秘境の竜の巣で、かつて助けた「小さなトカゲ」に捕まりました。正体は竜王様だったようで「俺の番として愛し抜いてやる」と逃がしてもらえません

みやび

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8 竜の背に乗って空のデートへ。絶景ですが、落ちたら即死の吊り橋効果が凄いです

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「んん……っ」

 目が覚めると、体の節々が甘く痛んだ。
 特に股関節と、昨夜ネロの尻尾で締め上げられた太ももが、筋肉痛のように重い。

(あんなこと、されるなんて……)

 昨夜の「尻尾プレイ」の記憶が蘇り、私は枕(高級な羽毛)に顔を埋めてバタバタと足を動かした。
 学術的な興味本位で触っただけなのに、まさかあんな、二重責めのフルコースを味わわされるなんて。竜王陛下の性欲と学習能力を甘く見ていた。

「……起きたか、エルマ」

 横からかけられた声に顔を上げると、すでに身支度を整えた(といっても腰布一枚だが)ネロが、機嫌よさそうに私を見下ろしていた。

「顔色が悪いな。昨夜は少し張り切りすぎたか?」

「誰のせいだと思ってるのよ……。もう、歩けないくらいフラフラだわ」

「安心しろ。今日は天気がいい。気分転換に外へ連れ出してやろうと思っていたところだ」

「え、外へ?」

 その言葉に、私はガバッと起き上がった。
 ここに来て数日。ずっと洞窟の巣に引きこもりっぱなしだったのだ。研究者として、この高山の生態系も調査したくてうずうずしていたところだ。

「行く! 絶対行く!」

「ふっ、現金なやつめ。……だが、歩けないんだろう? 俺に乗れ」

 ネロが指を鳴らすと、ボォッ! と黒い煙が彼を包み込んだ。
 一瞬で人の姿が掻き消え、そこに現れたのは――全長二十メートルを超える、巨大な漆黒の竜。

『背中に乗せてやる。しっかり掴まっていろ』

 頭の中に直接響く声。
 彼は長い首を垂れ、私が乗りやすいように背中を差し出してくれた。

「わぁ……! 竜の背に乗れるなんて!」

 私は痛む腰を庇いながら、ゴツゴツとした鱗に足をかけ、よじ登った。
 背中は意外と暖かく、鱗の隙間が手すりのようになっていて安定している。

『行くぞ。舌を噛まないようにな』

 バサァッ!!
 巨大な翼が広げられ、突風が巻き起こる。
 次の瞬間、強烈なG(重力)が体にかかり、私たちは弾丸のような速度で空へと飛び出した。

「きゃあああああッ!?」

 悲鳴は、すぐに歓声に変わった。
 視界いっぱいに広がる、突き抜けるような青空。
 眼下には、雪化粧をしたアードラ山脈がダイヤモンドのように輝いている。

「すごい……! 高い! 雲が下に見える!」

 風避けの魔法をかけてくれているのか、猛スピードなのに息苦しくない。
 私は恐怖も忘れて、ネロの背中にへばりつきながら下界を見下ろした。
 人間たちが暮らす街なんて、ここからはシミのように小さくしか見えない。ここは正真正銘、神々の領域だ。

『どうだ、エルマ。これが俺が見ている世界だ』

「綺麗……本当に、世界で一番綺麗な景色だわ」

『そうか。気に入ったなら、これもお前にやる』

 ネロは得意げに鼻を鳴らすと、わざと急旋回して雲の中を突っ切った。
 水蒸気のミストが肌を濡らし、抜けた先には大きな虹がかかっている。
 まるで、私のためだけの遊覧飛行だ。

(悔しいけど……かっこいい)

 太陽の光を浴びて黒曜石のように輝く翼。
 力強く空気を掴む筋肉の動き。
 研究対象として最高なのはもちろんだが、それ以上に、私を乗せて空を征く彼の背中が、どうしようもなく逞しく見えてしまった。

 しばらく空の旅を楽しんだ後、ネロは一番高い岩山の頂にある、平らなスペースに降り立った。

「はぁ、すごかった……。ありがとう、ネロ」

 私が背中から降りると、彼は再び黒煙を纏って人の姿に戻った。

「礼には及ばん。……それに、これで分かっただろう?」

 ネロは私の腰を引き寄せ、崖の縁に立たせた。
 足元は断崖絶壁。一歩踏み外せば、数千メートル下まで真っ逆さまだ。

「ひっ……!」

 思わず彼の腕にしがみつくと、ネロは満足そうに目を細めた。

「この山脈は、翼なき者が越えることは不可能だ。お前がどんなに賢くても、俺の背中がなければ、ここからは出られない」

「……脅してるの?」

「事実を教えているだけだ。お前の世界はもう、ここ(俺の腕の中)にしかないんだと」

 それは、とても残酷で、甘い宣告だった。
 普通なら絶望するところかもしれない。
 でも、背後に広がる青空よりも、目の前の金色の瞳の方が綺麗だと思ってしまった私は、もう手遅れなのかもしれない。

「……分かってるわよ。責任取って、一生養ってよね」

 私が拗ねたように言うと、ネロは嬉しそうに笑い、私の唇を塞いだ。

「ああ、約束する。……さて、せっかく誰もいない場所に来たんだ」

 長いキスの後、彼は私の耳元でとんでもないことを囁いた。

「青空の下で交尾というのも、興奮すると思わないか?」

「は? ……ちょ、待って! ここ外! 丸見え!」

「誰も見ていない。見ているのは太陽と鳥くらいだ」

 ネロの手が、私の服の中に滑り込んでくる。
 吊り橋効果なのか、それとも高所での酸素不足なのか。
 私の心臓は、空を飛んでいた時よりも激しく高鳴り始めていた。
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