瑞原大学物語 ~ボクと狐ちゃんのほのぼのキャンパス生活~

みやび

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入学式と新歓活動とお花見 7

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一心不乱に稲荷寿司を食べるクーちゃんを眺めていると、ボクたちが来た道に人影が見えた。先ほどから話題に挙がっていたサラナさんだろうか。

「あ、来た来た。サラナー、こっちこっち」
「あれ?」

塗々木さんが声をかけたサラナさんは、野球のユニフォームを着たマッチョの人だった。どこかで見たような気がする、というかさっきボクが変なサークルに絡まれていた時に助けてくれた人だった。

「初めましてサラナさん。先ほどはどうもありがとうございました」
「ああ、さっきの子か。あの後変なのに絡まれなかった?」
「はい、大丈夫でした」
「何、知り合いだったの?」
「ここのサークルのブースに来る前に、変な人たちに絡まれた時、助けてくれたんですよ」
「助けたっていうほどでもないけどな」
「あ、先ほどは自己紹介していませんでしたね。鈴木翔、といいます。ショウと呼んでください」
「石紅更科(いしべにさらな)。種族は鬼だ、よろしく」
「ボクは、普通かどうかはわかりませんが、人間です」

手を差し出されたので握り返す。ごつごつした強そうな手だった。野球部というより格闘家という感じである。すごく強そうだった。鬼といわれてよく見ると、確かに頭に角が一本生えている。さっきは気づかなかったのだが、あれが鬼のあかしということなのだろうか。

「自己紹介ついでにそういえば、ショウちゃんってなんで結界とかに引っかからなかったの?」
「あー、それですか」
「おい、クー。あんまりそういうセンシティブなこと、真正面から聞くなよ」
「別にいいですよ塗々木さん。聞かれて困ることは何もありませんから。何でも聞いてください」
「じゃあショウちゃん、スリーサイズ教えて」
「……」

満面の笑みをボクに向けるクーちゃん。ボクも笑顔を返すと、その笑顔を脇で抱え込んだ。ヘッドロックである。ついでにその狐耳もいじってやる、触ると案外ゴワゴワしていた。猫ちゃんのほうが触り心地がよかった気がする。

「いたい、頭われる!!!」
「割れてしまえー!!!」
「だって何でも聞いていいって!!!」
「セクハラはダメです!!!」
「……でも、この頬に当たる感じ、私のほうが大きい気がする…… いたいいたいいたい!!!!」
「……クー、しばらく見ない間に残念になったな」

しみじみと石紅さんはつぶやいた。石紅さんも塗々木さんも、クーちゃんと昔からの知り合いのようだが、昔はもっとクーちゃんは大人しかったのだろうか。

「まったく、セクハラはだめですからね。さてと、何を話しましょうか」

このままクーちゃんとじゃれていると話が一向に進まなそうだし、早々に開放する。ふぇー、と謎の鳴き声をあげながら、地面に伏すクーちゃん。かまってほしそうにこちらを見ているが、かまうと調子に乗りそうなので、まるっとスルーして話を進める。

「なんでもって言うなら、その銀髪の理由を聞いてもいいか?」
「これですか?」

肩口で切りそろえられた髪をくるくると指でいじる。銀髪というか白髪というかはその人の感性だろう髪の色だ。

「生まれつきか? それ。妖怪でもないのにその色は珍しい気がするからな」
「これ、地毛ですがは後天的なものですよ。」
「後天的?」
「去年の1月ぐらいのことですが、偶然龍が暴れている事故に会っちゃって……」
「去年、龍…… んー、記憶にないな。そんな大事故にあったなら大変だったろうに」
「大変どころじゃなかったですよ。致命傷です致命傷。すっごく痛かったんですから」
「なんというか、生きていてよかったな」

コンビニ帰りに家に帰ろうとしたら急に光がドカーン、で、もう血がドバドバでしたからね。痛いとかわけわからないうちに病院に運ばれた感じだった。受験直前だったが、当然重傷で試験なんて受けられなかった。

「それで、体だけじゃなくて、魂も傷がついたとかで、普通の治療じゃ死ぬっていう状態だったみたいです。それで、妖怪のお医者さんに治療してくれたんですが、そうしたらこうなりました」
「こうなった?」
「性別が変わって、銀髪になったっていうことですよ。体を隅々まで調べても、DNA調べても女性になっていましたから、本当に生命の神秘です」
「え!? ショウさん、もともと男だったの!?」

