昭和90年代のストリップ劇場は、2000年代アニソンかかりまくり。

坪庭 芝特訓

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第四回公演

6、まっこと嫌な時代だったねとみんなで大爆笑

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 朝ドラさんのステージが終わると、今度は赤いバスケユニフォームを着た踊り子さんが出てきた。
 髪をポニーテールで結い、筋肉の付いてない白い二の腕とむき出しの太ももが可愛い。
 小脇にバスケボールを抱えている、と思ったら、バスケットボール柄のビーチボールだった。
 それをテインテインと舞台上でドリブルする。
 身を低くし、足の間をくぐらそうとするが失敗。
 頭を小突き、てへ、という顔をしてみせる。あざといがまあまあ可愛い。
 更に両手でボールを持ったままくるりとターンすると、ゼッケンは安定の10番だった。
 そこから手を組み合わせて、なぜかバレーのレシーブやトスをやり始めた。
 実はこっちのが上手いんですよとばかりに。
 そこから客とボールの投げ合いっこをしだす。

 おじさんいくよー、それっ、おーっとっと、パスパース、よーしそりゃっ、アハハっ、はい今度はこっちのおじさーん、えいっ、ほいっと、いよっ、お、うまいじゃーん、はい今度はー、あなたっ!うおっ!あー、ごめんなさい、頭ポーンって、アハハ、だいじょぶだいじょぶ、せぇー、のっ!、ちょっ、あーもうコラぁー!どこ投げてんのー、んもー、ぷぅー、はっはっは、ノーコンノーコン、う、うるせいやいっ!

 そんな踊り子と客と客同士のやりとりが、聞こえないのに動きだけで画面から聞こえてくる。

「なるほど」

 遥心が顎に手をやり頷く。
 客参加型ショーで場をもたせている。演出としてはなかなかいい。
 しかし惹かれるものがない。
 アニソンがないのだ。
 それともこの時代はまだそういった曲を使う人がいなかったのか。偶然ハズレ週を撮ったのか。

「すいません、ちょっと」

 遥心がおいちゃんに向かって申し訳なさそうに人差し指をくるくる回す。ようは巻きでと。
 詩帆もそれに頷く。

「なんだよ、見ねえのか」

「あのー、ざっとでいいんで」

 なるべくたくさんのステージを見たかった。普通に見ていくと二時間近く見ることになってしまう。

「んー、そぉかあ?」

 なんでぇせっかくと言いながらも、おいちゃんは曲が切り替わるタイミングで頭出ししてくれる。

「ん?」

 遥心のアニソン耳が反応したのは4人目の踊り子さんが出てきた時だ。一曲目に流れてきた曲に、

「あーれぇ?」

 首をひねる。
 聞き覚えがある。が、思い出せない。
 踊り子さんはへそ出しルックで、無表情でパラパラを踊っていた。
 そのバッグで流れている曲が知ってる曲な気がするのだ。
 辿々しいアイドル未満の歌声は、早過ぎるメロディを追うのにいっぱいいっぱいだ。
 表現力もまだまだのそれは、声優デビューしてすぐに歌手デビューさせられた声優ソングではなかっただろうか。

「知ってる人?」
「いや、ちょっと曲が」

 勇者様の言葉に、画面を見つめたまま遥心が記録媒体のケースに書かれた撮影時期を見る。
 時代的にはちょうどパラパラが流行りだした頃だ。
 アニソン界でも確かその波が入り込んでいて、既存の曲をユーロビートバージョンに仕立て直したりといった風潮があった。
 しっとり系エンディングアニソンも、管楽器をふんだんに使ったような小洒落たジャジーなアニソンも何もかも手当たり次第にペラッペラな打ち込み系にされた時代だ。
 せっかくノージャンルなアニソンを、流行りだからと全部同じ箱に詰め込まれてしまった時代。

「懐かしいなあ。この頃みんなパラパラ踊ってましたよね」

 その考えを読んだように勇者様が言う。

「まあ、それっぽく見えっかんなあ」

 おいちゃんも頷く。あまりよくなかった時代として。

「……なんか不況って感じ」

 詩帆がぽつりと呟く。
 バブルとかいうものが弾けてかなり経つだろうが、歴史の教科書で見るジュリアナとやらの搾りかすを彷彿とさせた。
 華やかなのに、有り物で無理やり盛り立ててるような貧乏臭さが。

「ええっ?そう、まあそうかなあぁ」
「安っぽいんだよなあー」

 詩帆の言葉に勇者様が驚くが、まあでもそうかと納得し、おいちゃんもうんうんそうだと頷く。
 安っぽく、お手軽で、見せかけ感がすごい。
 それをストリップ劇場なんてものでやられたら尚更だ。
 そんな会話が交わされる中、

