昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第二景

1、約束を果たしに来たぞ

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「しフォさんここ行きタイ!」
「もうちょいか…。んー?」

 台所でひよこ豆の戻し具合を見ていた詩帆に、同居人のシャオちゃん(仮名)がドタドタとタブレットPCの画面を見せてきた。

「なに?インスパイア店日本初上陸?」

 あのニンニクがっちょり、極太麺、濃厚豚骨醤油味でお馴染みの、日本のインスパイア系ラーメンに感銘を受けた外国人が本国に戻ってラーメン屋を開き、それの日本一号店が近々出来たという。
 かなり遠回りしての逆輸入か、と詩帆は思うが、

「ついでにココも行く!」

 そう言ってシャオちゃんが見せてきたのは、その店の近くにあるストリップ劇場のサイトだった。
 またかいと思ったが、そういえばスタンプラリーが途中だった。
 だが場所がかなり遠い。行くとなると結構な小旅行だ。

「うーん…」

 ワクワクした顔でシャオちゃんがお返事を待っている。
 以前のラーメンのリベンジもある。その顔を見るとダメとも言えず、

「まあ、いいでしょ」
「うっヒヒー」

 そうお許しを出すと、嬉しそうな声を上げてシャオちゃんはちたぱたリビングに戻っていった。
 それを見ながら、やれやれ、スタンプラリーの台紙はどこへ行ったかなと詩帆は考えていた。


「車で15分!?」

 観劇当日。そういえばと、電車の中でこれから行く劇場の詳しい位置をスマホで調べていた詩帆が驚く。
 あまりにも遠い。今までは駅前にある劇場がほとんどだった。劇場という言葉からするイメージとは違うイメージだったので、なかなか見つけられないことも多かったが。
 かなりバタバタな中での決行だったので下調べが不十分だった。
 ラーメン屋の半熟卵クーポンはきちんとチェックしていたのに。しかし、待てよ、と画面をスクロールさせると、

「やっぱり」

 思った通りの記載があった。シャオちゃんが画面を覗き込んでくる。

「ソゲイバス?」
「うん」

 劇場の公式サイトによると、最寄り駅から送迎バスが出ているらしい。御用の方は劇場までお電話を、と書いてある。
 かつて潰れた劇場を取材していた時もそういったサービスをしていたからもしかしてと思ったが、やはりあった。

「えっと」
 
 最寄り、と言いつつ劇場からかなり遠い駅前に降り立つと、詩帆がドキドキしながら電話を掛けてみる。

「はい、大墳(おおつか)演芸場でございますぅ」

 軽い感じの声の男性が出た。

「ええと、送迎、をお願いしたいんですが」
「はいはいはい、ありがとうございます。今どちらにおいでですか」
「駅前…、大墳駅前です」
「どちら口で?」
「南口です」
「ああ、それでしたらですねぇ、今から」

 今からどれぐらいで着くか、どういった車で行くか、お客様が何名か、どこらへんにいてくれなどを告げられ訊かれお願いされ、電話は切れた。
 詩帆がふうっと息をつくと、

「フーゾクの送迎」
「ね」

 シャオちゃんの言葉にそうだねと言う。それぐらい緊張した。頼んだことはないが。
 番号を登録しておこうかと思うが、どうせ一回きりだろうとしなかった。


 言われた時間になると、車体に大墳演芸場と書かれたマイクロバスがロータリーに入ってきた。

「あれかな」
「デスネ。アリャ?」
「え…、ええっ?」

 二人がバスに近づくと、ぞろぞろと、どこにいたのかおじいさん達がバスの方に群がってきた。まるで意志のないゾンビが吸い寄せられるように。
 運転手が降り、ドアを開けてどうぞどうぞと迎え入れると、おじいさん達が勝手知ったるといった感じで乗り込む。皆おなじみの客ばかりらしい。

「ああ、お電話いただいた」
「はい」

 その中にいた女性客二人に、運転手があなた方ですねと声をかける。

「ささ、どうぞどうぞ」

 そして殊更にこやかに車内へ迎え入れる。
 若い女性客に、おじいさん客が間違えて乗っちゃったんじゃという顔で見てくる。
 風俗というより、温泉施設への送迎。あるいは、このまま火葬場に行く親戚みたいな客層だった。


 周囲が田んぼや畑がほとんどの道を、マイクロバスは進み、

「お嬢ちゃん達初めてかい?」
「物好きだねえ。今時ストリップだなんて。ええっ?あっはっはっ!」

 物珍しさからか、案の定詩帆達は車内で爺様客達に声をかけられた。

「えっと、スタンプラリーを」
「スタンプラリー?」
「なんだ、電車のか」
「じゃなくて劇場の。いろんなストリップ劇場と提携してやってるスタンプラリーをやりに来て」
「なんだあ、そんなのやってたかいっ?」

