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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)
13、それから数時間後のことである
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「こっちだよ」
そう言って響季が、ほとんどの生徒が帰った放課後の校舎を歩く。
その後を少し遅れて、冷たい廊下の床を零児が靴下しか履いてない爪先立ちで後をついてくる。他所の学校内を珍しそうに見ながら。
その足はしっかり響季の後をついてくる。
まるで自分にしか懐かない子猫のような足取りに、響季は嬉しくなる。
深夜にやや強い地震があった日の早朝。
零児は響季に今日の放課後遊ぼうとメールを送った。
だが送られた方はもふもふスフレをじっくり堪能するため、ケータイをマナーモードにしていて気付かなかった。
なかなかメールを返してこないのに焦れ、ようやく向こうが気づいた頃には、《おまえのがっこうになぐりこみにいく》という旨のメールを送っていた。
ただ逢いたいというそれだけの理由をどうにかごまかして。
響季はそれを、また何か面白いことをしたいのだと受け取った。
釘バットでも携えて来てくれるんじゃないかと。
バットは持ってこなかった可愛い子猫を引き連れながら、なんだか響季は今の自分達を学校の人間に見せびらかしてやりたい気持ちになった。
クラスの連中に見せびらかしたい。よその学校のこんな可愛らしい友達を。
だが中学と違い、学校が終わればさっさと高校生は帰るなり部活に行くなり遊びに行くなりで校内から消えてしまう。そこにどこかつまらなさを感じるが、
「まあ、関係性訊かれても困るかな」
そう口の中だけで響季が言う。
ふわふわした友達同志。
関係性を訊かれれば献結友達で、で済むが、二人はもっと踏み込んだ関係性であると自覚していた。
「ここです」
そんなことを考えている内に自分の教室に着いてしまった。
「かっきーは?」
零児が教室内もきょろきょろと見ながら言う。
ポスターを調達させたり、その見返りに自作フィギュアをくれたりした少年はいないのかと。響季と同じクラスだということは知っていたが。
「午後からサボって物産展行っちゃった。どっかのご当地ドーナツが売られてて、それがどうしても食べとうて食べとうてって」
「なんじゃそら」
そんなサボりの理由と、食欲に忠実な甘党男子を零児が笑う。
学校に来る前にスフレも食べたのに、昼からは物産展でドーナツを買うためにサボリ。
そんな楽しい少年ならますます会いたかったのだが、どうにもすれ違ってしまう。
「へえ」
残念がりつつも自分達しか居ない、がらんとした教室を零児が見回す。
机の配置、黒板、掲示物。
特に変わった様子はない。自分がいつもいる教室と大体似たり寄ったりだ。
特に面白いものも見つからないので、
「じゃあどうする?踊る?」
言って零児が早速その場でツイストを踏んでみせる。
教室後方は広くてダンスフロアには持って来いだった。
しゅっしゅと靴下で華麗にステップを踏むと、そのステップに響季はどこか既視感を覚える。
同時に、零児が同じ学校の同じクラスの女の子だったらどうだったろうと考えた。
きっと友達になって、いや最初は仲は良くなくて、こちらから言い寄ってやっと話してくれるぐらいで。
きっとすごく楽しくて、すごく大変だったろうなと考える。
一緒にお弁当を食べたり、今のように献結をする日やたまにではなく、放課後毎日遊んだり。
そんなことをツイストを踏む零児を見ながら穏やかな表情で考えてみる。
しかし当の本人はノリの悪い友人を見て、
「…響季のロッカーどれ?」
教室後方に並んだロッカーに視線を向ける。
「えっ?ああ、そこ。あああっ!」
響季が一つのロッカーを指すと、勝手に開けてガサガサガサっとガサ入れを開始する。
教科書やジャージ、マンガなどを物珍しそうに見ていく。
その姿を見ながら、なぜ零児は急に自分の学校に来るなんて言い出したのだろうと響季が考える。どうやら殴りこみが目的ではないようだ。
大きめな縦揺れ地震があった日。その放課後。
一瞬とはいえ日常が崩壊しそうになったことに不安を感じ、顔を見たいと言い出したのか。
鈍感な男子高校生ならいやいやまさかそんなと頭を振るところだが、そこは敢えて勘違いし、自惚れておくことにした。ちょうど自分も会いたいと思っていたからだ。
その間も零児はガサ入れを続け、
「おっ」
携帯ゲームを発掘した。SPIRITと呼ばれる中高生ゲーマーの必須アイテムだ。
「ああ、それ前にみんなで通信プレイする時に持ってきたやつ。そっか、そこにあったんだ」
「重っ!」
手にとった零児が大げさに、ずしーんと床スレスレまで落とすようなリアクションを取る。