「んんんー?」

 まだ遥心はわからない。
 アニソンは広く浅く、昔のも含めて詳しいつもりだったが、さすがに時代が古過ぎるのと声優個人の曲だからか脳がうまく検索できない。
 だがわからないとモヤモヤが残ってしょうがないので、これは保留案件とした。
 あとであの手この手を駆使して正解を導き出そうと決めていると、

「そういう、ブームというか風潮みたいのってあるんですか?コレが流行ったら一斉にコレが来るみたいの」

 詩帆がおいちゃんと勇者様に訊いてみる。

「ワールドカップの年とかはそういうの増えるかな。サッカー系の出し物。ああ、出し物って演目のことなんだけど」

 勇者様が説明してくれるのを、そういう用語を知らないふりをして詩帆が聴く。

「日本がサッカーをお祭り騒ぎにしだした頃とか、あの青い日本代表のユニフォーム着たりとかさ。ちょーっと安易に乗っかってる感じするけど、結構誰着ても可愛いからオレは好きなんだけどね。フィナーレって言って最後みんな踊り子さんが全員出てくるのがあるんだけど、そういう時好きな格好したりしていいからその時に着たりとか。あとオリンピックとかもそうだけど、テーマ曲あるじゃない?テレビ局が自分のトコ専用で推してるようなのが。いっぱい」
「ありますね。どれがどの局のかわからないやつ」
「そうそうっ。ああいう曲かき集めれば一個出し物作れるし、あとフィギアスケートで話題になった曲とか、世界水泳とか柔道とかそういうやつの曲使ったり」
「四年に一回とかそんなのばっかなのに、なんだかんだでそういうの毎年やってんよなあ」

 おいちゃんがそういやあ、といった感じで言う。
 オリンピックは通常のものと冬季、一つのスポーツの頂点を世界レベルで決める大会、近年注目を浴びるフィギアスケートも加えれば、スポーツ系イベントはわりと上手くサイクルが回るのだ。
 それに付随してテーマ曲などが付いてくるのも美味しい。

「そっか…。一回作っちゃえば四年後にもまた使える…」
「さすがにそれだと時代古くなっちゃうけど。曲も。ああでも曲はー、いいのかな。歴史感じるし。でも、最近だと知らない人も多くてさ」
「へ?」
「今オリンピックやってるよねとか、ワールドカップだよねとか。いかにも一見さんみたいな感じの若い子だと世間のお祭り事興味ない子もいて、なんで?みたいな顔で。なんでみんなサッカーユニフォーム?みたいな。たぶん、若いからテレビとかもそんな見ないんだろうね」
「あー、なるほど」

 脳内検索をやめて途中から会話を聞いてた遥心が納得する。
 昨今世界的なスポーツ大会が世間の関心事となった。
 が、それは大人にとっての昨今だ。テレビを共通メディアとしている世代の。
 それを見ない世代はテレビから流れてくるテーマソングは知らないかもしれない。

「ナショナリズム…」
「ええっ!?」

 詩帆の言葉にそこまで言う?と勇者様が笑い混じりで驚くが、見たことは無いそのステージの様を、詩帆は想像してみる。
 みんな見てるよね、日本を応援しようよ。ガンバレニッポン。目指せ金メダル。予選だ。第3位決定戦だ。頑張れ頑張れ。
 ステージを通じて愛国心を強要されてるような。
 そんなことを想像し、ぶるぶるっと身震いする。

「スポーツ見ない子なんで」

 なんとなく何を想像したかを理解し、遥心が背中を擦ってやりながら言う。
 ああそうなんだ、と勇者様とおいちゃんも納得するが、

「あーっ!あとあれだほらっ!日本ストリップ党!」
「あー!ありましたね!あれ笑ったなあー」

 おいちゃんの言葉に、勇者様がそれそれそれですよと笑う。
 二人だけで通じ合う思い出に遥心達はきょとんとするが、

「いや、あれいつだったかなあー。何戦でしたっけ。衆…、参議院?」
「ああー、なんだっけか。覚えてねえけど。こう、嬢がな、幟持ってきて、マイク持ってビシっとスーツ着てよ。その上に、日本ストリップ党って襷かけてよ、鉢巻きしてさ。日本からストリップという文化が無くなってもいいのかー!って演説すんだよ。そしたら客がそうだそうだー!って」

