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第二回公演
5、あかるいせいふうぞく
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「続いてはタッチショーでお楽しみください」
天板ショーが終わると再度踊り子さんが舞台袖へ戻り、聞き取りづらい場内アナウンスと共に今度はタッチショーが始まった。
タッチショーは踊り子さんの身体に直接触れられるショーだ。
ここだけは踊り子さんの身体にお手を触れないでください、という鉄則は無効になるが、詩帆の耳が反応する。
流れてきたのはインド系の異国情緒溢れる男性アイドルグループの歌。
特にファンというわけではないが、普段聞かないような楽器を多用したサウンドで好きな曲だった。
歌唱メンバーが揃っているグループなため、若い女の子達はその歌声でとろけていたが、それより詩帆はPVでメンバーが披露したインド映画ばりのダンスを思い出してニヤニヤする。
「はーい、みぎおっぱいひだりおっぱい。ひだりはちょっとね、ほらハツがあるから大きいのよね。ホホホ」
曲のせいかショー自体には妖艶さはなく、踊り子さんは明るい雰囲気で客に肉体を触れさせる。が、詩帆を見つけると、
「あらぁ、かわいいお客さんがいるわね。私の娘くらいかしら。旦那いて子供産んでたらだけど」
お決まりの自虐年齢トークを展開した。
自己申告からすると子無し、更には未婚が伺えた。
愛想笑いを浮かべながら、詩帆は先の見えない他人の人生にゾッとする。
「お嬢ちゃんもどう?する?」
重力に負けたたっぷりとした乳房を両手で抱えながら踊り子さんが言う。
舞台周りにいる男性客が何かを期待したようなニヤニヤ笑みを浮かべるが、
「いえ、遠慮しときます」
それを詩帆は若者らしいヘラヘラ笑みを浮かべながら断る。
見世物小屋に来て見世物にされるのはごめんだった。
いくら女性が好きとはいえ、風俗とはいえ、好きでもない熟女の胸を揉む気にはならなかった。
「はーい、撮影ショーでーす。一枚500円となっておりまーす」
タッチショーが終わると今度は踊り子さんがカメラを手に、決して広くはない場内と多くない客に向かって声を張り上げる。
撮影ショーには誰も参加しようとしない。
撮影ショーは客が踊り子さん自身の写真か、2ショット、あるいはL字開脚やM字開脚、V字開脚、バック体勢など様々なポーズで全裸や性器を撮影出来るショーだ。
本来なら客が踊り子さんと触れ合える場だが、先程入場料のみで濃厚な触れ合いをしたのに再度カネを払って写真だけを撮る客は居ない。
モデルが若い踊り子さんならまだしも、しなびた熟女だ。
500円もの大金を払う価値など無い。
しかし一枚500円の撮影代は劇場側にとっては貴重な収入源であり、様々な劇場を渡り歩く踊り子さんは撮影客を取れなければ劇場からは干され候補となる。
場内には買えや、買わんよ、買わせろという踊り子と客と劇場側との見えない戦いが見えた。
それを若い女の子客が我関せずの姿勢で場内後方の席から眺める。
「続きましてオープンショーでお楽しみくださーい」
ロックオンされた常連客が渋々撮りたくもない接写性器写真を一枚だけ撮るとようやく撮影ショーが終わり、やる気のない場内アナウンスと共にオープンショーが始まった。
詩帆がギリギリサビだけ歌えるくらいの、昭和の男前アイドルソングが流れてきた。
オープンショーは踊り子さんが大事なところを客に向かってじっくり丹念にオープンするからという、名前そのままなショーだ。
中央舞台に座した踊り子さんがM字開脚をすると、舞台周りに座った客が覗きこむようにして、老眼鏡を掛けた客はほうほうと眼鏡のつるに手を掛け、踊り子さんの商売道具を眺める。
なんて下世話な品評会なんだろうと詩帆は思うが、ストリップ劇場での楽しみ方としてはなんら間違っていない。
だが若い女の子客にとっては、ノリの良い邦楽に合わせてのグロテスクな罰ゲームだった。
その後の踊り子さんのショーでもタッチショーは続いた。
「♪こおしって、こおしって、こう書っくのっ」
毛筆と半紙を使ったいわゆる花電車も見せられ、詩帆は胸焼けを起こす。
ダンスはおざなり、踊り子さんの平均年齢は総じて高い。
期待していた気合の入った若い踊り子さんによるダンスショーがない。
詩帆は完全に見誤った。
どうやら遥心と行った都会にあるようなストリップ劇場では、若い綺麗どころの踊り子さんによるダンスショーが中心で、こういった少し田舎の劇場ではストリップ本来の楽しみ方が出来るらしい。
詩帆が望んでいたのは前者だった。
