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第二回公演
3、レッスン1 であいがしらのいちげき
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「ここだな」
電車に揺られること一時間半。
詩帆はストリップ劇場 ストリップティーズ イエロードンキーズに到着した。
駅から徒歩5分。おまけに女性割引が効く劇場だった。
レンガ造りのビルの一階にある劇場は、ひっそりとした昭和の雰囲気を醸し出していた。
時間も交通費もかけたのだ。それなりに満足したものが見たいと詩帆は思っていた。
男の子の格好で来ようと思ったが結局それは次回へ回した。
よっぽど田舎で周りに何もないような、帰り道が不安な劇場へ行くなら男装も考えたが、今回はそれなりに栄えた街だったからだ。
「大丈夫、かな」
今日の自分の格好を、詩帆が改めて見てみる。
本日の詩帆のファッションテーマはアパレル系専門学校生だった。
美人メイクはせず、つぶらなしじみ目にどデカいピンクフレーム眼鏡を掛け、頭はやや重めのミルクティー色のウィッグ。
一部分だけブリティッシュカラーの切り替えしになっているレトロワンピースに、ダサダサカーディガンとアジアンストール。
テカテカのストラップシューズにボーダーニーソックス。
食べ合わせの悪そうな、オシャレさを狙い過ぎて胸焼けを起こしそうな組み合わせ。ギリギリラインの奇抜ファッション。
あまり殿方と年配男性が好まない、若い子ファッションに身を包んできた。
それは男性を寄せ付けず、跳ねのける意味合いもあった。
更に高過ぎる身長は少し猫背気味にし、
「すいません。女性一枚」
薄い色付きガラスが嵌められた受付窓口でそう告げると、
「はーい。誰かお気に入りの踊り子さん見に来たの?」
入場券をもぎりながら従業員がそう訊いてくる。
「いいえ。ちょっと、人生勉強に」
言いながら詩帆はそうだ、と今日の自分の役を再確認する。
自分は何か、創作のインスピレーションになればとこんなところまではるばるやって来た専門学校生だと。
「そう。楽しんでいってね。今は休憩中だけどすぐ始まるから。あとこれ、良かったら」
あれやこれやと言いながら、従業員は小さくプリントアウトされた香盤表を渡してきた。
その日の出演者の名前がトップバッターからトリまで順番に書かれている、いわばプログラム表のようなものだ。
それを手に詩帆はロビーを抜けるが、場内からは音も活気も聞こえてこない。
壁に貼られた、こちらはタイムテーブルだけが書かれた香盤表を見ると、どうやら今は一回目公演と二回目公演の休憩中らしい。
ちょうどいいタイミングで来たなと思いながら携帯電話の電源をきちんと切り、詩帆はロビーと場内を遮る、妙に軽いドアを開ける。
中は本舞台から伸びた短い花道が丸い中央舞台に繋がった、ストリップ劇場としてはオーソドックスな作りだった。
中央舞台を取り囲むように客席が展開され、天井にはミラーボール、舞台端には今は開きっぱなしの割り緞帳の他に紗幕も見えた。
収容人数はざっと30人ほど。
場内にはBGMとして90年代の邦楽が延々と垂れ流れていた。
不景気を憂う歌詞に詩帆が小さく笑う。
いつかは終わると思われた平成不況は、気がつけばもう20年以上続いていた。
産まれた時から不況だった詩帆にはあまり実感がないが。
劇場の外に出ているのか、一回目の客はもう帰ったのか、人はまばらだった。
中央舞台周りの特等席にだけはスポーツ新聞を広げていたり、居眠りしているような男性がいたが、
「……ヤバいかな」
場内をゆっくり見回しながら詩帆が呟く。
客が少ないとロックオンされる確率が高くなるからだ。
ストリップは舞台と客席の距離感も含め、踊り子さんと客同士の距離感が近いためすぐに視線が合う。
その中でも若い女性客は殊更目立つ。
おまけに今は劇場の数は少なく、客の絶対数も少ない。
劇場を回ると見知った遠征客に合う確率もあがる。
これからストリップ廻りをしようというのに初っぱなから目立つのは色々動きづらい。
「まあ、だいじょうぶか」
まあ追々考えればいいかと詩帆は気楽に考え、とりあえずどこに座るか見回すと、椅子がずいぶんとバラエティー豊かだった。
舞台周りのちゃんとした椅子以外は硬い駅のホームにありそうな椅子が並び、更に壁際にはスポンジの飛び出た革張りベンチ。
パソコンチェアや折りたたみ式のパイプ丸椅子もあちらこちらに置いてある。
なぜかマッサージチェアもあったが、『電源入りません。椅子としてお使いください』という紙が背もたれにガムテープで留めてある。
ボロっちい設備と有り合わせ感が、なんだか大人が作った秘密基地のような空間で詩帆は面白かった。
色々考えた末、場内後方にあった肘置き付きのダイニングチェアのような椅子を陣取ったところで、聞き取りづらいアナウンスが場内に響き渡った。
開かれたままの緞帳がゆっくりと閉じ始める。
その時になってようやく客もぱらぱらと集まり始めた。
