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「オーブンできたから、パンもパイも焼けるね!」
「いや、材料がないから無理だよ」
「がーん……」
勢いで修理してしまったオーブンだったが、よくよく考えたら使い道がほとんどないことに気づいた。
小麦粉がないのだ。
パンもパイも、小麦粉がなければただの夢である。
森の中には、かつてステラおばあちゃんが作った畑やら果樹園やらが点在しているらしいから、小麦畑もあるかもしれない。
でも仮に小麦を収穫できたとしても、粉にするのがまた一苦労だ。
石臼を使って人力で粉を挽くのは根気が要るので正直やりたくない。近くに水車も風車もないから機械任せにもできないし……
「そういえばおばあちゃん、よくパイとか作ってくれたのよね?」
「うん。ベリーのやつ、おいしかったよ」
「小麦粉……どうしてたの?」
「森の外から持ってきてたよ」
なるほど。小麦粉は森の外から仕入れていたらしい。
だが、それが今となっては簡単にいかない問題だ。
何せ私は魔の森に追放された身。森から外に出て見つかれば、今度こそ火炙り確定である。
リュカを連れていけば武力的な意味では何とかなるかもしれないが、問題はその規模だ。
彼は伝説に語られる古代竜、力を解放すれば町ひとつくらい蒸発させかねない。
基本はのんびりまったり系のドラゴンだとわかっていても、身にまとう魔力の量を考えると、うっかり牙を剥かせたくはない。
クソ王太子だけが燃えるなら私も大歓迎だが、善良な市民や真面目な役人まで巻き添えになるのはさすがに気が引ける。
私はそこまで世の中を恨んでいない。
さらにもう一つの問題は、お金がないこと。
追放の際、財産はすべて没収された。
手元にあるのは最初に渡された袋に入っていた食料とサバイバル用品だけと無一文の状態である。
リュカはというと、森に引きこもっていた竜である。貨幣経済の概念すら怪しい。
どうしたものかと悩んでいたら、リュカが急に小屋の奥をガサゴソと探し始めた。
「そういえばね、おばあちゃんが昔、"外で欲しいものがあったら使いなさい"って、キラキラしたのくれたことあるんだ! それ使えば小麦粉も貰えるんじゃない?」
「へぇ、どんなの?」
「えっとね……これ!!」
満面の笑みで差し出されたのは、分厚い金色の硬貨だった。しかもひとつではなく、ざっと十枚ほど。
「これ、使えるかな?」と無邪気に尋ねるリュカに、私は盛大に頭を抱えた。
この大金貨、見るからに古い時代のものだ。
現在流通しているものとは刻印が違う。
古い大金貨は金の含有量が多く、通常の倍の価値があるとされている。
銀貨一枚ですら平民四人家族が一週間食べていけるレベルなのに、それを換金していくと……リュカの持ってきた大金貨一枚で、下手すると一般家庭の年収を簡単に上回る。
「リュカ、これね……ものすごくお金持ちしか使わないお金なの。こんなの市場で出したら、店の人が腰抜かして、そのあとお役人様が来て、最終的に私が焼かれるわ」
「えっ!? アリシアが焼かれちゃうの!?」
「うん、カリッとジューシーに丸焼き」
「やだーー!!」
しょんぼりしてしまったリュカの頭を撫でながら、私は考える。
この金貨を両替商に持ち込めば、まず間違いなく通報されるだろう。
こんな高額かつ出所の怪しい金貨を持ち込んだ日には、正体がバレるのも時間の問題だ。
ならば、もっと控えめに、目立たずに資金を得る手段が必要だ。
思いついたのは、自由市。
大きな町では毎月何度か、町の広場で定期的に開かれる催しである。
外部の商人や旅人も参加する、だれでも参加可能な市であり、私のような「見つかりたくない存在」が紛れ込んでも、不自然には思われにくいはず。
売る物はジャム。それと、森で採れるマジックベリーや果物類ぐらいか。
あまり大きな金額にはならないだろうが、小麦粉やバターなどが、嗜好品程度あればいいのだからそう無理をする必要もない。
もちろん、それまでに身元を隠すための変装や準備も必要だ。
自由市でうまく立ち回って、目立たずに必要なだけのお金を手に入れる。
それが今のところ、最も現実的な選択肢だろう。
しょんぼりしていたリュカの頭をもう一度くしゃくしゃに撫でてやりながら、私は心の中で決意を固めた。
