夜鴉

都貴

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第五章 音無の村

正体③

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 轟々と燃える炎が月明かりを呑みこむ。
 霊体をもってしても、さすがに近付けない。

 光季達が手をこまねいている間に、阿曽はヘッドロックした北村を盾にふわりと宙に浮かびあがる。
 沙奈が弓を構えた。矢尻に捕えられても、阿曽は眉一つ動かさない。

「放ってごらんなさい。この人間は無事ではすまないわ」

 沙奈はきゅっと唇を噛んで弓を降ろした。
 彼女の腕前では、北村を傷付けずに阿曽だけ撃つことは不可能だ。
 慧士も同様に銃口を下げた。

 コントロール力の抜きんでた光季でさえ、この状況で弾を射る勇気はさすがになかった。
 最悪のケースが頭から離れない。
 どれほど精密な射撃力を誇っていたとしても、北村は無傷ではすまないだろう。

 先に撃つことを諦めた沙奈と慧士のように、光季も阿曽の撃破をあきらめようとした。

 悔しさに手のひらを握った光季に、虎徹がいつもと変わらない口調で命じる。

「撃て、水瀬。連れ去られた奴が無事に戻ってこられる可能性は低い。そいつごと敵を始末した方が今後のためだ」

 いつもなら、光季が戦闘中に虎徹の命令に反することはない。
 いつだって、虎徹の命令は戦いを勝利に導く正しいものだから。
 今だって彼は非人道的だが至極まっとうなことを言っている。

 それでも、おいそれと命令に従うわけにはいかなかった。

「なに、言ってんですか、虎徹さん。そんなの、ムリだって―…」
「いいから撃て。俺ではあそこまで攻撃が届かない。やれ、水瀬」
「やれって、おれに妖怪ごと人間も殺れってこと?」

 光季の言葉を温羅の咆哮が掻き消した。

 轟いた聲が空間に歪みを生じさせる。
 阿曽が放った甲高い超音波のような声が、歪みを拡張する。

 響き渡る獣の二重奏が星空に引っかき傷をつくり、異空間が崩れた。
 戦いの爪痕一つない土地に放りだされる。

 濃紺の空に生じた裂け目にむかって、温羅と阿曽が飛んでいく。

「大嶽丸様との義理は十分に果たしました。この男で最後としましょう。温羅様」
「よし、よくやった阿曽。撤退だ。我に手傷を負わせるとは、なかなか愉快な連中だ。機会があれば、また死合おうぞ」
「待ちな、逃がさないよ」

 妖狐の血を解放した優が、二匹の鬼を追って夜空に浮かぶ。
 恐怖に引き攣った北村が、優に向かって必死に手を伸ばす。

「ひぃ、た、助けろっ。夜鴉だろ、オレを助けろよっ!」

 優の猛追も虚しく、伸ばした手と手が触れあうことはなかった。

「た、助けてくれ、助け……」

 泣き叫ぶ声と共に、北村は阿曽に連れられて闇の狭間に消えた。

 
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