昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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昭和90年代のストリップ劇場は2010年代アニソンかかりまくり

16、大人が小娘の企画に乗っかってくれている

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「オー!ヤッテルヤッテル!」
 
 劇場を出た後。
 駅へと向かう道すがら、ケータイを見ていたシャオちゃんが嬉しそうな声を上げる。
 シャオちゃんが台紙の画像をアップしてもいいかという劇場側に交換条件として出したのは、「色を塗った表紙を元に、お客さん参加型の塗り絵企画として展開してほしい」だった。
 自分と同じように色を塗ってネットに上げてみてほしいと。
誰か乗ってくれないと寂しいので、絵心があったりそういうのが好きな踊り子さん、あるいはスタンプラリー劇場に参加してる従業員さんに呼びかけ、ある程度集まったら上げてほしいと。
 
 そして実際に集まったらしい。
 思った通り踊り子さんには絵心がある人が多かった。
 加えてスカスカなフリー素材画像はいじり甲斐があった。
 思い思いの色遣い、画材で色を付けている。
 とりあえず参加と三色ペンで雑に塗ってる人もいれば、わざわざパソコンソフトに取り込んで塗ったような人も。
 色を塗るだけでなく、フリー素材踊り子を囲むように新たに踊り子を描き足したりしてる人もいた。
 色をあえてはみ出させたりと、乗っけすぎて原型を留めていないものもあるが、自由度が高過ぎて逆に良かった。
 たった数時間でこの盛り上がり。

「すごいね」
「ネー」

 先程のしんみり具合も忘れて、詩帆も塗り絵踊り子に見入る。
 こんな小さな業界の、小さな企画なのに。
 改めてネットツールの俊敏さに驚かされる。
 が、それ以上に乗っかってくれた人達の仕事が早かった。
 こんなんでいいのかな、と上げていいかと訊いてきた従業員さんも作品を上げていた。
 一生懸命塗ったのであろう、絵の具で色付けが施されていたが、

「これすごいねっ」

 詩帆が興奮気味に一枚の画像を指差す。
 それは墨かなにかで塗った絵だった。
 微妙な墨の強弱と濃淡さでのっぺりした踊り子に動きが加わっている。
 左右からは着物を端折ったふんどし姿の男達がリボンも投げ込んでいて、バッカルコーンみたいなオモシロ応援ではなく、芸術行為のように見えた。
 ただのフリー素材が完全に一つの作品として仕上がっている。
 ♯昔取った杵柄 ♯爺さんの手習い などのハッシュタグも付けられていたが、辿ってみると上げていたのはストリップ観劇が趣味の爺さん客だった。
 ネットツールを使い、祭りを粋に楽しんでいる。
 おおおーっと、詩帆とシャオちゃんが唸る。こりゃすごいと。
 自分達の仕掛けた企画が面白い方向に転がっていると。

「このジジイ逢いタイ!」
「こらこら」

 嬉しそうに言うシャオちゃんを、言い方言い方と詩帆が宥める。
 そんな感じで二人ははしゃいでいたが、

「あれ?ミャオちゃん(仮名)?」

 突然掛けられた声に振り向くとかわいこちゃんがいた。
 白くクリーミーな肌とぱっちりした目鼻立ち。 
 素人には見えない。プロっぽい可愛さだ。

「スバルさんっ!」
「久しぶりぃー」

 声をかけてきたのはかつてのシャオちゃんのオキニの踊り子さん 昴留さんだった。
 辞めてしまったので元だが。

「おー。そっちも」
 
 詩帆にも久しぶりと手を振るが、

「なんか痩せ、引き締まってますね」

 詩帆が昴留の全身を見てそう評する。
 昴留が引退した日。ブログで最期に見た画像では痩せていたが、なんというか今はかっこよく締まっていた。

「んー。今の仕事のせいもあんだけどさー、歳だしね。重力に逆らわなくちゃ」

 言って昴留が、んっんっ、と力こぶを作ってみせた。

「二人は?なに?何帰り?遊んだ帰り?」
「ストリップデス」
「えー?好きだねあんたらも」

 誇らしげに言うシャオちゃんに、昴留さんが呆れつつも笑う。

「ああ、踊り子もねー、若いうちは自然にお肉ぽちゃっとしてた子も、年取ってくと筋肉鍛えて
シュッとしてくよ?デビューしたばっかの子はそういうの見れる良さもあるってさ」

