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第三回公演
28、おぢさんとかいう可愛いらしい生き物
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「じゃあ、綾歌ちゃんは?」
「なんか急に飛んじまったらしくてよ。男だろどうせ」
「なぁんだよ。あのこいい子だったのになあ。笑顔も可愛くってさあ」
「季更紀ちゃんは?」
「あの子は田舎帰って見合いしたってさ」
「田舎?実家っつってなかったっけか」
「ありゃ、そうだっけか。とにかく結婚話が進んで嫁さんになったってよ」
「かーっ!嫁にストリッパーもらうなんざ大した旦那だなあ。客かあ?もしかして」
「踊り子だっつーの隠して近づいたんじゃねえのか?」
「踊り子が家庭なんて入れんのかねえ」
「いやあ、結局一番いいんだよ、そういうんが。そういうフツーのシアワセがさ、女には」
「あれは、昴留はよ」
「あの子はー、なんかやりたいことあるからって飛田だよ」
「なんだ、飛んじまったのか」
「飛んだんじゃなくて飛田。金貯めるとかなんとか」
「なんだ飛田の方か」
「まあ踊り子なんて今ジブン儲からねえしなあ」
そんな、ロビー代わりの喫茶店で常連らしきおじちゃん達が踊り子たちの近況について話していると、一人の客が入ってきた。
パッと見は悪ぶったオラオラ系ファッション。
だがキョロキョロと店内を見回す顔にはまだあどけなさが残る。
小動物が見知らぬ森に迷い込んでしまったかのような心細さも感じ取れた。
が、その瞳にはきちんと好奇心も宿っていた。
嵐士が古ぼけたドアを開けると、喫茶店と食堂のちょうど真ん中くらいの空間が広がっていた。
立派なカウンターとあまり立派ではないテーブル。
マンガが詰まった本棚と新聞が数紙。
壁際には不釣り合いなほど大きくて立派なテレビがあり、
「おっ、すごい…」
その映像を見て嵐士が驚く。
そこには劇場内の様子が生中継で映し出されていた。
ちょうど今はステージの端に踊り子さんが座り、衣装付きの姿で写真を撮られていた。
「へえー」
腕組みをし、嵐士がもの珍しそうに見る。
これなら休憩しながらにして次の演目がすでに見たものか、見たことがないものかわかる。
見たいものだったら数歩で場内にも戻れる。
「お」
更に嵐士はテレビ横に貼られた写真に目を奪われる。
そこではステージ写真が売られていた。
番号が振られた写真が壁に貼られ、近くのテーブルには鉛筆と紙の束が置いてある。どうやら購入希望者はこれに番号を記入し提出しろ、ということらしい。
ステージ写真なので当然衣装付きの写真や、ライトに照らされ全裸でポーズを決めた写真もある。汗で髪が額や背中に張り付き、芸術的でもありライブ感が滲み出たいい写真だ。
逆にあくまでステージ写真なので、いわゆるモロ出し写真はない。
「うーむ…」
買う気もないのにどれがいいか嵐士は選んでみる。
踊り子さんが舞台に登場してすぐの、綺麗に撮れている写真。
あるいは衣装付きで踊っている、躍動感あふれる写真。
あるいはほとんどの衣装を脱ぎ、片方の胸を鷲掴みにして客席を狩る者の目付きでぎらりと見つめている写真もいい。乱れた髪が胸元にかかり、ピンク色のライトと相まってとても妖艶だった。
ステージ終わりの、踊り子さん達が全員で撮った集合写真もあった。
フィナーレ後なのだろう、みんながステージ衣装とは違う、普段着やコスプレ衣装が入り混じった格好でカメラに笑顔を向けていた。
これだけお値段が高めだった。
その中でも嵐士は一枚の写真に目を奪われた。
観客の手を取り、半裸姿の踊り子さんが四つん這いのままそっと口づけている写真だ。
自身のステージ熱を纏ったまま、色っぽく目を伏せ、恭しく手の甲に口づけている。
舞台と客席との距離がほんの一瞬、ゼロになった写真だった。
そして客は女性だった。
顔は見えないが、おそらく若いお嬢ちゃんではない、仕事帰りと思しききちっとした髪と格好の。
斜め後ろから撮られたそれは、驚いたのか恥ずかしいのか女性客が反対の手をキャッと胸元に引き寄せていて可愛らしかった。
「これいいな…」
「一枚500円でーす」
「わ」
呟く嵐士に、近くにいたおじちゃんがそう声をかけてきた。
周りを気にせずじっくり見ていた嵐士を、近くにいたおじちゃん達、カウンターの中にいたマスター風のおじさんと同じくなぜかカウンター内にいる一般客風のおじちゃん、常連客らしきおじちゃん達が楽しそうに見ていた。
「兄ちゃん初めてか」
「ああ、はい」
「記念に買ってけよ」
「えっ?ええと…」
買う気もないのにカウンター内の謎のおじちゃんに言われ、どうしようと戸惑っていると、
