昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

11、面白いものあるからロビーとかにも行ってみましょうってば

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 来た時は素通りだったロビーだが、おじさんが言う面白いものとは一体なんなのか。
 嵐士が年季の入ったロビーを見回す。

「これじゃあ、ないよな」

 やたら値段の高い酒の自販機ではなさそうだ。その隣に、

「おっ」

 腰ぐらいまでの棚にズラリと漫画本が並んでいた。
 全てに透明なカバーが掛けられ、劇場のシールと持ち出し厳禁の文字。
 よく見ると棚の上には、

〈こちらの読み物は劇場にお越しいただいた皆様に読んでいただきたくご用意しました。お客様からの寄贈品もあります。劇場内でのみお楽しみください〉

という良心に訴えかける注意書きも貼られていた。
 とりあえず《おいでませ  ストリップティーズ》というタイトルの漫画を手に取り、

「うおっ」

 いかにも昭和タッチの表紙にまずおののき、ページをめくると同じようなタッチの絵が目に飛び込んでくる。
 内容も温泉街でのお座敷ストリップや、踊り子が生殖器を使った芸を見せたりと昭和テイスト溢れるストリップ物語だ。
 そして毎回客とねんごろになっている。

「ふむ」

 こってりした絵柄をパラパラと飛ばし読みし、他には何があるのかと見ていくと同じようにストリップを扱った漫画や、あるいは中途半端な巻数の漫画がちらほらとある。
 更に文庫本やハードカバーの小説もあった。
 当然というか官能小説もある。
 裏表紙には簡単な内容が几帳面な文字で綴られたシールが貼られていた。文字だけだがこちらもストリップを扱ったものらしい。
 付箋をされたものをそのページで開くと、該当箇所が出てくる。
 短編集のうちの一つがストリップを扱ったものだったり、 そういった描写がちょっとだけ出ても細かに拾っているらしい。

「すごいな…。おっ」

 これだけ集めるのは大変だったのではないかと思いながら目を下の棚に向けると、ビデオテープやDVDもあった。
 それも手に取り、ケースを開けてみるが、

「あら」

 中身は空だった。
 本来ソフトが収まっている場所には、

〈こちらはケースのみです。中身はビデオ店などでお借りになるか購入をお願いします〉という説明書きが貼られていた。

「えー?あー、でも…、へえー…。あれ!?この女優さん……、へえー」

 拍子抜けするがケースだけでもなんとなく楽しめた。
 知ってる女優さんが乳房も露わに写っていたりしてあらあらまあとなったりする。

「うんしょっ」

 しゃがみこんでいた姿勢から立ち上がり、視線を上げると、

「わ」

 壁にはパネルが飾られていた。
 当劇場がドラマに登場しました!というテンションの高い文字とともに。

「へえーっ」

 ドラマはタイトルだけはなんとなくだが聞いたことがある気がした。
 確か夜11時台くらいにやってるような、少しお色気要素のあるドラマだったはずだ。
 作中の映像を引き伸ばしたようなパネルがいくつも飾られていたが、女優さんが踊るシーンのパネルは紛れもなく先程見たステージで、劇場の看板は少しもじってダンデライオンというかわいい名前になっていた。
 更に、近隣にある他の劇場が映画の撮影に使われたという紹介もある。
 よその劇場なのにまるで自分のことのように、テンション高く嬉しそうな文面で。

「これって、」

 それらを見て、嵐士には例のハキハキ青年が思い浮かんだ。
 彼の仕事だろうかと受付の方を見るが、席を外しているのか今は居ない。

「……すごいな」

 おじさんが言っていた面白いものを改めて見る。
 そこはまるで小さな資料館だった。
 出来うる範囲で様々な分野から、ストリップという文化を今に伝えようとしていた。
 そんな熱意は一体どこから、と思うが、

「…っと」

 それより、今は気になるものがあった。
 というより先程から視覚に、そして聴覚にも訴えかけていた。
 ミニ四駆が走るようなシャーという音と、ロビーに置かれたソファーに身をちぢこませるように座るガタイのいい男性。
 傍らには大きなランドリーバスケット。
 リボンマンだ。
 自分が珍しそうにロビーのお宝を眺めているのを横目で観察していたのを嵐士は知っていたし、嵐士も彼が黙々と作業をしているのを横目で見ていた。
 彼はランドリーバスケットの中にある投げて伸びきったリボンを、何やら先端が尖った工具のようなもので巻いていた。