イエロードンキーズの、本日二回目公演が始まった。
始まったのだが。
電車に揺られること一時間半。
詩帆はストリップ劇場 ストリップティーズ イエロードンキーズに到着した。
駅から徒歩5分。おまけに女性割引が効く劇場だった。
レンガ造りのビルの一階にある劇場は、ひっそりとした昭和の雰囲気を醸し出していた。
時間も交通費もかけたのだ。それなりに満足したものが見たいと詩帆は思っていた。
男の子の格好で来ようと思ったが結局それは次回へ回した。
よっぽど田舎で周りに何もないような、帰り道が不安な劇場へ行くなら男装も考えたが、今回はそれなりに栄えた街だったからだ。
「大丈夫、かな」
今日の自分の格好を、詩帆が改めて見てみる。
本日の詩帆のファッションテーマはアパレル系専門学校生だった。
美人メイクはせず、つぶらなしじみ目にどデカいピンクフレーム眼鏡を掛け、頭はやや重めのミルクティー色のウィッグ。
一部分だけブリティッシュカラーの切り替えしになっているレトロワンピースに、ダサダサカーディガンとアジアンストール。
テカテカのストラップシューズにボーダーニーソックス。
食べ合わせの悪そうな、オシャレさを狙い過ぎて胸焼けを起こしそうな組み合わせ。ギリギリラインの奇抜ファッション。
あまり殿方と年配男性が好まない、若い子ファッションに身を包んできた。
それは男性を寄せ付けず、跳ねのける意味合いもあった。
更に高過ぎる身長は少し猫背気味にし、
「すいません。女性一枚」
薄い色付きガラスが嵌められた受付窓口でそう告げると、
「はーい。誰かお気に入りの踊り子さん見に来たの?」
入場券をもぎりながら従業員がそう訊いてくる。
「いいえ。ちょっと、人生勉強に」
言いながら詩帆はそうだ、と今日の自分の役を再確認する。
自分は何か、創作のインスピレーションになればとこんなところまではるばるやって来た専門学校生だと。
「そう。楽しんでいってね。今は休憩中だけどすぐ始まるから。あとこれ、良かったら」
あれやこれやと言いながら、従業員は小さくプリントアウトされた香盤表を渡してきた。
その日の出演者の名前がトップバッターからトリまで順番に書かれている、いわばプログラム表のようなものだ。
それを手に詩帆はロビーを抜けるが、場内からは音も活気も聞こえてこない。
壁に貼られた、こちらはタイムテーブルだけが書かれた香盤表を見ると、どうやら今は一回目公演と二回目公演の休憩中らしい。
ちょうどいいタイミングで来たなと思いながら携帯電話の電源をきちんと切り、詩帆はロビーと場内を遮る、妙に軽いドアを開ける。
中は本舞台から伸びた短い花道が丸い中央舞台に繋がった、ストリップ劇場としてはオーソドックスな作りだった。
中央舞台を取り囲むように客席が展開され、天井にはミラーボール、舞台端には今は開きっぱなしの割り緞帳の他に紗幕も見えた。
収容人数はざっと30人ほど。
場内にはBGMとして90年代の邦楽が延々と垂れ流れていた。
不景気を憂う歌詞に詩帆が小さく笑う。
いつかは終わると思われた平成不況は、気がつけばもう20年以上続いていた。
産まれた時から不況だった詩帆にはあまり実感がないが。
劇場の外に出ているのか、一回目の客はもう帰ったのか、人はまばらだった。
中央舞台周りの特等席にだけはスポーツ新聞を広げていたり、居眠りしているような男性がいたが、
「……ヤバいかな」
場内をゆっくり見回しながら詩帆が呟く。
客が少ないとロックオンされる確率が高くなるからだ。
ストリップは舞台と客席の距離感も含め、踊り子さんと客同士の距離感が近いためすぐに視線が合う。
その中でも若い女性客は殊更目立つ。
おまけに今は劇場の数は少なく、客の絶対数も少ない。
劇場を回ると見知った遠征客に合う確率もあがる。
これからストリップ廻りをしようというのに初っぱなから目立つのは色々動きづらい。
「まあ、だいじょうぶか」
まあ追々考えればいいかと詩帆は気楽に考え、とりあえずどこに座るか見回すと、椅子がずいぶんとバラエティー豊かだった。
舞台周りのちゃんとした椅子以外は硬い駅のホームにありそうな椅子が並び、更に壁際にはスポンジの飛び出た革張りベンチ。
パソコンチェアや折りたたみ式のパイプ丸椅子もあちらこちらに置いてある。
なぜかマッサージチェアもあったが、『電源入りません。椅子としてお使いください』という紙が背もたれにガムテープで留めてある。
ボロっちい設備と有り合わせ感が、なんだか大人が作った秘密基地のような空間で詩帆は面白かった。
色々考えた末、場内後方にあった肘置き付きのダイニングチェアのような椅子を陣取ったところで、聞き取りづらいアナウンスが場内に響き渡った。
開かれたままの緞帳がゆっくりと閉じ始める。
その時になってようやく客もぱらぱらと集まり始めた。
イエロードンキーズの、本日二回目公演が始まった。
始まったのだが。
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