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第六章 鬼の國
三日目④
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異常に膨れ上がった筋肉質な体、乾いた土気色もしくは黒ずんだ肌、白目で歯を剥きだした恐ろしい形相。
人の形をした鬼か、鬼の形をした人かわからないほど醜く変貌した彼らは、親の仇を見るような目でこちらを見ていた。
ほとんど化け物じゃないか。
光季は白皙の頬を青褪めさせ、唇を震わす。
「ギィアァァッ、ウヴヴァァッ」
獣のような唸り声を上げながら、牢屋から解き放たれた異形が襲い掛かってきた。
光季は浮かせた巨大な光弾を無数の弾丸に分けると、その九割を巨体の鬼三体に三等分して放った。
残り一割の光弾を地面に叩きつける。
地下の部屋を土煙が包んだ。
夜目の利く鬼達にとっては大した目くらましにはならないだろうが、ないよりはマシだろう。
白衣の鬼が言った通り、村人を連れ帰ることはもう不可能だ。
「京弥、退却するぞ」
「了解」
京弥を先に走らせ、追ってくる敵を光弾で牽制しながら撤退した。
「逃げても無駄だ。ここは我らの世界。逃げ切れる道理なんてないさ」
背後で哄笑が響いた。
耳障りな声に光季は舌打ちする。
普段は気が長い方だ。それなのにちょっとしたことで苛立つのは、変わり果てた村人の姿に動揺しているせいだろう。
冷静になれ。
光季は深く息を吸い込んだ。
オーブの通信回線を開く。
「こちら水瀬。虎徹さん、村の連中を見つけました。みんな、改造されて鬼みたいになってました。たぶん、連れ帰るのは無理です」
「改造されてるだと? そりゃまた傑作だな。とんだ骨折り損だ」
ケラケラと愉快そうに笑う虎徹に、光季は溜息を漏らす。
「笑ってる場合じゃないですよ、虎徹さん。おれと京弥、いま、村の連中と強そうな白衣の鬼と餓鬼に追われて、交戦しながら撤退中です。これからどうします?」
「そうだな、こっちも交戦中だ。とりあえず俺と武志は集会所に向かいながら戦う。オマエらは俺達の方に向かって逃げてこい。途中で合流して、全員で戦うぞ」
「了解です」
律儀にドアを開けながら逃げる余裕なんてない。
壁やドアを爆撃でふっとばして最短距離で集会所を飛び出した。
集会所に居た鬼達がしつこく追いかけてくる。
その中に白衣の鬼の姿が見当たらないのが気になったが、いない相手にかまけている暇などない。
光季は光弾、京弥は銃で距離を保ちつつ、追手を減らそうと試みた。
餓鬼や巨体の鬼はすぐに片付いたが、村人だった者達を撃つことはお互いできなかった。
「待てよ、夜鴉のクズどもがぁっ!」
金茶色の長髪の鬼もどきが光季に飛びかかった。
見目は随分と変わってしまっていたが、それが北村だと気付くまでにそう時間はかからなかった。
「くそ、マジかよ、やりにくいぜ」
ふと、光季は九月の半ば頃に参加した任務を思い出す。
行方不明者が戻ってきて家族を襲う事件だ。
初めて妖怪の手下にされた人と対峙したのだが、逃げ回るばかりで一度も直接攻撃をすることはできなかった。
あの時は敵が死体を操るネクロマンサーであり、手下となっていた人間はただの骸だったから倒さずに済んだが、今回は違う。
改造されているが相手は生きており、倒さなくてはこちらがやられてしまう。
そうわかっているのに、どうしても構えた光弾を放つことができない。
咄嗟に横に飛び退いたが攻撃を避けきれず、北村の鋼のような爪が肩を裂いた。
光季は痛みに顔を歪める。
「死ね、害虫どもがぁっ!」
肩を押さえて動きを止めた光季に、北村が追い打ちをかける。
「水瀬先輩!」
京弥が光季の前に躍り出て、日本刀で長い爪を受け止めた。
後輩に助けられるなんて、なにやってんだよ、おれは。あれはもう北村じゃない。化け物になっちまった敵だ。戦え。でないと死ぬぞ。殺さなくてもいいから、逃げ切る方法を考えろ。
戦闘中に迷い、立ち止まってしまった自分を叱咤し、光季は頭をフル回転させた。
光季は咄嗟に威力の弱い光弾を出すと、京弥と刃を交えている北村の顔をめがけて放った。
弾が直撃すると、北村は目を押さえて呻きながらその場に蹲った。
さっきの光弾は砂礫ほどの攻撃力しかなかったが、目に入ると地味に痛い攻撃だ。
格闘技などの戦いでは禁じ手の眼つぶしだが、夜鴉の戦いは妖怪との戦争であり、モラルもルールもない。
北村が怯んでいる隙に、光季は京弥と一緒に背の高い草叢に飛び込んだ。
全力で草を掻き分けて走る。
背後の気配は完全にはふりきれていなかったが、だいぶと距離が離れた。
暫くすると開けた場所にでた。
虎徹と武志が鬼の大群と戦っているのが見える。虎徹はほぼ無傷だが、武志は片腕を失い、背中にも大きな傷を負っていた。
「お待たせしました、虎徹さん」
光季は虎徹と背中合わせに立った。
襲い掛かってくる鬼を日本刀で真っ二つに切りながら、虎徹がいつもと同じ声で言う。
「村の連中は全滅だな。妖怪化してたって狭霧さんに連絡したら、撤退しろだとさ」
「今回の渡界の目的は村人の奪還ですもんね。これ以上異界にいても意味ないです」
「その通りかもな。暴れ足りない気はするが、撤退するしかなさそうだ。船まで走るぞ」
進路を塞ぐ鬼を薙ぎ払いつつ、如月隊は揃って戦線を離脱した。
鬼達や妖怪化した村人が後ろから追いかけてくる。
リアル隠れ鬼の次はリアル鬼ごっこか。本当に今回の渡界はハードだな。光季は苦笑を浮かべた。
空気を裂き、背後から矢が飛んできた。
素早く気配を察知した三人は矢を避けたが、武志は破壊力のある矢に射抜かれて右足を失った。
人の形をした鬼か、鬼の形をした人かわからないほど醜く変貌した彼らは、親の仇を見るような目でこちらを見ていた。
ほとんど化け物じゃないか。
光季は白皙の頬を青褪めさせ、唇を震わす。
「ギィアァァッ、ウヴヴァァッ」
獣のような唸り声を上げながら、牢屋から解き放たれた異形が襲い掛かってきた。
光季は浮かせた巨大な光弾を無数の弾丸に分けると、その九割を巨体の鬼三体に三等分して放った。
残り一割の光弾を地面に叩きつける。
地下の部屋を土煙が包んだ。
夜目の利く鬼達にとっては大した目くらましにはならないだろうが、ないよりはマシだろう。
白衣の鬼が言った通り、村人を連れ帰ることはもう不可能だ。
「京弥、退却するぞ」
「了解」
京弥を先に走らせ、追ってくる敵を光弾で牽制しながら撤退した。
「逃げても無駄だ。ここは我らの世界。逃げ切れる道理なんてないさ」
背後で哄笑が響いた。
耳障りな声に光季は舌打ちする。
普段は気が長い方だ。それなのにちょっとしたことで苛立つのは、変わり果てた村人の姿に動揺しているせいだろう。
冷静になれ。
光季は深く息を吸い込んだ。
オーブの通信回線を開く。
「こちら水瀬。虎徹さん、村の連中を見つけました。みんな、改造されて鬼みたいになってました。たぶん、連れ帰るのは無理です」
「改造されてるだと? そりゃまた傑作だな。とんだ骨折り損だ」
ケラケラと愉快そうに笑う虎徹に、光季は溜息を漏らす。
「笑ってる場合じゃないですよ、虎徹さん。おれと京弥、いま、村の連中と強そうな白衣の鬼と餓鬼に追われて、交戦しながら撤退中です。これからどうします?」
