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第三回公演
10、人懐っこいおじさんと一見さんがログアウトされます
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次の踊り子さんは洋楽ナンバーと有名ハリウッド映画のサントラを繋ぎ合わせたステージだった。
見た目だけは色っぽいベリーダンス風衣装。
新人なのだろうか、動きも身体も表情も固い。
丁寧なステージではあったが、その前のステージに比べると嵐士にはほんの少しだけ退屈だった。
それから更に退屈な撮影ショーが始まった。
流行りの韓流男性ボーカルグループの曲が交互に流れる。
若い踊り子さんなのに、撮影希望者はあまりいない。
それでも並んでくれた客一人一人への丁寧な対応と必死さが伝わってきて、嵐士はなんだかいたたまれなかった。
「ちょっとごめんね。トイレ」
「はい」
隣の小太りおじさんが手刀を切りながらそう言い、嵐士は細い足を椅子の上で体育座りするようにしておじさんを通してやる。
なんとなくの話し相手も一旦ではあるがいなくなり、さてどうしようと周りを見回す。
そしていよいよ文庫本の出番かとバッグから取り出し、ページをめくるが、
「お兄さんごめんっ。ボク帰らなきゃっ」
「えっ!?」
慌てて戻ってきたおじさんが顔の前で手を合わせながら小声でそう言ってきた。
「なんか会社に急に呼び出されちゃってさあ。なんだよー。ごめんねっ、色々教えてあげたかったのに」
言いながらまた足を抱え込んだ嵐士の隣から慌ただしく自分のカバンを取り、中を確認する。
「はあ…」
それを見ながら嵐士は気の抜けた返事をする。
「若い子来るの結構珍しいからさあ、ちょっと嬉しくなっちゃって。ごめんね、ボク馴れ馴れしかったかな」
「全然っ、そんなっ」
教えてあげたかったという言い方に押し付けがましさはなく、漠然とただ仲良くなりたかった気持ちが感じられた。
なんだか申し訳ないなと思っていると
「そうだっ、お兄さんタバコ吸う?」
「えっ、ああ、はい」
吸うか吸わないかで言えば「吸える」だが、
「これあげるよ。封開いてるけどさっき開けたばっかだから、良かったら」
言っておじさんがカバンの中から真新しいタバコの箱を出す。
「あー…、はい」
差し出されるまま一緒に渡された百円ライターごと嵐士が受け取る。
「タバコ、ロビーでしか吸えないけど。ここの劇場、ロビーにも面白いもの結構あるよ。もう見た?」
「いえ…」
「あとこれっ、ロビーにもあるけど」
更におじさんは何やら小さく折りたたんだ紙をくれた。開いてみると香盤表と書かれていて、番号と踊り子さんの名前が書かれていた。
そういえばプログラム表みたいなものがロビーにあるので、一枚貰って持っておくと便利だと遥心が言っていた。
「はあ」
色々してくれたり教えてくれるおじさんに、嵐士は生返事しか返せない。
そうこうしているうちにおじさんはいよいよ帰り支度を済ませ、
「じゃあねっ。また会えるといいな」
「あのっ」
「ん?」
「……はい。またいつか」
「うんっ」
そう、嬉しそうに返事をしておじさんはばたばたと出て行った。
おじさんの笑顔はまた会えることより、また来てくれると嬉しいなと言っていた。この劇場か、あるいは別の劇場でもと。
嵐士は座ったまま会社へと向かうおじさんを見送った。
一期一会か、あるいは縁があればまた会えるかもしれない。
だがそれはまたこのような劇場に来ればだ。
この少しは面白い性風俗にハマるか、自分自身わからなかった。
そんな出会いと別れが狭い場内では繰り広げられていたが、そんなことは露知らずショーは進行していく。
次の踊り子さんはおそらく踊りも見せ方も上手い踊り子さんだった。
しかし使っている曲は甘く切ない男性ボーカリストの歌で、嵐士はそのボーカリストがあまり好きではなかった。
続く曲もベタな女性ボーカリストの曲。
目を引く芝居仕立てなショーではなく、最初に見たようなすごいポーズを決めていくスタイル。
リボンマンがリボンを投げるが、一度見てしまうともう慣れてしまった。
曲も含め、ことごとく趣味が合わない。
そのせいか評価が下がる。
頭の中でなんとなく容姿、構成、演出などを◎、○、△、×と評価していくが、○と△ばかりだった。
ぼうっと見てるうちに場内が明るくなり、撮影ショーとなった。しかし列の長さから時間がかかりそうだった。
劇場の売上に貢献すべく、あるいは客はお気に入りの踊り子がまた呼ばれるようにと列を作るが、
「…長そう」
撮影ショーはなかなか終わる気配を見せない。
手持ち無沙汰な嵐士は、おじさんが居なくなったことに寂しさを覚え、
「ふェっぷシュンっ」
本来の性別通りの、可愛らしい女の子くしゃみをした。
当然口元を両手で覆って。
可愛いくしゃみが突然聞こえ、すぐ近くにいたサラリーマンが驚いてこちらを見る。
だがそこにいるのはチャラチャラした男の子。
その視線に、嵐士は男装がバレそうになるのを誤魔化すため時代小説を取り出して読もうとするが、そういえばと貰ったばかりのタバコとライターを手に立ち上がる。
