フラれて始まるダンジョン踏破

青菜にしお

文字の大きさ
15 / 31

第14話 終わりへ

しおりを挟む
 熱く汗ばんだミアの震える背中を撫でながら、原っぱを歩き馬車に戻った。

「あ! ロイ、ロイよかった! 誘拐されてたらどうしようって、急いで探しに行こうと思って、ってあれ!!? ミア、ミアどうしたの!? お、お医者様! お医者様にを呼ばなくちゃ!」

「落ち着けスイ! とりあえずその果物を置け! どっから持ってきやがったそんなもん!」

「え、あ、え、馬車の人が、くれて、あぁ、どうしようロイ!」

 スイが馬車から飛び降りたと同時にずっこけ、何とか抱きとめたはいいものの俺の脳天に臭いがキツいことで有名な果物が叩きつけられた。ぐっちょり、と臭いのキツい果肉が俺の頭から滴り落ちる。

「きゃああ!!どうしよう、どうしようロイごめんなさい! ごめんなさ、臭っ!」

「落ち着け俺.......他所様に迷惑はかけてないんだ、怒るようなことじゃない.......スイに悪気はないだろ、耐えろ俺.......」

「.......臭」

「てめ、ミア! ようやく喋ったと思ったらそれかよ!」

「仕方ないな、ロイ。とりあえず脱いで筋肉のつき方を見せてくれるかい?」

「見せるかこのド変態貴族」

 危険人物が3人になると一気に疲れがくる。これで俺のパーティメンバーは危険人物4人と俺なのだから、本当に笑えない。

「あ、あ! そうだ、そうだロイ! 水の魔法で流せばいいんだ! うん、そうだ! 私急ぐね、ロイ!」

「あ、ちょっと待」

「【水よ、猛き」

 ばさぁーーん、と、大量の水がダンジョン1階層分ほどの高さから落ちてきた。その直撃を受けた俺は、水が滴る痛む体を見下ろした。ちなみにミアはいち早く腕から抜け出し腹黒貴族の方へ逃げていたので無傷。

「きゃああああ!! どうしよう、どうしようロイごめんなさい! 私、私またやっちゃった! 詠唱の途中で、しかもロイにいっぱい水かけちゃった!」

「落ち着け。よし、もう色々流れたから結果オーライだ。スイ、慌てるなよ」

「う、え、あ、うん。ろ、ロイが言うなら、慌てないよ!」

「よし、深呼吸してみろ」

「すうーーーーーーーーはあーーーーーーー」

「どうだ、落ち着いたか?」

「.......あ、うん。すごく気分がいいよ.......あは、は.......」

 ばたん、と倒れたスイを受け止める。よし、今度からスイの対応はこれにしよう。随分楽な方法を編み出してしまった。一年前に知りたかった。

 倒れたスイを馬車に乗せ、ジェラルドとミアの向かいに座ってずぶ濡れのまま馬車に揺られることしばらく。

「ロイ、これからしばらくどうする気だい? 君のパーティの残りの2人なら、まだあの街にいるよ」

「んー.......とりあえず、顔見たら解散すっかな。金も払ったし」

 ミアが、きゅっと拳を握った。

「ということは、前払いの王都の未踏破ダンジョンはまたソロで挑むのか。さすがロイ、この国最古、最大規模の未踏破ダンジョンに1人で挑むとは、やっぱり私の推し冒険者だ」

「さすがに潜る時にはパーティ組むわ! わかってるだけでも20階層あるバケモンダンジョンにソロで挑めるかボケナス!」

「君ならいけそうな気がするんだがね」

「お前は俺をなんだと思ってんだ.......」

 馬車はやっとド田舎から離れ、外にぽつりぽつりと家が増えてきた。街が近い。

「女性にフラれた程度で高レベルダンジョンソロクリアを達成する、人類最速最強の男だね」

「フラれた程度って言うな! 1年も付き合ってたんだぞ!? 結婚したっていいと思ってたのに!!」

 またざっくり心の傷口が開いた。未練がましいと笑いたきゃ笑え、本当に好きだったんだマリアのことが。

「.......ん」

「へあ?」

 唐突に、ミアが膝に乗って俺の胸に顔を押し付けてきた。だから傷に響.......かないだと!? こいつ本当にミアか、ミミックかなんかの擬態モンスターじゃないのか。

「.......見る目ない女は、忘れて」

「いや、むしろ突っ立ってただけの俺の速さを見抜いた見る目ある人だったような」

「それに中々の美人だったね。金髪に豊満な胸部、ロイと並ぶと彼女はより美しく見えたよ」

「お前マジで黙ってろよ」

 俺の心を傷つけて何が楽しいんだ腹黒貴族。

 ぱから、ぱから、と穏やかに進む馬車が、我がパーティの危険人物2人の待つ街へ向かう。

 我がパーティの解散へ、向かう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...