92 / 139
第四回公演
1、お付きのものへ至る旅
しおりを挟む
貴重な文化遺産はあっさり時代に駆逐され、至極つまらないものになっていた。
例えば駐車場、モール、デイケア、ドラッグストア、ビル、パチンコ屋、コンビニ、スーパー、牛丼屋、管理地。
かつてそこに「それ」があったということは先人たちに聞くしか無いが、それを伝える術はあれど、伝える理由が僕達にはない。
「プロフェッサーからのメールってこれ?」
「そう」
「あ、エッチなお店からメルマガ来てるよ?この前ディルド買ったとこ」
「それは見んでいいッ!」
「んもーう。頼んだ時にメルマガ送りますかのとこチェック外さないからだよぉ~う。ダメだなはるちゃんはー」
「いいからもうっ。ご飯できたよっ!」
「はいはい」
はいはい、と言いつつ詩帆が遥心のPCに届いていたメールにざっと目を通す。内容は遥心から聞いていた通りだ。
要は潰れたストリップ小屋を巡り、今現在どうなっているのかを調査してきてほしいというものだ。
「はるひゃん、チーズもぅにゃい」
「使い過ぎだわッ!」
ナポリタンをもぐもぐしながら言う詩帆を、遥心が叱り飛ばす。
最近の二人は遥心の家でおうちご飯をすると、メニューはもっぱらナポリタンだった。
パスタは水に浸してぶよぶよ太麺にし、具はソーセージとピーマンその他冷蔵庫の残り野菜。味付けはケチャップとウスターソース。
味付けも具もチープだが、粉チーズだけは贅沢に、ふんだんに。お店だったら出禁になるほど使う。
「もっとでっか~い粉チーズ買わなきゃダメだね。業務用みたいな、腕ぐらいあるやつ。プロフェッサーの経費で落ちるかな」
「買った途端にナポリタンブームが去る可能性も」
「アハハ、ありそうっ」
遥心の指摘に詩帆が笑う。
プロフェッサーとは二人が通う大学にいる教授のことだ。
少々変わり者で、活きのいい学生を捕まえてはおかしな調査をさせ、それをフリーマガジンにして大学周辺の飲食店や本屋、駅構内などに配布していた。
それなりに読み応えもあって地元の方にもなかなか評判がいいらしい。
バイト代替わりの焼肉や、単位をゴニョゴニョしたりと、学生にとっての旨味もそれなりにあると言えばある。
そしてどこからか遥心達がストリップ劇場巡りをしているということを聞きつけ、今後の特集記事にと依頼してきたのだ。
もっともストリップ巡りをしていた、と過去形なのだが、調査についての費用はプロフェッサーが出してくれるので土日を使って二人はやってみることにした。だが、
「蘭ちゃんに、逢えるかな」
ぽつりと言った詩帆の一言に、遥心のフォークが止まる。
遥心が調査を請け負ったのは面白そうという以上に、急に姿を消した友人を探すためでもあった。
二人の共通の友人である蘭は突然大学に休学届を出し、踊り子さんの付き人として巡業旅に出てしまった。
一応期限付きということらしいが、親御さんもああいう子だからと完全放置だった。
それからは一切連絡が取れなくなってしまった。
最初は踊り子のSNSを探れば何か手がかりが、と思ったがなかなか尻尾を出さなかった。
そもそも誰の付き人になったかもわからない。
こちらからメールなり何なりをしても返ってこない。
家には連絡をしているようだが、あまり友達にも言わないでと口止めされているらしい。
それに対し、自分達はその程度の付き合いだったのか、とは遥心達は思わなかった。
意図的に、向こうからの探さないで、好きにさせてというサインを読み取ったからだ。
だがもしもうっかり、調査の流れで出会えたとしたら。
今回の調査はそんな偶然を願ってのものでもあったのだ。
「まあ逢えなくても、ね」
期待せず、がっかりしないようにと遥心が目線だけで言う。
詩帆もそれに、うん、と頷く。
期待したって裏切られることの方が多い、自分たちはそういう世代だと重々承知していた。
今やネットを使えばストリップ劇場やストリップ小屋があった場所なんてものはすぐに検索できる。
はるか上空からその場所を探し出し、ぐぐーっと寄っていけば今現在どうなっているかなどはわかる。
だから、どんな劇場だったのかそれを知る人達から生の声を聞き出すのがこの調査の目的だった。
プロフェッサーの希望はその周囲に住んでいる人や、もしいれば今現在その土地で店を開いている人、あるいはその周囲か県内の劇場に通う客達に話を聞き出してほしいらしい。
可能であれば踊り子にも、とも。
「さあてやりますか、しほさん」
「そうですね、はるこさん」
「しほさん皿洗って」
「えー?」
山盛りナポリタンで腹を満たした二人は、早速計画を練った。