やっと香盤が一巡し、休憩に入ると、
「おっ」
嬉しそうな視線を詩帆が天井に向ける。
手持ち無沙汰な客のためにか、場内のBGMが変わった。
その曲が変わるたびに詩帆が、お、おお、おおっ、と嬉しそうな顔をする。
どれも2000年代初頭のアニソンだった。
有線でも引いているのだろうか、お金をかけるところが違うようにも思えたが。
遥心を連れてきたらコレ知ってる、コレ大好きなどと言いながらワイワイ楽しめたかもしれないのにと思いながらBGMに耳を傾けていると、
「なんだぁ可愛い客がいるなあ。未来の踊り子さん候補かな?ハッハッハ」
先程の踊り子さんと同じような台詞とともに、いかにもなガハハ親父が話しかけてきた。
「そんな、違います」
はにかみながら詩帆は丁重にあしらう。ガハハ親父には酒が入っていた。
「誰か踊り子さんのファンなのかな?」
言いながらガハハ親父は詩帆の横にどっかり座りながら更に話しかけてくるが、
「そういうんじゃなくて」
「ほー。興味本位?」
「えっと、あっ!」
「ん?」
「あ、いえ」
またBGMが替わり、詩帆が嬉しそうな声を上げる。
ドンピシャ世代のアニソンなので身体がいちいち反応してしまう。
一人で来ると話しかけられやすいのか、遥心を連れてくればよかった、あんなのでもいればガード役になるのにと思い、詩帆はすぐに喧嘩中だと気付く。
「暇だったんで、話のネタになるかなーとか」
若い女の子客が適当に言った言葉に、ガハハ親父の顔が急に険しくなる。
「ブログで上げたり、とか?」
「いえ」
ずいと近づきながら言ってくる言葉にピリついた雰囲気が纏っているのを察知し、詩帆はすぐに否定する。
「最近の若いやつぁすぐネットだ何だに書きやがるからなあ。ケータイで踊り子の
裸隠し撮りしてネットに上げたり。この前営業停止食らったのだってネットが原因だとか言うし。なうだなんだって逐一報告しやがって。あれだな、人の繋がりみたいのがねえんだろうな。だからテメェが見てきたもん全部ぶちまけて、構って欲しいんだろうな。ストリップだってジジイにはいい交流場なんだからさあ、そういうもんお上に狩られちゃあ」
「すいません。トイレどこですか」
ったく最近の若いもんは論が始まったので、最近の若者は逃げることにした。
「おう。女便所なんてねえから悪さされないように気ぃつけろよ」
ガハハ笑いに見送られながら、詩帆はトイレへと向かった。
天板ショーが終わると再度踊り子さんが舞台袖へ戻り、聞き取りづらい場内アナウンスと共に今度はタッチショーが始まった。
タッチショーは踊り子さんの身体に直接触れられるショーだ。
ここだけは踊り子さんの身体にお手を触れないでください、という鉄則は無効になるが、詩帆の耳が反応する。
流れてきたのはインド系の異国情緒溢れる男性アイドルグループの歌。
特にファンというわけではないが、普段聞かないような楽器を多用したサウンドで好きな曲だった。
歌唱メンバーが揃っているグループなため、若い女の子達はその歌声でとろけていたが、それより詩帆はPVでメンバーが披露したインド映画ばりのダンスを思い出してニヤニヤする。
「はーい、みぎおっぱいひだりおっぱい。ひだりはちょっとね、ほらハツがあるから大きいのよね。ホホホ」
曲のせいかショー自体には妖艶さはなく、踊り子さんは明るい雰囲気で客に肉体を触れさせる。が、詩帆を見つけると、
「あらぁ、かわいいお客さんがいるわね。私の娘くらいかしら。旦那いて子供産んでたらだけど」
お決まりの自虐年齢トークを展開した。
自己申告からすると子無し、更には未婚が伺えた。
愛想笑いを浮かべながら、詩帆は先の見えない他人の人生にゾッとする。
「お嬢ちゃんもどう?する?」
重力に負けたたっぷりとした乳房を両手で抱えながら踊り子さんが言う。
舞台周りにいる男性客が何かを期待したようなニヤニヤ笑みを浮かべるが、
「いえ、遠慮しときます」
それを詩帆は若者らしいヘラヘラ笑みを浮かべながら断る。
見世物小屋に来て見世物にされるのはごめんだった。
いくら女性が好きとはいえ、風俗とはいえ、好きでもない熟女の胸を揉む気にはならなかった。
「はーい、撮影ショーでーす。一枚500円となっておりまーす」
タッチショーが終わると今度は踊り子さんがカメラを手に、決して広くはない場内と多くない客に向かって声を張り上げる。
撮影ショーには誰も参加しようとしない。
撮影ショーは客が踊り子さん自身の写真か、2ショット、あるいはL字開脚やM字開脚、V字開脚、バック体勢など様々なポーズで全裸や性器を撮影出来るショーだ。
