夜鴉

都貴

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第四章 ハロウィンの魔物

噂の調査

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 ハロウィンの魔物について調査することになったのは、京弥と冗談交じりの会話をした矢先のことだった。特務で如月隊と神前隊に召集がかかった。

「君達に今回調べてもらうのは、ハロウィンの魔物と呼ばれる殺人鬼についてだ」

 狭霧の言葉に、光季は思わず京弥と顔を見合わせた。

「なんか知ってんのか、光季」

 目敏く異変に気付いた陽平がこそこそと耳打ちしてきた。
 光季は小声で返事をする。

「昨日、京弥とその噂話をしてたんだよ」
「噂ってなんだよ」

 ヒソヒソ話をしていると、狭霧がこちらに視線を向けた。

「どうしたんだ、何か問題でもあったのか?」
「いえ、すみません。続けて下さい」

「そうか?何かあったら、遠慮なく口を挟んでくれ。それでは話を続ける。
 九月下旬から十代の男女の切断された遺体が相次いで発見されている。被害者は遺体発見の数日前に行方不明になり、その後遺体で見つかっている。
 初めは警察が誘拐殺人事件として調べていたのだが、遺体の様子と事件の頻度、証拠の少なさに警察ではこの事件が妖怪による犯行ではないかとみている。
 そこで、夜鴉に調査の依頼が持ち込まれた」

 慧士がさっと手を上げる。
 狭霧に「神前」と名前を呼ばれると、慧士は人差指で眼鏡をなおしてから尋ねた。

「あの、狭霧長官。犯人の目撃談はないのでしょうか?」

「目撃談が少なく大した情報はないが、犯人を見た子は共通して、犯人はピエロのようなメイクをして黒いマントを着ていたと証言している」

「それは妙な姿ですね。変装なのでしょうか?或いは、ピエロの妖怪か―…」

「そんなことより狭霧さん、遺体の様子はどんなふうだったんだ?見せてくれよ」

 虎徹は犯人像よりも遺体の方が気になるようだ。遺体の損傷具合で妖怪の仕業か人の仕業かわかるというのだろうか。光季は眉根を寄せて虎徹を見た。

「あまり未成年がいる場で見せるようなものではないぞ、虎徹。だが、遺体の様子も事件を紐解く参考になるというなら、見せよう」

 狭霧が警察から入手した遺体の写真をプロジェクターで映す。
 スクリーンにえげつない写真が映し出された。

 残酷な映像に悲鳴を上げた沙奈の目を、彼女の隣に座っていた陽平が手で覆う。
 普段はおちゃらけているけど、陽平は時折大人っぽくて男らしい。ナイスフォローだ。
 光季は内心で陽平の英断を褒めた。

 でかでかと映る写真は、女子に見せるようなものではない。

 女子じゃないが、この中で唯一まだ中学生である京弥は大丈夫だろうか。

 光季はさりげなく京弥を窺った。京弥は顔色一つ変えず、観察するようにじっと写真を見詰めていた。
 その横顔を心配そうに兄の武志がチラチラと見ている。

「これはなかなかグロいな」

 顔色一つ変えずに、いつもの不敵な笑みを浮かべて虎徹が言った。
 光季はさっきまでぼんやりとしか見ていなかった写真を、改めてよく見てみる。

 高い木の枝に逆さに吊るされた頭のない裸の少年。
 両手首を切り落とされた状態で重りをつけられて噴水に沈んだ少女。
 太腿から下を切断された状態で便座に縛り付けられている全裸の少女。
 花壇の柵に突き刺さった指の無い少女。舌と歯を抜かれた壮絶な死に顔で電信柱に縛り付けられた少年。

 胸糞悪くなるような死体の写真ばかりだ。

「あまりの残酷さと、労力のいる作業を次々とやってのける犯行に、警察は悪魔の仕業だとみているが、君達はこの写真を見てどう思う?」

「こんな酷いこと、間違いなく人じゃなくて妖怪の仕業だと思いますよ」

 まっさきにそう答えた武志を、虎徹が鼻で笑った。

「妖怪がこんな面倒な真似するとは思えないがな。食ったにしちゃ死体が綺麗すぎるし、残った死体がまるでオブジェみたいに飾り付けてある。
 妖怪の仕業にしてはあまりに合理性を欠く。こういう不条理な真似をやってのけるのは人間だと思うぜ」