 勇者と、動き付きでおいちゃんが説明してくれる。
 なんとなくそういったものに対して締め付けがキツくなりだした頃だろうかと、遥心は想像する。

「あれ誰のパロディでしたっけ。結構毎回変えてた?」
「んー、オレが見た時はー」

 確かー、とあごをさすりながらおいちゃんが女性議員の名前を上げる。舌鋒鋭いおばちゃん議員だ。

「そんでストリップを無くさないためにも、若者よっ、選挙に行こーっ、若者よっ、選挙に行こーっつってな」

 おいちゃんが拳を突き上げそう言うが、

「でもお客さん若い人ほぼいないっていう」

 その光景を思い出したのか勇者様が笑いを堪える。
 笑いにつられたのと客層を想像し、遥心と詩帆も笑う。

「いや、ちらほらいた時もあったんだよ。ちょっとな。でも」
「えええー、オレらに言われてもーみたいにみんな困ってて。あと楽日がちょうど投票日と被ったんすよね。こんなとこいないで選挙行けーっ、選挙行ったんかキミ、こんなとこいないで選挙行けって言ったら」
「期日前でもう行きました!っつって」
「意識たけえなキミ!って」

 意識高い系若者とやり返された踊り子さんを、漫才のように再現する二人に詩帆達が笑う。

「あと撮影ん時に投票でホントに名前書かないでねっ!って。日本ストリップ党って書かないでね!って踊り子が言ってて。書かねえよっ!」
「や、ホントに書いた人いたみたいっすよ」
「アホかよっ!」
「貴重な一票をーって」

 二人が楽しそうに話すのを見て、詩帆達も楽しくなるが、

「見ないんすかあ」

 従業員のタカダくんが話してないで見ましょうよぉと声をかける。

「おお、そうだったそうだった」

 おいちゃんが懐かしストリップ談義を交わしてる間も、テレビの中でのショーは続いていた。
 見るべきものがないので遥心達も忘れていた。
 おいちゃん達のお話の方がよほど貴重だった。
 が、ベッドショーで流れてきた曲に、詩帆がうわ、と声を上げる。
 ゆったりしつつも切ないイントロ。
 大人と少女のちょうど境目くらいのウイスパーボイス。
 流れてきたのは、声優 加住 真己の『恋文、空へと』だった。

「…すごい、すごいすごいっ!」

 急に詩帆のテンションが上がり、

「えっ?えっ?えっ?」

 おいちゃんと勇者様のおじさん衆は何がすごいかわからず戸惑う。

「だからっ、加住真己のっ。作詞作曲がさあっ、あのっ、ずっと好きだった、初めてアニメタイアップ付いてない曲でっ、でもライブの定番曲でっ」

 詩帆が説明にならない説明をする。
 好きなアーティストに作詞作曲を頼んだ初めてのノンタイ曲。
 こんな、オリコン100位にも入らなかった名曲。
 儚げだが、声優らしい揺るぎない芯が歌声を支えている。

「お、おう。そっか」

 よくはわからないがおじさん衆は好きな曲が流れてきて嬉しいのだなと納得し、

「…いい歌じゃないか」
「そうなんですよ」

 ステージを見つつ、当然加住真己を知っている遥心はじっくり曲を聴いてそう言う。
 その言葉に、詩帆が涙すら浮かべる。すごいでしょう、うちの加住と。
 こんな場末ストリップ小屋で使われてしまう悲しさと、汚されたような悲しさ。
 だが使ってくれてありがとう、見つけてくれてありがという感謝の思いが上回る。

「あの、この踊り子さん誰ですか?」
「ええっとなあ」

 涙を浮かべつつ詩帆が訊くと、ケースを見ておいちゃんが名前を教えてくれる。

「まだ現役?」
「さすがにもう辞めただろう」

 詩帆がああ、ですよねと残念そうな顔をするが、

「あれ?でもオレこの出し物見たことある気がする…」

 先程までニュース番組を見ていた若い男性客が言う。

「え?でも…」

 遥心が男性客を見て年齢を推し量る。撮影時期と照らし合わせると、まだ劇場には入れない歳だったはずだ。


「最初のパラパラの曲だけ変えて、あとの構成はー、どっかでぇー、んー?なんだぁ?いつだぁ?」

 男性客がどこで見たのかと思い出そうとすると、

「あれじゃねえか。誰かに貰ったんじゃねえ?」
「あー、そうかも」

 おいちゃんの言葉に男性客が納得する。

「貰った?」
「うん。出し物って結構踊り子さん同士であげたり貰ったりすること多いんだよ。大体先輩お姐さ
んから仲いい後輩の踊り子さんにだけど、まだデビューしたてで出し物少ない子とかにも。歳取ると年齢的に合わなくなる出し物もあるし、これ私がデビュー当時やってたやつだけどあげるわとかって。新作の出し物作ってくと古いのはかさばるから衣装ごと誰かにあげたりして。ほら、有名な曲使ってて季節モチーフにしたやつだと古くてもあんまり違和感ないし」
「逆に寝かせていい味が出たりな」
「そうそう。あと若いのにこんな古い曲でやるんだあ、みたいな」
「あ…」

