昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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30、チルチルアウトタイム

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「もういらにゃい」
「あーもう、はいはい」

 詩帆がいつものように舐めかけの飴を遥心に食べさせようとし、遥心がそれをいつものように素直に口に入れるという、二人だけで通じるコミュニケーションを交わしてるうちに撮影ショーとオープンショーは終わった。
 舞台が薄紫色のライトで照らされる。
 牛若丸と琵琶法師の出し物をやった踊り子さんのステージだった。

「おそとでたい」

 ステージが始まるとすぐ、詩帆が遥心の二の腕をぺちぺちと叩きながら言う。
 前もって外出券のことは伝えていた。

「見なくていいの?」

 見応えのある内容なので、遥心にとってはもう一度見てもいいショーなのだが。

「ちょっと…、こわい」

 眉が下がった、情けない顔で詩帆が言う。どこか凄みさえ感じるショーに飲まれてしまうのが怖いらしい。
 たかだかストリップと構えて見ていたら、あれだけのものを見せる踊り子さんに恐怖しているのか。あるいは意図せず身体が反応してしまうことにか。
 普段は無駄に強気な分、たまにしか見せない怯えた表情をする恋人の頭を遥心がぽんぽんと叩くと、

「少し買い物でもしよっか」

 二人で身を低くして場内から出る。
 舞台を見ると牛若丸が目を伏せ、横笛で切ない音色を奏で始めていた。
 見えてないようで、舞台からは観客一人一人の動きや表情は見えている。
 狭い劇場なら尚更だろう。
 踊り子さんはこちらを見ていなかったが、遥心は失礼にも中座することに軽く頭を下げて場内を後にした。
 外出券で外に出てみたが、30分という限られた時間ではあまりうろうろも出来ないので、二人は近くのドラッグストアで買い物をすることにした。
 店に入ると遥心はミネラルウォーターを買いに冷蔵棚へ。
 詩帆は健康食品コーナーへ向かうと、

《バッチリうるおい》
《たいりょくつかうな》
《アタイにまかせろ》
《ビタミンせつやく》
《めぢからさせろ》

という、用途に合わせた女性向けサプリメント入りクッキーが売られていた。
 パッケージには8ビット風ドット絵で女勇者や女戦士、女僧侶、女拳闘士などが描かれている。

《からだだいじに》

というしじみ成分入りクッキーを詩帆が手に取る。甘さ控えめでほろ苦い味らしい。
 裏には《呑む前に食べると悪酔いしません。呑む前に何かおなかに入れとくことも大事》と神父様のお言葉が書かれていた。

「これ買おう」

 なんだか面白そうなので詩帆はそれを買うことにした。


 各自買うものも買い、遥心がどちらから来たかわからなくなりつつも、詩帆が歩行者天国で突然カポエラのココリーニャを繰り出し、遥心と歩行者を驚かせたりしつつも、二人は劇場へと戻ってきた。
 劇場前のポスターを見ると、詩帆が怖いと言っていた踊り子さんは鳳来なびきという踊り子さんだった。

「なびき…、あっ!」

 名前を見て詩帆が気付く。
 噂の呑んべえ姐さんだった。フルーツ味が好きそうな。やる気のない場内アナウンスでは聞き取れなかったが。
 そして場内へ戻るとそのなびき姐さんの撮影ショーが行われていた。

「ちょっと行ってくる」

 さっきまで怖いと言っていたはずの詩帆が、手にドラッグストアの袋を提げ、撮影ショーの列へ向かう。

「ついていこうか?」
「好きにするがよい」

 なぜか尊大な態度で言うと、詩帆がすたすたと歩いていく。
 仕方なく遥心は好きについてくる。
 順番になると全裸で丸坊主で、下も綺麗に剃った踊り子さんがクールな声で、おはようございます、と迎えてくれた。

「これ、どうぞ」
「ありがとう。へえ、こんなのあるんだ」

 詩帆がそっと差し出した《からだだいじに》クッキーを踊り子さんが珍しそうに眺め、

「あと、これはパッケージが可愛かったので」

 一緒に買った《エロエロいこうぜ》クッキーも差し出す。
 ガラナ成分入りで、パッケージには褐色の肌を露わにした踊り子が描かれていた。パッケージを眺め、ほう、と詩帆のセンスになびき姐さんが感心する。

「ありがとう、いただくね。ポーズどうする?」
「じゃあ、うさちゃんピースで」
「うさちゃんピース?」
「こうやって、」

 ピースサインを頭に付けて詩帆がポーズ指導をし、遥心がドキドキしながらカメラでそれを撮影する。

「友達はいいの?」

 酒焼けした声でなびき姐さんが遥心に訊き、

「ああ、彼女です」
「うわっ」

 詩帆がさらりと関係性をばらし、遥心が慌てる。

「あ、そうなの。いいじゃん、一緒に撮ろうよ」

 しかしそんなことには気にも留めず、詩帆が座っているのとは反対側のスペースをなびき姐さんが叩く。逆らえない遥心は言われるままそこに座った。
 自然と左胸に掘られた狼のタトゥーに視線が行く。
 狼は大きく口を開き、心臓を食らわんとしているようだったが、

「どこ見てんのー、見過ぎー」

 遥心の熱視線に、踊り子さんがからかい口調で丸出しだった胸を今更両腕で隠す。

「違いますっ!タトゥーが、」
「ハイハイ、みんなそう言う」
「やっぱり大きいほうがいいんだー」

 二人のやり取りに詩帆が拗ねたように言う。

「あらそうなの?あんた無いの?」

 指輪を嵌めた手で、大きさを確かめるようになびき姐さんが詩帆の胸を触る。
 他は綺麗なのに手には意外と皺があり、年齢を感じさせたが、

「わっ」

 あまりにも自然に恋人の胸が触られたので、遥心の方が驚いた。

「結構あるじゃない」
「感度が悪いって殴られるんです」
「やだあー。ひどーい」
「殴ったことなんか一度もないじゃん!」
「でも腰骨噛んでくる」
「えー?エローイ」

 その性癖はほんとのことなので、遥心は何も言い返せなかった。



 その後も二人はステージを見続けたが、ひと悶着あったトリの踊り子さんのステージになると、今までどこにいたのか、四角い客とオシャレぶった客が場内にゆらりと現れた。 
 狭い場内で、遥心が視線と気配だけでそれを感じ取る。そして遥心から放たれる緊張を隣に居る詩帆が感じ取り、

「そろそろ帰ろっか、充分見たし」
「そう…、だね。帰ろうか」

 気がつけば随分長いこと居た。夜が深まれば客も増えるだろう。
 詩帆の声に、帰ろう帰ろう、と遥心が早々にバッグを手に取る。ミネラルウォーターをバッグに入れ、適当にバッグに突っ込んでいたネルシャツをきちんと畳んで戻し、財布とケータイの所在をチェックする。
 帰り支度をする女性客を、二人の常連客が睨むように見ていた。その視線を感じながら、遥心は何もしてくれるなと詩帆に念を送った。
 よしっ、という声とともに詩帆が立ち上がる。
 場内から出るには出口付近に立ち、こちらを見ている二人の前を通ることになる。
 二人と詩帆の間に入る形で遥心が出口へ向かうと、客の前を通る瞬間、

「たのしかったね」

と、詩帆が遥心に笑顔を向けた。
 その声と笑顔は二十歳を過ぎたにしてはとても無邪気で、そして紛れもなく本心から出た言葉だった。
 張りつめた常連客達の空気と表情が、一瞬だけ和らいだ。

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