73 / 139
第三回公演
13、差し入れは お気持ちだけで 結構です (5、7、5)
しおりを挟む
フワフワしたままステージが終わり、撮影ショーが始まった。
「…あ、そうか。これ」
嵐士が暇つぶしにアニメショップでの収穫物を見ていると、ちょうど貰ってきたフリーペーパーの中に、女帝の特集記事が載ったものがあった。
ニ年ぶりにアルバムを出すため、巻頭特集でロングインタビューが掲載されていた。
表紙も相変わらずな年齢不詳の麗しいお姿で飾っている。
「……よしっ」
撮影客ににこやかに対応する踊り子さんをちらりと見ると、それを持って嵐士は撮影ショーに初参加してみた。あくまで暇つぶしに、記念に。
これは差し入れではないと言い聞かせて。
まだ今日一番よかった踊り子とは言えない。
彼女の好きそうなものをたまたま持っていたからあげる。ただそれだけだ。
「衣装の方よろしいですかー。脱いじゃいますよー」
「あっ」
しかし自分への言い訳に気をとられているうちに、踊り子さんは衣装を脱いでしまった。かといって今更衣装で、と手を挙げる勇気もない。
仕方なく衣装無し、全裸撮影の列に並ぶと、
「わっ、おはようございますぅ」
一見さん風の若い客に踊り子さんがテンション高めに対応してくれる。
ステージでのかっこよさとは裏腹に、ぱあっと華が咲いたような明るさのある踊り子さんだった。
「あのこれ、ここ来る前にえじ星雲で貰ってきたやつなんですけど、良かったら」
そう言ってフリーペーパーを差し出すと、
「わあ!えーっ!?ありがとう!わー!えー?すごいねー!え、知ってて?」
「いえ、偶然。来る前貰ってきたら表紙で、で、あの、ステージ見たら曲使われてたんで」
否定するようにパタパタと体の前で嵐士が両手を振る。
表紙が女帝なのを見て、踊り子さんは自分の出し物に女帝の曲を使っているからわざわざ持ってきてくれたのかと訊くと、嵐士はたまたま、偶然だと言う。
だがステージで使っていたのが女帝の曲だと目の前の若いお客さんは、嵐士は知っていた。
全てを言わずとも通じ合えることに踊り子さんが嬉しそうにし、
「えじ星雲なんてここらへんにあった?」
更に踊り子さんが嵐士の言ったアニメショップの名前に反応する。
えじ星雲はアニメ、ゲーム、声優グッズを扱うショップだが、
「最近、エキナカに出来て」
嵐士が利用した駅名をあげる。詳しい店舗の場所も。
「へえーっ!あんなとこに出来たんだーっ!あたし結構あそこ通るのに、いつも下ばっか見て歩いてるからわかんなかったよー。へえーっ!」
踊り子さんの自虐ネタに、近くにいた常連客が笑う。フリーペーパーを渡すと、踊り子さんはその場でじっくり読み始めてしまった。
「深亜華(みあか)ちゃん、楽屋で楽屋で」
そう常連客にツッこまれ、
「あっ、そっか」
いっけね☆と自分で頭を小突きながらぺろっと舌を出してみせる。
「ありがとう。後で読むね」
踊り子さんの横に置かれた差し入れの山を見ると、高そうなお菓子やお花などが並んでいた。対してこちらは無料のフリーペーパーだ。嵐士は少し申し訳ないような気持ちになり、同時にお金をかけずに喜ばれるプレゼントが贈れたことを誇らしく思った。
「ポーズどうします?こんなんとか、こんなんとかありますけど」
M字開脚やL字開脚、おしりを向けた四つん這いになって後ろの排泄穴を見せるポーズをしてみせるが、
「2ショットってお願いできます?」
せっかくなので一緒に写っている記念写真風にしたかった。
「はい、もちろん」
踊り子さんが承諾し、
「お願いできますか?」
二人のやりとりを微笑ましそうにニコニコ見守っていた常連客にカメラを渡す。
嵐士が舞台端に、プールサイドにでも上がるようにひょいと腰掛けると、踊り子さんが後ろから抱きしめてきた。むきだしの柔らかな胸が背中に当たり、少し鼓動が高鳴る。
感触にではなくバレないかという緊張だ。
それを悟られまいと口許で裏ピースをすると、踊り子さんが、あれ?と何かに気付いた。
抱きついた若い男の子の骨格、匂い、妙な胸板の厚さ、柔らかさに。そして違和感のある髪質に。
一度身体を離すと、嵐士の顔を真正面からまじまじ見つめ、あれ?女の子?と、小さな声で訊いてきた。
営業スマイルと営業ボイスではない、きょとんとした顔と素のトーンの声が可愛い。嵐士が同じく小さな声で、はい、と肯定すると、
「なんだぁ!えっ?なんで?」
「なんでって、えーと…、パーティーの帰りで」
「パーティー!?えー?そうなんだーっ。すごいねーっ、全っ然わかんなかったあ!」
なぜ男装してるのか訊かれ、パーティー帰りと答えると踊り子さんは納得した。
なぜかこの言い訳はどこでも通用した。
チャラ男君ではなく女の子だと知るや、踊り子さんは両手を取り、へえ~すごいね~などと言いながらまじまじ見つめたりしてくる。
そして最後は嬉しそうに正面から抱きついてきた。
「のおぉーっ」
びっくりして嵐士が変な声を上げる。
更に踊り子さんは柔らかな頬に唇を押し付けてきて、
「おおーあっ」
そのまま手でカメラを構えた常連客に、撮れ撮れ、と煽る。
変な声を出した顔のまま、嵐士はシャッターを切られた。
「あああ、ありがとうございました」
戸惑いつつも、ま、まあ面白い記念写真が撮れたからいいかと頭を下げる。
「ううん、またきてね。あっ、サインは?」
「あー、欲しい、です」
「へへへ、よしよし」
踊り子さんはくしゃくしゃと嵐士の頭を撫で回すが、ウイッグがズレる!とビクっとするのに気づき、ああ、ゴメンゴメンと笑いながら謝る。
その後はもう一度両手でしっかりと握手してくれた。
全てを終え、嵐士が常連さんに会釈すると、温度のない嫉妬の目でこちらを見ていた。
「…あ、そうか。これ」
嵐士が暇つぶしにアニメショップでの収穫物を見ていると、ちょうど貰ってきたフリーペーパーの中に、女帝の特集記事が載ったものがあった。
ニ年ぶりにアルバムを出すため、巻頭特集でロングインタビューが掲載されていた。
表紙も相変わらずな年齢不詳の麗しいお姿で飾っている。
「……よしっ」
撮影客ににこやかに対応する踊り子さんをちらりと見ると、それを持って嵐士は撮影ショーに初参加してみた。あくまで暇つぶしに、記念に。
これは差し入れではないと言い聞かせて。
まだ今日一番よかった踊り子とは言えない。
彼女の好きそうなものをたまたま持っていたからあげる。ただそれだけだ。
「衣装の方よろしいですかー。脱いじゃいますよー」
「あっ」
しかし自分への言い訳に気をとられているうちに、踊り子さんは衣装を脱いでしまった。かといって今更衣装で、と手を挙げる勇気もない。
仕方なく衣装無し、全裸撮影の列に並ぶと、
「わっ、おはようございますぅ」
一見さん風の若い客に踊り子さんがテンション高めに対応してくれる。
ステージでのかっこよさとは裏腹に、ぱあっと華が咲いたような明るさのある踊り子さんだった。
「あのこれ、ここ来る前にえじ星雲で貰ってきたやつなんですけど、良かったら」
そう言ってフリーペーパーを差し出すと、
「わあ!えーっ!?ありがとう!わー!えー?すごいねー!え、知ってて?」
「いえ、偶然。来る前貰ってきたら表紙で、で、あの、ステージ見たら曲使われてたんで」
否定するようにパタパタと体の前で嵐士が両手を振る。
表紙が女帝なのを見て、踊り子さんは自分の出し物に女帝の曲を使っているからわざわざ持ってきてくれたのかと訊くと、嵐士はたまたま、偶然だと言う。
だがステージで使っていたのが女帝の曲だと目の前の若いお客さんは、嵐士は知っていた。