 爺様が運転手兼劇場従業員に声をかける。

「ええ、やってましたよ。こっそりと」

 それに従業員が苦笑交じりで答える。やはりここでも流行ってはいないようだった。


 誰も押していないスタンプラリー台で ぉぉっか というスタンプを押し、二人は場内へと向かった。
 その週の大墳演芸場はオマツリショーと題したショーをやっていた。和洋問わず、お祭り的なショーを踊り子さんが披露するものらしい。
 詩帆達が入った時も、ちょうど踊り子さんがサンバの衣装で乳房まる出しでステージに立っていた。二人がそれを席に座りながらふむふむと見る。
 少し年のいった踊り子さんだった。更に激しく小刻みな腰の動きで、なぜか見ていて疲れた。

 次の踊り子さんはよさこいだった。イカニモなソーラン節ではなく、和楽器ロックといった感じの曲だ。
 尺八と唸るような女性ボーカルをうまくステージに絡ませている。

「タイミング良いね」
「ウム」

 小声で言う詩帆にシャオちゃんもですなと頷く。袴のポケットに鳴子をしまい、扇子を取り出す。
 一瞬の小道具交換。
 背中に背負った番傘を曲の展開に合わせ、ターンの勢いでバンっと開く。
 ほほお、と二人が感嘆のため息をつく。
 曲の掛け声に合わせて見得を切ってみせる。動きに一切の淀みがない。
 一つ前に比べるとこちらは見ていて気持ちがよかった。

 その後も阿波おどりありーの、花笠踊りありーの、東村山音頭ありーの、プリ尻女ふんどしありーの。


 そんな、楽しいショーも終わると。

「うーん…」
「このアト、全部イッショ?」
「みたい」

 カバンの中のスマホでこっそり劇場ブログを見ていた二人が、残念そうな声を出す。
 作りは古臭いが、この劇場はブログで踊り子の出し物の予告をしてくれていた。それによるとこの後の出し物は全部一緒らしい。
 お祭りショーという趣向も面白いし、そこそこの出来ではあるが、もう一度見たいというものはない。とりあえずロビーにでも行こうかと立ち上がると、

「お嬢ちゃんこれ」

 突然声をかけられ、振り向く。

「これお嬢ちゃんのじゃないかい?落としたよ」

 おじさんが小さいプラスチック製の棒を持っていた。詩帆は一瞬なんだかわからなかったが、

「あっ、アーアー。アリガトゴザマス」

 ペコペコ頭を下げながらシャオちゃんがそれを受け取る。
 落としたというのはシャオちゃんが持っている携帯ゲーム機のタッチペンだった。

「また抜けちゃったの?」
「ンー。モ、限界デスネ」

 タッチペンは携帯ゲーム機本体に収納出来るが、ゲームっ子であるシャオちゃんのはあまりに抜き差しし過ぎて引っかかりの部分が無くなってしまい、本体から抜け落ちてしまうのだ。

「買い替えたら?」
「コレ、12本目」
「そんなに!?ああでも電器屋さんとかで売ってるんだっけ?買ってくる?」

 大型電機店のゲームコーナーなら周辺機器として売ってるはずだ。
 少し歩くが近くにそういった店があったはずだ。暇つぶしがてら外出券で買ってこれそうだが、

「ンーン。オ高いから、いつも日本来た時に100円ショップで買う」
「売ってるの?」
「店にヨル」

 シャオちゃんがもっともなことを言う。100円ショップと言っても色々ある。食料品が充実してる店もあれば、電機小物が充実してる店も。
 100円ショップも確か近くにあったが、

「買ってくる?」
「ソデスネ」

 暇つぶしがてら、買い物に出ることにした。だがロビーに出ると、

「あれえー?もう帰っちゃうの?」

 バーで客の対応をしていた踊り子さんが、二人に声をかける。
 この劇場は田舎で土地が広いからか、劇場全体もそれなりにゆったりとした広さがあった。
 そして客席も広かったがロビーも広く、一画には小さいながらもしっかりとしたカウンターバーなどもあった。
 泥酔はお断りだが、酒は充分金が取れるのでお出ししている。ラッキーなら今舞台に立っていない踊り子が客の対応もしてくれる、というのがウリだった。
 もっともカウンターに立つのは目の前にいるような歳のいった踊り子さんがほとんどのようだが。

「100均までちょっと、買い物に」
「タッチペン買ってクルデス」
「タッチペン?」
「タブレットのか」
「ンーン。ゲーム」

 おじちゃんの問いに、シャオちゃんが携帯ゲーム機を見せると、

「えっ?それのペン、今100均で売ってんの!?」

 踊り子さんの声にえっ?と二人が驚く。

「あたしも結構ゲームするんだけどさ」
「ボケ防止にな」
「うっさいねえ!」

 客の野次に踊り子さんが笑顔でげんこつを振り上げる。

「何回も出し入れしてる間にでっぱりが削れちゃって、スポスポ抜けるようになっちゃって」
「そこだけ聞くとなんかやらしいナア」
「んもう!ちょーっと黙ってなって!」

 客の下ネタいじりにも踊り子さんは対応する。

「でも電器屋で売ってんの高いからさあ、どうしようかなって思ってて。なんだあ、今百均で売ってんだあ」
「でも、ドコででも売ってるわけでもないのデス」
「そうなんだ。じゃあもし、売ってたら」
「ハイ。買ってきますネ」

 心得たとばかりにシャオちゃんが笑顔で頷く。

 そしておじちゃんたちに見送られて、二人は一旦劇場を後にした。

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