婚約破棄された偽聖女と森の古代竜

みやび

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 ぐえっと声を上げたリュカの横にもぐりこんで、少しのあいだまどろんでいたが、ふと腰に違和感を覚えて身を起こす。
 なんだかこう、バネの主張が激しいというか、主張しかないというか……。


「このソファ、バネ壊れてない?」

「昔、竜の状態のままソファの上で寝たときにバキッていったからそのせいかも?」

「なにやってんのよ」


 苦笑しつつ立ち上がり、小屋の中を見回してみると、思った以上にガタが来ている部分が多いことに気づいた。

 リビングにある棚は傾いているし、椅子もよく見るとガタが着ている。
 入口の扉は半開きのままで閉まらないし、窓もひびが入っている。

 ベッドルームをのぞいたら、ベッドは完全に崩れていて寝るのは難しそうだ。

 台所の方を見ると、冷却魔導箱はまだ動いているが、かすかに唸っていてちょっと不安だ。
 ちなみに中身は空っぽであった。
 そして極めつけは、台所の隅にあった――


「……これ、オーブン? というか、焦げ跡すごくない?」

「おばあちゃんが居なくなった後パンを焼こうとしたら、ボフって爆発したんだよね!」

「なんでパンを焼いて爆発するのよ」


 やれやれとため息をついたが、オーブンに目を戻すと、ボタンなどの魔導具らしい造りが見て取れる。
 表面は煤けているが、パネル部分はかすかに魔力が残っているようだし、直せそうである。


「これ、直せばまだ使えるかも」

「ほんとに? わーい、パン焼ける? パイも!?」

「期待しないでよ、専門家じゃないからね」


 修理作業のためまず中を見るが、爆発により外装が歪んで発熱する部分の魔石が砕けていた。魔石は交換が必要だろう。
 一方操作盤のところの魔導回路は無事なままだった
 魔導回路の構造は単純で、逆に頑丈な印象を受ける。おそらく、目の前の“見た目は大人、頭脳は子ども”な古代竜が多少雑に魔力を流しても壊れないように作られているのだろう。

 外装を掃除、修理して、魔石を取り換えるだけならなんとかなりそうだ。
 雑巾を手に取り、焦げと煤を拭い始める。
 リュカは見ているだけである。下手に手を出されると、部品をポキっと折りそうだから。


「というか、爆発させるって何をしたのよ」

「小麦粉を焼けばパンになるって聞いたから小麦粉入れたの!」

「うわぁ」


 おそらく小麦粉にたっぷり魔力を込めて、オーブンに投入したのだろう。
 魔力過剰な粉と魔導装置が反応して、ドッカンといったところか。
 よく外装の破損で済んだものだ。


「リュカ、この部品、歪んでるでしょ? 平らにして」

「ん、わかった」


 解してみれば、案外シンプルな構造をしていた。これは助かる。
 おそらくこれらはおばあちゃんの手作りだろう。
 外装は手作り感満載だが、魔導回路には専門家らしい工夫が見える。
 家庭用として作られた分扱いやすく、直すのも難しくない。

 リュカに外装の金属板を任せ、自分は物置小屋の探索に向かう。
 使われなくなった魔導具が詰め込まれていると聞いていた。部品取りにはうってつけだ。

 発熱部分の魔石は、そこまで特殊なものではない。
 ほどなく魔導ランプを見つけ、その中の魔石を取り出す。

 戻ってくると、オーブンの外装はきれいな直方体に整っていた。


「できたよ!」

「お、いい感じだね」

「わーい!」


 褒めると素直に喜ぶリュカ。
 大雑把に見えて、こういう手作業は器用らしい。
 どや顔の彼に、手に入れた魔石を手渡す。


「リュカ、この石、ここにはめて」

「こう?」

「そう、ナイス。あとは回路をつないで……完成」

「おー!」


 きれいになった魔導オーブンを見て、リュカは歓声を上げた。
 見た目は青年だけど中身は子供、というか孤児院の弟たちを思い出す。

 ガチャガチャとオーブンをいじり始めるリュカを見ながら、ふと思い出す。
 魔導具の知識は、リュミエール家で厳しく叩き込まれたものだったな、と。

 マナーだの格式だの、うるさいことばかり言われて辟易していたが、こうして今役に立っているのは少しだけ皮肉だ。

 決して気持ちのいい場所じゃなかったけれど、少なくとも飢えることはなかったし、寝床もあった。
 王宮で過ごした頃より、よほど人間らしい暮らしだった気がする。
 あの家で得たものが、こうして自分の助けになっているのなら、あの日々にも少しは意味があったのかもしれない。

 ……義父や義兄は、私のことを怒っているだろうなぁ。

 結局、婚約破棄から追放まで、一度も顔を合わせないままだった。
 最後に届いたのは、家名剥奪の通知のみ。

 今あの人たちがどうしているのか。
 ほんの少しだけ、気にしつつも――

 私は、オーブンのボタンをポチポチいじって遊ぶリュカを、静かに見守るのだった。

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