昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

16、自分が行ったことある場所がテレビに映ると興奮する

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「じゃあ結構楽しめたんだ」
「結構っていうか相当だよ。めちゃくちゃ楽しかった!」

 最近見つけた大学近くのラーメン屋にて。蘭ちゃんは初ストリップ観劇の報告をしていた。
 現地で食べたラム肉定食の旨さも交えつつ。

「で、その教えたがりおじさんが最後タバコくれて。ロビーとかもすごく凝っててさ」
「へー」

 そんな二人の耳に、そのニュースは飛び込んできた。

「続いてのニュースです。白昼堂々の逮捕劇です。本日正午頃、」

 アナウンサーが歯切れよくそう言い、原稿を読み上げる。

「区にあるストリップ劇場ライドオンタイムが公然わいせつの疑いで警視庁に摘発されました」

 聞こえてきた劇場の名に蘭が振り向く。
 店の天井近くに設置されたテレビでは、見覚えの有り過ぎる建物の外観が映しだされていたが、

「あっ!」

 遥心も思わず声を上げる。
 ビルから突き出た看板。
 テレビに映っているのはまさに今蘭が話をしていた、ストリップ劇場 ライドオンタイムだった。

「ライドオンタイムでは不特定多数の客に対し、女が下半身を露出させていた疑いが持たれています。また、客に女の下半身の写真を撮影させるなどして金銭のやり取りをしていたとのことで、従業員二人と経営者の男、写真を撮影させていた女と客の男数名を現行犯逮捕しました」

 そんなことをアナウンサーが読み上げる中、映像では警察官に脇を固められ、一見すると強面の男性が建物から出てきた。
 見た目は怖いが憔悴したような顔で。

「あーっ!」

 蘭が声を上げる。
 強面兄さんに次いで眼鏡をかけた青年も出てきた。
 こちらは顔は強張っているが、眼鏡の奥からは周囲を睨みつけるような凛とした意志の強さが見えた。
 映像の下には彼らの名前がバッチリ出ている。

「兄ィ…」

 蘭は兄ィとハキハキ青年の名前を初めて知った。

「写真は一枚1000円程度で売り買いされていた模様で、」

 アナウンサーの声に合わせて画面では数枚の写真らしきものが映しだされていたが、その全てにモザイクがかけられていた。
 肌色の多い人間が何かポーズを取っていたり、座ったままM字に足を開脚しているようだがはっきりとはわからない。

「うわうわうわっ」

 更に蘭が画面を指差す。
 画面には踊り子たちの宣材写真が映しだされていた。
 その中には女帝の曲を使いまくってたあの踊り子さんもいた。
 写真の下におそらく彼女らの本名と実年齢らしき数字が括弧付きでテロップ表示されていた。
 あまりにひどい晒し方だ。だが、

「34歳!?」

 表示された年齢に蘭が驚く。
 女帝好き姐さんは見た目よりずっと歳がいっていた。この場合は褒め言葉だが。
 だがあのかっこよく筋肉のついた肉体は、年齢に逆らってつけたものにも見える。
 そんな、34歳妙齢女性が前科持ちになってしまった。
 あんないいものを魅せてくれた人が。

「さてこの季節に欠かせないのが、」
「ふあああー」

 ニュースが終わって、特集コーナーにさっくり切り替わるとテレビから向き直り、蘭が腕組みをして唸る。
 そして水を一口飲み、

「いや、すごいね」

 向かいに座る遥心に改めてそう言う。
 遥心も頷く。
 たった今話題にしていた場所がまさか摘発されるだなんてと。
 加えて蘭は、もしかしたら自分があの現場に居たかもしれないというヒヤヒヤ感があった。
 ヒヤヒヤ感以上にもったいなさもあった。
 ガサ入れからの逮捕劇なんてものを是非体験してみたかった。

