昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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24、こんなに熱演なのになんて空虚

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 なかなかいいものが見れた気分で、次の踊り子さんのショーが始まった。
 悪い音響の中で、余計に音飛びしたように聞こえるイントロ。ヘドバン必至な激しいメタルギター。
 曲に合わせて舞台のライトが点滅する。
 詩帆が、おっ、と小さく嬉しそうな声を上げる。
 遥心も声こそ上げないがその曲が何なのかわかった。
 流れてきたのは、傾城傾国歌劇弾の『銃弾の雨、嵐』だった。
 傾城傾国歌劇弾は、主にアニソンを歌っている本格ゴシック系ヘヴィメタルバンドだ。
 ファンとバンドの間で新たな国を形成しているゴリゴリ設定バンドだが、その中でも国歌とも言うべき曲に乗せて、踊り子さんが黒のノースリーブの軍服で出てきた。
 頭には軍帽、顔にはカラスマスクを付け、足を高く上げ、グースステップで登場する。手には旗を携えていた。

 全身黒ずくめな衣装の中、赤を基調とした濃いアイメイクが印象的だった。
 舞台奥に置いたアンティークな椅子の背もたれの先端に軍帽を引っかける。
 そして本舞台で、手にした特殊な紋様が描かれた大きな旗でフラッグパフォーマンスを披露する。
 足の下をくぐらせたり、胴の周りで回転させたり。客席に向けて水平に旗を振る。客の頭上すれすれで、旗が風を切る。

「空中に放るやつみたいんだけどなあ。高さが」

 遥心が舞台と天井を視界に入れながら言う。劇場の天井はそんなには高くなかった。

「…来るッ」
 
 サビに差し掛かる手前で詩帆が呟く。
 予想通り、サビになると同時に旗を一旦脇に立たせ、踊り子さんが親指と人差し指と小指を立てたメロイックサインを決めた。曲ではちょうど、愚民どもよ我に忠誠を誓えなどという意味の歌詞が、エフェクトの掛かった声で歌われる。
 それに対し詩帆と遥心は、イエス、弾長、弾長殿、国歌戦略指揮官代理殿というシュプレヒコールを口の動きだけでメロイックサインとともに返す。
 傾城傾国歌劇弾では曲中にメロイックサインやシュプレヒコールをする曲がある。
 ファン、愚民は必ずそれをする決まりになっていた。特に愚民という訳ではなかったが、詩帆と遥心は身体が勝手に反応していた。当然場内では二人しかやっていない。
 自分達には聞こえない何かを口走りながら指でおかしなポーズを決め、踊り子さんに突き出すように向ける二人を、常連客が怪訝な表情で見る。
 コールとサインを完璧にこなしたなんちゃって愚民二人を見て、踊り子さんが目元だけで笑顔を作り、メロイックサインを返してきた。よくわからないが踊り子さんとコミュニケーションを交わした遥心達に、常連客から嫉妬の眼が向けられる。
 謁見と、独裁者様自らの下々の者へ向けたパフォーマンスが済むと、軍帽を凛々しく被り直し、旗を脇に抱え、軍靴を鳴らしながら踊り子さんが一度舞台袖へとお戻りになられる。

 続いて流れてきたのは、アニメ 緑化係に口吻を。 挿入歌 『自虐の仮面は装着したのか』だった。
 顔のカラスマスクは残し、黒地に蜘蛛の巣が張ったドレスで踊り子さんが再度登場してきた。手にはフライングⅤとスタンドマイク。
 さっきの行進とはうって変わって、大股でずかずかと本舞台中央へ。ドレスの横にざっくりと入ったスリットがなまめかしい。
 マイクを舞台中央に置くと、踊り子さんが手にしたフライングⅤでギターパートを奏でる。
 元々は音楽教諭が高校時代に組んでいたデスメタルバンドの曲という設定で歌われている曲だった。歌詞と曲調は物騒なのに、歌っているのが声優だけあって妙に発音と歯切れの良い歌声が場内に響き渡る。ところどころ幼さの残る声で荒々しくシャウトする。
 マイクはあるが、踊り子さんは歌ってはいなかった。歌っている素振りも見せない。ギタープレイを披露する、だけ。だがそれでも見事なテクニックできちんとステージが持つ。
 間奏のギターソロも完璧にこなし、主のいない椅子にギターを鎮座させると、再度袖へと戻る。

