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第二回公演
4、やっべー、いきなりババ引いちまったい
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「これは…」
ぴんと張っていたなんちゃって専門学生のワクワク糸が弛緩する。
背中もどんどん猫背になる。
出てきた踊り子さんは40代半ばほど。
衣装は着やすく脱ぎやすい、既製品の薄手ベビードール。
踊りとは程遠い、ただステップを踏むだけのダンスステージ。
曲も、出処がよくわからないインスト曲だった。
詩帆はそれを見て聴いた瞬間、時間、交通費、労力、睡眠時間。様々なものを無駄にした気がした。
あの宣材写真は一体いつ、何十年前に撮ったものなのか。
そんなことを考えぼんやり見つめていると、内容の無いダンスステージはあっという間に終わり、照明がピンク色に変わった。
同時にミラーボールが回り出す。
「お客様の中でどなたか一名、ステージにおあがりください」
聞き取りづらい場内アナウンスが響き渡ると、勝手知ったるといった感じですぐに一人の男性客がさっと立ち上がり、もう一人の男性客がのっそりと立ち上がる。
詩帆はすぐに、これから何が始まるか理解する。
いわゆる天板ショーだ。
踊り子と客による、性行為を模したショーが始まるのだ。
「じゃんっけっ、ぽいっ。あいっこでっ、しょっ」
名乗りを上げた二人はリズム感の悪い掛け声でじゃんけんを始め、勝利した男性が靴を脱いで中央舞台に上がる。
勝ったのは後から立ち上がった、白のポロシャツをスラックスにタックインした50代ぐらいの男性客だった。
彼は勝者にも関わらず、ショーが始まるまで少し所在なげに背中を丸めるようにして、舞台の真ん中で胡座をかいていた。
そんな背中を丸めてまでエッチなサービスを受けたいのだろうかと、これから始まるショーも含め興味無さ気に見ていた詩帆だが、場内に流れてきた曲にぴくりと耳が反応する。
おおおー、と音には出さずに嬉しそうな唸り声を上げる。
なぜここで、と思いながら。
流れてきたのは、アニメ いろおにやめた。の主題歌『ディアマイカラーセラピスト』だった。
優しい多重ハミングから始まる、しっとりとした救いのあるメロディ。
ピアノの旋律、透明感のある歌声は春の日だまりのような暖かさを伴って胸の奥深くに染みこんでくる。
詩帆が流れてくるアニソンを耳に、周りに気づかれぬよう小さく身体を揺らしていると、一度舞台袖へと戻った踊り子さんが手籠を持って現れる。
そして義務的な仕草で舞台に上がった男性の手をおしぼりのようなもので拭くと、お互いたっぷりとした体型の男性客と踊り子さんが抱き合った。
がっぷりよつ。夜のお相撲。そんな言葉が詩帆の頭に浮かぶ。
昔ならばもっと過激なことが出来たはずだが、今は時代のせいでこの程度の触れ合いしか出来ないらしい。
挿入していいのはせいぜい指まで。
性器挿入は今や法律で禁止されていた。
あのやる気のないダンスショーはこのショーのための布石に過ぎない。
消化試合、いや違う。無気力試合、とも違う。
当てはまるべき言葉が見つからない。どうもしっくり来ない。
色々と考えてみたところで
「ああ、あれだ」
詩帆がようやく思い出す。
外見と入り口は普通の古本屋の体で、進むと18歳未満立入禁止となっているエロDVD屋。
古本屋ゾーンはまったくやる気のないラインナップで、18禁ゾーンは店舗の8割を閉める広さ。
今見ているショーは、ちょうどあんな見せかけ古本屋のようだった。
要はそんなことを考えるぐらいしか女子大生にはやることがなかったのだが、曲が変わり、続いて流れてきた曲に息を飲む。
流れてきたのはPCゲーム まごころのアリア 主題歌 『蜃気楼のくに』だった。
日本の真の国歌と名高い名曲をこんな場所で、こんな場面で聴くとは、と詩帆が震える。
神の悪戯とまで言わしめた天へと還るようなメロディ。
隣の椅子の飛び出たスポンジを弄りながら、詩帆がゆったりとその旋律に身を委ねる。
