昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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39、観劇後のファミレスにて

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「ぶらぶらしよっか」

 せっかくだし、という意味をこめて遥心が言うと、うんっ、と詩帆が嬉しそうに遥心の腕にしがみつく。
 詩帆の方が身長があるためバランスが悪いが、今日ばかりは遥心も気にならない。
 あてもなく、二人で遅くまでやっている洋服屋やCDショップを回った。24時間やっている本屋を見つけ、長居する。しかし時間を気にせず遊んでいたので、

「しぃーちゃん、終電無い」
「ワーオ」

 帰る術が無くなってしまった。タクシーという選択肢もあるにはあるがお金がない。
 マンガ喫茶でも泊まる?という遥心の提案に、ムラムラするよ?と詩帆が答えたので、二人はファミレスで一夜を明かすことにした。
 お腹は空いているけれど食欲はないという二人の意見が一致し、ロコモコ丼を一つだけとチョコレートパフェとバナナシフォンケーキを頼む。
 半分こと言ったのに詩帆がハンバーグ部分を中心にロコモコを粗方食べ、お互いのパフェとケーキもある程度食べると、

「アニソンってさ」

 詩帆が突然話しだした。

「使い勝手いいよね。ステージなんかに」
 
 遥心がうん、と相槌を打ち、パフェに細いスプーンを沈み込ませながら訊く。

「ストリップなんかだと前半にわーって盛り上げる曲流すんならオープニング曲とか使えばいいし、後半のえっちぃやつだとエンディング曲とかのしっとり系使えばいいし。それ以外にも和風っぽいのとか英語の歌とかラップとかサントラとか、色んな曲すごいあるし」
「……そうだね」

 遥心がぼんやりした口調で同意する。
 アニソンというものにはジャンルがない。
 ロック、ポップス、クラシック、演歌、オラトリオ、カンツォーネ、軍歌、電波、ラップ、テクノ、R&B、祭囃子、音頭、ヒップホップ、アカペラ、トランス、昭和歌謡、ハウス、インストゥルメンタル、ディスコ、ジャズ、イージーリスニング、雅楽、合唱、カントリーミュージック、ブラックミュージック、ゴスペル、サンバ、サーフナンバー、ファンク、メタル、北欧系メタル、渋谷系、シャンソン、シンフォニックメタル、吹奏楽、パンク、ソウルミュージック、タンゴ、チップチューン、デジロック、童謡、バラード、ビジュアル系、フォーク、アイドルソング、マンボ、ユーロビート、レゲエ、ルンバ、ワルツ、フレンチポップ、ブルース、ボサノバ、ロカビリー、ブリティッシュロック。
 幅というものがなく、それこそなんでもありだ。
 アニソンに触れると、自動的に色んな音楽に触れることが出来る。
 良い音楽というものはイメージが広がりやすい。
 それを舞台に変換するとなれば尚更だ。
 逆にその幅広さから、たまたまいいなと思って手にとった曲が偶然アニソンでした、ということもあるだろう。
 遥心自身、それはステージを見ていて実感できた。
 だから、今のストリップにはアニソンが多く使われているのではないかと。
 それは遥心がとうに導き出していた答えだ。それに、我が恋人は教えずとも辿り着いた。
 それがなんだか嬉しかった。
 あの、場内に少々マニアックなアニソンが流れている時の、踊り子さんと自分しかこの曲がアニソンだと知らないんじゃないかという共有感。
 他の金払いの良い客は知りもしないんじゃないかという優越感。
 更に言えば、踊り子さんすらそうだと知らずにアニソンを自分のステージに使っていそうな時も。
 自分の好きなアニソンというものが、誰にも気づかれず毒のようにじわりと性風俗に浸透し、逆に穢されていく様。
 それもなんだか楽しかった。


「ちょいと狩ろうぜ、ハルさん」
「おうよ」

 頼んだものを食べ終わると、二人はバッグからそれぞれの携帯ゲーム機を取り出し、通信プレイを始めた。

「回復っ、回復してっ」
「アイテム持ってきてない!」
「バッカじゃないの!?」
「はあー!?」

 やいのやいの言いながらプレイしていると、店の入り口から姦しい女性陣が来店してきた。

「おー!バナナシフォンケーキ食うぞぉー!」
「姐さんお静かにっ!」
「すいませーん。きんえんせきー」

 仕事終わりのキャバ嬢ご一行様かと思い、遥心がそちらに目を向ける。
 真ん中に酔いつぶれたような一番年上のお姉さんと、それを介抱するように腕を肩に回して引きずっている、やや若めのお姉さん、そして店員を探している女の子がいた。
 そのうちの店員を探してキョロキョロしている女の子と遥心の目が合い、

「あー、キミら今日見に来てたお客さんじゃーん。やっほー」

と、アニメ声で話しかけてきた。

「誰ぇ?」
「あっ!今日来てた女の子ちゃん。おーい」

 アニメ声に続いて酔いつぶれ姉さんと介抱姉さんが遥心達の方に顔を向ける。
 見れば三人は今日、耀貴妃館に出演していた踊り子さん達だった。
 介抱しているのはヒッピー姐さんで、アニメ声はクリーミィ肌姐さんで、酔いつぶれているのは何も学んでない姐さんだった。

「誰?」

 詩帆がようやくゲーム画面から目を放し、姦しい踊り子達の方を向くと、

「あっ!ねえそれっ!」

 若いお姉さんが酔いつぶれた姉さんを引きずりながら駆け寄ってきた。

「それって、」

 そして詩帆と遥心がプレイしていたゲームソフトのタイトルを言う。
 ゲーム機の持ち方が特徴的なソフトなので、プレイしている人は他人がやっているのを見るとすぐにそれだとわかる。

「そうですけど…」
「やっぱり!二人上手い?あたしレベル上がんなくてさあ。レベル上げんの手伝ってくんないかな」

 そう言って酔ったお姉さんを肩に回したまま、お願い、と両手を合わせる。
 詩帆が再びゲーム画面に目を戻しながら、いいよー、と軽い口調で了承する。

「やった!」

 言うが早いか、酔ったお姉さんを遥心の方に投げ捨てるように座らせると、自分は詩帆の隣に座り、ブランドバッグからごそごそとゲーム機を取り出す。

「すいませーん、注文ー」

 そして、いつの間にか座っていたアニメ声が店員を呼び、

「おっ、バナナシフォンあるじゃん」
「あっ!ババアくうなよ!!」
「ババアぁーっ!?」

 酔いから覚醒したお姉さんが、目の前にあった詩帆の食べかけのバナナシフォンケーキに手を出し、詩帆がキレる。それに対し、ババアと言われたお姉さんがキレ返した。
 遥心はムラムラした詩帆にマンガ喫茶で、盗撮覚悟で一晩中何かをされるという選択肢を選ばなかったことを後悔した。



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