今はもっと薄くて軽い最新機種が出ているが、零児が手にしているのはだいぶ旧型の分厚く重いやつだ。何しろ響季が小学生の頃に買ってもらったやつだ。
「いい加減持って帰んなきゃいけないんだけどなあ。っていうかもういらないかも」
今は最新機種を持っているので、響季としては古く重いのはもう処分したかったのだが、
「そうだ、良かったられいちゃんいる?」
目の前にちょうどいい貰い手がいた。
しかし零児からすれば太っ腹プレゼントではなく、なんだか押し付けられてそうな気がした。
「私ゲームしないし」
「ああ、そっか。でもそでフレも出来るよ?ソフト無くても」
「そでふれ?」
「うん。『袖触れ合うも他生の縁通信』」
SPIRITの通信機能で出来るそれは、通称そでフレと呼ばれ、アイムというプレイヤーの分身キャラを他のプレイヤーと交換出来るものだ。
この世知辛い世の中で見知らぬ人と一瞬とはいえ繋がりが持て、アイムには簡単なメッセージを言わせたり出来るのでなかなか楽しいものですぞと響季が説明する。
「充電器もあるし、いるなら持ってっていいよ」
「……売れば?」
「えっ!?でも欲しかったら、せっかくだし。売ってもいくらにもならないし。…いらない?」
おろおろしつつ言う響季に、零児が難しい顔をする。
零児はなんだかむずむずしていた。
旧式の携帯ゲーム機。
それは売ってもいくらにもならないもので、自分もそんなにはいらないもので。
なのに、そんなものでも響季がくれるとなると嬉しく思えてしまう。
おそらく今の零児ならあめ玉一つでも、有害図書に付いてきたおまけDVDでも響季がくれるものなら宝物のように感じるだろう。
「とりあえず充電しとくからさ。ああ、でも使えるかな。だいぶ電源入れてないし」
そんな怪しげなことを言いながら、響季が教室の壁際にあるコンセントに充電器のプラグを挿す。
そしてその場にあぐらをかき、SPIRITの電源が入るか確かめるが、その視界がフッと暗くなる。
顔を上げると、零児が見下ろしていた。
ひやりとした吸い込まれるようなアーモンドアイを見上げていると、あぐらをかいた足を跨ぐように、向かい合わせに座ってきた。
首元に抱きつかれ、顔が見えなくなる。
警戒する暇も与えず、有無を言わせない距離の詰め方。
相変わらず、彼女は猫のようにしゅるりと自分のテリトリーに入ってくるなと思いながら、響季が目の前の体温を抱きしめる。
息を吸い込むと、温度の低い甘い匂いが毒のように肺を満たす。
二人の間には匂いと暖かさと柔らかさしかない。それだけで充分なのだが。
そう言って響季が、ほとんどの生徒が帰った放課後の校舎を歩く。
その後を少し遅れて、冷たい廊下の床を零児が靴下しか履いてない爪先立ちで後をついてくる。他所の学校内を珍しそうに見ながら。
その足はしっかり響季の後をついてくる。
まるで自分にしか懐かない子猫のような足取りに、響季は嬉しくなる。
深夜にやや強い地震があった日の早朝。
零児は響季に今日の放課後遊ぼうとメールを送った。
だが送られた方はもふもふスフレをじっくり堪能するため、ケータイをマナーモードにしていて気付かなかった。
なかなかメールを返してこないのに焦れ、ようやく向こうが気づいた頃には、《おまえのがっこうになぐりこみにいく》という旨のメールを送っていた。
ただ逢いたいというそれだけの理由をどうにかごまかして。
響季はそれを、また何か面白いことをしたいのだと受け取った。
釘バットでも携えて来てくれるんじゃないかと。
バットは持ってこなかった可愛い子猫を引き連れながら、なんだか響季は今の自分達を学校の人間に見せびらかしてやりたい気持ちになった。
クラスの連中に見せびらかしたい。よその学校のこんな可愛らしい友達を。
だが中学と違い、学校が終わればさっさと高校生は帰るなり部活に行くなり遊びに行くなりで校内から消えてしまう。そこにどこかつまらなさを感じるが、
「まあ、関係性訊かれても困るかな」
そう口の中だけで響季が言う。
ふわふわした友達同志。
関係性を訊かれれば献結友達で、で済むが、二人はもっと踏み込んだ関係性であると自覚していた。
「ここです」
そんなことを考えている内に自分の教室に着いてしまった。
「かっきーは?」
零児が教室内もきょろきょろと見ながら言う。
ポスターを調達させたり、その見返りに自作フィギュアをくれたりした少年はいないのかと。響季と同じクラスだということは知っていたが。
「午後からサボって物産展行っちゃった。どっかのご当地ドーナツが売られてて、それがどうしても食べとうて食べとうてって」
「なんじゃそら」
そんなサボりの理由と、食欲に忠実な甘党男子を零児が笑う。
学校に来る前にスフレも食べたのに、昼からは物産展でドーナツを買うためにサボリ。
そんな楽しい少年ならますます会いたかったのだが、どうにもすれ違ってしまう。
「へえ」
残念がりつつも自分達しか居ない、がらんとした教室を零児が見回す。
机の配置、黒板、掲示物。
特に変わった様子はない。自分がいつもいる教室と大体似たり寄ったりだ。
特に面白いものも見つからないので、
「じゃあどうする?踊る?」
言って零児が早速その場でツイストを踏んでみせる。
教室後方は広くてダンスフロアには持って来いだった。
しゅっしゅと靴下で華麗にステップを踏むと、そのステップに響季はどこか既視感を覚える。
同時に、零児が同じ学校の同じクラスの女の子だったらどうだったろうと考えた。
きっと友達になって、いや最初は仲は良くなくて、こちらから言い寄ってやっと話してくれるぐらいで。
きっとすごく楽しくて、すごく大変だったろうなと考える。
一緒にお弁当を食べたり、今のように献結をする日やたまにではなく、放課後毎日遊んだり。
そんなことをツイストを踏む零児を見ながら穏やかな表情で考えてみる。
しかし当の本人はノリの悪い友人を見て、
「…響季のロッカーどれ?」
教室後方に並んだロッカーに視線を向ける。
「えっ?ああ、そこ。あああっ!」
響季が一つのロッカーを指すと、勝手に開けてガサガサガサっとガサ入れを開始する。
教科書やジャージ、マンガなどを物珍しそうに見ていく。
その姿を見ながら、なぜ零児は急に自分の学校に来るなんて言い出したのだろうと響季が考える。どうやら殴りこみが目的ではないようだ。
大きめな縦揺れ地震があった日。その放課後。
一瞬とはいえ日常が崩壊しそうになったことに不安を感じ、顔を見たいと言い出したのか。
鈍感な男子高校生ならいやいやまさかそんなと頭を振るところだが、そこは敢えて勘違いし、自惚れておくことにした。ちょうど自分も会いたいと思っていたからだ。
その間も零児はガサ入れを続け、
「おっ」
携帯ゲームを発掘した。SPIRITと呼ばれる中高生ゲーマーの必須アイテムだ。
「ああ、それ前にみんなで通信プレイする時に持ってきたやつ。そっか、そこにあったんだ」
「重っ!」
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今はもっと薄くて軽い最新機種が出ているが、零児が手にしているのはだいぶ旧型の分厚く重いやつだ。何しろ響季が小学生の頃に買ってもらったやつだ。
「いい加減持って帰んなきゃいけないんだけどなあ。っていうかもういらないかも」
今は最新機種を持っているので、響季としては古く重いのはもう処分したかったのだが、
「そうだ、良かったられいちゃんいる?」
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しかし零児からすれば太っ腹プレゼントではなく、なんだか押し付けられてそうな気がした。
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「ああ、そっか。でもそでフレも出来るよ?ソフト無くても」
「そでふれ?」
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SPIRITの通信機能で出来るそれは、通称そでフレと呼ばれ、アイムというプレイヤーの分身キャラを他のプレイヤーと交換出来るものだ。
この世知辛い世の中で見知らぬ人と一瞬とはいえ繋がりが持て、アイムには簡単なメッセージを言わせたり出来るのでなかなか楽しいものですぞと響季が説明する。
「充電器もあるし、いるなら持ってっていいよ」
「……売れば?」
「えっ!?でも欲しかったら、せっかくだし。売ってもいくらにもならないし。…いらない?」
おろおろしつつ言う響季に、零児が難しい顔をする。
零児はなんだかむずむずしていた。
旧式の携帯ゲーム機。
それは売ってもいくらにもならないもので、自分もそんなにはいらないもので。
なのに、そんなものでも響季がくれるとなると嬉しく思えてしまう。
おそらく今の零児ならあめ玉一つでも、有害図書に付いてきたおまけDVDでも響季がくれるものなら宝物のように感じるだろう。
「とりあえず充電しとくからさ。ああ、でも使えるかな。だいぶ電源入れてないし」
そんな怪しげなことを言いながら、響季が教室の壁際にあるコンセントに充電器のプラグを挿す。
そしてその場にあぐらをかき、SPIRITの電源が入るか確かめるが、その視界がフッと暗くなる。
顔を上げると、零児が見下ろしていた。
ひやりとした吸い込まれるようなアーモンドアイを見上げていると、あぐらをかいた足を跨ぐように、向かい合わせに座ってきた。
首元に抱きつかれ、顔が見えなくなる。
警戒する暇も与えず、有無を言わせない距離の詰め方。
相変わらず、彼女は猫のようにしゅるりと自分のテリトリーに入ってくるなと思いながら、響季が目の前の体温を抱きしめる。
息を吸い込むと、温度の低い甘い匂いが毒のように肺を満たす。
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