TS竜人は平和に暮らしたかっただけなのにいつの間にか天下統一をしなければならなくなりました

みやび

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第二章 皇女と辺境伯

2 辺境伯領までの道中

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 ボク達の村であるライン村から、隣のリルブの村までは、急ぎ気味に移動すれば、徒歩でも朝に出て夕方にはつくぐらいの距離です。馬に乗って走れば1日で往復もできるでしょう。
 軍隊の移動だとそこまで急げないので辺境伯軍は2日以上かかっていましたけどね。

 同行しているのは義兄であるクリスと、馴染みの行商人さんのニキータさん、あとは捕虜の代表として来ている、カーク子爵のアランさんと、シフォン女男爵のアルゥちゃんです。
 捕虜の二人も武器は渡していませんが、それ以外には特に縄をつけたりはしていません。そういうことすると管理が大変ですし、逃げたら他の捕虜の方がひどい目に合うだけです。
 彼らの親族も捕虜に混ざっているのは確認していますし、逃げることはまずないでしょう。

 アランさんは、60ぐらいの白髪が目立つおじいちゃんで、でも体を鍛えていてとても強そうで、捕虜の中で年上で格が一番高かったので選ばれました。
 一方アルゥちゃんはボクと同い年の女の子で、捕虜の人の中でも一番気が合ったのでボクの話し相手も含め選ばれた感じです。
 村にも同年代の女の子はいますが、狩りやら剣術やらが趣味のボクと当然のように話が合わないんですよね。男の子たちは男の子たちでなんか遠慮されるし、友達が少ないのです。
 同年代で男爵をすでに引き継いでいるアルゥちゃんは、趣味の点で非常に話があったため、かなり仲良くなってしまいました。
 捕虜になっている男爵は数人居ましたが、ボクと仲良くなっているという点を考慮して彼女が同行者に選ばれています。



 今は道中の移動中で、アランさんに貴族の格について教えてもらっています。
 こういうの、うちの村だとほとんど情報が入ってこないんですよね。母なら知っていそうな気がしますが、面白くないと教えてくれないのです。

 アランさんに教えてもらったところで言うと、子爵というのは伯爵や辺境伯の直属の家臣で、伯家の経営にもかかわることができる格であり、ただの村長さんであり、寄子契約をしているだけの男爵より上なんだそうです。だから、場合によっては男爵に直接指示ができる場合もあるのだとか。
 ただ、格としての話だけらしくて経済力はまた別で、カーク子爵領はシフォン男爵領と同じぐらいの広さしかなく、ライン村より小さいぐらいと言っていました。

 どうせだから、皇帝っていうのはどれくらい偉いのか、と聞きましたが、皇帝と主従関係になれるのは、王か、公爵か、一部の辺境伯だけだということで、伯爵や大半の辺境伯というのは王か公爵と主従関係を結んでいるという関係になるのだとか。
 とはいえ現在の皇帝は権威はあっても権力がないのでほとんどだれも言うことを聞かないという話も教えてもらえました。

 ちなみに今回の敵であったマーチ辺境伯は歴史があり、格的には皇帝と主従関係となる由緒正しい家なのだとか。
 まあ今回の戦争で領主一家の関係者ほとんど亡くなってしまったみたいですが。
 現辺境伯はボクが討ち取りましたし、軍に同行していた嫡男も落ち武者狩りで殺されてしまったということです。
 なので、今近い親族で存命なのはまだ成人していない長女だけだとか。


「それだと長女の方が引き継ぐのではないですか?」
「エミリーはたぶん無理よ。荒事苦手だもの」
「アルゥちゃんの知り合いで?」
「妹分よ。年も私や貴女の一つ下だからよく知ってるわ」


 アルゥちゃんが女男爵であるように、この世界だと女性でも普通に爵位を引き継ぐことも多いです。とはいえ場所に寄っていろいろ違うらしく、男性しか引き継げない爵位もあれば、女性しか引き継げない爵位もあり、また、血統ではなく実力で爵位を決めるところもあるそうです。
 ちなみにうちの村は、このままいけば義兄が引き継ぐでしょう。
 何にしろ、辺境伯は血統で基本決まり、性別の決まりもないようなので、順当に行けばその長女のエミリーさんが引き継げばいいと思うのですが、アランさんもアルゥちゃんもそれはないという雰囲気を醸し出しています。