本来なら客が踊り子さんと触れ合える場だが、先程入場料のみで濃厚な触れ合いをしたのに再度カネを払って写真だけを撮る客は居ない。
モデルが若い踊り子さんならまだしも、しなびた熟女だ。
500円もの大金を払う価値など無い。
しかし一枚500円の撮影代は劇場側にとっては貴重な収入源であり、様々な劇場を渡り歩く踊り子さんは撮影客を取れなければ劇場からは干され候補となる。
場内には買えや、買わんよ、買わせろという踊り子と客と劇場側との見えない戦いが見えた。
それを若い女の子客が我関せずの姿勢で場内後方の席から眺める。
「続きましてオープンショーでお楽しみくださーい」
ロックオンされた常連客が渋々撮りたくもない接写性器写真を一枚だけ撮るとようやく撮影ショーが終わり、やる気のない場内アナウンスと共にオープンショーが始まった。
詩帆がギリギリサビだけ歌えるくらいの、昭和の男前アイドルソングが流れてきた。
オープンショーは踊り子さんが大事なところを客に向かってじっくり丹念にオープンするからという、名前そのままなショーだ。
中央舞台に座した踊り子さんがM字開脚をすると、舞台周りに座った客が覗きこむようにして、老眼鏡を掛けた客はほうほうと眼鏡のつるに手を掛け、踊り子さんの商売道具を眺める。
なんて下世話な品評会なんだろうと詩帆は思うが、ストリップ劇場での楽しみ方としてはなんら間違っていない。
だが若い女の子客にとっては、ノリの良い邦楽に合わせてのグロテスクな罰ゲームだった。
その後の踊り子さんのショーでもタッチショーは続いた。
「♪こおしって、こおしって、こう書っくのっ」
毛筆と半紙を使ったいわゆる花電車も見せられ、詩帆は胸焼けを起こす。
ダンスはおざなり、踊り子さんの平均年齢は総じて高い。
期待していた気合の入った若い踊り子さんによるダンスショーがない。
詩帆は完全に見誤った。
どうやら遥心と行った都会にあるようなストリップ劇場では、若い綺麗どころの踊り子さんによるダンスショーが中心で、こういった少し田舎の劇場ではストリップ本来の楽しみ方が出来るらしい。
詩帆が望んでいたのは前者だった。
やっと香盤が一巡し、休憩に入ると、
「おっ」
嬉しそうな視線を詩帆が天井に向ける。
手持ち無沙汰な客のためにか、場内のBGMが変わった。
その曲が変わるたびに詩帆が、お、おお、おおっ、と嬉しそうな顔をする。
どれも2000年代初頭のアニソンだった。
有線でも引いているのだろうか、お金をかけるところが違うようにも思えたが。
遥心を連れてきたらコレ知ってる、コレ大好きなどと言いながらワイワイ楽しめたかもしれないのにと思いながらBGMに耳を傾けていると、
「なんだぁ可愛い客がいるなあ。未来の踊り子さん候補かな?ハッハッハ」
先程の踊り子さんと同じような台詞とともに、いかにもなガハハ親父が話しかけてきた。
「そんな、違います」
はにかみながら詩帆は丁重にあしらう。ガハハ親父には酒が入っていた。
「誰か踊り子さんのファンなのかな?」
言いながらガハハ親父は詩帆の横にどっかり座りながら更に話しかけてくるが、
「そういうんじゃなくて」
「ほー。興味本位?」
「えっと、あっ!」
「ん?」
「あ、いえ」
またBGMが替わり、詩帆が嬉しそうな声を上げる。
ドンピシャ世代のアニソンなので身体がいちいち反応してしまう。
一人で来ると話しかけられやすいのか、遥心を連れてくればよかった、あんなのでもいればガード役になるのにと思い、詩帆はすぐに喧嘩中だと気付く。
「暇だったんで、話のネタになるかなーとか」
若い女の子客が適当に言った言葉に、ガハハ親父の顔が急に険しくなる。
「ブログで上げたり、とか?」
「いえ」
ずいと近づきながら言ってくる言葉にピリついた雰囲気が纏っているのを察知し、詩帆はすぐに否定する。
「最近の若いやつぁすぐネットだ何だに書きやがるからなあ。ケータイで踊り子の
裸隠し撮りしてネットに上げたり。この前営業停止食らったのだってネットが原因だとか言うし。なうだなんだって逐一報告しやがって。あれだな、人の繋がりみたいのがねえんだろうな。だからテメェが見てきたもん全部ぶちまけて、構って欲しいんだろうな。ストリップだってジジイにはいい交流場なんだからさあ、そういうもんお上に狩られちゃあ」
「すいません。トイレどこですか」
ったく最近の若いもんは論が始まったので、最近の若者は逃げることにした。
「おう。女便所なんてねえから悪さされないように気ぃつけろよ」
ガハハ笑いに見送られながら、詩帆はトイレへと向かった。
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