「なにか頼むかい?」
助け舟を出すようにマスターが言い、壁に貼られたメニューを見る。
焼きそば、カレー、ラーメンと定番のものが並んでいた。
形に残ってしまう写真より、消えて無くなってしまうものの方がいいかと嵐士がそれを見ていく。
その中にあった、「ご要望があれば可能な限り何でも作ります」という張り紙を見て、
「…エスカロップって作れます?」
と、訊いてみた。無理を承知で。だが、
「えすかろっぷ?」
「なんだ。なんか栄養ドリンクみてえな名前だな」
予想通りというか、マスターとカウンター内にいる謎おじちゃんが揃って首を傾げる。
北海道のご当地グルメをリクエストしたのだが、どう説明しようかと嵐士が考えていると、
「おっ、ちょっと待て」
スマホを取り出して謎おじちゃんがネットで検索し始めた。見た目によらずハイテクおじちゃんだった。そして、
「おお。おーおー、なるほど。作れんじゃねえか?」
エスカロップがなんなのか理解し、無理ではないと言う。
「よっしゃ。じゃあ」
「えっ」
言って謎おじちゃんが張り切ってフライパンを取る。
明らかに従業員には見えない。
客が面白半分に厨房に立っているような雰囲気に、お前が作るんかいと嵐士は一瞬思うが、
「んっ?」
その視線がすぐに場内を生中継しているテレビ画面に向けられた。
ボリュームは絞られていたが、そこから微かに聞こえてきた曲は。
「え…」
まさか、という思いで聴覚を尖らせる。
ご当地廃遊園地ヒーロー あだチックランドガーディアンの曲ではないかと。
業績不振で廃墟となったものの、そのまま手付かずになっている遊園地。
それを今なお、地元のヤンキーや肝試しカップル、ヒッピーおじさんなど、様々な敵から守り続けているという悲しいご当地ヒーロー。
テレビ画面から流れているのは明らかにそれの挿入歌だった。
なんだこの選曲は、見たい、どんなショーなのか、どんな踊り子さんが選んだのか。
見たい、是非見たいッ!
「あのっ、ちょっと」
その思いが全身から溢れだし、急に嵐士がその場でジタバタしだす。
隣を指で指したり画面を指したり自分を指したりして。
「なんだ。見てえのか」
「はいっ、ちょっと、見てきていいすかっ」
「ああ、いいよいいよ。なんだオキニか」
「いや、あのっ」
そうかはわからないが自分の好きな曲が使われたショーなら見たかった。
「作っとくから見てきな」
「はいっ!」
おじさんたちに追い立てられ、嵐士はバタバタとロビー喫茶店を出て行った。
「なんか急に飛んじまったらしくてよ。男だろどうせ」
「なぁんだよ。あのこいい子だったのになあ。笑顔も可愛くってさあ」
「季更紀ちゃんは?」
「あの子は田舎帰って見合いしたってさ」
「田舎?実家っつってなかったっけか」
「ありゃ、そうだっけか。とにかく結婚話が進んで嫁さんになったってよ」
「かーっ!嫁にストリッパーもらうなんざ大した旦那だなあ。客かあ?もしかして」
「踊り子だっつーの隠して近づいたんじゃねえのか?」
「踊り子が家庭なんて入れんのかねえ」
「いやあ、結局一番いいんだよ、そういうんが。そういうフツーのシアワセがさ、女には」
「あれは、昴留はよ」
「あの子はー、なんかやりたいことあるからって飛田だよ」
「なんだ、飛んじまったのか」
「飛んだんじゃなくて飛田。金貯めるとかなんとか」
「なんだ飛田の方か」
「まあ踊り子なんて今ジブン儲からねえしなあ」
そんな、ロビー代わりの喫茶店で常連らしきおじちゃん達が踊り子たちの近況について話していると、一人の客が入ってきた。
パッと見は悪ぶったオラオラ系ファッション。
だがキョロキョロと店内を見回す顔にはまだあどけなさが残る。
小動物が見知らぬ森に迷い込んでしまったかのような心細さも感じ取れた。
が、その瞳にはきちんと好奇心も宿っていた。
嵐士が古ぼけたドアを開けると、喫茶店と食堂のちょうど真ん中くらいの空間が広がっていた。
立派なカウンターとあまり立派ではないテーブル。
マンガが詰まった本棚と新聞が数紙。
壁際には不釣り合いなほど大きくて立派なテレビがあり、
「おっ、すごい…」
その映像を見て嵐士が驚く。
そこには劇場内の様子が生中継で映し出されていた。
ちょうど今はステージの端に踊り子さんが座り、衣装付きの姿で写真を撮られていた。
「へえー」
腕組みをし、嵐士がもの珍しそうに見る。
これなら休憩しながらにして次の演目がすでに見たものか、見たことがないものかわかる。
見たいものだったら数歩で場内にも戻れる。
「お」
更に嵐士はテレビ横に貼られた写真に目を奪われる。
そこではステージ写真が売られていた。
