夜鴉

都貴

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第二章 真夏の再会

呼ぶもの④

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 追いつけないと判断した優が地面にふわりと降りる。

「ごめんよ、虎徹サン。逃げられちゃったみたいだ。でもまあ妖気は感じなくなったし、とりあえずは人間界から帰ったみたいだね」
「ちょっと物足りないが、いなくなったなら任務終了だな」

 虎徹は優の格好をスルーして普通に話していた。
 耳と尻尾については敢えて触れない方がいいのだろうか。
 光季が迷っていると、陽平がサラリと同じ疑問を口にした。

「優さん、その耳なに?狐の耳じゃん。そんな装備あんの?」

「ん、あー、これね―…。大嶽丸との会話を聞かれちゃったから隠しても無駄か。二人には話しとこうか。光季もいろいろと気になってるみたいだしね」

 優の言葉に光季はギクリとした。また心を読まれたようだ。

「オレのジイさんは天狐なんだ。天狐は千年以上生きた千里眼や神通力を持つ四尾の善狐で、つまりまあ妖狐だね。オレは人間とキツネのクォーター。ほとんど普通の人間と変わらないけど、妖怪の血も少し流れてる。
 霊力を全開放すると、能力が上がるかわりに耳や尻尾が生えるんだよね。
 飛行能力も妖怪としての能力さ。人の心を見透かすテレパシー能力も天狐の祖父譲りの特殊能力だよ。
 この姿には滅多にならないから、基地でも殆どの人がオレに妖怪の血が流れていることは知らないんだ。ヒミツにしといてね」

「へえ、スゲーじゃん。いいなー」

 純粋に尊敬と羨望の眼差しを向ける陽平に、優は僅かにホッとしたような顔をした。

 きっと今までに妖怪の血を引いていることで、心ない言葉をぶつけられてきたのだろう。
 似たような秘密を抱えてきた光季には優の気持ちが少しだけ解った。

 光季は他人の言葉に傷付いたことなんてないが、優はそうでもないようだ。
 優は飄々としてタフな精神力を持っている一方で、脆く繊細な面も持ち合わせているのだろう。

「さて、光季。キミのお姉さんのことを話そうか」

 憂いを帯びた翡翠色の眸に光季はピクリと肩を揺らした。

「おれの姉ちゃん、大嶽丸に殺されたんですか?そして、その現場には優さんがいた」
「その通り。キミは聡い子だから、さっきの会話で殆ど把握できてるんじゃないかな」
「はい、だいたいは。大嶽丸はおれを狙って人間界へやってきて、大嶽丸からおれを守ろうとした姉ちゃんが殺されたんですよね。つまり……」

 夢魔の悪夢や今朝の夢の中で美咲が言った台詞は事実だった。

 姉ちゃんを殺したのはおれだ。
 そう言おうとした光季を遮るように、優が言った。

「オレが着いた時にはすでにキミの姉さんは大嶽丸に胸を貫かれていて、キミを庇って死んだのかはわからない。滅多なことは考えないで」

「ありがと、優さん。姉ちゃんが殺されたこと、おれの父さんと母さんは知ってるの?」

「知ってる。オレは大嶽丸を撃退して、まだ辛うじて息をしてたキミのお姉さんを運んで救急車に乗せた。響さんとキミの御両親がかけつけたけど、お姉さんは手術中に死んだ。
 御両親の希望で、キミに暗示をかけて嘘の記憶を植え付けた。だからキミはお姉さんが交通事故で死んだと思ってたんだ」

「大嶽丸はなんでおれを狙ったの?」

「キミが高い霊力を持っているからさ。ヤツは霊力の高い人間を連れ去り、異界で勢力争いの兵士にしてるんだ。キミはうってつけの兵士になる」

「じゃあまた光季が狙われる可能性があんのかよ? それってヤバくね?」

 陽平が会話に口を挟んだ。
 優は陽平に顔を向けると、穏やかな口調で答える。

「いや。あいつは妖力が高くて通常なら結界に阻まれて、簡単には人間界に来られない。
 だけどお盆は異界と人間界の境目が曖昧になるから、結界から出てくる甲種もたまにいる。狙われ続けるとしても、毎年お盆の間だけ気をつければいいよ」

「優さん、色々教えてくれてありがとうございます」

 礼を言った光季を心配そうに優が見ていた。光季は困ったように笑む。

「姉ちゃんが死んだのが自分のせいかもって思うと正直少し辛いですけど、真実が知れてすっきりしました」
「そう。よかった。さて、帰ろうか」

 戦火の爪痕が刻まれた姉との思い出の地を離れ、光季は陽平と山を下った。

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