婚約破棄された偽聖女と森の古代竜

みやび

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6 森の食料事情

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「おっさんぽ♪ おっさんぽ♪」


 リュカと並んで、のんびり森を歩く。

 魔の森で出会った古代竜――リュカに、なぜか懐かれてしまった。
 原因は食べ物である。いや、あれは仕方なかった。

 保存性と栄養性だけを追求した、あの硬くて酸っぱい堅パンを「おいしい」と喜んで食べる姿を見て、つい仏心が出てしまった。
 食料袋の中にあったジャムを少し塗って渡してしまったのだ。

 その瞬間、リュカの瞳が輝いた。


「あまい! おいしい!!」


 どうやら、すっかり気に入ってしまったらしい。


「気に入った? 果物とかはちみつがあれば、いくらでも作れるよ」


 そう言ったのが運の尽きだった。


「じゃあ森を案内するよ!!」


 嬉々としたリュカがそう宣言するものだから、私はそのまま材料探しの散歩に連行されることとなった。




 最初に案内されたのは、小屋から歩いて五分ほどの場所。森が開け、低木が整然と並ぶ、小さな畑のような空間だった。


「おー、畑みたい。これ、摘んでいいの?」

「うん。昔、おばあちゃんが作った畑でね。好きに取っていいって言ってたよ」

「そういえば小屋の持ち主の時も話していたけどおばあちゃんって?」

「この森に住んでた魔女だよ。えーっと、名前は……ステラ=リュミエール、だったかな?」

「へぇー」


 ステラ=リュミエール。その名は知っている。
 私が居たリュミエール家の初代にして、伝説的な魔女である。
 多分小屋のことが書いてあった手記も、彼女が著者なのだろう。
 その子孫があれだとは……ご先祖様はちょっと気の毒だが、あれだけ嫌がらせされてたわけだし、その嫌がらせの賠償として、この畑の恵みはありがたく頂戴しよう。

 低木には、真っ赤なマジカルベリーがたわわに実っていた。
 艶やかで大ぶり、見るからに美味しそうな果実だ。市場に出せば間違いなく高値がつく逸品。

 ひとつ摘み、口に運ぶ。強い酸味と、ほのかな甘みがじゅわっと広がった。


「アリシアって、そのベリー生で食べられるんだ……」

「リュカはダメなの?」

「うん、酸っぱすぎるよ……。おばあちゃんはよくパイとかジャムにしてくれたけど、作り方は知らないし……」


 私がさらにもう一個摘んで頬張ると、リュカはちょっと複雑そうな顔をした。
 どうやら、味覚は完全にお子様らしい。見た目は古代竜、中身は幼児。可愛いものである。

 とりあえず、どんどん摘んで籠に詰めていく。

 リュカも手伝おうとするが、不器用なのか、いくつかのベリーをぐしゃっと握り潰してしまい、手も体も真っ赤に染めていた。


「うう、やっぱり酸っぱい……」


 そうしてつぶれた果実の汁をぺろっと舐め、眉をしかめるリュカ。
 その様子があまりに可笑しくて、私は思わず吹き出してしまった。




 籠いっぱいにベリーを詰め終えたところで、リュカの案内のもと、次の目的地――花畑へと向かう。

 森の中にぽっかりと空いた空間。色とりどりの花が咲き乱れる中央に、一本の枯れ木が立っていた。


「ここは?」

「あの枯れ木、宝石バチの巣なんだ。今日は、はちみつをもらいに来たんだよ」

「もらいに……って、そんな簡単に?」

「うん。瓶、借りてもいい?」


 私は小屋から持ってきていた空き瓶を渡す。
 するとリュカは何か声を発し始めた。――といっても、私の耳には音は聞こえない。ただ、口元が微かに揺れていて、何かを話しかけているように見える。

 しばらくすると、瓶の中にどこからともなく琥珀色の液体が注がれ始めた。魔法のように、ふわりと空中から。
 あっという間に瓶はいっぱいになった。


「え、なにこれどういう仕組みなの?」

「宝石バチに頼んで、分けてもらった分だけ転送してもらったんだよ」

「転送って……そんな簡単にできるの?」


 転送魔法は上級者でも難しいはず。時々謎のチート性能を発揮するな、この古代竜。


「というか、はちみつ、そんな簡単にくれるの?」

「この花畑、僕が魔力を注いで維持してるんだ。それのお礼だって」


 なるほど。どうやら持ちつ持たれつの関係らしい。

 よく見れば、この花畑には季節感がない。桜もあれば向日葵もあり、秋草まで混じっている。
 さっきのマジカルベリーも、時期外れの果実だった。


「さっきのベリー畑も、リュカが維持してるの?」

「うん。もともとはおばあちゃんとか、いろんな人が作ってくれた場所なんだけど。僕は魔力を注いで保ってるだけ」


 そのあとも、リュカに連れられ、高原オレンジの木が並ぶ果樹園へ立ち寄って、オレンジもたっぷり収穫。

 果物と蜂蜜を抱えて、私たちは再び小屋へと帰っていくのだった。
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