昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第三回公演

17、ふたりは二人三脚

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「あっちだ!」
「だからこっちだって!」
「えっ?そっち?」
「だーかーらぁー!出口が違うの!」

 方向音痴脳である遥心に、友人とはいえ嵐士はブチ切れそうになる。
 あらぬ方向へ進もうとするのを、なんとか食い止め先導する。
 が、遥心は出口が見えるとすぐそちらに進んでしまう。
 地図が読める彼女、詩帆がいないとこうも大変なのかと嵐士はウィッグをつけた頭を抱えた。


 二人はストリップ劇場 モダンシアター 銘寺(めいじ)劇場 へ向かっていた。 

 話は数時間前に戻る。



「叔父さん、おひさー」
「こんにちは」
「ああ、いらっしゃい。お友達?」
「はい」

 叔父が入院している病院へと二人はお見舞いにやって来た。
 入院してるとはいえ元気そうな嵐士の叔父に、遥心はホッとする。
 とはいえ家から電車、病院までの居心地の悪さは変わらない。
 呼びだされたのが急だったこともあり、今日の遥心は男装の域にまで達せずボーイッシュに留まっている。
 涼やかな一目まぶたは相変わらずクールだが、炭水化物抜きでの減量が間に合わず、仕上がりが不十分なため頬が丸っこい。
 おまけに今日は嵐士君自前の、実験的に脱色させたウィッグを付けさせられていたが、どうにもちぐはぐだ。
 クオリティの低いコスプレみたいで少し恥ずかしいのだが、叔父さんは聞かされていた通り格好について特に何も言わずニコニコしていた。

「まとめておいた?」
「うん。これ」

 嵐士に訊かれ、叔父が小さな紙袋を持ち上げる。小さいながらもそこそこ重量がありそうだ。
 何かいるものがあるかと電話で訊いたら、叔父は知り合いに差し入れで貰った小説やハードカバーの本が多くなったから一度家に持って帰って欲しいと言われたのだ。
 遥心はそれの持ち帰り要員として呼ばれた。あとは、その帰りにストリップを見に行くために。
 嵐士が持ってきた大きめのトートバッグに本類を入れる。
 これを叔父の家に持って帰るわけだが、

「家から持ってくるものは?買うものとか」
「無い、かな。結構足りてるし。買い物もそれなりに出来るし。あとこれも頼むね」
「あ、そっか。それもか」

 叔父がいくつものフルーツが入ったカゴを指差し、嵐士が思い出したように言う。
 フルーツなんて厄介なものを貰ってしまったため、これは嵐士の家に持って帰って家族で食べてくれと言われていたのだ。
 おおー、といかにも高そうなそれを二人が覗きこむ。



「よし、ここでいいか」

 叔父の家に着くと、嵐士がトートバックから本を紙袋ごと取り出し、居間の隅に置く。

「蘭ちゃん、コレさあ」

 次いで遥心が持ってきたフルーツ類を一度キッチンテーブルに置こうとするが、

「嵐士」
「ああ、アラシくん」
「はい。なあに?ハルくん」

 そう、お互いの男装ネームを確認しあう。
 どうでもいいことだが役に入りきるには必要なことだった。

「このフルーツ、踊り子さんにあげたらどうだろ」

 そう提案され嵐士がカゴを見る。
 マンゴーや洋なし、りんご、バナナなどがあるが、

「…………どれ?」
「どれだろ」

 どれを持っていけばいいかハルくんに問うが、ハルくんもわからない。

「全部?」
「いや、一人でこれ全部貰ったらさすがに迷惑じゃ…。前に嵐士くんがやったみたいに劇場側にあげる?」
「っていうかこれ全部持ってったらボクらがショー見るのに邪魔じゃない?あとあれは劇場側の人達がたまたまいい人達だったからあげたかったんだし」

 これから行く劇場がいい従業員さん達かは行ってみなければわからない。

「そうか。じゃあ、一個だけ」
「……どれ?」

 そしてまた先程と同じ会話に戻るが、やはりどれを持っていけばいいかわからない。

「マンゴー、かな」

 女性器を披露してお金を貰ってるならこれかなとハルくんが手に取るが、

「だったらバナナじゃない?」

 男性相手の商売だからと、嵐士は男性器に近い果物を手に取る。

「貰って嬉しいのはラ・フランス?」
「ラ・フランスはボクが…、というかお母さんに昨日言ったらラ・フランスは絶対貰って帰ってきてって言われてるから。ハルくんはどれ欲しいの?候補ある?」
「パイナップルとかはー…、無いのかー。マンゴー貰おうかなあ。じゃあ踊り子さんにはリンゴあげる?」
「えー?ありきたりじゃない?」
「じゃあ、」

 二人の視線は、同時にかごの中で鎮座まします小さめなメロン様に向けられた。
 そして-、





「だから出口違うって!」
「え?ホント?」

 ハルくんが方向音痴なせいで、劇場は駅の東口なのに南口から出てしまった。
 小さいとはいえバッグにはメロンが入っているので、重さに嵐士が苛立つ。さっさと劇場に行って荷物をおろしたいのにと。

「あれ?」

 しかしハルくんが出た先で何かを見つける。正確には駅前広場にいた集団を。

「なに?んん?」

 嵐士が視線の先に目を向けると、ピンと来るものがあった。正確には同じ匂いを嗅ぎ取った。
 小走りで近づくと何やらステージのようなものが見えた。その横には立て看板があり、

「うわ!そうかっ。今日だった!」
「誰か来るの?」

 ステージと人だかりを見て、後からついてきたハルくんが訊く。

「ギークスターボーイズが…」

 ギークスターボーイズは嵐士が好きな男装アイドルグループだった。
 今日これから彼らのライブイベントが行われるのだ。
 随分前から告知されていたが、地元からは遠いし学校もあるので諦めていたが。
 見れば平日にも関わらず、自分たちと同じように男装をした女の子達がいた。
 それ以外の、法被やライブシャツを着た子もいる。バンギャルのような子も。男の子やおじさんもちらほらとだがいる。
 そんなファンを視界の端で捉えつつ、

「そっか、いっぱい出るうちの一組なんだ」

 立て看板を見て嵐士がイベント内容を確認する。
 どうやら何組か他に出演者がいて、ギークスターボーイズはそのうちの一組らしい。
 確かに自分達が好きなアイドル以外のファン、別のアイドルグループの推しメンTシャツを着た子や何やらよくわからないバンドのツアーTシャツを着てる子もいる。
 タイムスケジュールによれば嵐士が好きなアイドル達が出るのは大分先だが、

「どうすんの?見るの?」

 予定を変更してこちらを見るのかとハルくんが訊いてくる。

「結構先だし。まあ、うまく中抜けするわ。ハルくんは?」
「…あっちのが面白かったら行かないかな」

 友達が夢中になるそんなに興味のないアイドルか、本日は面白いかわからないストリップ。
 両天秤に掛けてもどちらが上かハルくんにはわからない。


 一度広大な駅構内に戻り、南口から東口出口へ出るというかなり遠回りをして二人が来たのは、大通りの終わりにあるストリップ劇場だった。
 入り口の上にネオン管で作られたバニーガールが掲げられている。
 夜になれば下世話に、昭和の懐かしさすら漂わせて灯るのだろうと思いつつ嵐士はハルくんとともに中に入った。
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