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第四章 ハロウィンの魔物
囮作戦①
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身を切るような夜風に光季は首を竦ませる。
囮調査をはじめて四日目。未だにハロウィンの魔物と呼ばれる猟奇殺人鬼が接触してくる気配はない。
沙奈とカップルを装って繁華街の路地裏や人気の少ない町を徘徊しながら、光季は溜息を漏らした。
「犯人、なかなか現れないね」
「ほんとだなー。白藤、寒いの平気か?」
「うん、私はへっちゃらだよ。光季は寒いの苦手だよね。ほっぺた赤いよ」
クスクスと笑う沙奈に思わず見惚れた。
陽平と沙奈と三人でいることはあっても、彼女と二人きりなのは非常に稀なことだ。沙奈に特別な感情はないが、かなり可愛いと思う。
仕事で沙奈とデートができるのは役得かもしれない。
休憩がてら、明け方まで開いている夜カフェに入りながら、光季は呑気にそう思った。
温かいキャラメルラテを飲みながら、沙奈とこれからどの辺りに行くか話しあった。
犯人がどんな基準で標的を決めているのかわからない。目撃談があるので、必ずしも一人のところを襲う訳ではないようだが、やはり人目につかない所で襲ってくるだろう。
二人はカフェを出ると、人気のない公園に向かった。
夜の公園は不気味な雰囲気を漂わせていた。
公園の四隅にある街灯がブランコやジャングルジムを闇に浮かび上がらせている。
当然、子供の姿はない。こんな時間に子供が遊んでいた方が怖いだろう。
光季はなんとなくブランコに腰掛けた。錆びた音をさせながらブランコを緩慢に漕ぐ。沙奈も隣のブランコに座って、ゆったりとブランコを揺らしていた。
公園の時計の針が重なっている。連日の深夜徘徊で寝不足だ。光季は大きな欠伸を漏らした。
あと二時間もつだろうか。さっき飲んだラテにたっぷり入った温めたミルクの効果で、強い眠気に襲われた。
「眠いよね。私もミルクティー飲んだら眠たくなっちゃった」
「体動かしてないとダメだな。ちょっと歩くか?」
「そうだね」
二人はブランコを降りて公園を出た。公園の近くには大きな栗林に挟まれた、車がギリギリ一台通れるくらいの道がある。
周囲には家がぽつぽつと点在しているが、どの家の明かりも消えている。
ゆっくりした足取りで、暗い栗林の道を散歩した。
「水瀬、聞こえるか?」
イヤリング型のオーブから声が聞こえた。隊員同士はオーブで通信できる。
オーブでの通信はテレパシーに似ており、心の中で誰に何を話しかけたいか思い浮かべるだけで、どの隊員とでも繋がれる。
「虎徹さん、なんですか?」
「俺と美作は近くに霊道が発生したから少し離れる。武志と日向と神前は引き続きオマエらの傍にいるが、用心しろよ。今日は満月だからな」
「了解です、いってらっしゃい」
どうせなら退屈な囮役ではなく、自分も霊体に換装して妖怪と戦いたい。
屋根の上を軽々と飛んでいった虎徹と京弥を見送ると、光季はのびをした。
それにしても、満月だから用心しろとはどういう意味だろうか。狼男が出るとでもいいたいのだろうか。虎徹の意味深な言葉に悩みながら歩いていると、沙奈が小さく笑った。
「如月さんって、意外とロマンチストなんだね」
「ロマンチスト? いや、あのひとぜんぜんそんな感じじゃないし。恋人いるか知らねーけど、恋人に対して甘いとか情熱的とか、そんな感じはないけどな」
「ううん、そういうのじゃなくて、空想的って言うのかな。月の狂気を信じてるんだね」
「月の狂気?」
耳なじみのない言葉に、光季は首を捻った。
「そう、月の狂気。神話みたいなものだよ。昔から満月の夜には異常な犯罪が起こるっていわれてるの。まあ迷信だと思うけど。
月ってとても神秘的だから、そんなふうに考えられてたんだと思う。ママも満月の日には何かが起こるって思ってたよ」
現実主義の光季にとっては、あまりぴんとこない話だった。
毎日目にしているからか、月を意識して見ることはほとんどない。
たまにふと見上げて綺麗だなと思うぐらいだ。
空を見上げると満月が煌々と輝いていた。
月は赤みがかっており、いかにも狂気じみて見える。
狼男や凶悪な殺人鬼がでるというのもあながち間違っていない気がした。
空を仰いでいた顔を戻すと、前方に人影が見えた。
こんな時間に散歩だろうか。犬は連れていないようだ。
光季は目を細めた。視力はかなりいい方だが、こう暗いとどんな服装なのかさえ確認できない。
闇の中に白い顔だけが浮かんでいるように見えた。全身黒い服を着ているのだろうか。
犯人は黒いマントに身を包んだ道化師。
ふと頭に浮かんだ犯人像に光季はハッとする。
もしかして、件の連続殺人鬼か。
そう思い至った瞬間、人影がすごい速さでこちらに走り寄ってきた。
「白藤、さがってろ!」
光季は沙奈を守るように彼女の前に立った。接近する人物の顔が見えた。
白塗りの顔に目を囲うように塗られた黒、赤く塗られた鼻、唇をはみだして塗られた鮮やかな赤のせいで口が裂けて見える顔は、ホラー映画の殺人ピエロを彷彿とさせた。
見た目では妖怪かどうか判断できない。霊体で攻撃してもし敵が人間だったら、こちらが殺人鬼となってしまう。
「いやな事態だな」
相手が人間であれ妖怪であれ、肉体の状態では光季に勝ち目はない。