 流れてきた曲に詩帆が、ほう、と小さく反応を見せる。

「知ってる?」

 遥心の知らない曲だった。詩帆に訊いてみると、

「『親愛なる黄金比』」
「へえ…」

 曲名を聞いてもやはりピンと来ない。
 流れてきたのは ゲーム キリトラレルシマ。STAGE 4 主題歌 『親愛なる黄金比』だった。
 物悲しいピアノの入りから一転し、壮大なコーラスが疾走感すら伴って展開されていく。そこに投下される、うねるような力強いボーカル。
 黒のフード付きローブを纏って踊り子さんがゆっくり登場する。目深に被ったフードで顔はよく見えない。
 花道を通り、折り畳んで持っていた布を中央舞台に広げる。布には特殊な紋様が描かれていた。よく見るとその布は先程まで、一番最初のパフォーマンスで振っていた旗だった。

「魔方陣?」

 舞台に目を向けたまま、遥心が呟く。舞台から目を反らさず、詩帆が小さく頷いた。
 踊り子さんが手にした分厚い魔道書を開く。場内には薄くスモークが炊かれ始めた。どうやら黒魔術的なもので《何か》を呼び出そうとしているようだ。

「降臨の儀式だ」

 詩帆がワクワクゾクゾクしながら呟いた。
 手を魔方陣に向かってかざし、踊り子さんが詞を紡いでいく。
 サビに差し掛かる直前で《何か》を呼び出したことに成功したのか、踊り子さんが、魔道士が手のひらを天に向かって振りあげる。
 ゆっくりと、魔方陣からずずず、と出てくる何かを満足そうな視線で追う。
 目線だけで《何か》の大きさ、高さ、強さ、重量感を表そうとしていた。
 遥心の中でそれは細いまなこで魔道士を見下ろす大きな金色の獅子であり、詩帆の中では頭に二本の角が生えた巨大な黒山羊であった。

 魔道士が袖からぞろりと白い腕を出すと、手首に片方だけ付けた革の手錠が見えた。その手を《何か》に向かって差し出す。それは生命を生み出した者が愛しい者の身体を撫でる、頭に触れる時の優しい手だった。
 しかしその手が突然見えない力に掴まれたように奇妙な震え方をする。魔道士は驚いた表情で呼び出した《何か》を見上げる。
 予想を上回る強靭な力。魔道士は、自ら呼び出した強靭な力を制御することが出来なかった。見えない力によって震える手が、自らもう片方の手に手錠を嵌める。
 手錠に付いた長い鎖を魔道士がちゃんがちゃんと引き千切ろうとする。

「おおおっ、こわいこわい」

 詩帆が楽しそうに言う。
 ちょうど曲は一番の盛り上がりを見せるパート。
 アニソンアーティスト独特の熱のある歌声が、踊り子さんの一人芝居を後押し、迫力あるものにしていた。
 突如、魔道士が酷い頭痛に襲われたように大口を開けて頭を抱えた。魔道書が舞台にばさりと落ちる。
 てっきり小道具用の、中身が白紙の本だと遥心は思っていたが、落ちた拍子にページがめくれると、細かい字や図形など、きちんとそれっぽいことがびっしり書かれていた。
 膝から落ちた魔道士が、そのまま後ろ向きにどうっ、と倒れる。