「いや、材料がないから無理だよ」
「がーん……」
勢いで修理してしまったオーブンだったが、よくよく考えたら使い道がほとんどないことに気づいた。
小麦粉がないのだ。
パンもパイも、小麦粉がなければただの夢である。
森の中には、かつてステラおばあちゃんが作った畑やら果樹園やらが点在しているらしいから、小麦畑もあるかもしれない。
でも仮に小麦を収穫できたとしても、粉にするのがまた一苦労だ。
石臼を使って人力で粉を挽くのは根気が要るので正直やりたくない。近くに水車も風車もないから機械任せにもできないし……
「そういえばおばあちゃん、よくパイとか作ってくれたのよね?」
「うん。ベリーのやつ、おいしかったよ」
「小麦粉……どうしてたの?」
「森の外から持ってきてたよ」
なるほど。小麦粉は森の外から仕入れていたらしい。
だが、それが今となっては簡単にいかない問題だ。
何せ私は魔の森に追放された身。森から外に出て見つかれば、今度こそ火炙り確定である。
リュカを連れていけば武力的な意味では何とかなるかもしれないが、問題はその規模だ。
彼は伝説に語られる古代竜、力を解放すれば町ひとつくらい蒸発させかねない。
基本はのんびりまったり系のドラゴンだとわかっていても、身にまとう魔力の量を考えると、うっかり牙を剥かせたくはない。
クソ王太子だけが燃えるなら私も大歓迎だが、善良な市民や真面目な役人まで巻き添えになるのはさすがに気が引ける。
私はそこまで世の中を恨んでいない。
さらにもう一つの問題は、お金がないこと。
追放の際、財産はすべて没収された。
手元にあるのは最初に渡された袋に入っていた食料とサバイバル用品だけと無一文の状態である。
リュカはというと、森に引きこもっていた竜である。貨幣経済の概念すら怪しい。
どうしたものかと悩んでいたら、リュカが急に小屋の奥をガサゴソと探し始めた。
「そういえばね、おばあちゃんが昔、"外で欲しいものがあったら使いなさい"って、キラキラしたのくれたことあるんだ! それ使えば小麦粉も貰えるんじゃない?」
「へぇ、どんなの?」
「えっとね……これ!!」
満面の笑みで差し出されたのは、分厚い金色の硬貨だった。しかもひとつではなく、ざっと十枚ほど。
「これ、使えるかな?」と無邪気に尋ねるリュカに、私は盛大に頭を抱えた。
この大金貨、見るからに古い時代のものだ。
現在流通しているものとは刻印が違う。
古い大金貨は金の含有量が多く、通常の倍の価値があるとされている。
銀貨一枚ですら平民四人家族が一週間食べていけるレベルなのに、それを換金していくと……リュカの持ってきた大金貨一枚で、下手すると一般家庭の年収を簡単に上回る。
「リュカ、これね……ものすごくお金持ちしか使わないお金なの。こんなの市場で出したら、店の人が腰抜かして、そのあとお役人様が来て、最終的に私が焼かれるわ」
「えっ!? アリシアが焼かれちゃうの!?」
「うん、カリッとジューシーに丸焼き」
「やだーー!!」
しょんぼりしてしまったリュカの頭を撫でながら、私は考える。
この金貨を両替商に持ち込めば、まず間違いなく通報されるだろう。
こんな高額かつ出所の怪しい金貨を持ち込んだ日には、正体がバレるのも時間の問題だ。
ならば、もっと控えめに、目立たずに資金を得る手段が必要だ。
思いついたのは、自由市。
大きな町では毎月何度か、町の広場で定期的に開かれる催しである。
外部の商人や旅人も参加する、だれでも参加可能な市であり、私のような「見つかりたくない存在」が紛れ込んでも、不自然には思われにくいはず。
売る物はジャム。それと、森で採れるマジックベリーや果物類ぐらいか。
あまり大きな金額にはならないだろうが、小麦粉やバターなどが、嗜好品程度あればいいのだからそう無理をする必要もない。
もちろん、それまでに身元を隠すための変装や準備も必要だ。
自由市でうまく立ち回って、目立たずに必要なだけのお金を手に入れる。
それが今のところ、最も現実的な選択肢だろう。
しょんぼりしていたリュカの頭をもう一度くしゃくしゃに撫でてやりながら、私は心の中で決意を固めた。
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