昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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23、男の人が歴史好きなのって、過去を振り返るのが好きだからじゃないの?

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  二人がロビーで楽しく時間を潰し、場内に戻ると、もう次の踊り子さんのステージが始まっていた。
 白の着物と紫色の袴、シースルー素材のかつぎ。黒髪を左右にひと房ずつ垂らし、残りは後ろで高く結っていた。その姿で踊り子さんがひらりひらりと軽やかに舞う。

「牛若丸?」
「そうみたい」

 詩帆と遥心が声を交わしながら取っていた席に戻ると、踊り子さんがすっと目を閉じ、凛とした立ち姿で横笛を吹く。
 澄んだ笛の音が場内に響き渡る。吹き終わると場内から拍手が沸き起こった。
 笛をしまうと今度はスピーカーから流れる笛の音に合わせて、取りだした扇子で日舞を踊る。
 一度袖に戻り、やや長めの衣装替えタイム。場内には薄い雅楽が流れていた。
 たっぷりと時間を取った後、踊り子さんが着崩した粗末な色の袈裟姿で登場してきた。
 琵琶を持った、女琵琶法師だった。
 抱えた琵琶をべん、べんと弾きながらゆっくりとした足取りで舞台へ進む。
 詩帆が何かに驚いたように、うわ、と声をあげた。
 何だろうと遥心が改めて琵琶法師を見る。皺のない、やけにつるりとした琵琶法師。
 遥心はさっきまで踊り子さんが結っていた髪が無いことに気付いた。
 踊り子さんは丸坊主だった。
 かつらではなく、おそらく本当に剃っていた。
 艶のある黒髪の方がかつらだったようだ。
 スキンヘッドの女性なんて、海外雑誌のエキセントリックなモデルぐらいでしか見たことがない遥心はカルチャーショックを受けるが、

「牛若丸のことを琵琶法師が歌ってるってこと?」

 ステージの構成について詩帆が小声で訊いてくる。

「たぶん…。歴史だとそうなってるはず」
「たぶん?」
「すいません、歴史詳しくないんで」
「はあー?」

 詩帆が駄目だなあという顔をする。
 しょうがないじゃん、と少々むすっとしながら遥心が舞台に視線を戻した。
 踊り子さんが坐した中央舞台で琵琶を奏でる。
 琵琶を横抱きにし、大きなイチョウ型の撥で弦をべん、と弾く。
 改めて聞くと、意外なほど低い弦楽器の音色。三味線よりも低く響くその音は、楽器というより魔を打ち払う神器のようだった。
 それでいて逆に闇に引き込まれそうな音色。
 そして朗々とした声で祇園精舎を披露する。
 横笛に続いて琵琶も弾きこなす。芸達者な踊り子さんだった。
 琵琶を立てに構え直すと、壊れたレコードのように同じフレーズを何度も何度も奏でる。客の視線は踊り子さんに注がれているが、踊り子さんはどこも、誰も見ていない。
 琵琶を愛おしそうに抱きしめ、舞台に恭しく置くと、踊り子さんが袈裟を脱ぎ出す。
 左の鎖骨と左胸の間にタトゥーが見えた。
 眉根を寄せながら胸を揉みしだく。
 スピーカーからは薄く、気持ちを不安にさせる琵琶の音色が、踊り子さんの鼻にかかった喘ぎ声をかき消さない程度に流れている。
 胸を揉みしだくのに合わせて、彫られたタトゥーが形を変える。じれったそうに内腿をすり合わせ、右手中指と薬指に舌を這わして濡らす。
 遥心の背中になぜか嫌な汗がつたう。
 強いライトが当たる中、脱いだ袈裟の上で仰向けになると、踊り子さんは立てた膝を大きく割り開いた。
 頭同様、綺麗に剃りあげられた生殖器に中指と薬指を挿入する。
 詩帆がさっきよりも多少大きく、わっ、と驚きの声をあげた。

「ああっ、あああ」

 踊り子さんが挿入した指を最初はゆっくり、次第に激しく出し入れする。
 丸坊主姿の女性による自慰ショー。
 中央舞台の盆が回り、つるりとした身体が回転する。初見の詩帆と同じぐらいに、目の前の妙にエキセントリックなエロスに遥心の鼓動が速くなる。
 踊り子さんが全身を震わせてオーガズムを表すと、荒く息をついて呼吸が落ち着くまで身体を横たえたままにする。
 しばらくして気だるげに立ち上がり、琵琶を抱えると、さっきの見事な演奏とは打って変わって不協和音を奏で始める。
 観客にたっぷりと不快感を堪能させたあと、琵琶と袈裟を引きずって本舞台へと戻り、客席に向かって琵琶をべん、とひと鳴らし。一瞬の後、照明が落ちた。
 客席からざわざわと拍手が送られる。
 暗転した舞台から聞こえた、ありがとうございました、という踊り子さんの生身の声に遥心はなぜかホッとした。