「殺された?」
「あれ出来ないんだよねー」

 遥心はステージの内容について訊いたが、詩帆は踊り子さんのポーズについて答えた。
 柔軟性がないと太腿の筋肉が引っ張られてぎりぎりと痛むポーズ。痛みを思い出したかのように詩帆が顔を歪める。
 魔道士は倒れたまま動かない。
 場内に展開されていた疾走感がコーラスとともに収束していき、再度物悲しいピアノが流れて曲が終わる。
 魔道士は自ら呼び出した力によって死んでしまったのか。
 観客が固唾をのんで見守る。見守ってほしいと遥心は思った。これだけのステージを熱演しても尚、退屈そうな客、居眠りをしている客がいたからだ。
 静まり返った場内に、少々おどろおどろしい入り方の曲が流れてくる。猫背気味だった詩帆の姿勢が期待に伸びた。
 エフェクトがかかったボーカルに合わせて、抜け出ていた魂が戻ってきたように、魔道士が倒れた姿勢から腹筋と背筋だけで起き上がる。

 流れてきたのは、アニメ Now Printing Now loadiding  エンディング曲 『接見の間』だった。
 V系ゴシックロックと人間の域を超えたハイトーンな歌声が、昭和のストリップ劇場に響き渡る。
 その中ですっくと二本脚で魔道士が立ち上がり、頭を振ってフードを落とす。
 ローブを鬱陶しそうに脱ぎ、ホルターネックの獣皮セパレートビキニ姿になる。
 客席を向いたまま脱いだローブを後ろに置いた椅子に向かって投げると、椅子に坐していたフライングⅤ様が黒のローブに包まれた。
 落ちていた魔道書を拾い、一瞥すると、必要のないものだったのかばさりと舞台に落とす。
 そしてこれが本来のスタイルだとばかりに両手と両膝を付くと、後ろ足で魔道書を蹴る。魔道書は花道を通って綺麗に本舞台まで滑っていった。

 邪魔なものを処分すると、獣魔道士がレザーの手錠で手首の動きが封じられていることに気付く。先程までの自分、乗っ取る前の肉体に自らが付けた手錠だ。
 獣魔道士が手錠に付けられた長い鎖を咬み切ろうとする。綺麗な並びの歯と本能を剥き出しにして鎖に咬み付く。
 それが無理だとわかると先程の自分がしたように、腕を開いて鎖を引きちぎろうとする。それも無理ならばと手錠を付けたまま身体を低くし、獲物を見定め始めた。
 綺麗な鼻をひくつかせ、獰猛な瞳を客席に向けてぎらつかせると、舞台周りにいた一人の客に目を付け、頭を掴んで齧りつこうとする。
 客は嬉しそうにしているが、すぐに頭を離され、獣魔道士はまた別の客の、今度は首筋に齧りつこうとする。
 しばらくそうした客いじりが続くと、身にまとったビキニブラをこれも邪魔だとばかりに引っ張る。ボタン式のフロントオープンだったため、引っ張っただけでぶちぶちと簡単に外れた。演出とはいえ、毎回あんな乱暴な外し方をしたら衣装が傷むのではないかと遥心はハラハラした。
 荒々しくブラを外すと、豊かな胸が零れ落ち、続いてショーツも無理やり歯でひっぱり外すと、綺麗に整えられた下生えが見えた。

 本能を思い出した獣は四つ足全裸姿で獣王無人に舞台上を駆け周る。
 曲がサビに差し掛かると、首だけでブリッジし、降臨の儀式にお集まりいただいた客に降臨した獣自ら生殖器と排泄穴を披露すると、ライトが強く当たり、見事な首の筋肉に観客から拍手が送られた。
 最後に魔方陣を口に咥えると、四つ足で本舞台へ駆けて行く。本舞台中央まで走りつくと、二本足ですっくと立ち上がり、魔方陣を身体に巻きつけ身に纏う。
 一瞬で人ならざるものから人間に戻り、女性的なS字ラインを生かしたポーズでショーを締めた。
 演出の中で回収し忘れたブラとショーツが中央舞台に寂しげに落ちていた。
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