相手を確保しなくてはいけないが、喧嘩の経験がまったくない光季にはどう動けばいいか皆目見当もつかず、沙奈を守って立ちはだかることしかできなかった。
囮調査をはじめて四日目。未だにハロウィンの魔物と呼ばれる猟奇殺人鬼が接触してくる気配はない。
沙奈とカップルを装って繁華街の路地裏や人気の少ない町を徘徊しながら、光季は溜息を漏らした。
「犯人、なかなか現れないね」
「ほんとだなー。白藤、寒いの平気か?」
「うん、私はへっちゃらだよ。光季は寒いの苦手だよね。ほっぺた赤いよ」
クスクスと笑う沙奈に思わず見惚れた。
陽平と沙奈と三人でいることはあっても、彼女と二人きりなのは非常に稀なことだ。沙奈に特別な感情はないが、かなり可愛いと思う。
仕事で沙奈とデートができるのは役得かもしれない。
休憩がてら、明け方まで開いている夜カフェに入りながら、光季は呑気にそう思った。
温かいキャラメルラテを飲みながら、沙奈とこれからどの辺りに行くか話しあった。
犯人がどんな基準で標的を決めているのかわからない。目撃談があるので、必ずしも一人のところを襲う訳ではないようだが、やはり人目につかない所で襲ってくるだろう。
二人はカフェを出ると、人気のない公園に向かった。
夜の公園は不気味な雰囲気を漂わせていた。
公園の四隅にある街灯がブランコやジャングルジムを闇に浮かび上がらせている。
当然、子供の姿はない。こんな時間に子供が遊んでいた方が怖いだろう。
光季はなんとなくブランコに腰掛けた。錆びた音をさせながらブランコを緩慢に漕ぐ。沙奈も隣のブランコに座って、ゆったりとブランコを揺らしていた。
公園の時計の針が重なっている。連日の深夜徘徊で寝不足だ。光季は大きな欠伸を漏らした。
あと二時間もつだろうか。さっき飲んだラテにたっぷり入った温めたミルクの効果で、強い眠気に襲われた。
「眠いよね。私もミルクティー飲んだら眠たくなっちゃった」
「体動かしてないとダメだな。ちょっと歩くか?」
「そうだね」
二人はブランコを降りて公園を出た。公園の近くには大きな栗林に挟まれた、車がギリギリ一台通れるくらいの道がある。
周囲には家がぽつぽつと点在しているが、どの家の明かりも消えている。
ゆっくりした足取りで、暗い栗林の道を散歩した。
「水瀬、聞こえるか?」
イヤリング型のオーブから声が聞こえた。隊員同士はオーブで通信できる。
オーブでの通信はテレパシーに似ており、心の中で誰に何を話しかけたいか思い浮かべるだけで、どの隊員とでも繋がれる。
「虎徹さん、なんですか?」
「俺と美作は近くに霊道が発生したから少し離れる。武志と日向と神前は引き続きオマエらの傍にいるが、用心しろよ。今日は満月だからな」
「了解です、いってらっしゃい」
どうせなら退屈な囮役ではなく、自分も霊体に換装して妖怪と戦いたい。
屋根の上を軽々と飛んでいった虎徹と京弥を見送ると、光季はのびをした。
それにしても、満月だから用心しろとはどういう意味だろうか。狼男が出るとでもいいたいのだろうか。虎徹の意味深な言葉に悩みながら歩いていると、沙奈が小さく笑った。
「如月さんって、意外とロマンチストなんだね」
「ロマンチスト? いや、あのひとぜんぜんそんな感じじゃないし。恋人いるか知らねーけど、恋人に対して甘いとか情熱的とか、そんな感じはないけどな」
「ううん、そういうのじゃなくて、空想的って言うのかな。月の狂気を信じてるんだね」
「月の狂気?」
耳なじみのない言葉に、光季は首を捻った。
「そう、月の狂気。神話みたいなものだよ。昔から満月の夜には異常な犯罪が起こるっていわれてるの。まあ迷信だと思うけど。
月ってとても神秘的だから、そんなふうに考えられてたんだと思う。ママも満月の日には何かが起こるって思ってたよ」
現実主義の光季にとっては、あまりぴんとこない話だった。
毎日目にしているからか、月を意識して見ることはほとんどない。
たまにふと見上げて綺麗だなと思うぐらいだ。
空を見上げると満月が煌々と輝いていた。
月は赤みがかっており、いかにも狂気じみて見える。
狼男や凶悪な殺人鬼がでるというのもあながち間違っていない気がした。
空を仰いでいた顔を戻すと、前方に人影が見えた。
こんな時間に散歩だろうか。犬は連れていないようだ。
光季は目を細めた。視力はかなりいい方だが、こう暗いとどんな服装なのかさえ確認できない。
闇の中に白い顔だけが浮かんでいるように見えた。全身黒い服を着ているのだろうか。
犯人は黒いマントに身を包んだ道化師。
ふと頭に浮かんだ犯人像に光季はハッとする。
もしかして、件の連続殺人鬼か。
そう思い至った瞬間、人影がすごい速さでこちらに走り寄ってきた。
「白藤、さがってろ!」
光季は沙奈を守るように彼女の前に立った。接近する人物の顔が見えた。
白塗りの顔に目を囲うように塗られた黒、赤く塗られた鼻、唇をはみだして塗られた鮮やかな赤のせいで口が裂けて見える顔は、ホラー映画の殺人ピエロを彷彿とさせた。
見た目では妖怪かどうか判断できない。霊体で攻撃してもし敵が人間だったら、こちらが殺人鬼となってしまう。
「いやな事態だな」
相手が人間であれ妖怪であれ、肉体の状態では光季に勝ち目はない。
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