だが数メートル先には目を閉じたくなる痴態が繰り広げられ、時空が歪む。
神の旋律と歌声が穢されていく。
母親、父親と変わらないぐらいの年齢の男女が性行為一歩手前の如何わしい行為を繰り広げている。
ガサ入れが行われるのはこういったショーの最中か。
劇場の入り口を警戒しつつ、曲に身を委ねつつ、詩帆がステージに目を向ける。
改めて見ると、今舞台にいるのは肉感的という言葉が合う踊り子さんだった。加齢とともに全身にくまなく脂肪がついたような、ある種とても自然な女性の姿だ。
自分もいずれああなるのかと詩帆は想像する。
相方も根っからインドアなアニメオタクだから、運動も気まぐれ程度にしかしない。
気まぐれに不摂生な生活や食事をし、思いつきで減量をしてみたりする。
今後訪れるボディラインの崩れについて、今回の訓練が終わったら一度話し合わなくてはならないかもしれない。
そんなことを独り身女子大生が考えているうちに曲が変わった。
まだやるのか、とげんなりした詩帆の背筋が曲がる。
しかし聞き覚えのあるオルゴール音に、曲げた背筋に戦慄が走った。
流れてきたのは PCゲーム ダナクルのトゥルーエンディングテーマ『ハンドトゥハンド』だった。
まだ幼い自分の子の成長を親目線で歌う歌だ。
ゲーマー男子にとっては縁遠いそんな歌詞が、同じくセクシャルからすれば縁遠い詩帆の胸を切なく打つ。
今後、子供の成長を繋いだ手を通して実感するなんてことがあるだろうか。
今は恋人のためにしか使われない右手を見て、詩帆は考える。
目の前の舞台で男性が手のひらで与えているのは、卑猥で乱暴な振動だった。
そこへ踊り子さんの作り喘ぎ声が重なる。
メス犬のようなキャンキャン声に合わせて、男性が膣に差し入れた手で刺激を与えている。
それらをぼんやり見つめながら、詩帆が予想する。
ディアマイカラーセラピストの後に流れてきたのは、どちらも同ゲームメーカーの作品の曲だった。
踊り子さんの選曲ではないだろう。
ということは従業員のセンスか。
詩帆は従業員に訊いてみたくて、けれど訊くのが怖かった。
ぴんと張っていたなんちゃって専門学生のワクワク糸が弛緩する。
背中もどんどん猫背になる。
出てきた踊り子さんは40代半ばほど。
衣装は着やすく脱ぎやすい、既製品の薄手ベビードール。
踊りとは程遠い、ただステップを踏むだけのダンスステージ。
曲も、出処がよくわからないインスト曲だった。
詩帆はそれを見て聴いた瞬間、時間、交通費、労力、睡眠時間。様々なものを無駄にした気がした。
あの宣材写真は一体いつ、何十年前に撮ったものなのか。
そんなことを考えぼんやり見つめていると、内容の無いダンスステージはあっという間に終わり、照明がピンク色に変わった。
同時にミラーボールが回り出す。
「お客様の中でどなたか一名、ステージにおあがりください」
聞き取りづらい場内アナウンスが響き渡ると、勝手知ったるといった感じですぐに一人の男性客がさっと立ち上がり、もう一人の男性客がのっそりと立ち上がる。
詩帆はすぐに、これから何が始まるか理解する。
いわゆる天板ショーだ。
踊り子と客による、性行為を模したショーが始まるのだ。
「じゃんっけっ、ぽいっ。あいっこでっ、しょっ」
名乗りを上げた二人はリズム感の悪い掛け声でじゃんけんを始め、勝利した男性が靴を脱いで中央舞台に上がる。
勝ったのは後から立ち上がった、白のポロシャツをスラックスにタックインした50代ぐらいの男性客だった。
彼は勝者にも関わらず、ショーが始まるまで少し所在なげに背中を丸めるようにして、舞台の真ん中で胡座をかいていた。
そんな背中を丸めてまでエッチなサービスを受けたいのだろうかと、これから始まるショーも含め興味無さ気に見ていた詩帆だが、場内に流れてきた曲にぴくりと耳が反応する。
おおおー、と音には出さずに嬉しそうな唸り声を上げる。
なぜここで、と思いながら。
流れてきたのは、アニメ いろおにやめた。の主題歌『ディアマイカラーセラピスト』だった。
優しい多重ハミングから始まる、しっとりとした救いのあるメロディ。
ピアノの旋律、透明感のある歌声は春の日だまりのような暖かさを伴って胸の奥深くに染みこんでくる。
詩帆が流れてくるアニソンを耳に、周りに気づかれぬよう小さく身体を揺らしていると、一度舞台袖へと戻った踊り子さんが手籠を持って現れる。
そして義務的な仕草で舞台に上がった男性の手をおしぼりのようなもので拭くと、お互いたっぷりとした体型の男性客と踊り子さんが抱き合った。
がっぷりよつ。夜のお相撲。そんな言葉が詩帆の頭に浮かぶ。
昔ならばもっと過激なことが出来たはずだが、今は時代のせいでこの程度の触れ合いしか出来ないらしい。
挿入していいのはせいぜい指まで。
性器挿入は今や法律で禁止されていた。
あのやる気のないダンスショーはこのショーのための布石に過ぎない。
消化試合、いや違う。無気力試合、とも違う。
当てはまるべき言葉が見つからない。どうもしっくり来ない。
色々と考えてみたところで
「ああ、あれだ」
詩帆がようやく思い出す。
外見と入り口は普通の古本屋の体で、進むと18歳未満立入禁止となっているエロDVD屋。
古本屋ゾーンはまったくやる気のないラインナップで、18禁ゾーンは店舗の8割を閉める広さ。
今見ているショーは、ちょうどあんな見せかけ古本屋のようだった。
要はそんなことを考えるぐらいしか女子大生にはやることがなかったのだが、曲が変わり、続いて流れてきた曲に息を飲む。
流れてきたのはPCゲーム まごころのアリア 主題歌 『蜃気楼のくに』だった。
日本の真の国歌と名高い名曲をこんな場所で、こんな場面で聴くとは、と詩帆が震える。
神の悪戯とまで言わしめた天へと還るようなメロディ。
隣の椅子の飛び出たスポンジを弄りながら、詩帆がゆったりとその旋律に身を委ねる。
だが数メートル先には目を閉じたくなる痴態が繰り広げられ、時空が歪む。
神の旋律と歌声が穢されていく。
母親、父親と変わらないぐらいの年齢の男女が性行為一歩手前の如何わしい行為を繰り広げている。
ガサ入れが行われるのはこういったショーの最中か。
劇場の入り口を警戒しつつ、曲に身を委ねつつ、詩帆がステージに目を向ける。
改めて見ると、今舞台にいるのは肉感的という言葉が合う踊り子さんだった。加齢とともに全身にくまなく脂肪がついたような、ある種とても自然な女性の姿だ。
自分もいずれああなるのかと詩帆は想像する。
相方も根っからインドアなアニメオタクだから、運動も気まぐれ程度にしかしない。
気まぐれに不摂生な生活や食事をし、思いつきで減量をしてみたりする。
今後訪れるボディラインの崩れについて、今回の訓練が終わったら一度話し合わなくてはならないかもしれない。
そんなことを独り身女子大生が考えているうちに曲が変わった。
まだやるのか、とげんなりした詩帆の背筋が曲がる。
しかし聞き覚えのあるオルゴール音に、曲げた背筋に戦慄が走った。
流れてきたのは PCゲーム ダナクルのトゥルーエンディングテーマ『ハンドトゥハンド』だった。
まだ幼い自分の子の成長を親目線で歌う歌だ。
ゲーマー男子にとっては縁遠いそんな歌詞が、同じくセクシャルからすれば縁遠い詩帆の胸を切なく打つ。
今後、子供の成長を繋いだ手を通して実感するなんてことがあるだろうか。
今は恋人のためにしか使われない右手を見て、詩帆は考える。
目の前の舞台で男性が手のひらで与えているのは、卑猥で乱暴な振動だった。
そこへ踊り子さんの作り喘ぎ声が重なる。
メス犬のようなキャンキャン声に合わせて、男性が膣に差し入れた手で刺激を与えている。
それらをぼんやり見つめながら、詩帆が予想する。
ディアマイカラーセラピストの後に流れてきたのは、どちらも同ゲームメーカーの作品の曲だった。
踊り子さんの選曲ではないだろう。
ということは従業員のセンスか。
詩帆は従業員に訊いてみたくて、けれど訊くのが怖かった。
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