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第二回公演
6、チルチルチルアウトタイム
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ねばってはみたが三回目公演も結局同じ内容だった。胸焼け回避から詩帆がロビーに逃げると、
「おー、嬢ちゃん。どした一人で。自棄ストリップか」
また男性客に話しかけられた。
「照明の専門学校通ってて、その勉強をしに」
「ほおー、偉いねえ。投光のやつに聞けば色々教えてくれんじゃねえか?おいっ、おいっ!」
「あの、お仕事中なんで、あとで」
男性客が俺ぁ常連だから顔が利くんだとばかりに従業員に呼びかけるのを詩帆が制止する。
「おねーさんどうした?一人?あ、新人さんの見学か?」
「違います」
場内へ行ってもロビーへ行っても、物珍しさからか話しかけられた。
「小劇団やってて、それで参考になるかと」
「映像監督の卵みたいのやってて、風営法ドキュメンタリーとか撮りたいなって」
撮影ショー、ロビー、トイレ待ち。やたら客が話しかけてくる。
せっかくのアパレル系学生コスプレも何の役にも立たない。
一度スイッチが入ると嘘はいくらでもつけたが、
「すいません。外出」
居心地の悪さから窓口で外出券を貰い、詩帆はロビーから更に劇場外へと逃げた。
ストリップは一度入れば入れ替えなしというお得なシステムと共に、窓口で申請すれば外出が出来た。
どうせやっているのはダンスではなく昭和エロだ。
もう少しお金を払えばもっといいサービスを受け入れられるというのに、なぜこんなところにしがみつくのか。
どこか釈然としないまま詩帆は外へと出た。
胸焼けはしていたがお昼はブロックタイプの携帯食料だけだったので、お腹はそれなりに減っている。
定められた外出時間は30分。
夕飯には早いが詩帆は食事休憩とすることにした。
何か食べれる店を探していると、それより先にいい雰囲気の和菓子屋を見つけた。
「いわ、のり、ようかん?」
店のガラス窓には名物 岩海苔羊羹という張り紙があった。
その名の通り岩海苔を使った羊羹らしい。他にも変わり羊羹がいくつかあった。
「あら、いらっしゃい」
「どうも。ええと」
店のお母さんの笑顔に誘われ、せっかく小旅行気分なのだからと物珍しさからそれらを買った後。
ブラブラと歩いているとラーメン屋を見つけた。
「おお。味噌ラーメン食べたい」
普段の詩帆は、インスタントの醤油ラーメンにオイスターソースや粉末鶏ガラなどを加えた遥心特製ラーメンが好きだったが、味噌はラーメン屋で食べるのが一番だった。
だが、出てきたラーメンは値段の割に麺と野菜が多く、すべて食べきった頃にはお腹が重くなっていた。
食事時ではないことに甘えて時間いっぱいまでいたが、
「帰んのめんどくさ」
なんだか劇場に戻るのが面倒くさくなってしまった。
血糖値が上がって眠たいこともあり、詩帆がカウンターに突っ伏していると、
「どうしたお嬢ちゃん。帰りたくねえって、家出か?」
こ汚いラーメン屋に女の子が来るのが珍しいのか、カカカと笑いながら店の大将が話しかけてきた。
「そうじゃなくて。そこの劇場から来たんですけど」
「おっ?なに、踊り子さん?」
大将の言葉に店内がざわつく。ストリップ劇場の存在はここの住人には当然のように知られているらしい。
「じゃなくて、客です」
「ああそうか。何?一人で?」
「あのぉー、私、漫画家で。ちょっと勉強をしに」
詩帆はまたするりと嘘をついた。
「へえーっ、漫画家さん?どんな雑誌で描いてんの?」
「えーと、雑誌で連載貰えないからウェブで描いてて」
昨今のフクザツな出版事情に、大将がふうんとよくわかっていない返事をし、
「取材とかって男の編集さんとかと来るんじゃないの?危なくないかい?」
単身取材に来た詩帆の身を案じる。やはり女一人で来るには少々危ない場所なのかと今更理解した。
「仕事で繋がりある人がデレデレしてるの見るのちょっと」
「嬢ちゃん、何なら俺と見にいくかああ?」
店にいたオッサンがアルコールとニンニク臭い息を吐きながら詩帆に話しかけてくるが、
「いいですけど。僕、男ですよ?」
詩帆の発言に店内の空気が固まる。客と大将の視線が上から下へ、下から上へと移動する。
座っているから正確な数字はわからないが、座っていても女性にしては高そうに見える身長。
ゴテゴテした食い合せの悪い格好は女装というより、ある種ブスの逃げ道ファッションだったが、
「知りません?女装男子とか、男の娘って書いてオトコノコとも言いますけど」
コップの水を飲みながら詩帆は平然と言った。今日はなぜだか嘘が次から次へと出てきた。
自分でもなぜ嘘を付くのか分からなかった。躁状態か何かだろうかと考えてみるが、分からなかった。
「嘘だろ?」
大将が店にいる男性を代表して訊いてくる。
「それむしろお褒めの言葉です。今までこっちから言うまで見破られたことないんで」
「こっちか?」
声を顰め、大将が右手の甲を左頬の横に添えてみせる。
そのジェスチャーと反応を見ながら昭和だなあと詩帆は思った。ファッションとセクシャルは今や違う次元にある。
だがそれをここで説明するのはナンセンスだった。
「違いますよぉ、やだなあ。ああ、もう帰らなきゃ。すいません、お勘定」
