何の用だ?」
「私が何故、危険を冒してまでこちらにきたかそなたは解っている筈だ。前に光季を連れて行こうとした時に邪魔をした男が恍けた事を言うな」
二人の会話には気になる情報がいくつか散らばっていた。
優と顔見知りらしいこの大嶽丸という鬼は、前にもお盆に人間界へやってきたらしい。
さらに、その時に自分を連れて行こうとして、優に阻止された。
これが意味するところはなんだろうか。
疑問はすぐに解けた。大嶽丸という鬼は見た目よりずっとお喋りで、質問するまでもなく、内情を吐露してくれた。
「三年前のお盆はよくも邪魔をしてくれたな。あの邪魔な女を始末したところにそなたが此処に現れ、私は光季を異界へ連れていけなかった。その恨み、今ここで晴らさせてもらおうか」
三年前の八月十五日、姉の美咲はこの場所で自分を守って大嶽丸に殺されたのだ。
二年前、初めて会ったはずの優に既視感があったのは既に会っていたからだ。
その記憶が消しゴムで消したようにないのは、恐らく夜鴉の基地で催眠術を受けたからだろう。
夜鴉では、妖怪に襲われた人が恐怖で日常生活に支障をきたさないよう、本人の希望があれば妖怪に遭った記憶を催眠術で消去している。
他にも、妖怪を殺し続けて罪悪感に潰されそうになった隊員も催眠術をかけてもらうことがあるらしい。
合点がいった途端に姉を殺した仇に対する憎しみがわき、冷静さを失いそうになる。
光季は息を深く吸って衝動を鎮めると、戦闘に意識を集中した。
戦況と自分のすべきことを正確に把握するため、大嶽丸と戦う二人に目を向ける。
虎徹が大嶽丸の胴体めがけて高速の薙ぎ払いをかました。
大嶽丸はそれをいなし、両手で刀を握って虎徹めがけてふり下ろした。
力を込めた一太刀に優と虎徹が受け身をとる。
二人がかりで大刀の刃を止めたものの、剣圧は防ぎきれずに二人は吹っ飛ばされて木に体を強かにぶつけた。
「アイタタタ。うわー、怪力。こりゃキツいね。虎徹サン大丈夫?」
「このくらい、狭霧さんのフルスイングに比べたら可愛いもんさ。だが、骨のある奴だな。ククク、愉しくなってきたぞ」
「うわー、これだから戦闘狂は嫌なんだよね。ま、味方の内は心強いかな」
二人は圧倒的な力を見せられても笑みを浮かべていた。
とりあえず援護の必要はなさそうだ。
大嶽丸は阿吽の連携技をみせる虎徹と優に任せて、陽平と共に小鬼の駆除に尽力する方が優先だ。
光季は光弾を百発以上体の周りに浮かばせて、蠅のようにたかってくる小鬼どもにぶつけた。
霊力切れを気にせずに次々と無数の光弾を放ち、一気に小鬼の数を減らしていく。
「光季、やる気じゃん。オレも負けてられねーな」
陽平も薙刀を振りまわして、次々と小鬼を捌いていった。
小鬼の数が十体以下に減ると、光季は小鬼を陽平に任せて虎徹と優の援護に回った。
動きの速い二人に攻撃を当てないように、なおかつコースが読みにくい不規則な軌跡で光弾を放つ。
動き回っている優と虎徹の隙間を縫うようにして放たれた光弾が、大嶽丸の左肩と右足にヒットした。
大嶽丸が怯んだ隙に、虎徹と優が渾身の一撃を放つ。
虎徹の斬撃波と優の青い炎の刃が地面を削り、木を薙ぎ倒しながら大嶽丸に接近した。
大嶽丸は二人の攻撃を防ぎきれず、全身に軽くない傷を負った。
「く、よもや私が退散に追い込まれるとは。まあいい。機会はまたある」
大嶽丸は一瞬だけ悔しげに顔を歪めたが、すぐに唇の端を吊り上げた。
ふわりと空に浮かび上がって、天に向かって手を掲げる。
「逃がさないよ」
優が地面を蹴り上げて軽やかに跳んだ。そのまま大嶽丸を追って空を飛ぶ。
優の頭にはふさりとした狐の耳が生え、袴からはふわふわの尻尾が揺れていた。
その異質な姿に驚いたが、今は優の容姿につっこみを入れている場合じゃない。
陽平と虎徹は空中まで攻撃が届かない、攻撃できるのは自分と優だけだ。光季は光弾を放った。
大嶽丸は優の追跡と光季の光弾を振り切り、異空間に雷撃をぶつけて空間の歪を創り出して外へ逃げてしまった。
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※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
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