昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

14、地元の人が勧める汚くて安くて臭くて美味しい良い店

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 そんな、アクシデントのようなハプニングのようなものもあったが、

「進行の都合により、フィナーレはカットとなります」
「ぇー?」

 いい声の場内アナウンスに嵐士が小さく残念そうな声を上げる。
 遥心からフィナーレとやらは楽しいから絶対見た方がいいと言われていたのに。
 だが、撮影ショーなどで進行が押せばカットになることもある、だから見たいなら早い回に行けとも言われていた。
 その忠告が的中してしまった。

 そして香盤が一巡し、トップバッターの信玄餅姐さんのステージとなった。
 顔はよくよく見ると唇は赤くぽってりとしていて、その上にある大きな瞳からは眼光が狭い場内にビームのように出ていた。
 その大半が化粧によるものだ。
 おそらく素顔は今とは似ても似つかないだろう。
 間近で逢ったとしても気づかないくらい。
 しかしうまく化けたことによって産まれた気迫みたいなものはある。

 とはいえステージは。
 悪くはないが、一貫してなんとなくルーチンとしてこなしているようなショー。
 それを、そんなにいいものかなあと常連の態度を思いだしつつ嵐士がショーを見る。リボンマンは再びそれに華を添えていた。
 大丈夫だろうがまた絡まれたらたまらないと、ロビーへ出た。
 劇場のブログによるとこの後は全員ずっと同じ出し物らしい。
 ならばいっそ帰ってしまおうかとも嵐士は思った。だが、

「あ、そっか。ダメだ」

 サイン写真を頼んでしまったことを思い出す。確か預かってもらって次回来た時に受け取ることも出来るらしいが、次回なんておそらく無い。
 どうしようかと考え、

「あのー」
「ハイッ!お帰りですかっ?」

 ロビーに出て、何やら作業をしていたハキハキ青年に声を掛ける。

「じゃなくて。ええと、外出?を」
「ハイッ、外出ですねっ。チケットはございますかっ?」

 渡した半券に従業員が何やら時間を記入し、

「あと、それから」
「ハイッ!」
「ココらへんでご飯屋さん無いですか?安くて美味しくて、混んでない店がいいんですが」

 返してもらった半券を受け取りつつ、嵐士が訊いてみる。
 ここで働いてるならそういう店を知っているかなと。

「安くて美味しくて混んでない、ですか?ええーとぉー」

 少し難しい注文に首をひねり、

「あと汚い店」
「汚い店?ええっとおおお」

 更に難しい注文に青年は首をひねりまくる。食が細いか、食自体に興味が無さそうだ。
 彼が脳内で一生懸命近くの店を検索していると、

「どうした?」

 奥から飲みかけの缶コーヒーを片手に、別の従業員が顔を出した。少し強面の、髪を短く刈ってTシャツの袖を捲った、兄(あに)ィといった感じの従業員が。
 低く落ち着いたトーン、なのにどこか清涼感のようなものを感じる声。
 場内のアナウンスはこの人かと思い、

「安くて美味しくて混んでなくて汚いご飯屋さんってココらへんにないですかね」

 嵐士が同じ質問をしてみる。
 こちらは見た目からしてガツガツ系というか、期待出来そうだったが、

「んー…」

 兄ィ従業員は一度缶コーヒーを飲み、しばし考えると、

「ラム肉って食える?」
「らむにく…」
「ジンギスカンとか、羊系」
「あーっ、はい。わりと好きです」
「だったらここ出てずっと道行くとコンビニがあるから、そこの隣の店がそんな混んでないかな。そこのラム肉定食が安くて旨いんだけど」

 指で宙を指し、道を説明しながら兄ィが言う。
 自分の味覚にはあまり自信がないような口ぶりで。だがそれが逆に信用に値した。
 嵐士はその店に決めた。

「なるほど。ちょっと行ってみます」
「いってらっしゃい」

 行ってきますと敬礼ポーズをしてみせると、兄ィが笑顔で送り出してくれた。思った以上に人が良さそうだ。
 それを見て、二、三歩進んだ嵐士はくるっと振り返り、

「もし、美味しくなかったら?」

 ちょっと意地悪な顔でそう訊いてみた。
 ええっ?と兄ィが困り笑顔で驚く。
 そして、

「そうだなあ…。じゃあ、まずかったら缶コーヒーでもおごってやるよ」

 そんな、大したことのないおごりアイテムに、逆に嵐士はこれは旨いに違いないと確信した。

「絶対ですねっ」
「おう」
「じゃあ行ってきますわ」




 それから数分後。

「うまっ。うんまああ」

 教えられたご飯屋さんで、嵐士はラム肉定食に舌鼓を売っていた。
 豚や牛とも違う、肉の噛みごたえ。
 羊特有のほどよい臭みとクセは、ふだん食べない分イレギュラーな美味しさがあった。
 独特なタレを吸ったたっぷりのもやしも美味しい。

「あーっ。旨かった」

 ご飯もおかわりし、常連を真似して残った汁を無料の生卵とともにじゅぶじゅぶの卵かけごはんにして腹に収めると、

「……なんか、甘いもの」

 急にデザートが食べたくなった。それも冷たくて甘いやつだ。

「ソフトクリームとか食いたいなー」

 美味しくてクセのあるラム肉をさっぱりバニラで洗い流したい。

「どっかあるかな。ああ、でもコンビニとか」

 嵐士が頭の中で劇場に行くまでの道、ここに来るまでの道を辿る。
 コンビニアイスが候補にあがったが、ここは繁華街だ。
 お店のおねーちゃんたちに差し入れ出来るような、コジャレたアイス屋くらいないのだろうかと考え、

「すいません」
「あいよっ」
「あの、ココらへんでアイス食べれるところって無いですか」
「ああ?アイスぅ?」

 調理中の店主に訊いてみると、なんだあ?そりゃあという反応を返された。
 それに嵐士が気圧されるが、

「コンビニのじゃダメなの?」

 二人の会話を聞いて男性客がそう割り込んできてくれた。

「ソフトクリームが食べたいんですけど」
「コンビニでも今ソフトのやつ売ってるっしょ。機械とかのやつじゃなくても」
「まあ、そうなんですけど」

 結局そうなるかと諦めかけていると、

「あれ?カドんとこになんか出来なかったっけ。甘いやつ売ってる店」

 また別の、シュっとしたスーツ姿の客が話に入ってきた。

「あれちげーだろ。なんとかいう、クリームブユエの店だろ」
「おやっさん、言えてねえし」
「うるせいな。ブユエだろ」
「ブリュレだよ」
「だからブユエだろっ」
「だから言えてねえって」
「ああ!?」

 そんなスーツ客と店主のやりとりを嵐士は笑いながら聴いていたが、目当ての物はなさそうだ。
 だが、

「あれ?」

 会話に出てきた単語に嵐士が引っかかる。

「最近出来た店って、もしかしてクリームブリュレ専門店の」
「ああ、そうだよ。確か海外から来た店で」

 そう訊くと店主のブリュレの発音を突っつくスーツ客が、記憶を手繰りながら教えてくれた。

「そっか…」

 やはりそうだった。
 雑誌で見たことがある。
 ブリュレもだが、確かコーヒーも美味しい店と紹介されていた。
 同時に、これならいいんじゃないかという思いがむくむく湧いてくる。
 これなら喜んでもらえるんじゃないかと。

「ありがとうございますっ。おじさんっ、お勘定っ」

 そしてそう元気に言って勘定を済ますと、嵐士はブリュレ専門店へと向かった。
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