「エミリーさんってどんな方なんですか?」
「天才で引きこもりで男性嫌いなコミュ障よ。あと三歩歩くと転ぶ」
「なんか生きているのがつらそうな方ですね……」


 どう天才なのかも気になりますが、それ以外の属性が強すぎないでしょうか。
 組織のトップに向いていなさそうな気配をひしひしと感じます。

 そんな役に立つかはよくわからない情報収集をしている間に、ボク達は隣のリルブの村に到着をしました。



「なんでそんな痴女みたいな格好してんだよアーシェ!!」
「うるさい、アンタは相変わらずガキだね!!」


 たどり着いて早々、めんどくさい奴に絡まれました。
 リルブ男爵子息のクレイです。ボクの幼馴染であり、おそらくボクに惚れているのではないかと思っています。隣村の同年代の異性でしたから結婚相手の候補の一人でしたし、毎回こうやって絡んできますし、視線がボクのおっぱいに常に行っていますし。
 ただ、ボク個人としてはこいつのことはあまり好きではありません。うるさいし、時々意地悪してくるし。ガキみたいなことばっかりしてくるし。
 子供がすればかわいいですが、同年代にやられると腹が立つだけなんですよね。
 外見は俗にいうイケメンで、正直義兄よりカッコいいでしょうが、それ以外がすべて義兄と比べて劣っているので私は圧倒的に義兄のほうがいいです。
 まあボクの格好が痴女みたい、というのは否定しませんが。
 めんどくさいなぁ、と思っていたボクより速くクレイに反応したのはアルゥちゃんでした。


「はっ、これだから田舎者は」
「なんだと!?」
「アーシェロット様の服は、帝国の伝統的な女性竜人騎士の服装です。アーシェロット様のお母様はそういった有職故実にお詳しい方ですから、伝統にのっとった服をお造りになったのでしょう。それを軽々しく批判するとは。全く教養のない田舎者は困りますわ」
「なにー!!」


 何この服、そんな伝統的な服なんですか? というか帝国の女性竜人騎士ってこんな服着てたんですか。この服装の騎士がずらっと並ぶとか痴女博覧会じゃないですか。
 後、アルゥちゃんなんで様付けなんでしょうか。ボクは単なる男爵令嬢でしかも後継ぎではない一方、アルゥちゃんはれっきとした現職の男爵様ですから、アルゥちゃんの方が格上なんだけど。なんかバグってないですか? 

 ボクが混乱している間にも、アルゥちゃんはクレイを言い負かしていきます。
 ついに逆ギレしたクレイとアルゥちゃんがこぶしで語り合いを始めました。
 格闘戦は圧倒的にアルゥちゃんの方が強く、一方的にボコボコにしています。
 現職男爵舐めちゃいけないですよ。周りから認められている以上、腕っぷしは一定以上なわけですし。


 ノしたクレイを引きずって、ボクたちは男爵のお家へと行きます。
 今日はここで一泊して、出来れば明日朝一で出発予定です。話がまとまらなかったらもう一泊ですが。

 クレイがボロボロなのはボクに会えばいつものことなので、クレイの父であるリルブ男爵も特に気にしません。もうちょっと鍛えてあげてもいいんじゃないかと思いますが。


「で、おじさま。一緒に辺境伯の街まで行ってくれて、リルブ男爵家としての判断が出来る方をお願いしたいんですが」
「うーむ、クレイじゃだめかい?」
「ダメです」


 一応成人しているし、全くダメということはないのですが頼りなさすぎます。
 万が一捕虜であるアランさんとアルゥちゃんが敵対した時に抑えられるだけの人が欲しいのです。クレイじゃ弱すぎるし、しかも考えが子供なので正直役に立ちません。くっついてくる程度ならまだ許容範囲ですが。


「セバスのおじさまをお願いします」
「今忙しいからセバスには残ってほしいんだがなぁ」
「さすがに最年長がお義兄さまでは不安ですし、経験があって信頼できる方がいいんです」
「仕方ないか」


 セバスさんは、リルブ男爵の弟で、男爵の補佐をしている方です。
 年は父と同じぐらいで、交渉事に長けた方です。男爵の信用も厚いですからこういう場にはちょうどいいでしょう。
 現状捕虜の方の管理やウチの村に移住してしまった人の抜けた穴の調整などいろいろあるため、セバスさんは手放したくないのでしょうが、ここはこちらの要望を通してもらいましょう。


「人員はセバスに決めさせるが何人ぐらいがいい?」
「戦闘できる要員は三人程度は欲しいですね。雑用の方はお任せします。料理ぐらいはボクがしますし」
「食料は?」
「うちの分は十分ですが、それ以上はそこまで余裕がないです。荷馬車を連れて来てますから運べますので、そちらで用意したものは運べますよ」


 必要な情報のやり取りはボクとリルブ男爵で進めます。
 義兄はセバスさんのところへ行って話し合いをしているでしょう。既に席を立っています。
 ニキータさんは情報収集と言ってどこかへ行ってしまいましたし、アルゥちゃんとアランさんはボクの目が届く範囲で待機しています。

 この感じだと明日朝一で出発できるかな、と思いながら、ボクはリルブ男爵から聞かれることに答えていくのでした。
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