「なんか、すごかったね。詩…、帆?」

 客席が明るくなり、遥心が声をかけると詩帆はぼうっとしていた。目は宙を見つめ、魂が半分だけ抜け出ている。少し刺激が強すぎたのかもしれない。
 あるいは引いてしまったのかもしれない。

「大丈夫?」
「えっ?ああ、うん。ちょっと、トイレ、行ってくる、ね」

 撮影ショーが始まると、まだぼんやりしたままそう言って詩帆が立ち上がる。

「あ…、はい。行ってらっしゃい」

 遥心はそれに曖昧な返事で見送る。そしてすぐに気付く。この劇場はどんなトイレなのか。
 またしてもあの男子トイレの個室を使わせてもらうようなトイレだったとしたら。おまけに和式か洋式かもわからないのに、詩帆は裾の長いスカートを穿いてきた。
 狼のトイレに子羊が所用を、ではないが遥心は少し心配になる。
 ついていった方がよかったのでは、と思いながら遥心が撮影ショーを眺めていると、

「ちょっと!!大変なんだけど!!」
「何っ!?」

 詩帆がばたばたと、抜け出た魂とともに戻ってきた。何かされたのでは、と遥心が慌てるが、その耳に詩帆が手を当て、濡れてた、とこそっと伝えた。

「えっ!?あっ、そうですか…」
「いやあー、びっくりびっくり」

 詩帆はすとんと自分のキャンピングチェアに座ると、照れ隠しなのかスカートの中にバサバサと空気を送り込む。
 若い女の子のはしたない行動に、斜め前の席の男性客がしかめっ面で見てきた。顔はしかめているが、視線はしっかりとスカートに注がれている。
 遥心が男性客の方を見ると、男性はきまり悪そうに前を向いた。叱りたいのか見たいのか、どっちなのか。

「……ちゃんと拭いた?」
「拭いたよ!ばかじゃないの?」

 詩帆はそう言うが、自分の周りに漂う女の匂いが急に濃くなった気がして、遥心は落ち着かなかった。


 オープンショーになると、ちょっと何言ってるかわからないような歌い方の洋楽とともに、踊り子さんがバタフライツイストで舞台袖からダイナミックに登場してきた。
 観客から、おおおっ、と歓声が上がる。
 衣装は背中に金の鳳凰が描かれた真っ赤な法被一枚。
 舞台に両手を付き、頭を落とすと、後ろ回し蹴りのように客席に向かって足を大きく振る。

「メイアルーアジコンパッソだ」

 詩帆が不思議な呪文を唱えた。

「なに?」
「メイアルーアジコンパッソ。カポエラの技だよ」
「へえ」

 ブレイクダンスの起源もカポエラだ。ステージに武術の型や技を入れるのも、パフォーマンスとして成立していればいいらしい。踊り子さんはそのまま、何を言ってるかわからないがノリは良い曲に合わせてカポエラの蹴り技を繋げていく。

「あれは?」
「アルマーダコン…、えーとなんだっけ。知らないよ」

 訊かれたのに解説出来ない悔しさからか、詩帆が少し苛立って答える。

「さっきのもたまたま覚えようとして知ってただけだもん」
「なぜ覚えようとした」
「なんか大技の蹴り一個出来たらかっこいいじゃん」
「誰に対して使うんだよ」

 同じような蹴り技でもジャンプを加えたりスピードを変えたりと、バリエーション豊かに披露する。衣装は法被だけなので、技が披露されるたびに何もつけていない生殖器がオープンされる。
 それは蹴りの速度や足の開き具合によって、一瞬だったりゆっくりだったり。
 しかし独特な蹴り技とリズム感で、生殖器だけを見ようとしても踊り子さんの動きの予想がつかない。客席と舞台が近いので、舞台周りの客はうっかり顔を近付ければ、踵やつま先が当たりそうになる。
 ダイナミックかつ、アトラクション的要素を含んだオープンショーだった。
 それを、踊り子さんは涼しい顔でやってのける。

「股関節とバランス感覚おかしいだろ」

 遥心は笑うしかなかった。


 
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