 その言葉に、詩帆は先程見た辞めてしまう踊り子さんと、団地妻踊り子を思い出していたが、

「あとあたしが引き締まったのはコレ系やってたからかな」

 昴留が筒状にした手を上下に振ってみせる。

「フーゾク?」

 オブラートに一切包まないシャオちゃんに、ちょっと!と詩帆が咎めようとするが、そうそうと昴留は苦笑いで答える。
 そういえば以前色街で限定付きで働いていたと聴いていた。

「今回のもお金貯めるためにやってたんだけど」
「どういうのデスカ?」

 シャオちゃんがワクワク顔で訊く。意外と性には奔放なのだ。

「レズ風俗」
「エーっ!?」

 言われた業種は予想の斜め上の方にいたが、

「行きたかったァ」

 それにシャオちゃんが少しびっくりするようなことを言う。

「いやあ、さすがに元お客さん相手だとねえ」
「ダメぇ?」

 それはちょっと、という昴留にシャオちゃん甘えた顔と声で言い、うーんと困り笑顔で唸る。
懐柔されそうになっている。
 本当にこの子はこういうのが上手いなと詩帆が思っていると、

「結構、そういうの行くの?ミャオちゃん」

 昴留がシャオちゃんにではなく詩帆に訊くが、

「シャオちゃんはそっちでは、我々の組合ではないので」

 随分前にファミレスで自分はそういう側の人間だと話している。
 シャオちゃんは本当に、ただただ好奇心で行きたいらしい。
 だがオタク側観点からすれば詩帆でもそれはわかる。
 ネットで見つけた面白いものが日本にあるとなれば海を渡ってやってくる。
 それはセクシャルとかは関係なくだ。
 それぐらいのフットワークと好奇心は備えていると。
 ふむ、なるほどと昴留は少し考え、

「じゃあさ、」
「ハイ」
「新人ちゃんがちゃんとお客さん付く前に慣らしで相手させたいから、今度お相手してみる?」
「ナニソレ!?ヤリタイ!!」

 ストレートな言い方でシャオちゃんが欲求を口にする。
 それを横で聞きながら、その純粋さが詩帆は羨ましかった。
 お貰い風俗に行けるというのもだが、そこまでストレートに生きれるのが。
 いや単純に、お貰い風俗が羨ましかった。

「うーん、ってことは」

 昴留がケータイを取り出し、何か段取りを決めだす。
 それをシャオちゃんがワクワクしながら見ている。
 話がどんどん進んでいく。
 いいな、いいなっ、と詩帆は思った。
 私も、っと言いたくなってしまう。
 私も風俗行きたいっ!と。
 肌が温もりを欲していた。
 温もり意外にも、女性特有の湿りけや濃厚な匂いも。
 使うあてのない下腹部の子供部屋が疼く。生殖に使わないならせめて、と。
 だが左手薬指に嵌められた輪がそれを律する。嫁がいない間に風俗なんて、と。
 そんなことを考えていると、

「しフォさんタイヘン!」
「なに!?」
「ワタシタチ、ラーメン屋さん行ってナイ!」
「え、あっ…」

 シャオちゃんに言われてようやく思い出す。
 本来はスタンプラリーを兼ねてインスパイア系ラーメン屋に行くというそういう観劇ツアーだったのに。
 すっかり忘れていた。
 今日なんて観劇のあとに小洒落たオムライスを食べてしまった。
 もうラーメンなんて入る余地はない。

 それらを含め、次こそは、と詩帆は心に決めた。
 
 地方のストリップ劇場観劇のついでに、インスパイアラーメンを食べて、風俗に行こうと。

(了)


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