番号が振られた写真が壁に貼られ、近くのテーブルには鉛筆と紙の束が置いてある。どうやら購入希望者はこれに番号を記入し提出しろ、ということらしい。
ステージ写真なので当然衣装付きの写真や、ライトに照らされ全裸でポーズを決めた写真もある。汗で髪が額や背中に張り付き、芸術的でもありライブ感が滲み出たいい写真だ。
逆にあくまでステージ写真なので、いわゆるモロ出し写真はない。
「うーむ…」
買う気もないのにどれがいいか嵐士は選んでみる。
踊り子さんが舞台に登場してすぐの、綺麗に撮れている写真。
あるいは衣装付きで踊っている、躍動感あふれる写真。
あるいはほとんどの衣装を脱ぎ、片方の胸を鷲掴みにして客席を狩る者の目付きでぎらりと見つめている写真もいい。乱れた髪が胸元にかかり、ピンク色のライトと相まってとても妖艶だった。
ステージ終わりの、踊り子さん達が全員で撮った集合写真もあった。
フィナーレ後なのだろう、みんながステージ衣装とは違う、普段着やコスプレ衣装が入り混じった格好でカメラに笑顔を向けていた。
これだけお値段が高めだった。
その中でも嵐士は一枚の写真に目を奪われた。
観客の手を取り、半裸姿の踊り子さんが四つん這いのままそっと口づけている写真だ。
自身のステージ熱を纏ったまま、色っぽく目を伏せ、恭しく手の甲に口づけている。
舞台と客席との距離がほんの一瞬、ゼロになった写真だった。
そして客は女性だった。
顔は見えないが、おそらく若いお嬢ちゃんではない、仕事帰りと思しききちっとした髪と格好の。
斜め後ろから撮られたそれは、驚いたのか恥ずかしいのか女性客が反対の手をキャッと胸元に引き寄せていて可愛らしかった。
「これいいな…」
「一枚500円でーす」
「わ」
呟く嵐士に、近くにいたおじちゃんがそう声をかけてきた。
周りを気にせずじっくり見ていた嵐士を、近くにいたおじちゃん達、カウンターの中にいたマスター風のおじさんと同じくなぜかカウンター内にいる一般客風のおじちゃん、常連客らしきおじちゃん達が楽しそうに見ていた。
「兄ちゃん初めてか」
「ああ、はい」
「記念に買ってけよ」
「えっ?ええと…」
買う気もないのにカウンター内の謎のおじちゃんに言われ、どうしようと戸惑っていると、
「なにか頼むかい?」
助け舟を出すようにマスターが言い、壁に貼られたメニューを見る。
焼きそば、カレー、ラーメンと定番のものが並んでいた。
形に残ってしまう写真より、消えて無くなってしまうものの方がいいかと嵐士がそれを見ていく。
その中にあった、「ご要望があれば可能な限り何でも作ります」という張り紙を見て、
「…エスカロップって作れます?」
と、訊いてみた。無理を承知で。だが、
「えすかろっぷ?」
「なんだ。なんか栄養ドリンクみてえな名前だな」
予想通りというか、マスターとカウンター内にいる謎おじちゃんが揃って首を傾げる。
北海道のご当地グルメをリクエストしたのだが、どう説明しようかと嵐士が考えていると、
「おっ、ちょっと待て」
スマホを取り出して謎おじちゃんがネットで検索し始めた。見た目によらずハイテクおじちゃんだった。そして、
「おお。おーおー、なるほど。作れんじゃねえか?」
エスカロップがなんなのか理解し、無理ではないと言う。
「よっしゃ。じゃあ」
「えっ」
言って謎おじちゃんが張り切ってフライパンを取る。
明らかに従業員には見えない。
客が面白半分に厨房に立っているような雰囲気に、お前が作るんかいと嵐士は一瞬思うが、
「んっ?」
その視線がすぐに場内を生中継しているテレビ画面に向けられた。
ボリュームは絞られていたが、そこから微かに聞こえてきた曲は。
「え…」
まさか、という思いで聴覚を尖らせる。
ご当地廃遊園地ヒーロー あだチックランドガーディアンの曲ではないかと。
業績不振で廃墟となったものの、そのまま手付かずになっている遊園地。
それを今なお、地元のヤンキーや肝試しカップル、ヒッピーおじさんなど、様々な敵から守り続けているという悲しいご当地ヒーロー。
テレビ画面から流れているのは明らかにそれの挿入歌だった。
なんだこの選曲は、見たい、どんなショーなのか、どんな踊り子さんが選んだのか。
見たい、是非見たいッ!
「あのっ、ちょっと」
その思いが全身から溢れだし、急に嵐士がその場でジタバタしだす。
隣を指で指したり画面を指したり自分を指したりして。
「なんだ。見てえのか」
「はいっ、ちょっと、見てきていいすかっ」
「ああ、いいよいいよ。なんだオキニか」
「いや、あのっ」
そうかはわからないが自分の好きな曲が使われたショーなら見たかった。
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