 彼が自分の存在を意識しているのは嵐士もわかる。そしてそれは無視することも出来た。
 それでも、嵐士は一旦離れた場所で貰ったタバコに火をつけ吸ってみせた。
 何の脅しにもならないだろうが、ツラはあまっちょろいかもしんねえがタバコくらい吸うんだぜという意味くらいは込めて。
 そして、まだ長いタバコを灰皿に押し付け、近づいて男の作業を間近で見てやる。
 二人の間に緊張感のようなものが生まれ、

「これ、なにしてるんですか」

 口火を切ったのは嵐士だった。
 相手にされないかなと思ったが、

「…リボンを巻いている」
「へえ」

 作業をしながら男は答えてくれた。
 もったりとした握りに金属の長い棒がついた、たこ焼きをひっくり返す器具みたいなもので長い布を巻き取りながら。
 嵐士はまた気の抜けた返事をする。
 投げたリボンを巻いて次に備えているようだが、要はオタクがライブの合間にサイリウムの準備をしているようなものだ。
 それっきり会話もなく、男の作業を見ていると、

「君は」
「はい」
「…ストは初めてか」

 男が訊いてきた。
 男の口調が、どこか無理してるような、使いなれてない口調のような気がしつつ、

「ええ、そうです」

 ストってストリップのことだよな、学生運動じゃなくてと思いつつ、そう嵐士が答えると、

「だろうな」

 男が自嘲気味に笑う。

「舞織(まおり)姐さんは、初めての客には優しいんだ。だから、オープンでは初めての客には、ああいういじりをする」

 そんな独り言のような言葉を聞き、嵐士が頭の中で情報を結合していく。
 まおりねえさんというのは最初に見た、おそらく信玄餅姐さんのことだ。
 あの信玄餅衣装を思い出し、笑いがぶふっと喉まで溢れかえりそうになるが嵐士は堪える。
 そして考える。
 要は、彼は嫉妬してるのではと。

 リボンは応援したいという踊り子さんに客が自主的にするものらしいと遥心が言っていた。
 それを聴いて、いわゆるアイドルファンがサイリウムを振ったり、イントロでのミックスコールや歌声が聞こえないほどのオイオイコール、一般人が引くほどの雄叫びなどかと考えた。
 愛情はともかく周囲にとっては迷惑この上ないというのはこの際横に置いておく。
 男はリボンを投げるほどあの踊り子さんにご執心で、その踊り子さんが若くていかにも初めてそうな小僧客にサービスしたのに嫉妬しているようだ。

 もしそうだとしたらと考え、嵐士が心の中で笑う。
 性別を跨いでも若さを妬まれるとは思わなかった。
 だが詩帆も、いや詩麻呂も言っていた。
 男の若い男に対する嫉妬は、女のそれと変わらないと。
 なので、

「ああ、そうなんですかぁ。ちょっとびっくりしちゃって。なんだそっかあ」

 その洗礼に対し、ただただ驚いたと嵐士は言っておく。
 初めてだからボク驚いちゃいましたと。
 その言い方に男は一度目をぱちくりさせ、 だろうなと少し勝ち誇った顔で言う。
 そんな、まだひよっこ客をばかにするような態度に、やっぱわかっちゃうんだあなどと言いながら嵐士はあごを意味なく撫で、

「ああいうのされたらまた来たいなって思いますよね」

 その言葉に男がぴくと肩を震わせ、見上げてくる。
 そして睨み付けてくるが、

「友達とかにもこんなんされちゃったすごいよ今度一緒に行こうよって言って、友達誘ってまた来て、その子たちもまた面白いねってなって、それを知り合いとかに言ってお客さん連れてきて」

 そう、嵐士が一気に言った後。

「そういうのを狙った営業だったんですよね?さっきのは」

 ダメ押しのにこやかな笑顔を向ける。
 特別なのではない。ただ客を増やしてくれそうな客への営業だと解釈してみせた。
 だがそれでは踊り子さんの優しさは否定される。
 男は憤慨したような顔をし、

「違うっ!姐さんはっ」
「でも来ても常連さん怖かったらみんな来ないかなー」

 今度はこちらが独り言のように言いながら、タバコを取りだし火をつけ、二、三度吸う。
 古参ファンがにわかを締め出すのはどこの現場も変わらない。
 男はそれを聞き、しまったという顔をする。
 怖い常連とは自分かと。
 姐さんの営業行為をふいにしてしまったと。
 その表情の変化を感じながら、

「それって」

 嵐士がランドリーバスケットの中を指差す。
 えっ、とそちらに視線を移す男に、

「茹でた太麺、ザルにあげたみたいですね」

 そうにこやかに言った。
 そして、もう終わるかなーと言いながらあっけにとられている男を残し、もうひと吸いすると嵐士はタバコを灰皿に押し付け場内へ戻った。
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