「いやはや、うわあ」

 興奮が処理出来ない。
 しかし、

「営業停止って…」

 そう遥心が呟く。
 ニュースの中ではそう告げられていた。
 行政からのお達してで営業停止処分になると。
 その間おそらく劇場の収入はない。
 あの老人ホームのような客層の行き場はあるのか。
 タバコをくれ、優しくしてくれたおじさんはこのニュースを見てどう思うだろう。
 熱い興奮と引き換えに、冷たい現実を蘭が受け止めるが、

「っていうか公然わいせつって」
 
 その罪名に思わず笑ってしまう。
 ストリップが客にお裸を見せる場だなんて、そんなことわかりきっているのに。

「いや、下半身露出とかより写真がヤバいんだよ、確か今は。それでしょっぴける。お客さんも捕まってたでしょ?何人か。それ写真撮ってた人じゃないかな。だから、蘭ちゃんもひょっとしたら…」

 従業員と踊り子と、客数名が現行犯逮捕。
 日にちは違えど蘭も、嵐士も写真は撮っていた。遥心に忠告されていたにも関わらず。

「……ひゅぉおおおーう」

 寒風をその身に受けたように蘭が自分の腕を掻き抱く。
 やっべえ、あっぶねー、あぶなかったああと。
 ますますヒヤヒヤ感が煽られる。
 ますます危機一髪だった。
 ますますワクワクしてしまう。

「でも、昔の方がよっぽど過激なことをしてたってハルさん言ってなかった?今はむしろおとなしい方だって」
「たぶん、交通違反とかと一緒じゃない?点数稼ぎ。世間的にはいいことしてるってアピールできるしさ」

 心底嫌そうに遥心が言う。これだからお上はと。

「どれぐらいで営業再開出来るのかなあ」

 蘭が独り言のようにそう言うが、

「再開するより、そのまま潰れるってケースもあるかも…」

 遥心が告げた可能性に固まる。
 あんなにいい従業員さんとお客さんがいる劇場が、と。
 そうでない客も一部いたが。

「まあ、ならないかもだけど。あくまで可能性だけどさ。でもそうなったら…。ただでさえ今劇場どんどん潰れてるのに」

 固まる蘭に遥心が言うが、最後の方はため息混じりだった。
 かつてはあの楽しい空間に片足を突っ込んだ身だ。思うところが少しはあるのだろう。
 対して蘭は片足を突っ込み始めたばかりだが、

「…あ」

 そんな蘭が思い出す。
 劇場のサイトはどうなっているのか。あのブログはと。
 気になってすぐにケータイで調べてみた。
 そして従業員によるブログの最新記事を見ると、

「……うわ」

『ゼッタに居再開します舞っていたてください』

 件名もなしに、そんな言葉が綴られていた。
 大急ぎで最後の言葉を残したのだろう。
 いつものハキハキはなく、変換もミスっているがテレビで見た凛とした強さが伺えた。
 待っていて、がよりにもよって舞っていてになっていた。
 果報は踊りながら待てということか。
 再開の文字だけが奇跡的にミスっていない。
 奇跡というより執念か。

「はああー」

 ケータイ画面を閉じ、蘭がまた大きな溜息をつく。
 ほっといてもどうせ時代の波に押し流されてしまうのに。
 なのに更に追い打ちをかけるようなことをする。
 何時の世も、上の人間は弱い者いじめが大好きだ。
 そんな世の中で、自分にできることとは何だ。
 蘭の中で様々な思いが交錯し、

「はーあああ。おじさーんっ!」
「あいよー」
「ご飯追加ーっ!」
「あいよー」

 盛大なため息を付いた後、蘭は元気よく無料ご飯を注文した。そしてそれを残ったスープでワシワシ食べた。
 こんな時代では全てのことはもうどうしようもない。
 やるだけ無駄で、若造に出来ることも何もない。
 全てが大きな力によって流され、後先考えず駆逐されているのを眺めているしか無いのだ。

 ならば、タダ飯でも食わなければやってられなかった。
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