そのままロビーに向かった。
おじさんが言っていた面白いものが気になった。
見た目だけは色っぽいベリーダンス風衣装。
新人なのだろうか、動きも身体も表情も固い。
丁寧なステージではあったが、その前のステージに比べると嵐士にはほんの少しだけ退屈だった。
それから更に退屈な撮影ショーが始まった。
流行りの韓流男性ボーカルグループの曲が交互に流れる。
若い踊り子さんなのに、撮影希望者はあまりいない。
それでも並んでくれた客一人一人への丁寧な対応と必死さが伝わってきて、嵐士はなんだかいたたまれなかった。
「ちょっとごめんね。トイレ」
「はい」
隣の小太りおじさんが手刀を切りながらそう言い、嵐士は細い足を椅子の上で体育座りするようにしておじさんを通してやる。
なんとなくの話し相手も一旦ではあるがいなくなり、さてどうしようと周りを見回す。
そしていよいよ文庫本の出番かとバッグから取り出し、ページをめくるが、
「お兄さんごめんっ。ボク帰らなきゃっ」
「えっ!?」
慌てて戻ってきたおじさんが顔の前で手を合わせながら小声でそう言ってきた。
「なんか会社に急に呼び出されちゃってさあ。なんだよー。ごめんねっ、色々教えてあげたかったのに」
言いながらまた足を抱え込んだ嵐士の隣から慌ただしく自分のカバンを取り、中を確認する。
「はあ…」
それを見ながら嵐士は気の抜けた返事をする。
「若い子来るの結構珍しいからさあ、ちょっと嬉しくなっちゃって。ごめんね、ボク馴れ馴れしかったかな」
「全然っ、そんなっ」
教えてあげたかったという言い方に押し付けがましさはなく、漠然とただ仲良くなりたかった気持ちが感じられた。
なんだか申し訳ないなと思っていると
「そうだっ、お兄さんタバコ吸う?」
「えっ、ああ、はい」
吸うか吸わないかで言えば「吸える」だが、
「これあげるよ。封開いてるけどさっき開けたばっかだから、良かったら」
言っておじさんがカバンの中から真新しいタバコの箱を出す。
「あー…、はい」
差し出されるまま一緒に渡された百円ライターごと嵐士が受け取る。
「タバコ、ロビーでしか吸えないけど。ここの劇場、ロビーにも面白いもの結構あるよ。もう見た?」
「いえ…」
「あとこれっ、ロビーにもあるけど」
更におじさんは何やら小さく折りたたんだ紙をくれた。開いてみると香盤表と書かれていて、番号と踊り子さんの名前が書かれていた。
そういえばプログラム表みたいなものがロビーにあるので、一枚貰って持っておくと便利だと遥心が言っていた。
「はあ」
色々してくれたり教えてくれるおじさんに、嵐士は生返事しか返せない。
そうこうしているうちにおじさんはいよいよ帰り支度を済ませ、
「じゃあねっ。また会えるといいな」
「あのっ」
「ん?」
「……はい。またいつか」
「うんっ」
そう、嬉しそうに返事をしておじさんはばたばたと出て行った。
おじさんの笑顔はまた会えることより、また来てくれると嬉しいなと言っていた。この劇場か、あるいは別の劇場でもと。
嵐士は座ったまま会社へと向かうおじさんを見送った。
一期一会か、あるいは縁があればまた会えるかもしれない。
だがそれはまたこのような劇場に来ればだ。
この少しは面白い性風俗にハマるか、自分自身わからなかった。
そんな出会いと別れが狭い場内では繰り広げられていたが、そんなことは露知らずショーは進行していく。
次の踊り子さんはおそらく踊りも見せ方も上手い踊り子さんだった。
しかし使っている曲は甘く切ない男性ボーカリストの歌で、嵐士はそのボーカリストがあまり好きではなかった。
続く曲もベタな女性ボーカリストの曲。
目を引く芝居仕立てなショーではなく、最初に見たようなすごいポーズを決めていくスタイル。
リボンマンがリボンを投げるが、一度見てしまうともう慣れてしまった。
曲も含め、ことごとく趣味が合わない。
そのせいか評価が下がる。
頭の中でなんとなく容姿、構成、演出などを◎、○、△、×と評価していくが、○と△ばかりだった。
ぼうっと見てるうちに場内が明るくなり、撮影ショーとなった。しかし列の長さから時間がかかりそうだった。
劇場の売上に貢献すべく、あるいは客はお気に入りの踊り子がまた呼ばれるようにと列を作るが、
「…長そう」
撮影ショーはなかなか終わる気配を見せない。
手持ち無沙汰な嵐士は、おじさんが居なくなったことに寂しさを覚え、
「ふェっぷシュンっ」
本来の性別通りの、可愛らしい女の子くしゃみをした。
当然口元を両手で覆って。
可愛いくしゃみが突然聞こえ、すぐ近くにいたサラリーマンが驚いてこちらを見る。
だがそこにいるのはチャラチャラした男の子。
その視線に、嵐士は男装がバレそうになるのを誤魔化すため時代小説を取り出して読もうとするが、そういえばと貰ったばかりのタバコとライターを手に立ち上がる。
そのままロビーに向かった。
おじさんが言っていた面白いものが気になった。
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