昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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29、下地にある大胸筋の量と腕の筋肉量が鍵になってる説が濃厚

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 いまいち内容の薄いショーが終わり、撮影ショーが始まる。

「なんで左の方が大きいんだろうね」

 客席の明かりが点いて場内がざわつき始めると、詩帆が言った。やはり見ていて気になったのはそこだった。ステージよりも人体の謎、女性のフシギだ。

「心臓があるからでしょ?」

 揃えた指先で自分の左胸を指しながら、遥心が当然のように言う。

「右利きの人が多いからじゃないの?だって揉まれる時に、」

 言いながら詩帆が自分の胸を揉む仕草をする。

「ああ、そうか」

 世の中には右利きの人が多いから。一定の年齢になってからそういうことをなさるようになると、おのずと左胸が大きい女性が増えると詩帆女史は言う。しかし、

「あれ?」

 だがそう言ってる詩帆は左利きで、今も左手で胸を揉む仕草をしている。

「あれ?じゃあ私の胸は」

 遥心は自分の胸の大きさを思い出す。左右均一か、どちらかの方が大きいのか。
 詩帆理論でいえば右。しかし自論でいえば左が大きい。両方の理論が正解なら均一だ。
 ブラをつける時、お風呂に入る時など毎日接しているはずのになぜか思い出せない。今すぐ見て確認したいが。

「確かめましょうか」

 思案顔の遥心を見て、詩帆が変質者の顔で十本すべての指を動かす。

「いいよばか変態」
「えー?じゃああたしのおっぱいちゃんたちはどうかなー。全員集合ー」

 言いながら詩帆が自分のシャツの胸元を覗きこむ。遥心は右利きなので、詩帆の理論が正ければ左が大きいはずだ。遥心理論が正しくても左が大きい。昨日抱いたばかりの身体を遥心が思い出そうとする。

「でも遥心揉むよりなめたりかんだりばっかだからなー」

 詩帆が自分のおっぱいちゃんたちに話しかけ、

「えっ?」

 遥心が驚いた声をあげる。そういうことの最中の行為なので無意識だったが、そうなのかと。

「ごめん。やだった?噛むの」

 申し訳なさそうに遥心が言う。
 舐めたり吸ったりならともかく、噛んだりはひょっとして嫌だったかもしれない。行為においてあれがいいこれがしたいという話はするが、あれはイヤこういうのは怖いという話はあまりしてこなかった。
 甘噛み程度に押さえていたつもりだが、知らず知らずに柔らかな肉に見えない傷をつけていたのかもしれない。
 プレイとまでは言えない、無意識な欲望に遥心がお伺いを立てると、詩帆は、

「……嫌じゃないよべつに、バカ」

 赤くなった顔で早口でそう言い、俯いてしまった。

「そう…」

 それを見て遥心も赤くなってしまう。子宮の辺りがきゅうっ、と切なくなった。



 ひねりのないオープンショーが終わると、一番最初に見た踊り子さんのステージになった。場内が空いてきたので、遥心と詩帆は少し前の席に移動して見ることにする。
 最初はファンキーな洋楽ナンバー。衣装は男物の縦縞スーツ。そこからボンテージ衣装に着替えてラテンナンバーで衣装を脱いでいくと、『フンイキイイネ』へと繋げた。

「こう繋がるんだ」

 ショーの内容はさっきと同じだが、最後しか見ていなかった二人は、なるほど、と頷きながら見る。真剣な表情で、さっきよりも至近距離で見ている女の子客二人に、踊り子さんが優しい笑みを浮かべた。
 その次は遥心が数時間前まで、劇場に入る直前まで推していた踊り子さんだった。
 一周回って今度はどうだろう、という思いで舞台を見る。
 ウクレレを使った、ハワイアン風のゆったりした音楽が流れてきた。
 どうやら出し物を変えてきたようだ。
 濃い青のボーダーシャツに白の七分丈パンツ、モップを肩に背負って踊り子さんが登場する。