 勇者とおいちゃんが説明してくれ、遥心もそうかと気付く。
 出し物とは曲やステージ構成、衣装含めなのだ。
 最初に作り上げた踊り子さんの魂みたいなものも含め。
 それをポン、と若手にあげてしまうという。

「あの踊り子が昔やってたなってのを若い踊り子が引き継いでたりな。それ久しぶりに見て懐かしいなあーなんつって。涙ちょちょぎれたりな」
「さすがにちょちょ切れはしないでしょうよ」
「やる人違うとこうも違うかあみたいのはありますけどね。構成ちょこっと変えてたりアレンジ加えてたり」
「悪い方にな」
「コラコラ」

 おいちゃんと勇者様と男性客がキャッキャ話してる横で、遥心が、すごい、と呟く。
 先輩から後輩へ、演目が脈々と引き継がれていく。
 歌舞伎とか落語とかそういったもののような。
 そんなことが小さなショービジネス界で行われていた。
 それはとてもステキなことのようだった。

「すごい、いいですね。なんか…、すごいッ。そうやって、歴史というか、魂みたいな、タスキみたいのがどんどん繋がれてくなんて!」

 言葉にならない感動を噛み締めてる遥心を、おいちゃんがぽかんと見ていたが、

「いやいや、つってもそんなお綺麗なもんでもなくてな」
「へ?」

 おいちゃんの言葉にちょちょ切れそうな遥心の涙が引っ込む。

「攫っちゃうやつがいんだよ。誰かが踊り子引退とかって聞きつけるともうやらないからちょーだいなんつって。死体攫うハゲタカみてえに」
「丸ごと出し物貰うと自分で考えなくていいし、衣装代や小道具代もかかんないしね。あげる方も、まあ自分の考えたの引き継いでどっかの劇場でやり続けてくれるなら浮かばれるか、みたいな」
「あ…」

 おいちゃんと勇者様の言葉に遥心がまたそうかと気付く。
 ストリッパーが一番大変なのはおそらく出し物を考えだすことだ。
 以前ティラミスを食べた踊り子さんも悩んでいた。
 踊れる人やアイデアが泉のように湧く人はいい。
 しかしそれが元々無かったり枯渇しだしたら。

 パフォーマーとして、客にお見せするものがなく同じものばかり見せるのはどうか。
 加えて踊り子の日々の生活を逼迫させているのが衣装だ。
 適当に、既成品の衣装でごまかす人もいるが、よりよいステージにするため業者に衣装や小道具を発注する人もいる。
 凝ろうとすればするほど衣装代がかさみ、それを地方の劇場へと運ぶ運賃代も掛かる。
 その負担が人から貰うということでいくらかは軽減される。
 それはおそらく賢い。が、小狡いとも言える。
 パクリとも違うのだ。
 本人直々に譲り受ける。
 感動した胸にひゅるりと風が吹く。
 呆然と立ち尽くしている遥心に、おいちゃんが悪かったかなあ、別に教えなくていい裏事情教えちゃったかなあという顔をすると、

「ウブっ子なんで」

 今度は詩帆が背中を擦りながらフォローした。



学生記者 S隊員 取材メモ


この時代はブームもあってパラパラを踊る踊り子さんが多かったそうです。
ユーロビート系のうるさい感じの曲でノリをごまかすことも出来るためうってつけですねうふふ。
少し前ならディスコ文化が根付いていたため、一般人上がりでもステップを踏むことに躊躇がなく、もう少しすると若者を中心に踊ってみてネットに公開する文化が生まれてくるので、ちょうどエアポケット的に大衆が踊りから離れていた時期でもあるかと思われまする。
ただ当時を知る人としては無表情で踊る姿が奇異に映ったそうです。
アニソンでもこの時期にはパラパラバージョンが数多くあったそうですが、ウェイウェイ系のくだらないアニソンクラブシーン以外需要がないと思われていたものの、こんなところに需要があったようです。
また体系的にも(悪い意味で)日本人体型の踊り子が多かったです。
とはいえ昨今の日本人女性の体格を成長しすぎだと思っている男性客には、サイズ的にちょうどいい時代だったのかもしれませんね。
遠目からでもメイクや髪型にも古臭さを感じましたがこれは仕方ないかと。



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