最初に向かうことにしたのはストリップ劇場 亀寿劇場だ。
「かめじゅ?」
「きじゅ、らしいよ」
お皿を洗い終わった相方とパソコン画面を覗きこみながら、遥心が読み方を教える。
古めかしい名前から歴史を伺えるが、
「今はー、」
今現在どうなっているか遥心が調べる。
住所を打ち込み、地図検索してみると、
「お寿司屋さん?」
ネットで当時の画像を探ると劇場時代は怪しい外観の建物だったが、今は回転寿司屋になっていた。
おまけにチェーンではない個人店のようだ。
「この店の人に訊いてみるとか」
「いやあー、これ新しいでしょー」
詩帆が提案するが遥心は無理でしょうとマウスを動かし、カーソルで外観を囲む。
かなり時間が経ってから寿司屋になったように見える。
ネットで閉館時期を調べると、劇場として潰れたあとしばらく放置されてようやく、の可能性もある。
「となるとぉー」
今度は県内に現役ストリップ劇場がないか調べた。
亀寿劇場の他にロマンシアター両國という劇場があったが、
「遠いね」
「うーん…」
詩帆の言葉に遥心が確かに、と唸る。
あるにはあるが確かに遠い。県の端から端くらいの距離はある。
ここに通っている常連に、同じ県内ではあるがすでに潰れた劇場について話が聞けるかどうか。
「難しいなあ」
プロフェッサーに調査用として拝借したカメラを手に取りながら遥心が呟く。
遥心自身コミュニケーション能力が低いわけではない。
遥心の真面目さと、詩帆の人懐っこさを合わせれば取材は何とかなると思っていた。
それでも客や踊り子さんが協力してくれるかどうかわからない。
廃れゆく昭和の文化を変に暴かれるのを嫌い、そっと自分達だけの秘密にしておきたいかもしれない。
もしくは逆に、かつてこんな場所があったと後世に伝えてほしいと思っているかもしれない。
それはわからないが、
「はい、はるこさん」
「はい、しほさん?」
小さく詩帆が挙手し、遥心が指名すると、
「私に考えがある」
「ほう、どんな?」
「ちょっとどいて。ああ、向こう行ってていいよ。テレビでも見てて」
それがなんだか追い払うような言い方だったので、遥心は素直にパソコン前から離れた。
すぐに詩帆がカタカタとキーボードを叩きだすのを耳に、大人しく録画したっきりだったアニメでも見ることにした。
例えば駐車場、モール、デイケア、ドラッグストア、ビル、パチンコ屋、コンビニ、スーパー、牛丼屋、管理地。
かつてそこに「それ」があったということは先人たちに聞くしか無いが、それを伝える術はあれど、伝える理由が僕達にはない。
「プロフェッサーからのメールってこれ?」
「そう」
「あ、エッチなお店からメルマガ来てるよ?この前ディルド買ったとこ」
「それは見んでいいッ!」
「んもーう。頼んだ時にメルマガ送りますかのとこチェック外さないからだよぉ~う。ダメだなはるちゃんはー」
「いいからもうっ。ご飯できたよっ!」
「はいはい」
はいはい、と言いつつ詩帆が遥心のPCに届いていたメールにざっと目を通す。内容は遥心から聞いていた通りだ。
要は潰れたストリップ小屋を巡り、今現在どうなっているのかを調査してきてほしいというものだ。
「はるひゃん、チーズもぅにゃい」
「使い過ぎだわッ!」
ナポリタンをもぐもぐしながら言う詩帆を、遥心が叱り飛ばす。
最近の二人は遥心の家でおうちご飯をすると、メニューはもっぱらナポリタンだった。
パスタは水に浸してぶよぶよ太麺にし、具はソーセージとピーマンその他冷蔵庫の残り野菜。味付けはケチャップとウスターソース。
味付けも具もチープだが、粉チーズだけは贅沢に、ふんだんに。お店だったら出禁になるほど使う。
「もっとでっか~い粉チーズ買わなきゃダメだね。業務用みたいな、腕ぐらいあるやつ。プロフェッサーの経費で落ちるかな」
「買った途端にナポリタンブームが去る可能性も」
「アハハ、ありそうっ」
遥心の指摘に詩帆が笑う。
プロフェッサーとは二人が通う大学にいる教授のことだ。
少々変わり者で、活きのいい学生を捕まえてはおかしな調査をさせ、それをフリーマガジンにして大学周辺の飲食店や本屋、駅構内などに配布していた。
それなりに読み応えもあって地元の方にもなかなか評判がいいらしい。
バイト代替わりの焼肉や、単位をゴニョゴニョしたりと、学生にとっての旨味もそれなりにあると言えばある。
そしてどこからか遥心達がストリップ劇場巡りをしているということを聞きつけ、今後の特集記事にと依頼してきたのだ。