「船乗り?」
「下っ端の海賊じゃないの?」

 遥心と詩帆が踊り子さんの衣装を見て小声で意見を言い合う。
 水兵服なら海軍士官なのだろうが。踊り子さんの役がいまいち掴めない。
 あくびを一つすると、踊り子さんが舞台を船の甲板に見立ててモップ掃除をし始めた。
 本舞台から中央舞台とモップをかけ、途中でにこやかにお客さんに手を振る。
 掃除が終わるとポケットから小さな望遠鏡を取り出し、客席という名の海を見る。
 反対のポケットから海図を広げ、わが船が正しく進んでいるかをチェック。パンツが幅広のゆったりした作りなので、ポケットに物を入れてもあまり目立たない。
 平和かつ順調な航海に、踊り子さんが大きく伸びをする。と、急にライトがランダムに点滅しだし、場内に雷鳴が響き渡る。
 何かの映画のサントラか、♪デレデンデンデン、デデン、デデレデン、デレデンデンデン、デデン、デデレデンという薄ら怖いBGMが流れてきた。
 揺れる船の上を表すように、右往左往しながら踊り子さんが舞台上でバランスを取る。
 驚いた表情で海上に何かを発見すると、一度下手側の袖に戻り、ロープのついた浮き輪を持ってきた。

「仲間落ちた?」

 詩帆が楽しそうに言う。
 白地に赤いラインが入った浮き輪を上手袖まで投げ、浮き輪に付いたロープを引っ張るが、袖でロープがびん、と張って仲間を引っ張り上げられない。しばらく波と踊り子さんとの引っ張り合いが続き、ギリギリギリ、ギリ、とロープがしなるような音がスピーカーから聞こえてくる。
 しかし遂に高波にバランスを崩し、綱引きに負けたようにつんのめると、そのまま踊り子さんが上手袖へと消え、ざっぱーん、ざざーんという音がスピーカーから。
 溺れた仲間を助けあげるつもりが自分も落ちてしまったらしい。

「今のってほんとに袖で誰かロープ引っ張ってなかった?」

 小声で詩帆が訊く。パントマイムにしてはロープの引っ張り方が上手かった。

「他の踊り子さんじゃないの?」
「そういうお手伝いもするのかな」

 詩帆と遥心が見えない舞台袖について話していると、場内にムーディな音楽が流れてきた。踊り子さんが男物の白のワイシャツ一枚で再登場する。
 ボタンを無造作に開け、何もつけてない胸が見え隠れする。
 手にはプラスチックのコップと歯ブラシ。
 船乗りだか海賊だかから一転して、いきなり彼氏の家にお泊まりした彼女になった。

「繋がりが…」
「しーっ」

 ステージ構成に疑問を抱く詩帆に、遥心がお静かに、と注意する。
 ワイシャツというアイテムに客がわかりやすく色めき立つ。遥心と詩帆だけを除いて。

「さっきのマリンルックの方が可愛かった」

 眉を顰め、詩帆が残念そうに言う。
 男物のワイシャツ一枚というのは、男性にとってはそれなりにそそるシチュエーションらしい。着ているのはぶかぶかなワイシャツで、長すぎる袖から手がほんのちょっとだけ出ていた。

「センスが30年くらい前のトレンディドラマだよ」
 
 アームホールが大きく、胸もそれなりにある踊り子さんなので上半身がボリューミーに見える。
 最近は細身のワイシャツが主流なので、大き目のワイシャツは余計に古臭い。
 踊り子さんがまたあくびを一つして歯磨きを始めた。
 ぶくぶくと口を濯いだ後にゴックンと飲み込むのはご愛敬か。

「素肌にワイシャツって痛くないの?擦れたりして。糊効いてるんでしょ?」
「最近のはほとんど形状記憶だから糊いらないはず」
「…余計痛そう」

 詩帆が自分の柔肌をさする。
 そんなことを話していたので、やはりどんな内容のステージだったか終始二人の頭には入ってこなかった。

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