「お前の考え方は気に入らないな。人には心がある。ここまで酷い真似できないだろう」

「どうだかな。それに、妖怪にだって心ぐらいあるだろう」

 喉の奥でクツクツと嗤い、虎徹は椅子に仰け反った。
 馬鹿にするような態度に、武志の表情が険しくなる。

 光季は人の善意を信じている武志が気の毒に思えた。

「さて、犯人を捕まえる為にどうするかな。このメンツなら、囮になれそうな奴がたくさんいるから、囮を使って犯人をおびき寄せて化けの皮を剥ぐってのはどうだ?
 美作、お前は美形だからいいターゲットになるんじゃないか? あとは唯一女の白藤だな」

 京弥と沙奈を見てそうのたまった虎徹を、慧士と武志がジロリと睨んだ。

「如月さん。私の仲間を勝手に囮にしないでいただきたい。危険でしょう」

「弟に危ない真似はさせられない。そんな非情な作戦よく思い付くな。最低だぞ、虎徹」

 口々に非難されても、虎徹はケロリとした顔をしていた。

「おいおい、じゃあどうやって犯人を探して、それが妖怪か人間の仕業か見極めるんだよ。警察でも犯人の尻尾を掴めずにいるんだぜ?
 囮作戦ぐらいしないと、確保は無理だな。目撃談を探っていって犯人に辿りつけるとは思えない」

 虎徹の言うことはもっともだ。未成年に囮をさせるなんて真似は警察では無理だが、普段から未成年を危険な戦場に送りこんでいる夜鴉にならできる。
 道徳に反する方法で捜査できるのは夜鴉の強みだ。警察が夜鴉に依頼をかけてきたのは、犯人が妖怪の可能性があるからというだけではなく、そういった事情もあってではないかと光季は思う。

 事件を解決するには囮作戦が最も効果的だろう。
 しかし、危険な餌の役を担うのが後輩や女子だというのは納得できない。

「囮なら京弥や白藤じゃなくて、おれがいきますよ。少年少女が標的なら、おれだっていけるでしょ。
 そりゃ、顔の造りは京弥には負けるけど」

「水瀬、確かにオマエは顔がいいからいい餌にはなるだろうけど、襲われたらどうする? オマエは京弥と違って運動が苦手だ、接近戦なんてできないだろうが」
「心配いりませんって、虎徹さん。霊体ならおれ、強いですから」

「いや、水瀬君、今回の敵は妖怪か人間か解らないから、貴船さんからの命令で、犯人が人間である可能性を考慮して、換装せずに任務にあたり、犯人が妖怪ならば即換装して戦うことになっているんだ。
 万一人間なら、肉体の状態で犯人確保にあたらなくてはいけない。
 無論、命の危機が迫れば逃げるために換装してもいい。貴船さんが文句を言っても、そこは俺の権限で処分させないと約束する。
 だが基本的には、霊体に換装せずに任務にあたってもらうことになる」

 夜鴉で開発されたオーブで霊体に換装する技術による超人的な力は、決して一般人に向けてはならない。
 霊体は通常の肉体より遥に丈夫で強く、それだけで兵器になりうる。
 夜鴉の信用を守るためにも、霊体状態で市民の安全を脅かすことは固く禁じられている。
 それがたとえ、凶悪犯であったとしても、霊体で危害を加えてはならないのだ。

「霊体で調査できないなら、もっと京弥や白藤には任せられないです。それにおれ、どう考えても確保側はできないし。やっぱ、囮役します」

「光季が囮役すんなら、オレも囮役でいいぜ」

 囮役を買って出た陽平の手を、沙奈の柔らかな手が握った。

「だめ、囮役は私がする。私じゃ犯人に襲われてる陽平を助けられないもん」
「やめとけ沙奈、危ない役だぞ」
「私も式神の一人だよ。これくらいの危険、どうってことないから」

 笑顔でガッツポーズをつくってみせた沙奈に、陽平が後頭部をぐしゃぐしゃ掻く。
 陽平が観念したように、肩を竦めて右側の唇の端を吊り上げた。

「オマエがそこまでいうなら、囮役は任せたぜ」
「いいのかよ、陽平。女子がするような役じゃないだろ」

「しょうがねぇじゃん。沙奈、言い出したら聞かねえからな。ま、襲われたらオレらがしっかり守ってやりゃいいだけだ」

「日向の言う通りだ。誘拐されそうになってもちゃんと俺が犯人確保してやるよ、水瀬」
「頼みますよ、虎徹さん。おれ、人間相手だったらあんまし役立てないんで」

 調査の手段は決定した。
 今日から暫く夜十時から午前二時まで、光季は沙奈と深夜の町を徘徊することとなった。


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