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【第3章】 氷の公爵家の奇跡、そして永遠の春へ
最終話 氷解ける場所
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結婚式から、さらに五年の月日が流れた。
かつて「不毛の凍土」と呼ばれた北の公爵領は、今や大陸有数の豊かな土地としてその名を知られていた。
整備された街道には、公爵家の紋章が入った馬車が列をなし、特産品の『久遠(くおん)の氷晶』で冷やされた新鮮な野菜や乳製品が、各地へと運ばれていく。
かつて寒さに震えていた領民たちは、今は活気に満ち、誰もが笑顔で働いている。
そんな領地を見下ろす丘の上に、幸せな笑い声が響いていた。
「パパ、見て見て! 大きいのができたよ!」
元気な声を上げたのは、六歳になったレオンだ。
背が伸び、ジークハルト様譲りの銀髪を風になびかせる彼は、小さな手のひらからキラキラと輝く氷の蝶々を作り出し、空へと舞い上がらせていた。
「おお、すごいぞレオン。魔力制御が完璧だ。蝶の羽の模様まで再現するとは」
「えへへ、すごいでしょ!」
「お兄様、すごーい! キラキラ!」
レオンの足元でパチパチと拍手をしているのは、三歳になる長女のミナだ。
私と同じ栗色の髪と、蜂蜜色の瞳を持つ彼女は、レオンの後ろをついて回るのが大好きなお兄ちゃん子だ。
「ミナも欲しい? はい、あげる!」
「わぁい! つめたーい!」
レオンが氷の蝶をミナの手に乗せると、ミナの手からふわりと金色の光が溢れた。
私の「魔力中和」の力を受け継いだ彼女の光が、冷たすぎる氷を優しく包み込み、決して溶けない不思議な宝石へと変えていく。
氷の魔力を持つ兄と、光の魔力を持つ妹。
二人は、私たち夫婦と同じように、互いの力を補い合う最高のパートナーに育っていた。
◇
「……良い眺めだな」
少し離れたベンチで、私とジークハルト様はその様子を眺めていた。
彼は穏やかに目を細め、私の肩を抱いている。
その目尻には、少しだけ笑い皺(じわ)が増えたけれど、私を見る瞳の熱さは出会った頃と変わらない――いや、それ以上に深くなっていた。
「ええ。……本当に、夢のようです」
私は、丘の下に広がる黄金色の麦畑と、子供たちの遊ぶ姿を交互に見つめた。
「あの吹雪の夜、ボロボロの格好であなたの屋敷に転がり込んだ時は、こんな未来が待っているなんて想像もしませんでした」
「私とて同じだ。……あの日の私は、ただ孤独に凍えていた」
ジークハルト様は、私の左手の薬指に輝く指輪に触れた。
「お前が来てくれたから、私の時間は動き出したんだ。……ありがとう、エリス。私を見つけてくれて」
「私の方こそ。……私を拾って、愛してくれてありがとうございます」
私たちは自然と顔を寄せ合い、子供たちに見つからないように、そっと口づけを交わした。
唇から伝わる温もり。
それは、どんな魔法よりも温かく、私の心を満たしてくれる。
「きゃー! パパとママがちゅーしてるー!」
「みちゃダメだぞミナ! ……でも、仲良しだね!」
子供たちに見つかってしまい、私たちは顔を見合わせて笑った。
ジークハルト様が立ち上がり、両手を広げる。
「さあ、お前たち。そろそろ帰ろうか。……今日の夕食は、ハンス特製のシチューだぞ」
「わーい! シチュー!」
「かえるー!」
レオンとミナが競うように駆けてきて、ジークハルト様の腕の中に飛び込んだ。
彼は軽々と二人を抱き上げ、「うむ、重くなったな」と嬉しそうに呟く。
私はその三人の背中を追いかけながら、空を見上げた。
北の空は高く、澄み渡っている。
冬は必ず春になり、氷はいずれ解ける。
けれど、ここで育んだ愛の結晶は、あの『久遠の氷晶』のように、決して溶けることなく輝き続けるだろう。
「エリス、早く! 置いていくぞ?」
「ふふ、待ってください!」
愛する夫が呼んでいる。
愛しい子供たちが笑っている。
かつて「捨てられ令嬢」と呼ばれた私は、今、世界で一番幸せな「氷の公爵夫人」として、この温かい場所で生きていく。
これからも、ずっと、永遠に。
かつて「不毛の凍土」と呼ばれた北の公爵領は、今や大陸有数の豊かな土地としてその名を知られていた。
整備された街道には、公爵家の紋章が入った馬車が列をなし、特産品の『久遠(くおん)の氷晶』で冷やされた新鮮な野菜や乳製品が、各地へと運ばれていく。
かつて寒さに震えていた領民たちは、今は活気に満ち、誰もが笑顔で働いている。
そんな領地を見下ろす丘の上に、幸せな笑い声が響いていた。
「パパ、見て見て! 大きいのができたよ!」
元気な声を上げたのは、六歳になったレオンだ。
背が伸び、ジークハルト様譲りの銀髪を風になびかせる彼は、小さな手のひらからキラキラと輝く氷の蝶々を作り出し、空へと舞い上がらせていた。
「おお、すごいぞレオン。魔力制御が完璧だ。蝶の羽の模様まで再現するとは」
「えへへ、すごいでしょ!」
「お兄様、すごーい! キラキラ!」
レオンの足元でパチパチと拍手をしているのは、三歳になる長女のミナだ。
私と同じ栗色の髪と、蜂蜜色の瞳を持つ彼女は、レオンの後ろをついて回るのが大好きなお兄ちゃん子だ。
「ミナも欲しい? はい、あげる!」
「わぁい! つめたーい!」
レオンが氷の蝶をミナの手に乗せると、ミナの手からふわりと金色の光が溢れた。
私の「魔力中和」の力を受け継いだ彼女の光が、冷たすぎる氷を優しく包み込み、決して溶けない不思議な宝石へと変えていく。
氷の魔力を持つ兄と、光の魔力を持つ妹。
二人は、私たち夫婦と同じように、互いの力を補い合う最高のパートナーに育っていた。
◇
「……良い眺めだな」
少し離れたベンチで、私とジークハルト様はその様子を眺めていた。
彼は穏やかに目を細め、私の肩を抱いている。
その目尻には、少しだけ笑い皺(じわ)が増えたけれど、私を見る瞳の熱さは出会った頃と変わらない――いや、それ以上に深くなっていた。
「ええ。……本当に、夢のようです」
私は、丘の下に広がる黄金色の麦畑と、子供たちの遊ぶ姿を交互に見つめた。
「あの吹雪の夜、ボロボロの格好であなたの屋敷に転がり込んだ時は、こんな未来が待っているなんて想像もしませんでした」
「私とて同じだ。……あの日の私は、ただ孤独に凍えていた」
ジークハルト様は、私の左手の薬指に輝く指輪に触れた。
「お前が来てくれたから、私の時間は動き出したんだ。……ありがとう、エリス。私を見つけてくれて」
「私の方こそ。……私を拾って、愛してくれてありがとうございます」
私たちは自然と顔を寄せ合い、子供たちに見つからないように、そっと口づけを交わした。
唇から伝わる温もり。
それは、どんな魔法よりも温かく、私の心を満たしてくれる。
「きゃー! パパとママがちゅーしてるー!」
「みちゃダメだぞミナ! ……でも、仲良しだね!」
子供たちに見つかってしまい、私たちは顔を見合わせて笑った。
ジークハルト様が立ち上がり、両手を広げる。
「さあ、お前たち。そろそろ帰ろうか。……今日の夕食は、ハンス特製のシチューだぞ」
「わーい! シチュー!」
「かえるー!」
レオンとミナが競うように駆けてきて、ジークハルト様の腕の中に飛び込んだ。
彼は軽々と二人を抱き上げ、「うむ、重くなったな」と嬉しそうに呟く。
私はその三人の背中を追いかけながら、空を見上げた。
北の空は高く、澄み渡っている。
冬は必ず春になり、氷はいずれ解ける。
けれど、ここで育んだ愛の結晶は、あの『久遠の氷晶』のように、決して溶けることなく輝き続けるだろう。
「エリス、早く! 置いていくぞ?」
「ふふ、待ってください!」
愛する夫が呼んでいる。
愛しい子供たちが笑っている。
かつて「捨てられ令嬢」と呼ばれた私は、今、世界で一番幸せな「氷の公爵夫人」として、この温かい場所で生きていく。
これからも、ずっと、永遠に。
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