「そうだな、こっちも交戦中だ。とりあえず俺と武志は集会所に向かいながら戦う。オマエらは俺達の方に向かって逃げてこい。途中で合流して、全員で戦うぞ」
「了解です」
律儀にドアを開けながら逃げる余裕なんてない。
壁やドアを爆撃でふっとばして最短距離で集会所を飛び出した。
集会所に居た鬼達がしつこく追いかけてくる。
その中に白衣の鬼の姿が見当たらないのが気になったが、いない相手にかまけている暇などない。
光季は光弾、京弥は銃で距離を保ちつつ、追手を減らそうと試みた。
餓鬼や巨体の鬼はすぐに片付いたが、村人だった者達を撃つことはお互いできなかった。
「待てよ、夜鴉のクズどもがぁっ!」
金茶色の長髪の鬼もどきが光季に飛びかかった。
見目は随分と変わってしまっていたが、それが北村だと気付くまでにそう時間はかからなかった。
「くそ、マジかよ、やりにくいぜ」
ふと、光季は九月の半ば頃に参加した任務を思い出す。
行方不明者が戻ってきて家族を襲う事件だ。
初めて妖怪の手下にされた人と対峙したのだが、逃げ回るばかりで一度も直接攻撃をすることはできなかった。
あの時は敵が死体を操るネクロマンサーであり、手下となっていた人間はただの骸だったから倒さずに済んだが、今回は違う。
改造されているが相手は生きており、倒さなくてはこちらがやられてしまう。
そうわかっているのに、どうしても構えた光弾を放つことができない。
咄嗟に横に飛び退いたが攻撃を避けきれず、北村の鋼のような爪が肩を裂いた。
光季は痛みに顔を歪める。
「死ね、害虫どもがぁっ!」
肩を押さえて動きを止めた光季に、北村が追い打ちをかける。
「水瀬先輩!」
京弥が光季の前に躍り出て、日本刀で長い爪を受け止めた。
後輩に助けられるなんて、なにやってんだよ、おれは。あれはもう北村じゃない。化け物になっちまった敵だ。戦え。でないと死ぬぞ。殺さなくてもいいから、逃げ切る方法を考えろ。
戦闘中に迷い、立ち止まってしまった自分を叱咤し、光季は頭をフル回転させた。
光季は咄嗟に威力の弱い光弾を出すと、京弥と刃を交えている北村の顔をめがけて放った。
弾が直撃すると、北村は目を押さえて呻きながらその場に蹲った。
さっきの光弾は砂礫ほどの攻撃力しかなかったが、目に入ると地味に痛い攻撃だ。
格闘技などの戦いでは禁じ手の眼つぶしだが、夜鴉の戦いは妖怪との戦争であり、モラルもルールもない。
北村が怯んでいる隙に、光季は京弥と一緒に背の高い草叢に飛び込んだ。
全力で草を掻き分けて走る。
背後の気配は完全にはふりきれていなかったが、だいぶと距離が離れた。
暫くすると開けた場所にでた。
虎徹と武志が鬼の大群と戦っているのが見える。虎徹はほぼ無傷だが、武志は片腕を失い、背中にも大きな傷を負っていた。
「お待たせしました、虎徹さん」
光季は虎徹と背中合わせに立った。
襲い掛かってくる鬼を日本刀で真っ二つに切りながら、虎徹がいつもと同じ声で言う。
「村の連中は全滅だな。妖怪化してたって狭霧さんに連絡したら、撤退しろだとさ」
「今回の渡界の目的は村人の奪還ですもんね。これ以上異界にいても意味ないです」
「その通りかもな。暴れ足りない気はするが、撤退するしかなさそうだ。船まで走るぞ」
進路を塞ぐ鬼を薙ぎ払いつつ、如月隊は揃って戦線を離脱した。
鬼達や妖怪化した村人が後ろから追いかけてくる。
リアル隠れ鬼の次はリアル鬼ごっこか。本当に今回の渡界はハードだな。光季は苦笑を浮かべた。
空気を裂き、背後から矢が飛んできた。
素早く気配を察知した三人は矢を避けたが、武志は破壊力のある矢に射抜かれて右足を失った。
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