全てを言わずとも通じ合えることに踊り子さんが嬉しそうにし、
「えじ星雲なんてここらへんにあった?」
更に踊り子さんが嵐士の言ったアニメショップの名前に反応する。
えじ星雲はアニメ、ゲーム、声優グッズを扱うショップだが、
「最近、エキナカに出来て」
嵐士が利用した駅名をあげる。詳しい店舗の場所も。
「へえーっ!あんなとこに出来たんだーっ!あたし結構あそこ通るのに、いつも下ばっか見て歩いてるからわかんなかったよー。へえーっ!」
踊り子さんの自虐ネタに、近くにいた常連客が笑う。フリーペーパーを渡すと、踊り子さんはその場でじっくり読み始めてしまった。
「深亜華(みあか)ちゃん、楽屋で楽屋で」
そう常連客にツッこまれ、
「あっ、そっか」
いっけね☆と自分で頭を小突きながらぺろっと舌を出してみせる。
「ありがとう。後で読むね」
踊り子さんの横に置かれた差し入れの山を見ると、高そうなお菓子やお花などが並んでいた。対してこちらは無料のフリーペーパーだ。嵐士は少し申し訳ないような気持ちになり、同時にお金をかけずに喜ばれるプレゼントが贈れたことを誇らしく思った。
「ポーズどうします?こんなんとか、こんなんとかありますけど」
M字開脚やL字開脚、おしりを向けた四つん這いになって後ろの排泄穴を見せるポーズをしてみせるが、
「2ショットってお願いできます?」
せっかくなので一緒に写っている記念写真風にしたかった。
「はい、もちろん」
踊り子さんが承諾し、
「お願いできますか?」
二人のやりとりを微笑ましそうにニコニコ見守っていた常連客にカメラを渡す。
嵐士が舞台端に、プールサイドにでも上がるようにひょいと腰掛けると、踊り子さんが後ろから抱きしめてきた。むきだしの柔らかな胸が背中に当たり、少し鼓動が高鳴る。
感触にではなくバレないかという緊張だ。
それを悟られまいと口許で裏ピースをすると、踊り子さんが、あれ?と何かに気付いた。
抱きついた若い男の子の骨格、匂い、妙な胸板の厚さ、柔らかさに。そして違和感のある髪質に。
一度身体を離すと、嵐士の顔を真正面からまじまじ見つめ、あれ?女の子?と、小さな声で訊いてきた。
営業スマイルと営業ボイスではない、きょとんとした顔と素のトーンの声が可愛い。嵐士が同じく小さな声で、はい、と肯定すると、
「なんだぁ!えっ?なんで?」
「なんでって、えーと…、パーティーの帰りで」
「パーティー!?えー?そうなんだーっ。すごいねーっ、全っ然わかんなかったあ!」
なぜ男装してるのか訊かれ、パーティー帰りと答えると踊り子さんは納得した。
なぜかこの言い訳はどこでも通用した。
チャラ男君ではなく女の子だと知るや、踊り子さんは両手を取り、へえ~すごいね~などと言いながらまじまじ見つめたりしてくる。
そして最後は嬉しそうに正面から抱きついてきた。
「のおぉーっ」
びっくりして嵐士が変な声を上げる。
更に踊り子さんは柔らかな頬に唇を押し付けてきて、
「おおーあっ」
そのまま手でカメラを構えた常連客に、撮れ撮れ、と煽る。
変な声を出した顔のまま、嵐士はシャッターを切られた。
「あああ、ありがとうございました」
戸惑いつつも、ま、まあ面白い記念写真が撮れたからいいかと頭を下げる。
「ううん、またきてね。あっ、サインは?」
「あー、欲しい、です」
「へへへ、よしよし」
踊り子さんはくしゃくしゃと嵐士の頭を撫で回すが、ウイッグがズレる!とビクっとするのに気づき、ああ、ゴメンゴメンと笑いながら謝る。
その後はもう一度両手でしっかりと握手してくれた。
全てを終え、嵐士が常連さんに会釈すると、温度のない嫉妬の目でこちらを見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる