昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

12、こちらが暫定一位かもしれぬ

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 常連とのプチ戦闘を終え、嵐士が場内に戻ると、次の踊り子さんのショーが始まった。
 流れてきた曲に、ん?とライトが激しく点滅する場内を見上げる。この曲はと。
 流れてきたのは、ゲーム オールアバウト コードナンバー0091主題歌 『ZEEBRA RAINBOW』だった。
 嵐士には縁遠い、パソコンゲームの主題歌というタイアップだったが、歌っているのがアニソン界の女帝と言われるほどの人だったのと、彼女らしい疾走感のある曲なのでおのずと知っていた。
 クールで風格漂う歌声は、この歳でこれだけロックを歌いあげる女性シンガーは日本にいないのではないかと思うほどだ。

 ライトが付くと、両手に持った拳銃を交差して構え、中央舞台に立っていた踊り子さんが顔をあげた。曲の歌い出しとともに銃口を客席に向ける。
 一瞬にして観客を惹きつけ、虜にしたのが嵐士は身をもってわかった。
 豊かな胸を強調する黒のぴったりしたノースリーブに、アースカラーのショートパンツ、黒のショートブーツという、ちょいエロ女エージェント風衣装。腿にはベルトが巻かれ、数本のナイフが差してあった。張りのある引き締まった太ももがかっこいい。
 髪は無造作に結ったポニーテール。
 その姿でアクション女優ばりのガンアクションを披露する。
 腰のガンホルダーに銃を入れ、本舞台でバク転。最近の映画でよく見る銃の横撃ち。架空の物陰に隠れながら素早く弾を補充。陰から腕だけを出した牽制撃ち。サビでは身体を横軸回転しながら四方八方に銃を撃つ。
 女エージェントが次々に仮想敵を倒していく。

 途中で銃を構えたまま、仮想敵の動きを見ようと息を整える。谷間のある胸が呼吸とともに上下し、そこには女性にしか出せないかっこよさがあった。
 曲終わりで客席に背を向けて立つと、ポニーテールを解き、髪をわしゃわしゃとかき回す。次に流れてきた曲に、嵐士が鼻をすん、と鳴らす。


 流れてきたのは、アニメ 万華鏡Stage 主題歌 『stigma NOIR』だった。
 ロックな女帝にしては珍しい、デジタル系ダンスナンバーだ。
 踊り子さんがガンホルダーをぞろりと外し、舞台端に用意していた籐椅子に置く。
 更に身軽になろうとノースリーブの前のファスナーを一気に開けると、下に着ていたバンドゥが見えた。
 しっかりとした体幹でリズム良く踊る。合わせてライトもクラブ仕様の演出になる。
 アクション女優が一転して、ダンスフロアで踊るカッチョイイお姉さんになった。
 脱いだノースリーブを椅子の背に引っかけると、曲が変わった。


 ガールズパワー、なんて二十歳を越えれば恥ずかしくて言えないが、それでも呼応してしまうサウンド。
 流れてきたのは『亜熱帯フェスタ!!』だった。
 アニソン界の女帝の一声により、客、出演者、バンドメンバー全てを女性限定で行ったアニソンイベント。
 流れてきたのはそのテーマ曲だった。
 イベント自体はどうやらそういうのをやるらしい、ぐらいにしか情報を得ていなかったが、一時期イベント告知CMがテレビで深夜バンバン流れていたのでかろうじて曲は知っていた。
 可愛いボイスのアイドル声優ガールたちと、イケメン過ぎるアニソンシンガー姉さん達が入れ替わり立ち替わり入り乱れて歌う曲を、踊り子さんが半裸をくねらせて踊る。
 嵐士の身体が勝手にリズムを刻みだす。歌詞を口ずさみながら手拍子をする。

 おそらく何の曲かわかってない常連客が、場内後方でうるさいぐらいにタンバリンを叩く。
 そうなるとやはり最後は、と嵐士が予想を立てる。
 ここまで女帝メドレーで固めてきたのだから、最後はどう来るかと。
 踊り子さんが男前にバンドゥを脱ぎ去ると、胸筋に支えられた形のいい胸が露わになった。
 ホックを外したショートパンツを舞台にすとんと落とし、足首に絡まったそれをヒールリフトの要領で宙に蹴り上げキャッチする。
 ショートパンツの下には何も身につけていなかった。生殖器を隠すための下生えも。
 脱ぎ去ったものをまたしても籐椅子に置き、中央舞台に進むと踊り子さんが膝を抱いて座る。


 最後の曲は、『バージニアス』だった。
 そう来たかと嵐士は脚を組み直し、身を乗り出す。
 バージニアスはアニメのタイアップではなく、アニソン系音楽ダウンロードサイトのCMソングだった。
 女帝はその歌声の力強さから特撮ソングを歌うこともあった。
 蘭が見ていた深夜特撮でも彼女の歌が起用され、更に番組スポンサーがダウンロードサイトだったためそのCMソングはよく耳にしていた、
 踊り子さんが後ろ髪をかき上げ、客席に向けて汗に濡れた艶っぽいうなじを見せる。あれだけの殺陣をやってのける、綺麗に引き締まった裸身を見せられ、それだけで観客からは、ほうっ、と溜め息が漏れた。

 サビでは柔軟性とバランス感覚を駆使したポーズを決めていった。
 CMソングらしくサビの盛り上がりはキャッチーだ。
 だが15秒の枠からはみ出さんばかりの切なさがある。
 歌声に後押しされたのか、場内からは観客の数が少ないにも関わらず、しっかりとした拍手が送られた。
 衣装は全て脱いでいたが、腿に仕込んだベルトナイフは巻かれたままだ。
 ライトの光を受けてナイフがきらきらと硬質に、かつ柔らかく反射する。
 埃っぽい場内、妖しいライト、スモーク、魅せるステージに対して少な過ぎる客。
 嵐士はふと、ラーメン屋で作法を教えてもらった時に遥心が言っていたことを思い出した。

 ストリップのそのほとんどのステージは映像には残らない、ナマモノだと。
 見ている人、客の記憶にしか残らない。
 あのコのステージは良かったよという客同士の口伝えはあるだろう。
 下世話なスポーツ新聞のストリッパーインタビューで、このコのステージは良いという記事が載ることもあるだろう。
 だがいくら情報化社会とは言え、この閉じた劇場で起きている感動は外部には伝わらない。
 見ている客のほとんどが、これがアニソンだなんて気づかない。
 合わせて文化としては着実に廃れていっている。
 儚い、なのにこんなにも不思議な多幸感がある。
 嵐士はなんだか夢の中にいるような、フワフワとした気分を味わっていた。


 
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