大将と客が自称男の娘という詩帆の声をしっかりと耳で捉える。
その声は作り声どころか声変わりもしてなさそうだが、まあ最近の子だから、最近の子はわからない、未知なる生物だからと彼らは無理やり納得した。
「おー、嬢ちゃん。どした一人で。自棄ストリップか」
また男性客に話しかけられた。
「照明の専門学校通ってて、その勉強をしに」
「ほおー、偉いねえ。投光のやつに聞けば色々教えてくれんじゃねえか?おいっ、おいっ!」
「あの、お仕事中なんで、あとで」
男性客が俺ぁ常連だから顔が利くんだとばかりに従業員に呼びかけるのを詩帆が制止する。
「おねーさんどうした?一人?あ、新人さんの見学か?」
「違います」
場内へ行ってもロビーへ行っても、物珍しさからか話しかけられた。
「小劇団やってて、それで参考になるかと」
「映像監督の卵みたいのやってて、風営法ドキュメンタリーとか撮りたいなって」
撮影ショー、ロビー、トイレ待ち。やたら客が話しかけてくる。
せっかくのアパレル系学生コスプレも何の役にも立たない。
一度スイッチが入ると嘘はいくらでもつけたが、
「すいません。外出」
居心地の悪さから窓口で外出券を貰い、詩帆はロビーから更に劇場外へと逃げた。
ストリップは一度入れば入れ替えなしというお得なシステムと共に、窓口で申請すれば外出が出来た。
どうせやっているのはダンスではなく昭和エロだ。
もう少しお金を払えばもっといいサービスを受け入れられるというのに、なぜこんなところにしがみつくのか。
どこか釈然としないまま詩帆は外へと出た。
胸焼けはしていたがお昼はブロックタイプの携帯食料だけだったので、お腹はそれなりに減っている。
定められた外出時間は30分。
夕飯には早いが詩帆は食事休憩とすることにした。
何か食べれる店を探していると、それより先にいい雰囲気の和菓子屋を見つけた。
「いわ、のり、ようかん?」
店のガラス窓には名物 岩海苔羊羹という張り紙があった。
その名の通り岩海苔を使った羊羹らしい。他にも変わり羊羹がいくつかあった。
「あら、いらっしゃい」
「どうも。ええと」
店のお母さんの笑顔に誘われ、せっかく小旅行気分なのだからと物珍しさからそれらを買った後。
ブラブラと歩いているとラーメン屋を見つけた。
「おお。味噌ラーメン食べたい」
普段の詩帆は、インスタントの醤油ラーメンにオイスターソースや粉末鶏ガラなどを加えた遥心特製ラーメンが好きだったが、味噌はラーメン屋で食べるのが一番だった。
だが、出てきたラーメンは値段の割に麺と野菜が多く、すべて食べきった頃にはお腹が重くなっていた。
食事時ではないことに甘えて時間いっぱいまでいたが、
「帰んのめんどくさ」
なんだか劇場に戻るのが面倒くさくなってしまった。
血糖値が上がって眠たいこともあり、詩帆がカウンターに突っ伏していると、
「どうしたお嬢ちゃん。帰りたくねえって、家出か?」
こ汚いラーメン屋に女の子が来るのが珍しいのか、カカカと笑いながら店の大将が話しかけてきた。
「そうじゃなくて。そこの劇場から来たんですけど」
「おっ?なに、踊り子さん?」
大将の言葉に店内がざわつく。ストリップ劇場の存在はここの住人には当然のように知られているらしい。
「じゃなくて、客です」
「ああそうか。何?一人で?」
「あのぉー、私、漫画家で。ちょっと勉強をしに」
詩帆はまたするりと嘘をついた。
「へえーっ、漫画家さん?どんな雑誌で描いてんの?」
「えーと、雑誌で連載貰えないからウェブで描いてて」
昨今のフクザツな出版事情に、大将がふうんとよくわかっていない返事をし、
「取材とかって男の編集さんとかと来るんじゃないの?危なくないかい?」
単身取材に来た詩帆の身を案じる。やはり女一人で来るには少々危ない場所なのかと今更理解した。
「仕事で繋がりある人がデレデレしてるの見るのちょっと」
「嬢ちゃん、何なら俺と見にいくかああ?」
店にいたオッサンがアルコールとニンニク臭い息を吐きながら詩帆に話しかけてくるが、
「いいですけど。僕、男ですよ?」
詩帆の発言に店内の空気が固まる。客と大将の視線が上から下へ、下から上へと移動する。
座っているから正確な数字はわからないが、座っていても女性にしては高そうに見える身長。
ゴテゴテした食い合せの悪い格好は女装というより、ある種ブスの逃げ道ファッションだったが、
「知りません?女装男子とか、男の娘って書いてオトコノコとも言いますけど」
コップの水を飲みながら詩帆は平然と言った。今日はなぜだか嘘が次から次へと出てきた。
自分でもなぜ嘘を付くのか分からなかった。躁状態か何かだろうかと考えてみるが、分からなかった。
「嘘だろ?」
大将が店にいる男性を代表して訊いてくる。
「それむしろお褒めの言葉です。今までこっちから言うまで見破られたことないんで」
「こっちか?」
声を顰め、大将が右手の甲を左頬の横に添えてみせる。
そのジェスチャーと反応を見ながら昭和だなあと詩帆は思った。ファッションとセクシャルは今や違う次元にある。
だがそれをここで説明するのはナンセンスだった。
「違いますよぉ、やだなあ。ああ、もう帰らなきゃ。すいません、お勘定」
大将と客が自称男の娘という詩帆の声をしっかりと耳で捉える。
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