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3忍
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「幸之助様」
「暁。実は今財前さんに呼び出されてね、暁も呼んでくれと言われたんだ」
「はい。何か問題はありませんでしたか?」
碧真がいたのなら万が一も無いだろうが、一応の確認だ。
「無いよ。むしろ昼休みを暁と過ごせて嬉しいくらいだ」
目の前の碧真とマドンナ財前が、けっ、と嫌そうに吐き捨てた。息ぴったりなのはいいが、それでいいのかお嬢様。
「西園寺幸之助.......相変わらずですわね」
「財前さんもね。望月くんとは上手くいっているのかな?」
「当たり前ですわ!」
ぎゅっと碧真の腕を抱きしめたマドンナ財前。ああ、そんな胸を押し付けたらウブな碧真はイチコロだ。私の下着屋のパンフレットを拾っただけで半泣きになっていたのは3年前だったか。
「そちらこそ、服部さんとは上手くいってますの?」
幸之助様は、にこりと笑っただけで何も答えなかった。大丈夫、私達は友好な関係を築けているはず。もし築けていないなら立ち直れないかもしれない。
だって、私幸之助様好きだし。
嫌われるようなことはしないよう気をつけているし、幸之助様の前では前髪はちゃんと整えるし、リップも色つきの使うし。叶わない恋、どころか口に出すのもおこがまし過ぎる恋心だが、そっと心に秘めておくぐらいなら許されるだろう。いつも優しく穏やかな幸之助様が、私は好きだ。
「ところで、どうして僕と暁を呼び出したのかな?」
「来週末、ホテルでわたくしの誕生日パーティがありますの」
「おめでとう、素敵なパーティになるといいね」
幸之助様がにこやかに言った。本当にこんなに穏やかな人がいるのか。好きだ。
「それで、そのパーティにあなたを招待しますわ! 西園寺幸之助!」
「ありがとう、出席させていただくよ」
「まあ複雑を極める西園寺家と財前家の間柄。断られるとは思って.......って来るんですのー!?」
マドンナ財前、この人本当に日本トップレベルのご令嬢だろうか。色々キレッキレすぎる。
「うん。行かせてもらうよ」
「そ、そうですの。そ、それならいいんですのよ? でも、その、断られると思ってましたから.......来てくださったら、お父様と話せるかもしれないチャンスですのよ、と.......言おうと思ってましたの」
「財前さんの誕生日を祝うのが、1番の目的だからね。.......でも、財前家のご当主とお会いできるのは、とても嬉しい事だよ。中々会える人じゃ無いからね」
財前家当主。西園寺家当主と肩を並べる、冷酷無比で有名な支配者。
幸之助様は西園寺家の一人息子だ。いずれ、その冷酷無比な支配者とやり合わねばならない。それなら、早いうちに場数を踏んだ方が良い。誕生日パーティという場で会えるのなら、是が非でも会っておくべきだ。
「じゃ、じゃあ失礼しますわ! 行きますわよ、碧真!」
すっと、というか、ぬっと、今まで空気よりも存在感がなかった瓶底メガネのもさ男が美しい学園のマドンナの横に並んだ。背の高いもさ男は、いきなり長い腕を伸ばして私を引き寄せた。
「.......暁、マジで来る気か」
「幸之助様が行くなら私も行くに決まってるでしょ」
「財前家だぞ」
「だから何? 財前家と西園寺家、割と近所に住んでるじゃない。高級住宅街のど真ん中同士」
地価いくらだろう。庭にプールあるぞ西園寺家。
ぐっと。碧真の腕に、力が入った。
「.......暁。俺が、何とかするから。全部、何とかするから」
「はぁ? 友達は自分で作らなきゃダメって初めから言ってるでしょ」
「ちがーーう!! あと別にぼっちじゃねえし!」
碧真はマドンナ財前に引きずられて屋上を出ていった。
幸之助様と、二人きり屋上に取り残された私は。
「暁、ごめんよ勝手に決めてしまって。週末、暁の予定は大丈夫かな?」
「はい」
こんなに一緒に居るなら、いつものように下ろしただけでなくもっと気合いをいれた髪型にしてくれば良かった。それになんだかスカートが短すぎる気がする。幸之助様に太ももを見られていると思うと、恥ずかしい。
「暁」
優しい笑みを浮かべた幸之助様が、そっと私の髪に手を伸ばした。
かあっ、と耳に血が集まる感覚がする。忍べ、忍べ私。血流ぐらい調節しろ忍者。
「君と出かけるの、楽しみにしてる。僕はデートだと思ってるよ」
すっ、と私の髪を耳にかけて、幸之助様は屋上を出ていった。その少し後を、袖で顔を隠しながらついて歩く。
忍べ、私。
「暁。実は今財前さんに呼び出されてね、暁も呼んでくれと言われたんだ」
「はい。何か問題はありませんでしたか?」
碧真がいたのなら万が一も無いだろうが、一応の確認だ。
「無いよ。むしろ昼休みを暁と過ごせて嬉しいくらいだ」
目の前の碧真とマドンナ財前が、けっ、と嫌そうに吐き捨てた。息ぴったりなのはいいが、それでいいのかお嬢様。
「西園寺幸之助.......相変わらずですわね」
「財前さんもね。望月くんとは上手くいっているのかな?」
「当たり前ですわ!」
ぎゅっと碧真の腕を抱きしめたマドンナ財前。ああ、そんな胸を押し付けたらウブな碧真はイチコロだ。私の下着屋のパンフレットを拾っただけで半泣きになっていたのは3年前だったか。
「そちらこそ、服部さんとは上手くいってますの?」
幸之助様は、にこりと笑っただけで何も答えなかった。大丈夫、私達は友好な関係を築けているはず。もし築けていないなら立ち直れないかもしれない。
だって、私幸之助様好きだし。
嫌われるようなことはしないよう気をつけているし、幸之助様の前では前髪はちゃんと整えるし、リップも色つきの使うし。叶わない恋、どころか口に出すのもおこがまし過ぎる恋心だが、そっと心に秘めておくぐらいなら許されるだろう。いつも優しく穏やかな幸之助様が、私は好きだ。
「ところで、どうして僕と暁を呼び出したのかな?」
「来週末、ホテルでわたくしの誕生日パーティがありますの」
「おめでとう、素敵なパーティになるといいね」
幸之助様がにこやかに言った。本当にこんなに穏やかな人がいるのか。好きだ。
「それで、そのパーティにあなたを招待しますわ! 西園寺幸之助!」
「ありがとう、出席させていただくよ」
「まあ複雑を極める西園寺家と財前家の間柄。断られるとは思って.......って来るんですのー!?」
マドンナ財前、この人本当に日本トップレベルのご令嬢だろうか。色々キレッキレすぎる。
「うん。行かせてもらうよ」
「そ、そうですの。そ、それならいいんですのよ? でも、その、断られると思ってましたから.......来てくださったら、お父様と話せるかもしれないチャンスですのよ、と.......言おうと思ってましたの」
「財前さんの誕生日を祝うのが、1番の目的だからね。.......でも、財前家のご当主とお会いできるのは、とても嬉しい事だよ。中々会える人じゃ無いからね」
財前家当主。西園寺家当主と肩を並べる、冷酷無比で有名な支配者。
幸之助様は西園寺家の一人息子だ。いずれ、その冷酷無比な支配者とやり合わねばならない。それなら、早いうちに場数を踏んだ方が良い。誕生日パーティという場で会えるのなら、是が非でも会っておくべきだ。
「じゃ、じゃあ失礼しますわ! 行きますわよ、碧真!」
すっと、というか、ぬっと、今まで空気よりも存在感がなかった瓶底メガネのもさ男が美しい学園のマドンナの横に並んだ。背の高いもさ男は、いきなり長い腕を伸ばして私を引き寄せた。
「.......暁、マジで来る気か」
「幸之助様が行くなら私も行くに決まってるでしょ」
「財前家だぞ」
「だから何? 財前家と西園寺家、割と近所に住んでるじゃない。高級住宅街のど真ん中同士」
地価いくらだろう。庭にプールあるぞ西園寺家。
ぐっと。碧真の腕に、力が入った。
「.......暁。俺が、何とかするから。全部、何とかするから」
「はぁ? 友達は自分で作らなきゃダメって初めから言ってるでしょ」
「ちがーーう!! あと別にぼっちじゃねえし!」
碧真はマドンナ財前に引きずられて屋上を出ていった。
幸之助様と、二人きり屋上に取り残された私は。
「暁、ごめんよ勝手に決めてしまって。週末、暁の予定は大丈夫かな?」
「はい」
こんなに一緒に居るなら、いつものように下ろしただけでなくもっと気合いをいれた髪型にしてくれば良かった。それになんだかスカートが短すぎる気がする。幸之助様に太ももを見られていると思うと、恥ずかしい。
「暁」
優しい笑みを浮かべた幸之助様が、そっと私の髪に手を伸ばした。
かあっ、と耳に血が集まる感覚がする。忍べ、忍べ私。血流ぐらい調節しろ忍者。
「君と出かけるの、楽しみにしてる。僕はデートだと思ってるよ」
すっ、と私の髪を耳にかけて、幸之助様は屋上を出ていった。その少し後を、袖で顔を隠しながらついて歩く。
忍べ、私。
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