クーちゃんが驚きの声をあげる。そこのところ、よく考えたら説明してなかったね。

「礼儀正しそうなのに、所作が荒々しいというか、男っぽかったのはそのせいか」
「よく見ていますね。女性のしぐさって難しくて」

身についた日ごろの動きというのは早々変わるものではない。もっと練習してもよかったかもしれないが、なんせ受験生だったものだから、退院後は勉強優先でとてもそんな練習をしている暇はなかった。女の子になってから大勢の人がいる場所に出るのは、受験の時数回と今回ぐらいしかなかったし、どうにかなるかなと思っていたのだが、やっぱりよく見ている人が見るとわかるのだろう。

「何か困っていることがあるなら手伝うけど?」
「ありがとうございます塗々木さん。ガサツにみえるだけで特に困ってないですよ。すこしは女性っぽい所作をできるようになりたいですが」
「じゃあ私が教えるよ、手取り足取り」
「……」
「なんでサラナちゃんの後ろに隠れるの!?」
「貞操の危機を感じて。石紅さん頼りがいがあるし」
「おい、オリベ、この子とクーの間って何があったんだ? 妙にクーが懐いている気がするし、この子はこの子で楽しそうだしわけわかんね」

石紅さんが塗々木さんに不思議そうに尋ねる。石紅さんも塗々木さんも、よく他人を見ている人のようだ。それにしても、楽しそう、なのかなぁ。自分としては特に楽しいと思っていなかったのだが、他人がそういうならそうなのかもしれない。かわいい子に付きまとわれてうれしくない男はいないのだ。今は女だけど。

「クーがショウさんに一目ぼれしたらしいよ。それで、さっきからなんか思春期のド下手な迫り方をしているってわけさ」
「なるほど。気を付けろよクー。あんまり無理やり行くとけちょんけちょんに殴られるからな」
「やめてくださいよ。ボクが暴力的みたいな言い方」
「さっきだって、迷惑なイベントサークルの連中の手首と肋骨へし折って殴って黙らせていたじゃないか。鮮やかな手並みだったな」
「誇大広告反対で~す。手首を思いっきり殴ったけど関節だったから折れているわけないし、わき腹もろっ骨がないところ肘打ちしたからろっ骨も折れているわけないです~」
「やっぱりあれ、お前の仕業だったんだな」
「カマかけられた!」

周りに見えないようにこそっとやっていたのをスパッと忘れていた。
状況的にボクがやったとしか思えないだろうが、今の女性の外見ならごまかせるだろうと思っていたこともさっぱり忘れて、カマかけに引っかかったボクは飛んだ間抜けである。やはり探偵にはなれそうにない。

「格闘技かなにかやっていたのか? 手の感じからあまりそういうことやってなさそうに思えたのだが」
「ああ、前に柔道やっていました。あのころはもっと手もごつかったですよ。重量級でしたから、石紅さんぐらいの体格あったと思います」
「サラナちゃんの体格のショウちゃん…… 想像できない……」
「体重、当時の半分、とは言わないですけど三分の二ぐらいですからねー」
「……それはそれでありかも」
「塗々木さん、クーちゃんの脳内で、やっぱりボクが穢されているような気がします」
「クー、お前、前はもっとクソまじめだったと思うんだけど、なにかあったのか? 高校時代とか、浪人時代とか」

確かに見ている限り、クーちゃんの無意識のところの所作は非常に上品に洗練されている。見ている限り良いところのお嬢さんに見えるのだけれども…… 何か大学デビューしちゃったきっかけでもあるのだろうか。大学デビューといっても今日、大学初日だけれども。

「ふっふっふ、私は目覚めたのですよ、そう、漫画に!!」
「漫画って、俺が貸した奴か?」
「そう、サラナちゃんが、入院中貸してくれた漫画ですよ!! あれで私は目覚めたのです!!」

クーちゃんがおかしな子になった戦犯が見つかった。塗々木さんの石紅さんを見る目が冷たい。私も同じような目で見ていると思う。石紅さんは焦って言い訳をする。

「目覚めるったって、有名な少年漫画貸しただけじゃないか!! あれで何に目覚めるんだよ」
「インターネットでいろいろな漫画を買いあさって、いっぱい読みました。あれはいいものですね」
「お前去年受験生だっただろう…… よくそれで受かったな」
「入院してなきゃ普通に現役で受かっていたので、余裕だったのです」

ふふん、と鼻を鳴らしながら、稲荷寿司を食べるのを再開するクーちゃん。先輩たち二人は、あきれたようにその様子を眺めていた。
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