もっともストリップ巡りをしていた、と過去形なのだが、調査についての費用はプロフェッサーが出してくれるので土日を使って二人はやってみることにした。だが、
「蘭ちゃんに、逢えるかな」
ぽつりと言った詩帆の一言に、遥心のフォークが止まる。
遥心が調査を請け負ったのは面白そうという以上に、急に姿を消した友人を探すためでもあった。
二人の共通の友人である蘭は突然大学に休学届を出し、踊り子さんの付き人として巡業旅に出てしまった。
一応期限付きということらしいが、親御さんもああいう子だからと完全放置だった。
それからは一切連絡が取れなくなってしまった。
最初は踊り子のSNSを探れば何か手がかりが、と思ったがなかなか尻尾を出さなかった。
そもそも誰の付き人になったかもわからない。
こちらからメールなり何なりをしても返ってこない。
家には連絡をしているようだが、あまり友達にも言わないでと口止めされているらしい。
それに対し、自分達はその程度の付き合いだったのか、とは遥心達は思わなかった。
意図的に、向こうからの探さないで、好きにさせてというサインを読み取ったからだ。
だがもしもうっかり、調査の流れで出会えたとしたら。
今回の調査はそんな偶然を願ってのものでもあったのだ。
「まあ逢えなくても、ね」
期待せず、がっかりしないようにと遥心が目線だけで言う。
詩帆もそれに、うん、と頷く。
期待したって裏切られることの方が多い、自分たちはそういう世代だと重々承知していた。
今やネットを使えばストリップ劇場やストリップ小屋があった場所なんてものはすぐに検索できる。
はるか上空からその場所を探し出し、ぐぐーっと寄っていけば今現在どうなっているかなどはわかる。
だから、どんな劇場だったのかそれを知る人達から生の声を聞き出すのがこの調査の目的だった。
プロフェッサーの希望はその周囲に住んでいる人や、もしいれば今現在その土地で店を開いている人、あるいはその周囲か県内の劇場に通う客達に話を聞き出してほしいらしい。
可能であれば踊り子にも、とも。
「さあてやりますか、しほさん」
「そうですね、はるこさん」
「しほさん皿洗って」
「えー?」
山盛りナポリタンで腹を満たした二人は、早速計画を練った。
最初に向かうことにしたのはストリップ劇場 亀寿劇場だ。
「かめじゅ?」
「きじゅ、らしいよ」
お皿を洗い終わった相方とパソコン画面を覗きこみながら、遥心が読み方を教える。
古めかしい名前から歴史を伺えるが、
「今はー、」
今現在どうなっているか遥心が調べる。
住所を打ち込み、地図検索してみると、
「お寿司屋さん?」
ネットで当時の画像を探ると劇場時代は怪しい外観の建物だったが、今は回転寿司屋になっていた。
おまけにチェーンではない個人店のようだ。
「この店の人に訊いてみるとか」
「いやあー、これ新しいでしょー」
詩帆が提案するが遥心は無理でしょうとマウスを動かし、カーソルで外観を囲む。
かなり時間が経ってから寿司屋になったように見える。
ネットで閉館時期を調べると、劇場として潰れたあとしばらく放置されてようやく、の可能性もある。
「となるとぉー」
今度は県内に現役ストリップ劇場がないか調べた。
亀寿劇場の他にロマンシアター両國という劇場があったが、
「遠いね」
「うーん…」
詩帆の言葉に遥心が確かに、と唸る。
あるにはあるが確かに遠い。県の端から端くらいの距離はある。
ここに通っている常連に、同じ県内ではあるがすでに潰れた劇場について話が聞けるかどうか。
「難しいなあ」
プロフェッサーに調査用として拝借したカメラを手に取りながら遥心が呟く。
遥心自身コミュニケーション能力が低いわけではない。
遥心の真面目さと、詩帆の人懐っこさを合わせれば取材は何とかなると思っていた。
それでも客や踊り子さんが協力してくれるかどうかわからない。
廃れゆく昭和の文化を変に暴かれるのを嫌い、そっと自分達だけの秘密にしておきたいかもしれない。
もしくは逆に、かつてこんな場所があったと後世に伝えてほしいと思っているかもしれない。
それはわからないが、
「はい、はるこさん」
「はい、しほさん?」
小さく詩帆が挙手し、遥心が指名すると、
「私に考えがある」
「ほう、どんな?」
「ちょっとどいて。ああ、向こう行ってていいよ。テレビでも見てて」
それがなんだか追い払うような言い方だったので、遥心は素直にパソコン前から離れた。
すぐに詩帆がカタカタとキーボードを叩きだすのを耳に、大人しく録画したっきりだったアニメでも見ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる