秘境の竜の巣で、かつて助けた「小さなトカゲ」に捕まりました。正体は竜王様だったようで「俺の番として愛し抜いてやる」と逃がしてもらえません

みやび

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26 人間とは違います。竜の卵を産み落としました

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 その時は、唐突に訪れた。

「……あ、うっ!?」

 深夜、ネロの腕の中で眠っていた私は、下腹部を突き上げるような鋭い衝撃に目を覚ました。
 お腹が、熱い。
 妊娠してからずっと淡く光っていたお腹の輝きが、今はカッ、カッ、と激しく明滅し、直視できないほどの光量を放っている。

「どうした、エルマ! 痛むのか!?」

 私の異変を察知し、ネロが飛び起きた。
 私は脂汗を流しながら、シーツをギュッと握りしめた。

「くる……! ネロ、産まれるわ!」

「なっ、もうか!? 予定日より少し早いぞ!」

「竜の子は気まぐれなのよ……っ! ああ、降りてきてる……!」

 人間のような「陣痛」とは少し違う。
 骨盤が内側からメリメリと押し広げられ、大きくて硬い「何か」が産道を降りてくる感覚。
 羊水が破れる感覚はない。なぜなら、私が産むのは「卵」だからだ。

「しっかりしろ、エルマ! 俺がついてる!」

 ネロが私を抱きかかえ、あらかじめ用意していた「産卵床」へと運んでくれた。
 そこは最高級の羽毛と、保温効果のある魔石が敷き詰められた、世界一安全な揺り籠だ。

「はぁ、はぁ、っ……! ネロ、手を……!」

「ああ、握っていろ! 俺の魔力を流す。痛みを和らげるんだ!」

 ネロが私の手を両手で包み込み、温かい波動を送ってくれる。
 彼の魔力が私の体内を巡り、きしむ骨盤や筋肉をサポートしてくれるおかげで、痛みが少しだけ遠のく。
 これがなければ、硬い殻を持つ卵を産む激痛でショック死していたかもしれない。
 やっぱり、竜人になっておいて正解だった。

「んぎぃ……ッ! 大きい……っ! 引っかかってる……ッ!」

 私は四つん這いになり、いきんだ。
 重力の助けを借りて、お腹の中の愛しい塊を外へと押し出す。
 産道が限界まで広がり、皮膚が悲鳴を上げる。

「見えているぞ、エルマ! 頭……いや、殻の先端が見えている!」

 ネロが私の後ろに回り込み、震える声で実況する。

「がんばれ、あと少しだ……! 焦るな、ゆっくり呼吸をしろ!」

「うるさいわね、分かってるわよ……ッ! ふーっ、ふーっ、んんんーーッ!!」

 私は研究者らしく、冷静に呼吸を整えようと努めたが、痛みと本能がそれを許さない。
 獣のような唸り声を上げ、全身の筋肉を収縮させる。

(出ておいで。怖くないわよ。パパもママも、ここ数ヶ月ずっと貴方に会いたくてたまらなかったんだから!)

 ドクンッ!!

 お腹の中で、強い脈動があった。
 赤ちゃんも、外に出ようと頑張っているのだ。

「あ、動いた……! くる、出るっ! あぁぁぁーーッ!!」

 最後の一押し。
 私が渾身の力を込めていきむと同時に、ネロが私の腰を支え、補助してくれた。

 ズルンッ、ポロロンッ……。

 何かが抜けるような開放感と共に、私の股下から重たいものが転がり落ちた。
 同時に、洞窟内が真昼のように明るい光に包まれた。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

 全身の力が抜け、私はその場に崩れ落ちそうになった。
 それをネロが優しく抱き止める。

「よく頑張った……! 凄いぞ、エルマ。本当に、凄い……!」

 ネロの声が震えている。泣いているのだ。
 私は荒い息を整えながら、恐る恐る自分の股下を覗き込んだ。
 そこには、フワフワの羽毛の上に鎮座する、一つの「結晶」があった。

「これが……私たちの、赤ちゃん……」

 それは、人間の頭ほどの大きさがある「卵」だった。
 けれど、鶏の卵のような白い殻ではない。
 まるで最高級のルビーと黒曜石を混ぜ合わせたような、深く透き通った赤黒い殻。
 その表面は宝石のようにカットされた多面体で、内側からボウッ、ボウッ、と心臓の鼓動に合わせて光を放っている。

「綺麗……」

 思わず呟いてしまった。
 血まみれの出産ではない。
 神秘的で、幻想的で、あまりにも美しい生命の誕生。

「触っても、いいか?」

 ネロが恐る恐る手を伸ばす。
 彼が卵に触れた瞬間、卵の中の光がパァッ! と強く輝き、喜ぶように明滅した。

「……生きている。俺の魔力に反応しているぞ」

 ネロは大切そうに卵を抱き上げ、私の胸元へと運んでくれた。
 ずっしりとした重み。
 そして、殻越しに伝わってくる高熱のような温かさ。

「よしよし……。初めまして。私がママよ」

 卵を抱きしめると、愛おしさで涙が止まらなくなった。
 この中には、ネロと私の血を引く、小さな命が眠っている。
 かつて「死ぬから無理だ」と諦めかけた未来が、今、確かな重みを持って私の腕の中にある。

「ありがとう、エルマ。……俺は、世界一の果報者だ」

 ネロが私の肩を抱き、卵ごと包み込むようにキスをしてくれた。
 彼の目からポロポロとこぼれ落ちる涙が、卵の殻に落ちてキラキラと光る。
 最強の竜王様が、こんなに泣き虫だなんて、誰も知らないだろう。

「まだ終わりじゃないわよ、ネロ」

 私は涙を拭い、研究者(ママ)の顔で彼を見上げた。

「これは『卵』だもの。孵化するまで、しっかりと温めなきゃいけないわ」

「ああ、任せろ! 俺の体温と魔力で、二十四時間体制で温める! 片時も離さん!」

「ふふっ、私にも温めさせてよ。……さあ、ベッドに行きましょう」

 私たちは生まれたての卵を、そっと二人の寝床の真ん中に置いた。
 そして左右から挟み込むようにして横になり、お互いの体温で卵を温める。

 ポウッ、ポウッ……。

 卵は安心したように、穏やかなリズムで光り続けている。
 まるで、二人の愛に包まれて幸せな夢を見ているようだ。

「……どんな子が産まれるかしら」

「俺に似て強い子だろうな。……でも、性格はお前に似てほしい。俺みたいに臆病じゃ困る」

「何言ってるの。貴方は私を命がけで守ってくれた、最高のヒーローよ」

 私たちは卵を撫で合いながら、幸せな未来の話を語り合った。
 外はまだ夜明け前。
 けれど私たちの巣の中には、新しい太陽(たまご)が輝いていた。
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